表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイゴヒーロー ~魔を狩る人~  作者: 古蘭佐
第七章 スーパーヒロイン誕生
136/137

第百三十三話 『間違った理論』

怪物の工場で働く

 音だ。


 金属を鍛錬、切断、研磨の音だ。これをずっと聞いてるからか、頭が痛い。いや、頭だけでなく、体中に痛い。筋肉痛はまだ治らないのか。


 工房に入ってそろそろ一ヶ月、小さい化け物からもらった設計図のパーツは9割以上完成した。


 そういえば、最近あの小さな化け物も見かけなくなった。俺たちの仕事を監視しているのは、一台のドローンだけだった。


 あ、噂をすれば影だ。なぜか、小さな化け物が来た。丸くて黒くて、翼があり、ずっと飛んでる変な生き物だ。一見ちょっと可愛いとまで思ってしまうが、かなり強い。少なくとも、一般の人間なら、あいつに渡り合えるやついないだろう。


「お前、カーンビィって言ったな。ボスのお呼びだ」


 え? 俺? 


 一瞬不思議と思うが、ここの作業現場からちょっと離れるのも悪くないと思って、すぐ軍手を外し、顔についているオイルを拭き、小さい化け物についていく。


 ちなみに、あんまり呼ぶチャンスはないが、小さい化け物の名前は羽丸らしい。羽のついている丸い物体、何ていう安直なネーミングだ。


 数分歩いたら、工房の後ろに、別の小屋に辿り着いた。あの小屋の元の持ち主は知ってる。この間、ほかの人とトラブルが起こって、喧嘩の後で死んだ。


 部屋の中は結構散らかっているが、一部は片付いている。そこに数台のパソコンと、一台の小型金属加工炉がある。加工炉の隣に数本のハンマーがおいてあり、どうやらこちらも何か作っているのようだ。


「キミがカーンビィか」


 うわ! びっくりした。モニタの後ろから、大きい化け物が現れた。


 羽丸はちょっと可愛らしいが、こっちのほうは可愛いのかの字も出てない。二メートルぐらいで、人の型の木のお化けといったところだ。自己紹介はしなかったから名前はわからないが、名前より、あの枝のような手は、どうやってパソコンをいじっているのかのほうが、気になる。木だけに。


「タイムスリップ、ごクローさん」


 え? なぜわかったの? 一瞬混乱したが、すぐあるひらめきをする。


 そうか、やっぱりタイムマシンを盗んだのはこいつらか。しかし、あれをタイムマシンだとわかるってことは、かなり科学技術に詳しいな。まあ、あの設計図を持ってきた輩だ。全く無知のはずがない。やっぱり見かけによらずってやつかな?


 でも、一応とぼけてみるか?


「え? 何のことだ?」

「とぼけても無駄だよ。操作システムはタイムマシンそのものだ。しかし、結局は失敗作、いいえ、ベースとなった理論は不完全だから、タイムスリップではなく、異世界に転移してしまった。つまり、キミはこの世界の人間じゃない。違うかね?」


 ビンゴだ。完敗。でも……


「理論が不完全?」

「認めたみたいだね。そう、これぐらいのエネルギーじゃあ、タイムスリップは無理だよ」


 化け物は一つの箱を取り出した。あれは、俺のタイムマシンの電池だ。


「しかし、転移だけとはいえ、よくあんな量のエネルギーをこんな小さい電池箱に入れたのね。核融合炉以上の出力と見た。でも対消滅エンジンでもなさそうだな……」

「固体プラズマ電池だ。月で採掘できた鉱石が、固体から一瞬でプラズマ体に変換できる。その時に膨大なエネルギーが吸収し、それを利用したものだ」

「鉱石?」


 化け物はちょっと黙り込む。しばらくすると、


「まあ、エネルギーなんてはどうでもいい、今となって、むしろあれは些細な問題だ。で、キミは元の世界に戻りたいのかね?」

「え? 戻れるのか?」


 怪物はちょっと頷いて、


「保証はできないけどね」

「ど、どうすればいいのか?」

「焦るな。まずは君の世界について、いろいろと教えてくれ」


 あれから数時間、化け物はパソコンをいじりながら、俺の世界についていろいろと聞いた。第一第二そして第三次世界の発端、まあ、俺の世界に第三次世界大戦はなかったがな。力学、万有引力の発見者、相対性理論の提唱者、パソコン有名OSの開発会社、主流スマホなどなど。


 舐められたと思うぐらい、小学生でも答える質問もあれば、結構特別で、俺でなければ答えられない内容もある。


 俺の世界では、情報規制が多く、学校で学んだ歴史もほとんどは統制者に都合のいい内容に改竄され、本当の歴史を熟知しているのは、反抗軍のごく一部しかない。


 ガタガタガタガタ、またしばらく、キーボードの音が続く。


「え、なに? 歴史小テスト? これは何か意味があるのか?」


 怪物は一旦手を休め、椅子に背を凭れ、ちょっと溜息し、ぼそぼそと独り言をしゃべり始める。


「無数のパラレルワールドによるマルチバース、あの理論は間違ったのかな。数が全然合わないよ」


 訳の中らないことをのびのびと言い続ける。


「おい、俺にもわかるように説明してくれ」

「ふぇ? あ、あぁあ……めんごめんご、独り言なので気にしない気にしない。ケッホン! おお、カーンビィ君、君に朗報だよ。君の元世界、あとも~う少しで特定できる、かも」


 気のせいか、どすが効く野太い声だが、しゃべり方は急に可愛らしくなった。しかし、それよりも特定?


「うん、なんか、俺の世界だけだ!っていう、もっと特徴的な要素はないのかな?」

「これ知ってどうするんだ?」

「だ・か・ら、君の世界を特定するって言ったでしょ。この本、<マルチバース理論>の内容によると、些細な量子収縮で世界は分岐しない。もっと大きな出来事で世界は分岐する。つまり、違う世界なら、必ず何か大きな特徴がある、かも」


 あ、あの本も俺の部屋から盗んだものだ。それに、かもかもって、本当に信用できるのか?でも、イチかバチかこいつに賭けてみようか。いやしかし、今の俺が、元の世界に戻っても、何ができるというんだ?


 確かに、ここから出せるもいったよな。ここの世界は平和そうだ。ここのゴミを見ればすぐわかる。めちゃくちゃ贅沢な生活ができるかもしれない。いっそのこと、過去や使命など全部捨てて、ここの地球で生活するのも悪くない。


「なに悩んでるの? お家に帰りたくないの?」


 お家?懐かしいな。反抗軍に入って、指名手配犯になって、両親からも腫れ物扱いの俺は、お家なんてとっくにない。あのくそみたいな世界に、未練はあったっけ。


「う~ん、じゃあ、まだ会いたい人いる? 好きな人とか、大事な仲間とか」


 そうか、ロビン、それに、反抗軍の仲間たち、もし俺が、攻める前の月面基地に行けば、みんなに伝えれば、助かるかもしれない。え?ちょっと待って、こいつ、読心術でもできるのか?


「読心術なんてできないよ。悩みは顔に書いてあるから。言いたいことがあるなら、ちゃんと口で言いなさい。あと、歴史を変えたいなんて思わないことだね」


 やっぱり読心術できるじゃねぇか? 


「え? 歴史改変はできないのか?」

「絶対できないと断言しないけど、かなり難しい。昔の自分に宝くじの番号を教えて億万長者になるなんて安易なことはできない。現に、カーンビィ君は未来の自分と合ったことある? ないなら、無理」


 そうなのか。じゃあ、最初から俺の任務は無意味のことなのか?でもそれなら、本当に未練はない。


「元の世界、そんなに嫌なの?」

「いや、今回ばかり、あんたの読心術は間違ったみたいだ。嫌じゃなく、怖いんだよ。仲間もう誰一人残ってないかもしれない世界に戻って、なにもできないまま朽ち果てていくのが、怖いんだ」

「この、意気地なし!!」


 いきなり、怪物の枝のような手が、俺の顔面を打った。


「い、いってぇええ、な、なにを?!」

「あのね。仲間たちの無念、晴らしたくないの? 仲間がいなくなったから、理想や夢をあきらめるの?」


 これを聞いて、俺もカッと来た。


「て、てめぇは何がわかる!? 一般人の俺が、一人で、政府に、軍に抵抗しろっていうんか? 地球を支配した独裁政府だぞ!」


 この二十年間、俺の過去は誰にも言わなかった。そもそも、タイムマシンで異世界から来ちゃったって言っても、信じてもらえるやつはいないだろう。ついに、今日はここで吐き出せるのか。


 そう思っている途端、突然地鳴りが始まり、そして工房の方向から大きな爆発音が聞こえる。


「吐き出せろや!」


 怪物は俺を無視して慌ててパソコンをいじる。たぶんドローンのカメラで現場の状況を確認したいだろう。俺もすぐモニター側に着くが、画面上に、no signalの文字しか映ってない。


 またしばらくすると、数人の工房仲間がやってきた。


「た、大変だ! 工房が襲われた!」

「襲われた? 誰に?」

「まあ、最初の時、工房の手伝いを反対した人たちだろうね」


 よく考えたら、確かに愚問だ。この閉鎖空間では、奴ら以外、誰もいないだろうね。にしても、この怪物、結構冷静だな。


「で? 被害は?」


 怪物は一旦椅子に座り、仲間たちに状況を確認する。


「工房全壊、負傷者多数、ケヴィン、ワタベ、リー、意識不明の重体数名……

 ぜ、全部あんたのせいだ! あんたが頼んだものを奪いに来たから、俺たちはこんな目に……! 」

「ワタシのブツは全部奪われたのか?」

「ええ……もちろんだ」


 何だこいつ?やっぱり俺たちの命よりも、自分の物が大事なのかよ。


「ふ~ん、んじゃ、ちょっと負傷者に見舞いに行こか」

「え? ええ、いや、いい、もうあんたなんかに関わりたくねぇ。こ、ここから出ていけ!」


 ちょっとやばいな。羽丸の強さならこいつらも知っているはずだ。その上、怪物の戦闘力は未知数。ここで揉め事になったら、ただじゃすまない。


「わかった。出ればいいんでしょ?」


 え?


「さ、行こ、カーンビィ君」


 え?なんで俺まで?しかし、元の世界に戻るといい、ここから出て地球に行くといい、こいつが要になる。危険かもしれんが、ラクーンみたいにゴミ食って人生の幕を閉じるのが嫌だからな。


 そう考えて、俺は怪物の後について、あの部屋から出た。


「そういえば、あの黒いの、えっと、羽丸はどうなってるんだ?」

「羽丸ならまだほかの仕事が残ってる」

「あれ? 工房に行くのか?」


 怪物の歩いている方向は工房だ。もしカルロスの言った通り、怪物の頼んだブツは全部ほかの連中に奪われたら、今はお屋形様のところにあるかもしれない。方向は違う。そもそも大勢の人を統率して工房を襲撃できるのは、お屋形様以外に考えにくい。


 日本昔の偉い人間じゃないが、一応このゴミ世界のトップに当たる人間だ。だからみんなお屋形様と呼んでる。人の言いなりになってバイトするのが嫌がってるのも当然だが、出来上がってものを奪いに来るのはなぜだろう。


「さっきも言ったでしょ。負傷者に見舞いって」


 少し歩いたら、工房の近くに到着した。しかし、パッと見ると、特に襲撃を受けた様子はないし、爆発の跡も見当たらない。おかしいなと思ってるそのとこ。コロリとどっから何かが転んできた。


 よく見たら、一枚の手榴弾だ。


次回を待って!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ