第百三十四話 『犯罪のない素晴らしき世界』
手榴弾が転んできた。果たしてカーンビィの運命は?
俺の生まれた世界、普通と言えば普通だが、特殊と言えば、あれもまたとんでもない特殊なんだ。第三次世界はなく、世界は一人の女によって、一つの国に統一した。科学の発展はそこそこ進んで、月面や火星など、太陽系にいろんなところにコロニーを作った。
殺人など重犯罪率は非常に低く、一見悪くない世界だったが、一般人は貧乏で、何もかも監視され、全く自由のない生活を送っている。
言論の自由、表現の自由は全くなく、一部のことを言及するだけで、即逮捕される。逮捕の理由は、犯罪の助長になること。しかし、具体的に何をしゃべってはいけないのかは、はっきりした基準はない。独裁女帝の名前を口にするだけで逮捕される。あれはどうやって犯罪を助長するのかは、理解に苦しむ。
俺はごく普通の家庭で生まれ、ごく普通に育てられた一人子だった。本当は上にも下にも兄弟数名いるはずだったが、彼たちは全部犯罪遺伝因子を持っているから、ほとんど生まれる前に堕胎された。
俺の世界では、遺伝子でこの人は犯罪者になるかどうかがわかるらしい。その信憑性について、最初の頃はめちゃくちゃ物議はあったが、反対意見を持つ人はどんどん逮捕されていくから、最後は無事実行した。
実行の時、強制堕胎だけでなく、生まれたての赤ちゃんも、強制処分される。俺の一人の兄と妹は、実際に生まれてから、犯罪遺伝子が検出され、そして殺されたらしい。あれも俺が小学生になってから、両親が教えてくれた。
今思えば、怖い、あの時の両親の反応が、自分の子供が独裁政府に殺されたことを語る時の反応が。より明るい未来、より豊かな未来のため、あれは必要な犠牲なんだ。お前も将来、政府のため、女帝のために命を懸けて努力するんだぞって。
「おいコラァ! 聞いてんのかお前ら!!」
「ふえ? え、ええ、聞いてるわよ、ちゃんと」
目の前にいるのは、いつもの黒い羽丸と、大きな剣に頬ずりしている金髪の少女だ。今見てもまるで生きているドールのような美しい少女だが、あとほんの少し、俺は魔が差して、やっていけないことをやって、そしてあの剣に切り殺され、今は冷たい死体になっただろう。想像するだけでゾッとする。
ちょっと前の話。木の怪物と一緒に工房の前に戻ったら、一枚の手榴弾が転んできた。逃げようと思ったら、時すでに遅し、手榴弾はすぐ爆発し、俺は気を失った。
何時間経ったのかはわからないが、目が覚めた。俺は生きている。あの至近距離の爆発で、ほぼ無傷。頑張って回想してみれば、確かに爆発寸前、あの怪物は俺を庇った。
何で?あの怪物って、もしかしていい人?いや、いい物?
そう考えると、すぐ怪物を探した。遠くなところで、倒れていた。しかし、あの木みたいな体にたくさんの亀裂が入っていて、俺がちょっと触ったら、外殻は崩れて、中に、金髪の少女が現れた。
暇の時たくさんの本を読んで、女性を褒める言葉なら一応たくさん知っている。しかし彼女を見た瞬間、俺の脳回路は焼かれたのように、綺麗や、可愛いという簡単な言葉しか浮かべない。
生きているのか?
そう思うと、俺は彼女に近づき、呼吸を確認する。いい香りだ。あ、いや、息はちゃんとある。しかも衰弱してない。たぶん、あの木の部分は何かの防御機能がついているのだろうか。おれとおなじく破片によっての外傷と、衝撃波によっての経度な脳震盪。幸い外傷の状況から判断すると、重傷じゃないと思う。
簡単な手当てなら俺もできる。自分の服を破ってまず彼女の腕に包帯として巻く。あとは、足、っていうか太ももだ。
太すぎず細すぎずに、程よく肉感がある。セクシー系じゃないが、綺麗にさっぱりした脚線だ。白いハイニーソー履いてるから肌の露出は少ないが、見える部分、それはまた白くて、柔らかそう。触り心地は、そうだ、豆腐と一緒だ、きっと。
ゴクリ
二十年だ。ここに来て二十年間、俺は女を触ったことすらなかった。稀に、この空間に迷い込んだ女性はいたけど、ほとんど無残な結末に迎えた。数少なく生き延びれた人は、全部お屋形様のような有力者の女になった。
しかし、今の俺の目の前に、極上の女一人が、気を失っている。邪魔されることも、奪われることもなく、俺一人のものだ。
そ、そうだ。ま、まずは服でも脱ごうか。青春の胴体を見たい。上はぺったんこだから、ではスカートからかな。
ゴクリ
しかし、手の震えが止まらない。何度も何度も、手を伸ばして戻り、伸ばしてはそしてまた戻り、五六、いや、十往復もした気がする。
だめだ。できない。
地べたに座り込み、俺は頭を抱え、ちょっと笑いたくなった。
相手はまだ子供だ。しかも身を挺して俺を庇った人物。あんなことはできるかっての!何が邪悪な独裁政府に対抗する戦士だ。結局普通の獣じゃねえか。
そうか。これで思い出したな。俺が反抗軍に参加した理由。
俺の高校時代に、好きな子がいてな。名前はキャロルっていうんだ。目の前の子ほどじゃないが、それもまた顔の整った綺麗な女子だ。恋人同士じゃないが、仲は非常に良かったんだ。彼女の親父は会社を経営したけど、政府の人とトラブルが起こって、あれからほぼ毎日、政府の人がおじさんの会社に行って、税務の調査だの、消防の調査だの、労働環境の調査だの、まともな営業はできなくなってしまい、そしてたくさんの罰金も払わせ、最後は倒産まで追い詰まられ、飛び降り自殺した。
彼女は学校で政府や女帝の悪口を叩いたら、今度は彼女が捕まれて精神病院に送られた。あちらでどんな虐待を受けたか、何かヤバい薬物を飲ませたのかは知らないが、治療が終わって学校に戻ったら、彼女は変わった。いつも虚ろな目で、わけのわからないことばかりしゃべりていた。
俺は頑張って彼女を慰めてみた。毎日彼女を家まで送って、少しでも時間があれば必ず見舞いに行く。そしてある日、夜なのに彼女の部屋は真っ暗だった。電気をつけると、そこにあるのは、首吊り自殺した彼女だった。
しかし、周りの人達はめちゃ喜んだ。邪悪な資本家一人が死んで、そして我が偉大なる指導者に悪い口を叩いた精神病ビッチが死んで、これ以上楽しい閑話休題はない。
クッソ、ふざけやがって!何楽な生き方しようとしてるんだ。俺は元の世界に戻る。たとえ死んでも、せめてあの野郎どもに一矢報いてやりてぇ。
すると、俺は何回も、全力で地面を叩いた。邪悪な政府と臆病な自分への怒りももちろん。ついでに、さっき湧いてきた性欲もちょっと発散したい。俺の小屋に秘蔵のエロ本はある。まだ盗まれてない。後で自分で何とかするか。トホホ。目の前別嬪いるのに。
さて、手当て再開か。俺の服はもうボロボロなので、ほかに包帯になれそうなもの、できれば消毒のものも欲しいな。
立ち上がって周りを見渡すと、びっくりした。いつからか、羽丸は巨大な剣をもって、俺の後ろに浮いている。
「よかったね。カーンビィ、あともう少しでお前を斬り捨てるところだったよ」
すると、羽丸は女の子の隣に飛んで、両手から不思議な光が放ちはじめる。
「かあちゃまは命を奪うことが嫌いだからね。本当にお前を殺したら、あとでおいらは叱られる。よく頑張ったね。人間として」
「お、おう」
あれ?ちょっと待って、かあちゃまって、この女の子はこのちいちゃい怪物を産んだのか?
世界って神秘!
しばらくすると、女の子は目が覚めた。あの光は治療魔法なのか?
「むにゃむにゃ、おはよう、もう朝?」
「おはようじゃないよ、かあちゃま、おいらがいない間めちゃくちゃ危ないじゃないか」
「てへっ、ついにやっちゃった。あ、ドラちゃん修復できたの?」
すると、女の子は奪うのように、羽丸から大剣を取った。ドラちゃんって、剣の名前?それから、二人は楽しそうにほかの言葉で語り始めた。中国語か日本語かな?少しはわかる。昔反抗軍にアジア系のメンバーがいるから、少し学習した。
そして、どうやら俺のことを語った。女の子は羽丸の話を聞いて、嬉しそうに俺に向かって、
「カーンビィ君、偉い、やっぱり紳士だネ」
「ふん、何が紳士だ。単に最低限の人間性を保っただけだ。それに、さすがに子供には手は出せんよ」
「なんだと!?てめぇぶっ飛ばすぞ!!」
ええ、何その性格、あ、いや、つまり自分はもう大人だって主張したいタイプの子か。
「あ~あ、いや、今はそんな場合じゃないか。でもこれからどうしよっかな、ブツを奪うのか、それとも」
「あ、あの、そのことなんだけど。元の世界に戻す話、俺、乗るよ。やっぱり戻るわ。死んでも構わねぇ。ガツンと一発やりてぇんだ。あ、あと、君、名前は何っていうんだ?」
「あたし? あたしはレジーナ、レジーナ・フランジっていうんだよ」
これから、元の世界に戻す準備をする。頑張れ、カーンビィ君。
次回を待って!!
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