第二十八話 『目に見えぬ刀』
百吼の一撃、紅朧が諸葛夢の体を貫く。生か、死か、この決闘の行方は?
泰山の決闘、諸葛夢は林宇林娜兄妹から借りてきた大剣で善戦したが、武器がでかすぎて不利なものもあり、剣魔百吼は自らの血で妖刀紅朧を強化し、再び不利な局面に陥った。
ぶすっ
という音とともに、赤く光る紅朧は諸葛夢の体を貫く。
しかし、なぜか違和感がする。百吼は心臓を狙ったが、どうやら諸葛夢は一瞬体をずらされて、急所を外させた。そのうえ、筋肉で刀身を固め、これで抜けなくなった。
どうやら、相手の懐を狙ったのは、百吼だけでなかった。
まずいと思って、すぐ鞘で防御しようとするが、すでに猛烈なパンチが腹部に命中する。
十発、二十発
数えきれないパンチが百吼に浴び、締に重いフック一発、十数メートル以外のところに吹き飛ばされる。
「剣の使い手と思ったが、まさか肉弾戦もこなせるとは」
「剣士と名乗った覚えがない」
諸葛夢は体に刺さった紅朧を抜き、空高くに投げる。さらに大剣を抜き出し、
ボキリ!
大剣によって、紅朧は両断される。両断された妖刀から、大量の血が噴き出し、周囲一片を赤く染める。
「あれはいい刀だったのに」
「これで、チェックメイトだ」
諸葛夢は大剣を百吼に指す。
「果たしてそうかな?」
口元の血を拭き、百吼は鞘を捨て、再度手を振る。なぜかまた何かの衝撃波が、諸葛夢に飛ぶ。
幸い警戒は解除されてない。諸葛夢はすぐ大剣を振って、衝撃波を弾く。
「目に見えぬ剣か?」
「若いのに物知りだな」
百吼はその見えない剣を構え、諸葛夢に突進する。スピードは紅朧時同様、いや、それ以上だ。
見えない故、武器の軌道が読みにくい。素手で対処するのが難しい。やむを得なく、大剣で防御するが、防げ切れない攻撃が多く、体の傷跡は増える一方だった。
何度も距離を空けようとするが、百吼の追撃を振りほどけず、また詰められる。
数十回の攻撃で、諸葛夢は急にひらめく。片手で掌打の一撃、何か見えないものに見事に命中。さらに回転蹴りを繰り出し、百吼の見えない武器に防がれたが、これでやっと距離を再び空けた。
このチャンスは見逃せない。諸葛夢は大剣を地面に刺して、格闘の構えをする。
すぐ追撃しようとする百吼、諸葛夢の今の状態を見て驚く、
「な?こ、これは?」
「剣魔ならよく知っているはずだ」
「皇剣地魔陣、かなり手を加えた。だが、おぬしはあの鉄の塊と、この陣式を繰り出せまい」
「ポンコツ相棒のおかげてこういうのが慣れた。心配するなら自分を心配したほうがいいのでは?紅朧はどこまで持つのか……そろそろ本当の武器を出したらどうだ。持っていればの話だがな……」
「どうやらばれたようだな」
「ああ、その目に見えぬ剣、サイズは先の紅朧と寸法の差もない。たぶん、紅朧の魂魄だろう」
「やはりおぬしの博学にほめるべきだ。どこから剣魔一族皇家の陣式を学んだかは知らぬが、今のおぬしでは、紅朧の魂魄で十分」
「傷だらけならお互い様だ。」
百吼は手を上げ、腕についている、もう大分回復した傷跡を見て、考え込む。
「なるほど、どうやら持久戦になりそうだな。」
諸葛夢の後ろの衛兵所を見て、
「そろそろ衛兵たちは目が覚めるところだ。場所を変えよう。猟魔人は己の存在を世には公開しないと聞いたが?」
「かまわないが、小娘を開放したらどうだ?俺は約束をまもったろ」
「笑止。からくり人形を操る男女、彼らの気配は拙者が感じ取ってないとても思ったか?」
「ち、ばればれか」
諸葛夢は頭を掻く。
アンジェリナを安否を心配する林娜、決闘の隙に救出作戦を申し出た。林宇は嫌がったが、妹にはかなわないし、おやじが遺してくれた大剣も心配だと思って、作戦に乗った。
鉄甲人二号を簡単にメンテナンスして、新しいアームと車輪を換装し、兄妹二人は、諸葛夢の後ろについて、泰山に向かった。
城門から出たすぐに、諸葛夢と殺し屋の戦闘が始まった。エンジンを止め、足を収納し、スケボー感覚で、車に変形したロボットを運転する。
運転しながら、遠いところの戦闘を、林宇は見入る。最初は単純に親父の大剣を心配するだけだったが、やがて、かつてテレビでしか見れないような戦闘シーンに魅了される。
もうちょっと滑走したら、戦場はもう見えない、しかし飛び出す火花や金属ぶつかる音も、林宇にとって特別な魅力を感じる。
ぼーっとしている兄を見て、林娜は林宇の足を揺らす。我に返った林宇は、すでに安全だと思って、エンジンを始動し、アンジェリナを捜査し始める。
数分走ったら、遠くないところに洞窟がある。
「兄貴、もしかしてあっちじゃない?」
高さは4、5メートルあり、あっちこち散らかした小石があって、中から何かが出た痕跡がある。三つの巨石がπの形で組み立て、まるで入り口のようだ。
確かに可能性が高い、だが洞窟の中じゃ車輪は走りにくい。ロボットを再度変形して、歩行形態で中に入る。
少し歩いたら、中から先も聞いた、金属ぶつかりの音が聞こえる。
「あれ?ここも戦闘があるのか?」
「兄貴、早行こう!もしかして、アンジェが危ない」
「いやだな。また何か変なものがでるかもしれないよ。もう戻って、あのムウとやらに、司馬のお嬢様はもうしん……」
林娜に睨まれる。蛇に睨まれた蛙のように、林宇はしゃべれなくなる。
「もういい、あたし一人でも行くわ」
林娜はロボットから飛び降りる。
「いや、冗談だよ。俺も行く!」
林宇は懐中電灯を取り出し、ロボットから降りる。
こっそりと、二人は音を追って、洞窟の奥に歩く。しばらくすると、中から明るく光りが見える。懐中電灯を消し、二人は中を覗き込む。
青い髪の若者がライトセイバーらしきものをもって、一生懸命に振り舞い、宙に火花が炸裂、まるで何か目に見えないものと戦っているのようだ。
よく見ると、この青い髪の若者を林宇は知っている。この間司馬のお嬢様と一緒に来たやつだ。昨日病院に行った時も一緒だった。
もうちょっと奥に、トレンチコート姿の中年男、隣に、でかい犬を抱いてる金髪の小娘がいる。間違いなく司馬のお嬢様だ。
結局無事か。
ちっ、と舌打ちをする。
その時、突然爆発の音がし、空中に何かが爆散する。青い髪のやつはグルグルと回転して受身をし、ライトセイバーを構えて警戒する。
しばらくしたら、どうやら危険は去ったと思って、汗を拭き、青い髪は話す。
「嬢様、古さん、もう大丈夫みたいっすね。」
ライトセイバーらしきものは縮んで、やがて消えてなくなる。
もう危険がないと思って、林宇は林娜を連れて、みんなの前に現る。
「さすが司馬のお嬢様だな。ボディガード二人もいるとは……せっかく助けに来たのによ。無駄足か」
「りん、林宇?」
アンジェリナはびっくりする。林娜はすぐアンジェリナの元へ、
「アンジェ、大丈夫?」
「あ、林娜。アンジェリナは大丈夫だよ。古さんとカイやんがいるもん。あ、それに、パウズもいる」
アンジェリナはでかい犬をなでながら、
「あ、そういえば、ムウは?ムウはどうしたの?」
「あ、あの鉄面皮か。たぶんもう戦って、死んだんじゃね?」
急に不安になるアンジェリナ。林娜は慰めながら林宇を睨む。
「大丈夫だよ。心配すんな、司馬の嬢ちゃん。夢はゾンビなみにしぶといから、死んだりはしないさ。せいぜい重傷かな」
「これは心配するなってレベルですか。古さん」
「じゃあ、嬢様、俺たちももう出よう。俺が夢のやつに助太刀するから」
すでに結構疲れたカイは、アンジェリナを安心させるため、言い出す。
頷いたアンジェリナ。
一行は洞窟を出ようとする。しかし、パウズは急にグルルルルっと鳴きはじめ、何かに警戒する。
パウズの異変に気付く全員は、パウズの視線を沿って、出口の方向を見る
ガラン、ガラン、ガラン
巨大な黒影は、ゆっくりと、一行に向かって、歩いてくる。
諸葛夢と百吼決戦の行方は?洞窟に現れる黒い影は?
次回を待て!




