第十四話 『漂流』
生い茂る森。全力疾走。
疲れてはないが、息が苦しい、ぜぇぜぇと喘ぎ、口の中に血の匂いもする。
太陽の光は紫色の葉っぱの間で明滅する。貝殻状の枝は鞭のように体に打つ。後ろから乱雑な足音が聞こえる。
ぱちぱち、ぱちぱち
薪の燃え盛る音と焼き肉の香りが、アンジェリナを目覚めさせた。遠くないところに、焚火があり、その上に大きな焼き肉セットが掛けられ、今は巨大な肉が焼かれている。
肉を焼いているのは諸葛夢だ。
「ぅ……っ!」
アンジェリナは起こそうとするが、右肩の傷はまだ痛くて、思わず声出してしまう。
「目が覚めたか?」
アンジェリナの声を聴いて振り返る諸葛夢、すぐ焼いている肉から大きな一枚を割いて、アンジェリナに渡す。
「食え」
特に加工や調味はしてないが、よく焼いた肉だ。皮がぱりぱりで、中身は柔らかくジューシー、淡い煙が漂うとともにいい匂いが伝えてくる。
どこからどう見でもおいしそうな焼肉だ。“赤身”の色は緑以外。
しかし本当にお腹空いたか、アンジェリナはそれをかまわずに、数口で肉を食べ切った。この様子を見て驚く諸葛夢だが、すぐもう一枚渡した。
大分気力回復した。アンジェリナはちょっと肉を観察する。今回渡された肉は円錐の形で、骨もついている。
「ムウ、この肉は?」
「先お前を襲った“恐竜”の肉だ」
諸葛夢はアンジェリナの肩を指して言った。
アンジェリナの右肩に傷跡があり、布切れを包帯として巻かれて応急処置された。しかし染み出ている血痕から、これは丸く一列の噛み跡だとわかる
「自分の仇、と思え」
今は非常時だと、アンジェリナも分かったから、がつがつと、肉を食べた。骨から見ると、シッポの肉のようだ。
これで、ようやく立てるようになった。アンジェリナは起きて、近くの川に向かう。ちょっと手と顔を洗ったら、水を見ながら悩む。
「飲んでいい。普通の水だ」
諸葛夢の話を聞いて、アンジェリナは勇気を出して水を飲む。
ごくごく、おいしい!
全く汚染されてない水で、涼しくて、甘い味すらある。
アンジェリナはすぐ両手で水を汲んで、諸葛夢のところに向かう。
「ムウ、この水、めっちゃくちゃおいしいよ。ムウも飲んで」
「いや、俺はさき……」
「飲もうよ、本当においしいんだから!」
仕方なく、諸葛夢はアンジェリナの手から水を飲む。確かに、おいしい、先自分が飲んだ時なぜか気づかなかった。
もうちょっとしたら、食事は終わった。肉はまだ結構残っているので、しばらく食糧に心配はない模様。二人は焚火の前に座って、空を見始める。
美しい夜空だ。
ワイン色の夜空に、満天の星が光る。まるでワイングラス越しに雪を鑑賞してるようだ。
星光の美しさを圧倒するのは月だ。大きいと小さい二個一対の月は、この夜空を支配する。
大きい月は近いのか、上のクレーターもはっきりと見える。今も落ちそうで、ずっと眺めると、少し怖い。
空白フィルムがあったら、何枚も写真を撮りたいところだ。
「ムウと一緒に未知の惑星にたどり着いて、もう十数年の月日が流れた」
「なんのナレーションだ?それに数時間しか経ってないぞ」
「へへ」
と笑うアンジェリナ
「ムウ、あたしたち、まだ地球に戻れるのかな?」
「たぶんな。お前の推測が正しければ。」
「でも、もしアンジェリナの推測が間違ったら、あるいは空間の裂け目はあたしたちの届かないところにあれば、どうする?」
諸葛夢はしばらく黙り込んだ。
「なら、ここで生活するしかないな。」
「ええええ、やだよ。アンジェリナはまだ家に戻って、パウズのご飯と散歩しなきゃ……」
「パウズ?」
「アンジェリナんちのワンちゃんだよ。」
「人工知能ははな、犬はパウズ、もうちょっとマシな名前はないか?」
「なによ、かわいいのに……つぎのペットの名前はポテトにする!」
「お前のペットになる動物がかわいそうだ。」
「あ、動物といえば、ムウはよく知っているのね。あのスクリーマーっていう蜘蛛が」
魔界や魔族は話はなるべく一般人に公開しない。だから諸葛夢は古天仁から催眠術を学んだ。しかし今度ばかりは催眠術で解決できそうな問題ではない。
「あのおっさんが教えた。」
諸葛夢はアンジェリナが持っている古天仁のトレンチコートを指す。
「へえ~、古さんって、物知りなんだね!でも、この世にワープできる生き物が存在するなんて、もしかし異星生物なのかな?」
「さあな。」
「ねえ、ムウ、この星に異星人がいるのかな?」
「知るか」
「もう、ムウは全然ロマンじゃないんだから……」
「なにがロンマンだ。本当に異星人と出くわしたらどうするつもりだ?」
「まず、あいさつするよ。バー・ウィップ・グラーナ・ウィー・ピニボン!」
「トランス○ォーマーか!」
「そして、ネコミミをつけてここでいっぱい遊ぶ!」
「あそ○にいくヨか!」
「仲良しのところに、突然この星を侵略する。」
「ひどいな」
「ケロケロ」
「ケ○○か」
「ムウはG66ポジションね」
「なんで俺まで」
「声が似てるから」
「似てねえよ」
「でもああいう声は憧れるでしょう?」
「う……」
「あは、図星?」
「うるさい!たとえ異星人がいたとしても意味がない」
「どうして?地球に戻るのに手伝ってくれうかもしれないじゃない?」
「こんな森は全く未開発ってことは、ここに高度文明は多分ない、あったとしても精々地球の19世紀レベルだ。」
「そうだね。地球だって、災前の二十一世紀だって……」
急にアンジェリナは黙り込んだ。
「?」
「い、いいえ、何でもない。話題変えようか?」
「もういい、お前は早く寝ろ」
「なんでぇ?まだ就寝時間じゃないよ?先生……」
「誰が先生だ?今のうちに早く寝ないと明日空間の裂け目を探す気力ないぞ。それに、この星の夜はいつまで続くかはわからん!」
「ラジャー!じゃあ、交代して見張るね!」
「いいや、安全確保は俺に任せろ」
「……わかったわ。じゃ、お言葉に甘えて」
アンジェリナは焚火の隣で寝そべる。古天仁のトレンチコートは枕と布団代わりだ。
「ねえ、ムウ、寝た?」
「一秒も経ってないよ」
「明日から、肉じゃなく、野菜や果物を食べようよ」
「バカ言え、タンパク質補充は大事だ。それに、俺は未知惑星の植物を食べる勇気はない。」
「そ、そうだね。ごめんね。わがままいっちゃって。ムウが作った焼肉、おいしかったよ。おやすみ」
疲れたのか、すぐアンジェリナは眠った。
諸葛夢は立ち上げ、“恐竜”の残骸の前に立つ。
「最悪の場合、お前たちの命くれ、すまん」