第三十一話 『裏切者の子息』
新元4年9月13日夜明。
疲れ切った体で、林宇はやっと自宅に戻った。ぼろい自宅でも、今は恋しい気分すらする。どうせ林娜もいないから、学校には行ってない。
昼頃はいろんな人につかまった。事情聴取やら、秘密保守やら、もううんざり。とりあえず数日休憩したいところだ。
電気付けたら、カーテンで左右分割された部屋がある。雑誌や工具で散乱されたのは自分のスペースで、向こうは林娜の空間だ。
普段の彼女と違って、布団などはほとんどピンク色で、机の上に可愛らしい飾り物が数個あって、非常に女の子らしく片付けられている。
学校ではよく男勝りと呼ばれて、林宇は何回もほかの生徒と喧嘩した。
部屋後ろの工房スペースに、今日はいく気力はない。疲れてるし、あそこで置いてあった、大事なものがもうないと判ったから。
数日前、鉄甲人2号を見せびらかすため、病院に行ったのはとんだ失敗だった。親父の遺物が取らわれたうえ、林娜は負傷させてしまった。
もうはや何もやる気が出ない。とにかく横になって、寝たら煩悩から解放されると思ったが、どういうわけか、脳内は興奮しすぎて、体に反発し、どうしても寝れない。
そういえば、自分、昔も金持ちの坊様だった。毎日、林娜と一緒に、使用人たちに囲まれて、不自由のない生活を享受してきた。
確かに当時、自分部屋のトイレも、今の部屋よりでかい気がする。
しかし、戦争がはじまって、すべてが変わった。親父はずっと困っているのようで、居ても立ってもいられずに、白い髪とたばこの吸い殻が増える一方だった。
ある日、黒いスーツ姿の人達が林家の屋敷に来て、オヤジと何か密談した。林宇は盗み聞きしたが、何が言ってるのかがわからないうえ、ばれてしまい、親父に叱られた。
もうちょっと経ったら、軍人格好の人たちが来て、親父を捕まった。
親父が捕まれてから、屋敷の使用人たちは荷物を片付けて、段々と帰ってしまった。しかし、持っている荷物の中に、明らかに屋敷のものが含まれていた。例えば、林宇のいたずらで危うく砕かれた、宋朝の花瓶。
屋敷の金目のものはほぼ全部、使用人や兵士格好の人たちに持っていかれて、やっと親父が戻ってきた。10数日しか経ってないが、2、30歳の年を取ったのように、オヤジは老けた。
戻って数日後、衰弱した親父は倒れた。医者もない。死ぬ前に、地下に宝の大剣があって、あれは絶対死守しろと、林宇に伝えて、親父は死んだ。
またどれぐらいの時間が経ったのかわからない。知っているのは、家で貯蔵された食い物はもうそこを尽きた。仕方がなく、10歳もない少年は、妹を連れて食べ物を探しに、屋敷から出た。
幸い、出たらすぐ違う服装の兵士たちと出会って、この人たちのおかげて、地下シェルターに入ることができた。
まだ子供だけど、昔から聞いたことがある。人類最大の建物、最も偉大なる作り物といわれているが、実際に入ったら、薄暗く、汚く、しかもよく犯罪事件が起こる、とんでもないところだった。
しかし、地上の何かから逃げるため、仕方がないことだった。
地下で、いろんな人と出会って、そして分かれた。その中に、一番印象深いのは、あの司馬のお嬢様だ。
ある日、昼か夜かはわからないが、林娜を連れて、あちこちで歩き回る兄妹。林宇の手にレンガ、林娜はパイプを持っている。
食べ物などを持っていそうな人がいたら、尾行して、人気のないところで、後ろから一撃。これで、生き延びれる。
ある電気が明滅する路地に、人の気配がする。この人を、今日の獲物にしようとる兄妹。
しかしそこにいるのは、化け物だ。人間離れの体に、細長い首、二人を気づいて、変な声で話しかけてくる。
「こんばんわ。アンジェリナです」
と、首がグニョンと伸び、近づいてくるのは、不気味な顔だった。
「わああああ!」
林宇は絶叫する。周りを見てみると、自分のぼろい部屋だった。悪夢を見たのか。
「あのくそ司馬のお嬢様……」
林宇は汗を拭き、呟いた。
「兄貴、どうしたの、悪夢?」
林娜の声だ。カーテンを捲りあげ、自分を見る妹がいる。
「おい、お前、なんで帰ったの?」
「いやあ、病院のベッドが慣れなくてさ。どうせ近いし、歩いて帰っちゃった。てへ」
林宇の無事を確認して、林娜はカーテンを下ろす。
「別に、入院料が払えないわけじゃないし」
「お金の問題じゃないわよ。やっぱり自分のベッドが恋しい。兄貴も疲れたでしょう。早く寝た寝た」
間もなく、向こうから鼾が聞こえてくる。しらじらしい鼾だ。自分を安心させるためであろう。
今の林宇は憎む。戦争を、司馬のお嬢様を、そして何より、妹にいい生活をやれなかった自分を憎む。林宇は、カバンからある紙を持ち出す。これは、李迫水からもらった、契約書だ。
話は一旦戻る。ゴブリンに囲まれ、全力で抵抗する一行。林娜はリーダー、カイは主力、そして古天仁とパウズはサポーター。この役割分担でゴブリンと対抗する。
最初は地の利を生かして、下から登ってきた敵をバンバン撃退したが、結局多勢に無勢、突破口が開かれてしまって、一気に不利な状況に陥る。
いくらカイから光剣をもらっても、大した戦闘経験のない女子とおっさんは、結局敵わず、鈍器にぼっこぼこされる。しかも一番重傷は、パウズを庇った林娜であった。
林宇は妹を救おうとするが、数匹のゴブリンはロボットを登り、林宇とアンジェリナを攻撃しようとする。
これで、一巻の終わりと思ったが、急に目の前のゴブリンはバッサリと、バラバラに切断された。
そしてほかの三人を攻撃しているゴブリンたちも、火の玉に焼かれたり、チェーンソーに分断されたり、ほんの少しの時間で、ゴブリン軍団は全滅された。
すぐ近くに、三人が現れた。剣を持つ金髪の美人、火を操っている鎧姿の若者、そして二丁の小型のチェーンソーを持っている、帽子の小男。
若者はあくびをして、
「なんだよ。気持ちよく寝てるのに、来たらゴブリンか。新入りの探魔師は本当にあてになんないな。」
「でも、ゴブリン以外に、一般人もいるようですな。口封じとして、全部殺すか?隊長?」
「何言ってるんです。あたしたちそんな真似はしないわ。でも、一般人がいるのは本当に困るわね。こちらは催眠術のできる人がいないもの。そうでしょう、古天仁さん?」
ゴブリンの死体から、起きて座る古天仁。
「おお、誰かと思えば、ソニアちゃんとソニアチームの諸君じゃないか。助けに来てくれて、恩に着るぜ。」
「どういたしまして、組織が違えど、同じ猟魔人だわ。助け合うのは、当然でしょう。それに、“ちゃん”はやめなさい」
「へいへい、相変わらず厳しい美人だね。」
「う、うるさいわね。」
「ツンデレも相変わらずだね。でも、探魔師か、いいこと聞かせてもらった。」
重要情報が駄々洩れされ、ソニアは、鎧の若者を睨む。ランケンっていう名前若者は、慌てて話題をずらす。
「ま、まあ、一般人だと思ったがな。結局詐欺師の古天仁か。あんたの九流猟魔人部下はどこだ?死んだか?」
やっとダチ公の部下を思い出す古天仁、すぐ下を望んで確認する。
諸葛夢は寝たまま。周りに、数体の結構変わった形になっている、ゴブリンの死体が転がっている。
そしてすぐ隣で、巨大な漢が立っている。赤いスカーフで顔が見えない。両手に小型の円盾を持っている。あれを武器として、ゴブリンたちを殴り殺したのだろう。
「ソニアチームにまたとんでもない新人入ったな。」
とつぶやいたら、下の諸葛夢に向けて、
「夢!死んだか?死んでないならなんか合図くれ」
諸葛夢は、適当に手を上げる。
「おお、ランケン君、俺の九流部下は一応生きてるぜ。心配かけたごめんな」
同じく下を見ているソニアも、笑ったのように、
「なるほど、ヒューイが来てないと思ったら、あの男の子を守りに行ったのか。納得だわ。ん?」
すぐ、ソニアの視線は諸葛夢隣の大剣に奪われる。
「ランケン、宝云さん、撤収するわよ。そしてヒューイ、諸葛夢君となりの大剣も持って帰って」
これを聞いて、林宇はすぐロボットから降りて、追おうとするが、古天仁に止められた。
「林宇君、やめろ。ちゃんと話せる相手じゃない」
「しかし、あれは俺のものだ、なんで勝手に持っていかれるの?」
林宇の話を聞いて、帽子小男は振り返る。サングラスかけてるのに、表情の不気味さは全然隠されていない。林宇も一瞬で黙らした。
「陳宝云、昔は凶悪殺人犯だ。あの小型チェーンソーで殺された人が数えきれない。お前もあのゴブリンたちみたいになりたくないだろう?」
林宇はバラバラになったゴブリンたちの死体を見て、思わず固唾を呑む。しかし、やはり大事なものだと思って、勇気づけ、抗議する。
「あの大剣はオヤジの遺物だ。返せ!」
この一喝を聞いて、ソニアも停まって振り返る。
「おやじ?じゃあ、あなたがあの裏切り者のお子さんね。」




