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サイゴヒーロー ~魔を狩る人~  作者: 古蘭佐
第一章 新学期一日目は忙しすぎる
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第一話 『学校鬼路』

 生い茂る森。全力疾走。


 疲れてはないが、息が苦しい、ぜぇぜぇと喘ぎ、口の中に血の匂いもする。


 太陽の光は葉っぱの間で明滅する。木の枝は鞭のように体に打つ。後ろから乱雑な足音が聞こえ、追手はそう遠くないはずだ。思わず振り返ると、恐怖の黒影は猛スピードで接近している。たまに、自分の名前らしい声が聞こえる。


「アンジェリナ、アンジェリナ!」


 アンジェリナはやっと目覚めた。目の前に立っているのは学生会長(生徒会会長)のミカエラだ。周りを見ると、今自分は教室にいる。


 もうすぐ新学期が始まるため、学生会はいろんな準備をしなければならない。教本、教室、夏休みの研究報告、新学期学生大会(入学式及び始業式(しぎょうしき))、やることがいっぱいあるから、ホワイトボードにはすでにいっぱい書き込めた。


 どうやら夢を見たのようだ。アンジェリナにとっては、久々の夢だ。


「アンジェリナ、また急に寝た? やっぱり病院に行ったほうがいいと思うわ。それとも、昨日また徹夜なのかしら?」

「病院には行ったよ。でも先生は、検査結果に異常なしって言ってた。昨日は確かに徹夜した。ごめんごめん。」

「そうか。でも無理はしないで。では、これ、お願いね。」


 ミカエラは山みたいな書類をもってきて、アンジェリナの目の前に置く。


「これ、お芋先生に提出の必要があるの。量が多いから、ボディガード君も呼んできたら?」

「えええ? お芋先生? なに? 罰ゲーム?先寝た罰なの?」


 と、苦笑いしながら、アンジェリナは愚痴る。


 お芋先生、物理の先生で、本名は于乾(うけん)だ。国語先生に間違われるほど説教の時古文が多用し、学生会の中に研究報告をうまく報告でき、かつ彼の説教を耐えられるのはアンジェリナしかいない。


「わかったわよ。じゃあ、アンジェリナは先に失礼するね。遅れたらお芋先生はまた怒るから。」


 と言ったらすぐ、アンジェリナは自分身長の半分ぐらいの種類を持ち上げ、会議の教室を後にした。アンジェリナは何でも自分がやるタイプのため、ほかの学生会メンバーは見送るしかできない。教室の外で待っているボディガード君もよく知っているが、さすがに今回多すぎだろうと思って、せめて半分ぐらいは取ろうとする。


 ボディガード君、青いロン毛の兄さんだ。結構適当なマンバンで、バンダナを着用している。服装はYシャツに黒ベスト。もし蝶ネクタイもしていれば、どこかのバーテンダーと思われるのに違いない。


 名前はカイ、苗字は覚えてない。重症で記憶喪失したらしくて、年齢国籍などなにも覚えていない。唯一覚えているのは、名前ぐらいだった。


 特に取り柄がないが、喧嘩は強いらしい。重症の時にアンジェリナに救われたため、恩返しとして、ずっとそばでボディガードをやっている。


 よくロリコンと疑われ、単純に目の前の小さき美人に垂涎してると結構言われたが、本人は全力否定し、年上がタイプ、らしい。


 実際にボディガードしているかどうかはさておき、カイの生活費は確かにアンジェリナからもらっている。どうしても小さな女の子一人でできない力仕事があれば、カイはちゃんと手伝いはする。


 年齢は思い出せないが、細胞活性鑑定では、17歳ぐらいのため、入学してアンジェリナのクラスメイトとなった。そしてこの学校に入れるのも、アンジェリナのおかげだった。


 新元学園、災前は愛森(あいしん)私立中学という名で、現在はネオシャンハイ一番高級な学校である。高校部と大学部を同時所有し、設備も教師のレベルも高く、一番早くエリート人材を育て、都市の再建に貢献している。そのため、入学するのは至難の業だ。


 学校の理事長司馬焱(しばえん)はアンジェリナのおじいさんだが、カイが入学できるのは、その身分を利用したわけではない。


 真相は、アンジェリナ自身が、カイの生徒データを作った。そもそも現在学校が使っている生徒データ管理システムは、アンジェリナがメインで開発したもので、管理者アカウントを持っている。こっそりやっていれば、ばれることはない。


 インターネット設備も修復されてないため、警察局の市民戸籍プロファイルと照合することもなく、しばらく問題ないと、アンジェリナは判断した。照合されても、そちらをハッキングしてカイの戸籍を作ればいいとのことだ。


「嬢様、会議終わった?」

「また終わってないよ。でもアンジェリナはこの報告書をお芋先生に出すから、先にでた。」

「手伝うか?」

「う~ん、まだ大丈夫。」

「大丈夫じゃないよ。もう前見えないだろう。」


 と言いながら、カイは半分ぐらい無理やり奪った。


「そういえば、結構の人が嬢様を探してるよ。防衛部長、警察局長。あ、あとシンちゃんも。」

「警察局長?また警察のコンピューターシステムバグった?」

「いや、なんか最近殺人事件があってな。警察は結構手こずってたらしい。また、嬢様の助太刀が必要なんじゃない?」

「いやだよ。アンジェリナ、高校生探偵になりたくないよ。変な薬飲ませたら、幼稚園児に退行しちゃうじゃない。」


アンジェリナは眉を顰め、いやそうな表情で頭を振る。


「幼稚園?」

「いや、何でもない。とにかく、午後暇あったら行くよ。あと、シンちゃんは?」

「あ、今日は転校生がくるらしいから、学生会の会議が終わったらすぐ教室にこいって」

「ああ、これはまじい、これらの報告書をお芋先生に提出しなくちゃ……」

「じゃあ、報告書は俺が運ぶよ。立ったまま居眠りが得意だから、説教も平気平気、それに。」


 カイは目の前の自転車置き場に指を差し、


「今自転車もないし、歩いていけないだろう。」


 戸惑うアンジェリナを見て、カイは残りの書類も取り、代わりにアンジェリナのカバンを返した。


「いま早く歩けば、シンちゃんの朝会に間に合う。転校生が早々あいさつしに来たんだ。クラスの班長(委員長)がいないとね。」

「わかったわ。じゃあお芋先生に会ったらよろしくって言っといで。あと、カイやんは生きて帰ってね。」

「いやいや、説教ぐらいで死なないよ。」


 アンジェリナは書類の真ん中に挟んでるピンク色のノートを取り出したら、カイとわかれ、旧校舎に向かう。


 新元学園は三つのブロックがあって、北西にあるのは大学部の校舎だ。災後多くの若者は高校卒業したら直接仕事するから、大学行きの生徒が少ない。そのため、ネオシャンハイの大学は非常に小さいか、あるいは新元学園みたいに、高校と合弁形式を取る。


 学生が少ないため、学生や教師の寮、教室、図書館など以外、一番多いのは実験室だ。高校の生徒たちもよくあそこでいろんな研究やアシスタントをする。アンジェリナの夏休みもほとんど大学部で過ごした。


 東北の旧校舎は現在高校部の教室だが、残ったのは三年生のみで、一年や二年生はすでに南にある新校舎に引っ越した。新校舎残りの内装が完成したら、三年生も引っ越す予定だ。


 三つのブロックを分けたのは、ちいさくてよく(しげ)ている森だ。小さな丘や川などもあり、散策なら絶好の場所ではあるが、通行するのに結構時間がかかるのが難点。そのためか、自転車用の通路も用意して、旧校舎に行くならこれらの通路を使うのが普通だ。


 実は、学校の一番東に、もう一つ長い通路も新旧校舎をつながっている。ただ、あの通路を利用する生徒はほとんどいない。


 なぜなら、戦争時、あちらではたくさんの死体を置いたことがあったから、よく幽霊は出る。と、生徒の間で噂があったからだ。


 オカルト部の生徒は、深夜であの通路に行って怖い鳴き声を録音し、心霊写真も撮ったから、噂がさらに広がった。三十分居座るだけで発狂する生徒とか、自ら目を抉り取った生徒がいるとか、うわさが絶えない。学校のほうも結構困っているが、いくら弁明しても、効果が薄い。生徒の間では、この通路を学校鬼※路(がっこうきろ)と呼ばれている。


 この誰でも通りたくない通路の前に、今アンジェリナはいる。


 アンジェリナはカイと別れたあと、ノートを読みながら旧校舎に向かった。ノートの中にいろんな内容が記載されて、記録メディア、ネット、衛星、交通、医療、そして黒塗りされ読めない何か。


 どういうわけか、災後世界は変わった。物理的に変わった。災前ふつうに使われていた機械や設備も、その多くは使えなくなった。


 例えば記録メディア、ハードディスクやフロッピディスク、フラッシュディスクや各種の光ディスク、基本的に全部使えなくなった。幸い、夏休み中、学校みんなの努力により、新記録メディアの開発はほぼ完成した。しかも、未破損の旧メディアのデータも読み取る方法見つけた。これを思うと重い気分も幾分楽になった。しかし、頭を上げるとびっくりする。なぜなら、彼女はいま学校鬼路の前に立っている。


 生徒間の噂話はあんまり信じてない。が、小さな女の子一人だけで、昼なのに真っ暗の鬼路を通るには、莫大な勇気が必要だ。


 腕時計をみて、シンちゃんの朝会はそろそろ始まる。今このまま鬼路を通ればまだ間に合うが、遠回りして森の自転車道を通ったら遅刻するのに違いない。


 躊躇うが、やむを得なく、アンジェリナは鬼路を通ることにした。


 鬼路は元々行商人がどんな天気でも商売できるよう、棚や天井をいっぱい作って囲まれた道だった※。しかし後でコンビニやスーパーなどができたから、利用する人がいなくなって、放置された。しかも雑物(ざつぶつ)や雑草もいっぱいで、太陽の光はほとんど入れず、午前中なのに、中はほぼ真っ暗だ。


 もしちゃんと片付けば、夏に納涼するのが悪くない。しかしいかんせん現在人手不足だから、きれいになるのはたぶん当分先の話になる。アンジェリナはなるべく早く鬼路を通ろうとする。


「鬼路はあと何キロだ、なんちゃって」


 と、ダジャレで恐怖を誤魔化そうとしている。


 ゲゲゲゲゲ


 突然、後ろから不気味な音が聞こえる。アンジェリナは振り返りたいが、前の悪夢を思い出して、怖くてできない。


 なら逃げよう。


 そう思うとアンジェリナは走り始める。しかし、後ろからも足音らしき音が聞こえ、しかもどんどん迫ってくる


 しゅううう


 巨大な何かが跳んでアンジェリナの前に立ちふさがる。


 周りは暗くてはっきりは見えないが、アンジェリナの前に立っているのは、六つの淡い緑色光っている目を持っている巨大な怪物だ。


※中国語では、鬼はお化け、幽霊を指す

※むかしの上海では、道端で経営する露天商が非常に多く、住宅地間の道が細いため、その道路を全部覆えるぐらい大きな屋根を作れば、どんな天気でも行商できる。しかし、日当たりが悪くなり、車の通行にも影響する。最悪の場合、救急車や消防車が通れなくなるため、2000年以降、ほとんど見れなくなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鬼路という表現は(僕らの眼には)新鮮でいいですね。
[良い点] 世界観が丁寧に説明されていて分かりやすかったです! [一言] 次がすごく気になる終わり方!
[良い点] 時候の言葉を使った冒頭からの流れが印象的。対比という効果を使い、人の心を落ち着かせたり活動的である季節であるにもかかわらず、現在はこういう状況であると強調させていることから、それどころでは…
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