第二十五話 『貧民窟の貴族』
剣魔が現れ、アンジェリナを殺そうとしたが、諸葛夢が助けた。だが、剣魔の刀は、どうやら血を吸収して強化の力がある。はたして、諸葛夢は勝てるのか。
ネオシャンハイ、秋の深夜、工業の汚染もなく、災前と比べると数段も美しくなった夜空。しかし金髪碧眼の女の子は、この夜空を観る余裕がなく、パジャマ姿で全力疾走。
しかし、アンジェリナは諸葛夢の指示通り、森に向かったのではなく、病院前の草地に向かった。目当ては、林宇のロボットだ。
草地についたら、林宇林娜二人は、まだロボットの修理中。
「あ、アンジェ?」
走ってきたアンジェリナを見て、びっくりする林娜。ロボットの脇辺りで修理している林宇は声を聴いて急に頭を上げると、アームにぶつかった。
「よお、司馬のお嬢様よ。やっと自分の非に気付き、修理を手伝いに来たか?」
足が林娜に踏まれた。これで頭と足どっちを揉めばいいのかがわからない。
「り、林宇林娜、まだ修理中なの?」
「お前のせいだ」
「ご、ごめんなさい」
「いいのよ、バカ兄貴を気にしないで。そんなに慌てて、どうしたの?」
と言って、もう一回林宇の足を踏んだ。
「あ、そうだ、林宇、アンジェリナはロボットの腕についてる、爪を借りたい!」
製作時間が短いからか、ロボットは手の代わりに、鉤爪を装着している。
「冗談じゃねえよ。寝ぼけてるのか?」
また踏まれた。
「アンジェ、いったい何起ったの?落ち着いて話しましょう?」
「え?う、うん、先、殺し屋が現れて、アンジェリナを殺そうとしていたの。今ムウは鉄の棒だけで戦って、もっといい武器を探しに来た!」
「ムウって誰だよ?」
「この前、アンジェリナと一緒に同業中学に来た、銀髪の男の子よ。」
「ああ、あの無表情野郎か……」
昼、六階の窓から出た六つの頭の中の一つだ、林宇はすぐ思い出す。
「アンジェ、でもこれは刃物よ。危険だわ。それに、殺し屋、ねえ……」
アンジェリナを心配したが、やはり林娜は殺し屋の存在を疑っている。
突然、病院方向から何か来た。頭を上げると、数個の赤く光っているものがすごい勢いで飛んでくる。まずいと思って、林娜はすぐアンジェリナを押し倒して、庇う。
赤い光球は、砲弾のごとく、地面、ロボットに命中した。斬撃だからか、大した音はないものの、ロボットに数個の傷口を開けた。
「あああああああ、俺の鉄甲人二号がああああああ!」
すぐ、二人の人影も、三人の前に着地した。
諸葛夢と謎の殺し屋だ。
「ムウ?」
アンジェリナを見てちょっとびっくりする諸葛夢。
「バカ!なぜ森に逃げない?」
「アンジェリナはちょっと武器を探したくて」
「ほう、なるほど、ちゃんとした手合わせが久しぶりすぎたのか、拙者も鈍くなったものよ。だが!」
急に、男は重心を下ろし、諸葛夢に猛ダッシュ。刀の光で、赤い残影を描きながら、一瞬にして諸葛夢の懐に入った。
アンジェリナを叱ろうとする諸葛夢だが、不意に接近され、慌てて棒で防御するが、
ばつんばつんばつん
三回の切りで、鉄の棒は紙のように分断された。
男はさらに上半身を捻じって回転し、刀の柄で、諸葛夢の腹部に直撃。
「ぐふ!」
諸葛夢は一撃で吹き飛ばされ、ロボットにぶつかって倒れた。この一撃の動き、先諸葛夢の攻撃動作とほぼ一緒で、男からの仕返しだ。
「魔力で鉄の棒を強化するとは、小癪な真似を」
「ムウ!」
アンジェリナは林娜の庇いを振りほどき、すぐ諸葛夢のところに走った。幸い急所ではなく、諸葛夢もすぐ立ち上がった。
「林宇!はやく、ロボットの爪を貸して!ムウは武器が必要なの!」
「無駄だ、小さき少女よ。ガラクタに魔力を注ぎながら戦うじゃ、拙者に勝てぬ。若造の腕はほめてやろう。先の戦いでずっと気になっていたが、競り合いの時はちゃんと拙者の刃を避けてぶつかる。が、棒術の達人にしては動きが雑すぎる。では、若造も剣のほうが慣れているのでは?」
「……」
「どうやら、正解のようだな。なら、そこのガラクタは役に立てぬ。」
と言ったら、男は刀を一振り。赤い刀気が二人に向かって飛ぶ。
諸葛夢はすぐアンジェリナを押して避けたが、後ろにある、ロボットの鉤爪は一瞬で切断された。
「ああああ、俺のロボットが!弁償しろよあんた!」
林娜はすぐ林宇の口を塞ぐ。
「フン、面白いことを思いついた。」
男は刀をおさめ、再度ダッシュする。
しゅ
風の音とともに一瞬で四人の真ん中に現れ、柄で諸葛夢を吹き飛ばし、蹴りで林宇林娜を蹴り飛び、アンジェリナを捕まった。
「小さき少女の命はしばらく預かった。夜明けまででな。もうちょっといい武器を用意して、泰山※のふもとで再戦しよう。おぬしの剣術を一度見たかった。さもなくば、少女は死ぬ」
「た、泰山?めちゃくちゃ遠いじゃねえか?今飛行機も列車もないぞ」
林宇は思わず叫ぶ。
「どうやら知らないようだな。後ろのあの山は、泰山だ」
男は断崖絶壁を指して、
「では、ご無礼を」
親指で刀の鍔を弾き、柄はアンジェリナの腹部にぶつかる。
激痛のあと、アンジェリナは気を失った。彼女を肩に担いて、男は数回のジャンプで、暗闇に消えた。
かろうじて立った諸葛夢は、再度座り込んだ。致命傷ではないものの、柄の二撃は重かった。
林娜はすぐ諸葛夢のそばに走って、
「あなた、ムウって名前だね。一体何が起こったの?なんであの殺し屋がアンジェを誘拐するの?」
「知るか。だが、お前たちは深く関わらないほうがいい!おい、林宇といったな?この前のロボットの武器、まだあるのか?」
「あんた、本気であの化け物と戦う気か?こんなこと、警察に通報すりゃいいんだろ」
「間に合わない。それに、警察が対処できる相手じゃない。」
諸葛夢はもう一度立ち上がる。
「もう一遍聞く。あるのか、ないのか」
自分のロボットが一瞬に切断されたことを見て、嫌がっている林宇だが、妹はあの小娘を放っておくわけがないと思い、仕方なく頷いた。
林娜は諸葛夢を支えようとするが、林宇はすぐ叫んだ。
「ああ、待って、お前は負傷したから、俺の鉄甲人二号に乗れ、いま歩くぐらいなら……」
しかし時すでに遅し、林娜が諸葛夢を担いでいるのを見て、林宇は思わずに舌打ちをした。
ロボットを発動して、住宅地に向かって歩き始める。スピードは遅いが、歩くよりはるかマシ。諸葛夢も今のうちに休憩できる。
「兄貴、大丈夫なの?負傷者が乗っているよ。歩くときめちゃ揺れてる。」
「大丈夫じゃね?こいつもそんなにやわじゃないし、確かに揺れても酔ったりはしない。」
十数分歩いたら、住宅地に到着した。昼頃病院から見て、そこまでボロボロじゃないが、夜になったら、確かに昔上海の旧住宅地そのものだ。
諸葛夢が物心がつくとき、上海にああいう旧住宅地はもうない。父親諸葛淼の資料から見ただけだが、目の前の景色はまるで写真を具現化したのようだ。
湿っぽい地面の上に野菜の葉っぱと鶏の羽が散乱している。朝になると、痰壺を洗うおばさんもいそうな雰囲気だが、今はさすがないか。
「ついたぞ」
ロボットを停め、林宇は飛び降りる。
到着したのは、さらにぼろい家だ。林娜は諸葛夢を担ごうとするが、どうやらもうちゃんと歩けるようになった。
部屋の中は清潔だ。しかし、整頓は魔法ではない、空間を大きくすることはできない。10平方メートルぐらいの大きさで、真ん中はカーテンで左右別れ、さらにきれいに片づけられ、ベッドのある空間は林娜の、そして若干乱雑のは林宇のだろう。
部屋の後ろにドアがあり、そこからはもう一つの空間がある。
同じく10平方ぐらいの大きさだが、外だ。路地を安っぽい建材で囲んで作った。
林宇は電気を付けたら、中、もとい外は実験室か、工房のような場所だ。ロボット用の装甲などもある。
「あるのはここのものだけだ。」
林宇は壁際に指す。確かに剣や斧など、十数件ある。
諸葛夢はいろいろ試してみたが、確か点滴用の鉄棒よりははるかマシだが、しょせんは高校生部活で作ったものだ。
その時、林娜も工房に入った。いい武器がないと判ったら、ちょっと沈黙した。そして再び口を開け。
「兄貴、あれを、ムウに貸そう」
※泰山:中国山東省にある山、道教五大聖地のひとつといわれている。実際は上海からかなり遠い。
アンジェリナを誘拐した剣魔、諸葛夢は林宇に武器を借りて再戦しようとする。アンジェリナの安否は?諸葛夢に貸す武器は一体?
次回を待て!




