第三話 『同盟』
アインシュタインはかつてこう予言した。第四次世界大戦では、人類は石や棍棒を使って戦闘する。幸い、そこまでは至らなかった。
災後、学校の授業はいろいろと変わった。なぜなら、世界にいろんな変化が起きた。
原因はまだにわからないが、世界中の物理法則はかなり変わった。そのためか、多くの機械設備、主に通信航空関連のものは使い物にならなくなり、空に飛べるのは小さい虫ぐらいしかなく、電波も短波などごく一部しか使えない。
今までの物理や化学智識の多くは使えなくなったが、先人の科学者たちがそこまで辿り着く方法自体は正確だから、旧智識を勉強しながら、先生や大学部先輩の手伝いをし、新しい結論や計算式、そして規則を整理、訂正するのは高校生の役目だ。
また、変わったのは物理法則だけではない。
ネオシャンハイの市民は外に出られなくなった。北、南、西、全部断崖絶壁の謎の山に囲まれ、登って出るのは至難の業だ。災後物質が限られたため、船は全部政府が科学研究や資源調達用に徴用され、船旅も基本不可能になった。
たまに外部の探検者がネオシャンハイに辿るから、ごく一部だが、一応外部情報が把握できる。どうやら中国の北東部は野獣に噛まれたのように、大きいなくぼみが出きてしまって、向こうの日本は完全に消失した。
一体どんなとんでもない手段を使ってこうなってしまったのかは、いまとなって誰にもわからない。当時、ほとんどの人はすでにそれらの地域から脱出したらしいが、実際に見届ける人はいないか、あるいはすでに戦争で亡くなった。
災難から生き延びれた、いろんな肌色、いろんな国籍の若者は、現在通訳機や翻訳機を介して、教室で授業を受けている。歴史の授業だ。各国の生徒がいるから、授業の中心は中国史から世界史に代わり、そして何より気になるのは第三次世界大戦に関する内容は、いまだに教材にない。
「第三次世界大戦発端はイデン出血熱。世界二十国以上感染者が発見され、死亡推定人数は二十億にも及ぶ」
教科書になくとも、先生はこう述べている。生徒たちに戦争の悲しさや惨めさを銘記させようとしているのかもしれない。
しかし、アンジェリナはあんまり聞く気はなかった。これらの内容はすでによく知っている。そしてもっと気になるのは、カイと諸葛夢の席は空いているのことだ。
携帯がまだ使えば、すぐ確認できたのに、今は教室の中で待つしかない。
トントン
「ごめんなさい。葛先生、ちょっと遅刻しちゃいました」
ドアから入ってくるのは、カイと諸葛夢だ。
二人の姿を見て、みんな驚いた。体育授業ないのに、二人はジャージ姿になった。それに、諸葛夢のほうは若干サイズが会っていない。
「おお、なに、体育先生の手伝いか?まあ、早く、入りなさい」
葛先生は諸葛夢を見て、
「おや、新顔だな。転校生か?」
「ああ、こいつ、諸葛夢って言います。今日来た転校生です」
カイは親指で諸葛夢を指し、代わりに答えた。
「諸葛?今は結構珍しい苗字だね。そういえば、私、昔の生徒の中にも、諸葛っていう子が一人言ったな。考古学に興味ある人ならもしかして聞いたことある。諸葛淼っていうんだ。かの諸葛博士だ」
自分の席に向かっている諸葛夢は急に立ち留まった。
「諸葛淼は父です」
「おおおお、なんと」
葛先生は喜ぶ。
「淼君は、元気か?その、まだ生きてる?」
災前ならとても変な、人によってちょっと失礼な質問だが、いまは自然に聞こえる。しかし葛先生の望んだ答えは来なかった。
「いいえ、父は死んだんです」
「そうか。お悔やみ申し上げます」
軽く会釈して、諸葛夢は席に戻った。
朝会の出来こともあって、アンジェリナはちょっと躊躇うが、やっぱり勇気を出して、諸葛夢に振り向く。
「あの、諸葛さん、ご哀愁様です。アンジェリナは諸葛博士のファンです。本も何冊拝読しました」
諸葛夢は朝会の時と一緒に全く相手をする様子はなかったが、隣のカイは咳をし、小声で、
「約束、約束は?」
仕方なく、諸葛夢は返事をする。
「いや、結構前に死んだんだ。気にすることはない」
カイはさらに顔で諸葛夢に合図を送った。諸葛夢は深呼吸し、手を出した。
「俺は、夢でいい。その……よろしくな」
アンジェリナはすぐこっそり握手した。
「よろしくね。アンジェリナは……そうね。偉大なる司馬アンジェリナ様でいいよ」
うわ、見かけによらず痛い子だ、と諸葛夢はすぐ思う。
「でも、むって、発音しにくくない?」
「一文字なのに?」
「そうよ、短いもん。じゃあ、むうはどうかな?」
「俺はクロスなど修理できないぞ」
「え?」
「いや、なんでもない」
目の前の小娘がこんな古いネタ知るはずもないと諸葛夢は思うが、今アンジェリナの脳内に、同志という言葉しか浮かんでいない。
くすっと笑ってカイに向う。
「ねえ、カイやん、何起ったの?魔法か、弱みか、それとも、男子の禁断の愛?」
「いやいや、禁断の愛じゃなくて、男子の秘密だよ。でも、今俺はあいつと同盟組んだ」
「同盟?」
朝会終了後、鬼路隣の森で、諸葛夢とカイは戦った。しかしその戦いは、空から飛び降りた怪物いよって中断された。この怪物はほかではなく、この前にアンジェリナを襲った怪物だ。傷は大分回復し、再び諸葛夢の前に立ち塞ぐ。
「な、なんじゃこりゃ、熊か?」
「こんな熊あってたまるか?」
これ以上の会話が許さず、怪物はカイを見て、すぐ襲い掛かった。
「ええええ、な、なんで俺を?俺のほうがイケメンだからか?」
と叫びつつ、カイは重心を下ろし、怪物の爪攻撃を回避し始めた。
「そんなわけあるか」
と突っ込んだ諸葛夢だが、確かにちょっと変だと思う。なぜそんなに早く回復したのか、それに、先怪物をコテンパンに叩きのめしたのは自分であり、なぜ無視してカイを攻撃するのか。
怪物の爪攻撃はカイにとってやはり荷が重い。ついうっかり、カイは間違った方向に回避し、隙ができてしまった。
怪物はこのチャンスを見逃すわけがなく、カイに向かって猛烈な一撃を放った。幸いカイはこれを察知して、さらに後ろに飛んで、致命傷は免れた。
致命傷はなくても、カイのYシャツとベストはボロボロになった。
「くそ、この服はめちゃ高いぞ。どうしてくれるの?」
思い切って服を破り、隆々たる筋肉の上に、三つの爪痕が残る。
「もう怒った!転校生、こいつは俺が倒す。手出すなよ」
「もとより」
諸葛夢は手を組み、木に凭れ掛かって、休憩し始めた。
「あ、いや、その、本当に危なかったらやっぱり助けてね」
ちょっとバンダナの位置を直して、深呼吸し、カイは反撃し始めた。まずはジャンプで怪物の下段爪撃を躱し、頭に飛び蹴りが命中した。
仰向けで倒された怪物は、足で反撃しようとしたら、逆に足がカイに捕まれ、ジャイアントスイングで投げ飛ばされ、数メートル以外の木に重くぶつかれた。
いいスタートで、形勢逆転を狙いたいが、カイの攻撃力が足りなく、決定的な一撃が欠ける。わざと、カイは攻撃頻度を下げ、攻撃態勢から防御態勢に切り替わる。怪物はチャンスが来たと思い、再度爪攻撃し始める。
カイは爪攻撃を受け流しながら後退し、ある仮山まで退いた。これで逃げる場所がないと怪物が思い、カイに向かって重い一撃を放つ。
これが狙いだ。
カイは体をちょっとだけずらして、脇で怪物の爪を挟んだ。そして怪物の攻撃を止めるのでなく、自分も後ろにジャンプし、怪物を仮山に向かって牽引した。怪物の爪は重く深く仮山に突っ込み、しばらく抜けなくなってしまった。
「転校生! あんたは運がいい。俺様の必殺技をちゃんと見とけよ!」
「興味ない」
カイは構えて力をためし始める。間髪を入れずに、右手にたくさんの電弧が現れ、そして体を中心に拡散する。周りの落ち葉は電撃に次々と打ち砕かれた。
なんで自分ではなく、カイに攻撃したのだろう。
と、先ほどの疑問を思い出し、諸葛夢は何かひらめいた。
「やめろ!」