第五十話 『合体と分離』
強力の魔族か?
新元4年9月17日、夜、A&E研究所地下墓地のさらに奥、諸葛夢とカイの前で、細いと太い、高いと低い、真っ黒の異形なものが二匹。
細高いのほうは、カマキリみたいな上半身を持ち、両手は巨大なファルシオンの形をしている。下半身に足はなく、青い炎を纏わり、空中に浮いている。一番上にボール状の頭があり、光っている目、大きな口、そして逆立つの髪の毛。
太低いのほうは、体全体が大きなボール状で、両側に大きな手があって、後ろにコウモリの翼が生える。ボール状の本体は体であると同時に顔でもあるのようで、上に大きな丸い目と、厚い唇の口、そして細高いのと同じく、逆立つの髪の毛。
「われわれの同胞たちを殺したのは、あんたたちかい?」
ゴブリンたちの死体を見て、細高いのが先に聞く。
滑稽な外見を見て、カイは笑いたい。しかし、諸葛夢は強い魔族って言ったので、頑張って我慢した。そして諸葛夢に聞く。
「どうする?ちゃんと本当のことを言えばいいのか?」
「信じてくれればな」
「おい、話聞いてる?我々の同胞を殺したのは、あんたたちかい?」
太低いのが、再度二人に聞く。
「いいえいいえ、ちがうよ。俺たちがこの部屋についたときすでにこのざまだよ。しかし、大きな黒い影を目撃したんだ。きっとあれは真犯人だ!」
二匹がお互いを見て、細高いのが、
「へえ、なるほど、では、真犯人を追おう、ブラザー」
「わかったよ。兄弟」
太低いのが答えて、一緒に帰ろうとするとき、急に何かを思い出す。
「ところで、若い人間たちよ。ここに何しに来たのかい?」
「あ、それはもちろん、お宝いただくためさ!」
このバカ!諸葛夢は思わず手で顔を抑える。この二匹は高い確率で宝の守護者だ。
「聞いたかブラザー」
「聞いたよ兄弟」
「墓荒らしか、恥を知れ!」
「え?味を知れ?」
「「「恥だ」」」
諸葛夢と二匹が同時につっこむ。そして弁解するチャンスもなく、二人に襲い掛かる。
「え?俺、何かまずいこと言った?」
「ボケがヘタクソ」
「は?」
「とにかく、分担作業だ」
諸葛夢は細高い、カイは太低い、一対一の戦闘が始まった。
二匹は確かに強い、細高いの刀捌きが強く、一撃一撃も非常に重い。素手状態の諸葛夢は反撃どころか、避けるのが精いっぱいだ。
カイのほうもあんまり進展がない。太低いの防御力が高く、普通の攻撃は効果が薄い。轟天雷鳴剣を使いたいが、丸い形からか、後ろに回り込めない。逆に、隙ができてしまい、カイは大きな手に捕まれ、パイルドライバーのように、投げられ、そしてあの巨体に座られた。
カイの状況はまずい。諸葛夢は細高いの攻撃を避け、太低いのを一蹴りと吹き飛ばし、カイを助けた。
「ちょ、ちょっと交換しない?」
「同感」
確かに最初の分担はいけなかった。交代したら、カイは雷光剣で細高いの武器と対抗できる。諸葛夢も、大したダメージは与えないが、動きが俊敏で、敵に掴まれる心配はまずない。
そしてとうとう、転機が訪れた。どうしても諸葛夢を掴めないからあせたのか。太低いのはやけくそに両手を伸ばしてとりあえず掴んでみる。しかし諸葛夢はとっくにこれを読んで、掴みを回避して逆に相手の手を掴む。ジャイアントスイングで、数回回転し、太低いのを投げ飛ばす。
投げ飛ばす方向は、もう一辺の戦場だ。どけ!と諸葛夢の叫び声を聴いて、カイも後ろから何かが来ると察知し、高く跳んで、太低いのを回避した。そしてちょうどその時、細高いのがカイに向かって一突き。
プス!ファルシオンみたいな手がボールみたいな体を貫く。
「い、痛いよ兄弟」
「ご、ごめんブラザー」
「よくもやりやがったな。人間!」
「合体しよう、ブラザー!」
「了解、兄弟!」
太低いのがすぐ無数の玉に分離し、細高いの体にくっつく、そして変化し始める。
諸葛夢は特にこの合体シーンを見る気はない。なぜなら、ハイジャンプして頭が天井に刺さったカイのほうが面白いからだ。
「死んだか?」
「ぷは」
カイは頭を抜いて、
「死ぬかと思った。幸い頭が固い」
「脳筋だと思ったが、石頭でもあるか」
「なあに言ってんだ?俺の頭は石よりはるか固いぜ」
「ほめてないよ」
会話しているその時、二匹は合体完了した。下半身は太低いの、上半身は細高いの、左手はさらに巨大化したファルシオン、左手は大きな手、両肩に翼。たた組み直しただけのように見えるが、前よりさらに大きくなって、表情も獰猛そのもの。
実力ももちろん、一対二なのに、全く後れを取ることなく、始終二人を圧倒する。大きな手の攻撃は変化が多く、諸葛夢は防戦一方。大剣の攻撃は力がかなり増し、カイが防御するとき、足が地面にはめ込むぐらいの力量だ。
似たような光景は二週間前もあった。あの時の相手は緑毛の怪物だったが、明らかに今回の相手が強い。
「夢!このままじゃやられる。俺たちも合体だ」
「いつ合体できるんだ?」
「え?だめなん?」
「お前をバラバラするぐらいならできるが」
「じゃあ、どうする?何か略はないのか?」
「策な。この前の電撃拳、また使えるのか?」
「え?でもあれは溜時間が長すぎて使わないほうがいって」
「おっさんの話か?信用するな。とりあえず使ってみろ。これにな」
諸葛夢は、ポケットから金属のかけらを取り出す。
「なるほど、あの時と同じな!わかった!」
諸葛夢はひとまず一人で合体化け物とやりあって、カイに溜める時間を作る。古天仁と一緒に行動した時期、カイも確実に腕が上がって。溜める時間は大幅短縮して、
「できたぞ、夢!」
と叫んで、諸葛夢のちょっと上の方向に、雷の矢を放つ。諸葛夢もすぐ手を上げ、金属かけらでカイの一撃を受ける。次の瞬間、金属かけらは青くなり、電弧が走り始める。
相手の攻撃が激しい、緑毛の化け物のように不意打ちもできない。だから刺して放出することではなく、怪物巨体の鈍さを利用するんだ。
と、諸葛夢を考え、かけらを手に握って、ストレートのパンチを繰り出す。パンチの力でカイの雷の矢を打ち砕き、散弾のように怪物に命中する。
散弾というより、雷の塊の間で、まだ電弧によってつながっている。だから、大きなネットが怪物に覆ったほうが正しい。これは諸葛夢の予想外の形だが、どうやら大正解のようだ。逃げられない怪物は、電気びりびりで、痙攣し始める。
「やったか?」
「いや、麻痺しているだけだ。トドメには、こいつの……」
「よし分かった。この首、もらった!」
カイは雷光剣を繰り出し、高く跳んで、一斬り、怪物上の頭を切り落とした。
「やったか?」
しかし、怪物はさらに数回痙攣して、バラバラの小さい黒きボールに分離した。バスケットボールサイズの大きさで、上に青い炎、片側は細高いの、片側は太低いの顔。
黒きボールたちは、部屋の中にバウンドして、飛んでるボウリング玉のように、二人にぶつかる。一撃一撃は非常に重く、そして回避するのも至難の業だ。
「前より強くなったんじゃないか?」
「誰のせいだ?」
「でも、人は普通頭が弱点だろう」
「あれは人か?」
「じゃどうすれば?」
「コアを探すんだ。一個か二個があるはずだ」
「あ、それなら、たぶんあれよ」
カイはあるボールを指す。試しに、諸葛夢はあのボールに一撃、固くて重い、防御力は前とほぼ変わらないようだ。しかし、すべてのボールの動きが、一瞬だけだが、遅くなった。
まさか、危険察知か。たしかに、おっさんもカイは特別な才能を持っているって言ったな。なるほど、一体化の時は確かに弱点を見破れなかったが、分離したら逆にどれがコアかがわかる。では勝機到来か。しかし、先の一撃で分かった。このボールも結構しぶとい。
「まだ暗雷剣は使えるか?」
「ええ、でも体力がもう残ってない。ほんの少しだけなら」
「なら俺があのコアを止める。おまえはそのうちに……」
「逃げる?」
「……」
「え?あああ!わかった!」
敵にやられる前に青いやつにやられそうだ。
諸葛夢はとにかくボールにぶつかられながら、ダメージ覚悟でコアのボールを追う。幸いこれらのボールは大した知能がないようだ。二人の簡単な作戦も見破れなかった。すぐに、ボールキャッチ成功した。
諸葛夢は一所懸命でボールを抱いて、
「早く!今のうち刺せ!」
「ええ?でもおまえも串刺しになるぞ?」
「方向変えろバカ!」
「あ、そうだね」
カイ再び高くジャンプし、上から、ボールに雷光剣を刺す。
しかし、雷光剣がボールに届いた瞬間、消えてなくなった。
カイは結局コアにトドメができなかったのか。では二人の運命はいかに?
次回を待て!