第三十四話 『飛田兄弟』
動漫社教室の悲鳴の正体は?学生データのバックアップは取り戻せるのか?
人は、どうしても超えられない壁と遭遇することはある。それでも超えたいと意気込んで努力する人もいれば、壁から離れて新しい道を探す人もいる。
その中、一番面倒なのは、逃げ出しても、壁が自ら迫ってくるケースだ。
飛田彬は、まさしくその状況と出会った。天才少年といわれた弟の飛田俊に、コンプレックスを持っている彼は、どうしても弟の陰で霞んでしまう。
やっと高校に入ったが、弟は女の子を追うため飛び級して入学してくる。四つ下なのに危うく同級生になるところだった。
動漫社の社長になってやっと自分のスペースができたと思ったが、かの女の子もこういうのが大好きで、弟は頻繁に邪魔しに来る。
幸い、最近女の子が入院したから、弟はやっとあんまり来なくなった。これで、自分の漫画大作、『超銀河地球帝国伝』が描き続ける。
でも、思えば、今までいろいろあったな。戦争で亡くなった両親のこともなぜか思い出す。
ん?ちょっと待って、これって、走馬灯じゃね?)
急に猛列の衝撃、首に絞まってる金属の糸はやっと緩めになって、呼吸ができるようになった。
ケホケホ、咳しながら猛呼吸して空気を吸う。
頭を上げると、自分を殺そうとする覆面者は、マーカーペンを踏んで転んだようだ。
飛田彬は、かろうじて立ち上げ、助けて、って叫びながら、教室を出ようとする。
しかし、覆面者はすぐ飛田彬の襟を捕まる。力を入れて彼を机の上に引っ張ったら、グルグルと、教室反対側の地面に飛び転んだ。
再度金属の糸を引っ張り出して、今度こそ殺すといわんばかりに、覆面者は飛田彬に向かう。
ガシャン!
ガラスの割れ音とともに、窓からふたりのひとかげが跳んでくる。
「正義の味方ただいま参上!あれ、彬君は?あなた、彬君をどこへやったの?」
覆面者は下に指をさす。
窓から入ってきたアンジェリナとカイはちょうど飛田彬を踏んでいる。
「あら、彬君、傷だらけじゃない?誰がそんなひどいこと?あの覆面の人?」
「半分以上はあなたたちですよ。」
「感謝の気持ちがいっぱいで、もうまともに話ができなくなったのね」
「ちゃんと喋ってますよ」
「大丈夫、あなたの仇、アンジェリナが取ってやるわ」
「とりあえず降りてくんない?あなた、ブーツだし」
「カイやん、やっておしまい!」
「人の話聞けや」
アンジェリナがふざけているとき、カイは構えて覆面者を攻撃しようとしたが、どうやら覆面者は戦う気がないようで、すぐ飛田彬のパソコンに刺さったディスクを抜いて、逃走した。
教室から逃げ出した覆面者だが、旧校舎の正門から出ようとするとき、何か巨大なものとぶつかった。そして持っているディスクも落ちてしまう。
巨大なものの正体は諸葛夢だ。
諸葛夢はディスクを拾って、
「消えな」
と放つ。
ぶつかって自分は尻餅を食らったのに、相手はびくともしない。どうやらディスクは取り戻せそうもないと思って、覆面者は逃げた。
すぐに、アンジェリナが来た。
「ムウ、悪いやつ、捕まった?」
「俺は警察じゃないし」
ディスクをアンジェリナに渡し、
「これはあの小僧が言ってたディスクかな?データ修復頼むぞ」
「ああ、任せて、じゃ、一緒に電脳実験室に戻ろうか」
アンジェリナはぎゅっと諸葛夢の腕を抱く。
ちょっとびっくりする諸葛夢だが、すぐ落ち着く。
「ああ、行こうか」
「あ、顔が赤い、なんで?」
「何でもない、行くぞ」
二人は、まるでいちゃついている恋人同士のように、くっつけて、また大学部に向かう。
「あの青いのは?」
「あ、カイやんならまだ教室で片付けているよ。飛び込んだからガラスの破片など、もうめちゃくちゃになっちゃった。」
「本当にこのディスクでいいのか?」
「間違いはないっしょ」
「女の勘ってやつか」
「そうよ」
「魔界では、人に価値のあるものに敏感する種族が存在する。だから、狐の勘だろう?」
これを聞いて、アンジェリナは止まる。
「いつばれたの?」
「最初からだ」
「いやだ。嘘でしょう。こう見えても、アンジェリナは変化が得意なの。それに、今回変化したのは、同類だし」
「キツネもいろいろな種類がるんだ」
「なんだ?アンジェリナを庇う気?アンジェリナ、妬いちゃう」
「変身解いたらどうだ?話はややこしくなる」
「わかったわ。アンジェリナの美貌、とくとご覧あれ」
“アンジェリナ”の体は、一瞬煙に囲まれ、次の瞬間は違う姿の少女がそこに立っている。
アンジェリナほどではないが、小柄でニンジャらしい服装を着ている少女だ。ピンク色のポニーテールで緑色の瞳。そして何より特徴なのは、大きな獣耳とキツネ尻尾がついてる。
「魔界一盗賊団、銀狐の首領知世、今後お見知りおきを」
「趙?」
「知世、知識の知、世の中の世」
「めちゃくちゃ友達のビデオを撮りたがるのか」
「え?」
「いや、何でもない……」
「じゃあ、そろそろ答えてくれない?あたしいつばれたのか?」
「最初はフィギュアや漫画本がめちゃくちゃになった状況でよくすぐ追ってきたなと疑問したが、なにより……」
「なにより?」
「あの抱っこ……小娘はあんな色っぽい雰囲気じゃない」
「あ、ははははははは」
知世は大笑いした。
「なるほど、好きな人の前では、ついにやっちゃった。」
「は?」
「あ、これはこっちの話、今夜は楽しかった。あたしもそろそろこれを依頼主を渡さないと」
知世は手元のディスクをもって、
「また遊びに来るから、またね。」
「待って、あのディスクは渡さん。それに、妖狐なら、俺のこともよく知っているはずだ。」
諸葛夢は構える
「生かして帰さん」
「あ~ら、こわいこわい。あなたのことなら猟魔人ぐらいしか知らないわ。記憶はあんまりにも厳重なプロテクトに保護されてるもん。解読できないわ。どうしてもやるというんなら、付き合ってあげる。でも……」
知世も目から、緑色の光が放つ、
「あたしはちゃんと準備して、人間界に来たのよ」
妖狐知世、どうやらまた手ごわい相手のようだ。果たして諸葛夢は勝てるのか。
次回を待て!