第三十七話 『外来のプリズナーズ』
アニタはジャックっていう冒険者と出会い、そしてこの謎の屋敷から脱出しようとする。
私の名前はアニタ、アニタ・ヴァイセンベルガー、古本屋のオーナーだ。ネオシャンハイ郊外のバザールで小さい古本屋を経営している。
オーナーといわれても、店員などがいない。仕入れから会計まで、すべてが自分一人でやる。人生のパートナーはいるが、彼女は中てにならない。
ある日、早々店を閉め、倉庫で新入荷の本をチェックするとき、『私の地下生活』という本に惹かれた。あれは本というより、同人誌みたいなものだった。
小説は全部4巻あるみたいだが、私が持っているのは3巻だけ。最初の部分は第三波の避難者が地下に移住したときの出来事だった。
私は最後のフェーズ、確かに第五波か第六波でしたっけ、に入ったので、入ったすぐ、すべてが終わったっていう情報が入ってきて、しばらくすると地上に戻った。
だから、地下シェルターのことは詳しくない。興味津々で読んだら、急に目の前が真っ暗。
再び目が覚めると、暗くて、薄気味悪いの地下室にいる。おまけに、顔に巨大な、鉄のマスクが被られ、外す手段は、今はない。
恐ろしく、狂った女の殺人現場を目撃し、クレイジービッチに追われ、さらにジャックと名乗った冒険者に殴られ、今は揺れてる懐中電灯の光の中で、ロープと服を探しているところに至った。
ジャックは外からネオシャンハイに来た冒険者だ。今はよくあることだ。隔離観察期間で、誰かに誘拐され、ここに運ばれた。
この研究所の詳しい位置はわからないが、どうやら何かの人体実験をやっているらしく、実験体として、生きてる人が必要だそうだ。
ジェックと相談して、とりあえずB2に行ってヒューズ交換したら、電力回復できるかもしれない。電力があれば、あの鉄のドアが開けられる。
あのクレイジービッチと対抗するため、ジャックは金属の棒を見つけ、私はロープを見付けば、彼女を縛れる。
もう一個探したいのは服だ。最初は気づかなかったが、ジャックの変な目つきを見たらびっくりした。
今着ているのは手術時に患者の着る服だ。服というより、大きな布が真ん中に穴をあけ、頭をあれに通して、真っ裸の体の上に掛ける代物だ。
残念ながら、この部屋はスタッフのロッカールームだが、ロープなどはない。しかし運がよく、服は一着だけ、ある。
この服は見たことある。確かに災前、日本の女子学生がよく着る、いわばセーラー服ってやつ。中国には制服カルチャーがないから、今日本人の学生たちも制服を着用しないはず。
しかし、私の本屋で、確かに同じ服を着た金髪碧眼の女の子はたまに来る。名前は確かに、アンジェリナでしたっけ。まさか、彼女もここに?
次の瞬間、私は確信した。服の隣に、白い首輪と紫色の鈴が置いてある。あれは確かにアンジェリナっていう子がいつも付けてるものだ。服が変わっても、これは絶対付けている。
最初は何か恥ずかしい趣味じゃないと思っちゃったが、実際は若者のファッションかしら?
あの子は無事だったのかしら。でも今の私はほぼ裸だから、とりあえず拝謝しておく。脱出できれば、あとは警察はきっと彼女を救出できるはず。
まさか、あんな幼い子供が黒幕ってことはないだろうね。
しかし、あのアンジェリナって子は、見た目は小柄だが、実際は意外とむっちりしてるのね。彼女の服は私もちゃんと着れる。一生懸命ダイエットの甲斐はあるわね。後で、あいつに自慢しなくちゃ。
首輪と鈴も、彼女の大事そうなものだから、ちゃんと持っておこう。さすがにいい年をして、首に付けるのは恥ずかしいわ。腕にも巻いておこう。
幸いこの鈴は音が出ない。音のない鈴って、意味あるの?
服を着て、ドアの近くに戻る。ジャックは私の姿を見て、口笛を吹く。
「ヒュー、何か新しいプレイか?それともゲームショー?」
「はは、面白いわね」
「ロープとかは見つけた?」
「残念、ないわ」
「腕に巻いてるのは?」
「これは他人の大事なもの、あげないわ。それに、短すぎてロープの代わりにならない」
「手や足ぐらいは縛れるのだろう。まあいい。もしロープがなければ、プランBで行こう」
プランBっていうのは、再度あの女と遭遇し、しかも逃れないと判断した場合、徹底的に反撃する。
あの異常な笑い声と、顔を上下真っ二つにするぐらいの口、思い出すだけで背筋が寒くなる。二度と出会わないように祈って、素早く電力を回復し、ここから脱出できればすべてがよし。
「わかったわ。またであったら、反撃する」
二人は耳を傾け、外に全く音がないのを確認したら、勇気をもって、ドアを開けれた。ジャックはすぐ懐中電灯で廊下を確認する。確かに誰もいない。
私の判断では、先の殺人現場辺りにB2に向ける階段とかはあるはず。とりあえず先のところにいったん戻ろう。
L字の角に辿り着いたら、私はぞっとする。
「死体が消えた!」
「なんだって?」
ジャックはすぐ懐中電灯で確認するが、血の跡が、向こうのドアに向けて伸びていく。
「びっくりさせんなよ」
ジャックはドアを開け、先殺された研究員は血まみれで倒れている。
「たぶん最後の力を振り絞って、どっかに向かおうとしたんだろうな」
といいながら、ジャックは死体を漁る。懐中電灯以外に価値あるものはなし。懐中電灯についた血を拭きとって、私に渡した。
そして二人でドアの向こうを照らすと、ビンゴ、ここは下に向かう階段はある。
ここはB1なら、下は電力管理設備か発電機などのあるB2だ。私の勘は正しかった。階段はさらに下に行けるが、今は興味なし。
電力管理室は意外とでかい。懐中電灯の光でも最奥には届けない。
「もうちょっと奥に行ってみるか?」
「バカなこと言わないで、とっととヒューズ交換して脱出しよう」
単純に怖いから私がそう言ってたのはなく、奥に行く必要がないから。入り口のすぐ近くに、ツール箱や配電盤などはある。
いまだに焼けた匂いがする。ツール箱にちゃんとしたヒューズはないが、銅の導線なら数本ある。代わりに使える。
安全上、そんなに太い銅線をヒューズの代わりに使うのいかがなものだが、変圧器辺りの残骸から見てみると、元々使用されているみたい。
一体何があって、銅線まで一瞬鎔断したのだろう?
という疑問を抱きながら、私はすぐ新しい銅線を入れ替え、ブレーカーを上げたら、隣の巨大発電機から轟音が聞こえてくる。
かなり旧式かつ大容量の発電機だ。道理でこの部屋がでかいわけだ。でも、これでやっと、ここから脱出できる。
あとはあの女と遭遇しないように祈るのみ。
と考えながら、ジャックは私の服を引っ張る。そしてすぐ、シーっと、声を出さないように指示する。
発電機の一角に、女の手が!
ドクン!
心臓が一瞬止まる。そしてすぐ猛烈に鼓動し始める。
あのクレイジービッチか?なら今すぐ逃げるのは得策か。でも、ここは二人もいる。一応確認しよう。アンジェリナって子も心配だし。
二人は懐中電灯の光を消し、こっそり手の方向に向かう。
血痕だ、手も全く動かない。もしかして、死体?
もうちょっと進んだら、見えたのは髪の毛、金髪?
まさか、あの子の身に何か?と緊張してすぐ前進した私、次の瞬間はすぐこの行動に後悔する。
下半身の無い死体だ!
白衣から見ると、たぶんここの研究員だろう。しかし、白衣の下部分は完全に破られ、腰下の部分はもうない。
吐き気が!
胃の中から、何かがわいてきて、口から出たいと、私に告げている。すぐブレーカーの辺りに戻って吐きたいが、何も出ない。
やっと吐き気が抑えたところで、ジャックは凍ったのように、あの場所で立ち尽くす。
「ジャック!」
私なるべく低い声で彼を呼ぶ。
我に返ったか、ジャックは私を見て、こっちにこいって合図がくれた。
またあの死体をみる?冗談じゃないわ。
しかし、どうやら何か重要なものがあったのように、何回も、何回も合図が送る。
仕方がない、なるべく死体を見ないように、私はジャックのところに向いた。
発電機が大きいのせいか、部屋はコの字になって、女の死体の後ろに、さらに奥深い空間はある。
死体は見ないが、血の跡が部屋の突き当りまで伸ばす。
そしてそこには、緑の毛の化け物が倒れている!
「なんじゃあれは」
好奇心か、ジャックは怪物をもっと近くで見ようとするが、私はすぐ彼を止める。
「やめて、よく見て、あれはまだ息がある!」
緑の毛?どっかで見たことのある怪物だ。しかしアニタとジャックはこの怪物の危険性はまだ知らないようだ。彼女たちは果たして生きて脱出できるのだろう。
次回を待て!




