第三十五話 『狐と逆鱗』
諸葛夢と知世の戦い、その行方は?
新元4年9月15日夜、新元学園遠くないところの空き地に、時々轟音が響く。
諸葛夢は知世の攻撃を避けながら、拳を振って、放った拳気を飛び道具として、空中にいる知世に反撃する。
しかし、知世にとって、これらの拳気は全くの脅威にならず、軽くさばいて、すべてを弾き飛ばした。が、前にいた諸葛夢は消え、すでに下の死角、しかも結構近距離に迫った。
諸葛夢はフックの一撃、知世に命中し、二人はさらに高く跳んだ。しかし、拳は知世の手に抑えられ、全くの無傷だ。
逆に、防御の手がすぐ拳を捕まり、力を入れて引っ張ったら、諸葛夢は扇風機のように回り始める。二、三回まわったら、知世は両手を組んで下ろしの一撃、諸葛夢を地面に叩き落した。
「肉弾戦とは、こういうものだよ」
すぐ降りてきた知世は、諸葛夢の胸に、掌で一撃。
爆発の音、地面の亀裂が走る。あっという間に、直径3メートル以上のくぼみができてしまい、血まみれの諸葛夢が中に倒れている。
「きゃは、ちょっと力入れすぎたのかな?」
諸葛夢の隣でしゃがんで、自分の戦果を鑑賞する知世だが、急に隣から風圧を感じて、すぐ跳んで回避した。
諸葛夢の蹴りは当たらなかったが、この勢いで、回転して起きる。しかし結構狼狽。
「ああ、ちょっと飽きちゃった。あたし、実は肉弾戦が苦手なの。やっぱり武器を持って戦うのが一番いいよね。ねえ。あなた武器持ってる?」
「ない」
「じゃあ、これもなにかの縁だし、いい武器あげよっか?」
知世は、自分の巨大なキツネ尻尾の中に、何かを探している。
「四次元ポケットか……」
「え?うん……でもいい武器ないな。あ、これはいいかも」
尻尾の毛は異次元空間につなげっているように、知世は中から二本の剣を取り出す。
一見ファルシオンのような刀だが、刃は逆方向にあり、鍔のところに一対の凹凸がある。
知世は剣を投げ、ちょうど諸葛夢目の前の地面に刺さる。
「この剣は……」
「双葉鋏刀……」
「あ、よく知ってるね。でも、この武器って、人間界でもう使い手がないと聞いたが?それもそうだね。使いにくいし、合わせて鋏みたいに攻撃するのは、ダサいよね。これの使い手って、よほどの変態じゃない?バッカみたい」
「もう一遍言ってみろ」
「え?」
「もう一遍言ってみろ!」
突然、とてつもないマナの渦が流れ始め、風と化す。ほとんど表情を表さない諸葛夢の顔に、怒りのあまりに皺が見え、赤い瞳が妖しい光り出す。
そして、この赤い光が、夜空を切り裂く。
「う、うそ」
驚く知世だが、諸葛夢を見失った。なぜか空中が安全だと思ったか、高く跳びあがる。しかし、諸葛夢はすでに後ろに現れ、掌の一撃、直接当たってないが、その風圧が知世を地面に叩き落す。背後に武器を背負っていなければ、重傷に必至。
空中の諸葛夢は、両手の合わせて、何かの必殺技を繰り出すように、手平に光り始める。
「夢!やめろ!」
遠くないところから、古天仁の叫び声が聞こえてくる。
これで我に返ったか。手のひらも、目も、光が消え、諸葛夢は地面に降り、再び夜に溶かして消える。
「お前、狂ったのか!」
息の荒い諸葛夢は、頭を下げたまま、黙っている。古天仁は諸葛夢の背中を叩く。
「あ~あ、面白くなってきたのに、おっさんの邪魔で台無し」
次の瞬間、知世はすでに樹の上になっている。
「今日ももう遅い。あたしはまだこれを届かないといけないから、先に失礼ね。」
知世はディスクを服に入れ、諸葛夢に投げキスをし、
「お・にい・ちゃ・ん」
そして消えた。
「夢、お前、いつあんなかわいい妹ができたのか?」
「知るか」
「司馬の嬢ちゃんといい、あの妖狐の子といい、お前、ロリコンじゃないよな」
「……」
「追撃しないのか?」
「立つのが精一杯だ……何しに来た?」
「いま俺はお前の鼠尻尾だよ。DSが探魔師っていう人材が手に入れたんだ。こっちが頑張らないと、失業になるぞ。」
「別にいいじゃない」
「何言ってんだ?最近DSの動きが変だ。放っておかないよ」
「変な動き?」
「裏ではなく、表に出て、猟魔人を世に公開して行動したいらしいよ。まだ噂だがな」
「第二のWIDG※になる、か」
「そうだ。社会地位の次は、たぶん権力だ。覚醒者の集まりだからな。今じゃ、国の一つや二つ、手に入っても難しくないぜ」
「じゃあどうする?」
「上からのプレッシャーが強くてね。とにかく、魔界の穴封印は最優先だ。」
「俺の姉が、ここにいないのか?」
「あれ?なんで急に話題を変わる?穴を封印したら探してやるって言ったじゃん?」
「だがあの小娘はこの学校にないと」
「お前、あのお嬢ちゃんと俺、どっちを信用する?」
古天仁は袖をあげ、腕にある、赤色の入れ墨を見せる。
「わかった。お前を信じればいいだろう」
「よろしい。お前さ、なんであんな子供の話を信じるんだ?まさか、好きになったんじゃないだろうな?」
「誰があんな三蔵法師みたいな小娘など!」
はっくしょん!
座って寝てるアンジェリナは急にくしゃみする。
「嬢様、どうした?風邪か?」
地面を掃除しているカイは心配そうに聞く。先窓から突入してきて、数枚のガラスが割れた。
「いや、大丈夫だよ。たぶん誰かがアンジェリナの悪口を叩いてるかな?」
「まさか」
「第一、アンジェリナはあんまり風邪ひかないし」
「バカですからね」
倒れたフィギュアや漫画本を整理している飛田彬は呟く。
「なんか言った?」
「いいえ、なんでもないです。俊のガールフレンドに悪口はできませんよ。」
「ガールフレンドじゃないわよ、あ、そうだ、シュンちゃんから何か預かった?」
「いや、最近、あいつあんまり来ないですよ。数日前確かにフィギュアの棚辺りで……」
「あ、そうか、わかった。」
アンジェリナはすぐ美少女フィギュアの棚から、数個大きいサイズのフィギュアをとり、分解し、そしてディスクを見つけた。
「ああああああああ!」
飛田彬は突然叫ぶ。
「ど、どうしたの?」
「俺のディスクがない!」
「何のディスク?」
「このパソコンに刺さったディスク」
「何か入ってるの?」
「僕の漫画大作、超銀河地球帝国伝!」
「そっか、なら、別にいいんじゃない?」
「どういう意味ですか?」
「別に」
「くそ、きっとあの覆面者が盗んだんですよ。」
「悪趣味ね」
「どういう意味ですか?」
「べ・つ・に」
「ああ、完成したら、きっと人気出ます。そしてアニメ化され、主題歌は空見ちゃんが歌ってもらえるはずなのに……」
「あ~ら、気持ち悪い。まだあんな時代遅れのボーカロイドをハマってるの?」
「なによ。時代遅れて悪かったんですね。でも、中年アイドルよりマシですよ。」
「ぐぬぬ、これ以上凡菲姉の悪口を言ったら、承知しないわ」
「こちらこそ、あなたが先に空見ちゃんの悪口を叩いたのでしょう!」
「まあまあ、二人とも、喧嘩しないで、会うたびに喧嘩するんだね。」
カイは慣れた口調で、二人の喧嘩を阻止する。
「あ、そういえば夢のやつは?全然来ないね。掃除から逃げたのか?」
「誰?」
「新入生の諸葛夢。彼もこういうのが精通するから、いろんなネタ知ってるよ」
「ま、劉凡菲時代の古いネタですかね」
「ぐぬぬ……ふんだ!」
アンジェリナはバックアップのディスクを見て、
「カイやん、電脳実験室に戻ろう。まだやることあるから」
「おい、ここはまだめちゃくちゃですよ」
「空見ちゃんの助けを求めば?」
「僕はいずれ、絶対空見ちゃんを実体化します!」
「はいはい、精々頑張りなさい、べーだ」
アンジェリナは、カイを連れて、旧校舎を後にした。
大学部に向かう途中、カイは突然立ち止まる。
「カイやん、どうしたの?」
「ちょっと待って嬢様。」
カイは目を閉じ、周りのマナを感じ取る。
「おい、そこの野郎、隠さないで出てきたらどうだ?」
しばらくすると、樹の後ろから、“人”が現れ、
「拙者は、司馬殿に用がある」
この“人”とは、百吼だ。
※WIDG:インターナショナル デーモン インスペクト & デストロイ グループの略。監視の眼はその前身。
アンジェリナを探す百吼。その目的は?第二章は終了。
次回を待て!