第百三十二話 『タイムスリッパー』
一方その頃……
皆さん、よいGWを
「これらアルファ3! こちらアルファ3、敵、D九〇一ポイント突破、アルファ1,アルファ2全滅! 至急増援を! ぐわあぁぁぁぁぁ!!」
「アルファ3! アルファ3、応答願う、応答願う! くそ!!」
いつも冷静だったロビンは、全力で机をたたいた。
「火星別動隊の陽動作戦は失敗したか。やはり、月面で秘密工場を建てるのは最初から無謀だったのかもしれん、何が木を隠すなら森の中だよ全く……いや……」
まだ独り言しゃべってるその時、遠くないところから、爆発音と銃声が聞こえてくる。
「我々にはまだチャンスがある、カーンビィ、第6倉庫に行くぞ!」
(第6倉庫? あっちには確かに)
「まさか? タイムマシンを使うのですか? あれはまだテスト中ですよ」
「だが俺たちにはもう選択肢がない。イチかバチかだ! 行くぞ!」
ロビンはハンドガンをリロードし、俺を無理やり連れて行った。途中で数名のメンバーと合流出来たものの、すぐ俺たちをカバーするため、政府軍にやられた。
第6倉庫に辿り着いたとき、すでにボロボロだ。体も、精神も。
「なあ、ロビン、僕たちのやってきたこと、本当に正しいのですか?」
「今更なんにを言う?! 我々は人類の自由のためにここまで戦ってきたんだぞ! 弱気を吐くな!」
すると、ロビンは俺をタイムマシンのカプセルに押し込んだ。タイヤもガラスもない、車の前半部分みたいなマシンだ。これこそ、俺たち反抗軍が、地球政府に対抗するために、最後の切り札、タイムマシンだ。
「ロビン、い、一緒に乗らないのですか?」
「バカ言え、俺まで乗ったら、だれがシステムを操縦する? それに、追手はすぐ近くだ。俺が時間を稼いてくる。
いいか。俺は時間を西暦2021年1月1日に設定した。二か月後の3月14日、あのビッチは生まれる」
「ま、まさか? 罪のない赤んぼを殺せっていうのですか? これじゃあ、あの独裁者のやったことと同じじゃないですか?」
これを聞いて、ロビンは一瞬止まった。外の政府軍が次々とドアを破った音が、彼を我に返らせた。
「判断はお前に委ねる。いいか、方法はどうあれ、あの独裁者を誕生させないようにするんだ。でなければ、また無数の悲劇が生まれる」
すると、ロビンはパワーボタンを押した。機械の声音が、カウントダウンし始める。ロビンは俺に敬礼して、一丁のマシンガンをもって、外に出た。
飛び降りたければいつでもできる。だが、仲間たちの犠牲は無駄になる。カウントダウンを待ちながら、ロビンの無事を祈っていたが、すぐ外から銃声が伝えてきた。そして、ロビンの断末魔が。
「ロビン!」
と叫んだら、目を開ける。いつもの小屋だ。またあの夢か、もう何年ぶりだろう。最近めちゃくちゃ見たな。時計の時間は、まだ朝6時50分、あと10分でアラームが鳴る。もう寝ても意味ないから、起きるか。
こんなに早く起きるのも、久しぶりだったな。まだ慣れてないのか、体中に痛みを感じる。運動不足の筋肉痛かな? とりあえず、飯にしよう。
冷蔵庫はもう空っぽだ。幸い、俺の小屋は食品廃棄区に近い、ちょっと匂うが、食い物に困ったことはあんまりない。どれどれ? おお、ポテトチップスとクッキーか。俺の好物だ。未開封で、賞味期限もまだまだ先。たぶん、どっかの金持ちがパーティーのため、買いすぎたのに違いない。
小屋に戻って、コーヒーを淹れて朝ご飯を食べる。食べながら本棚をもう一回見る。ほぼ空っぽになったしまった。まさか、こんなごみ置き場の小屋に空き巣が入ってくるとはな。そういえば、空き巣が起きた数日後、あの化け物が現れたな。何か、繋がってるのか。
遠くないところに紙製品の廃棄区がある。主に伝票や雑誌がメインだったが、たまに面白い本が拾える。スペース科学、量子力学、空間仮説、タイムスリップ論など、結構いいものがあった。どうやら、こちら世界の物理法則は俺の世界とほぼ一緒だが、こちらは空間跳躍、ワープ技術に長けているらしい。結構いい勉強になったが、結局、いずれもタイムマシンの修復に役立たず。
タイムマシン?
コーヒーコップを片手に、俺はすぐ小部屋後ろの隠しルームに走った。
ない! まさか? 盗まれたのは、本や食品だけでなく、タイムマシンまで盗まれたのか? 空き巣野郎は一体何を考えたんだ? まあ、修復できないタイムマシンなんて、ただの記念品しかないがな。
ブルルルルルルルルル
あ、アラームが鳴った。朝ご飯も済んだし、そろそろ工房に行くか、と思いながら、俺は残りのコーヒーを飲み干して、小屋から出て、自転車を乗る。
こんなゴミだらけの世界にきて二十年。俺はもう四十のおっさんか。到着の時は、まだぴちぴちの二十歳のナイスガイだったのに。まさか、違う地球の違う時間の違う場所に到着したとはね。
やっぱり、タイムマシンのテストが足りないのか。でも、今思えば、ホッとする。恐怖の独裁者とはいえ、生まれたばかりの赤ちゃんに手を掛けるなんて、俺にはできない。
ここには、俺以外にも数十人いる。迷い込んだ人、放り込んだ人、何かから逃げてきた人。でも全員はこの世界の人だ。色んな情報を聞いてきた。どうやらこのゴミ捨て場は一方通行らしい。そして、俺のタイムマシンの修理に手伝える人はいない。
いろいろな方法を探ったが、自力で修復できないと悟った俺は、絶望に陥た。自殺する勇気もないから、ここで、ゾンビみたいな生活を送って、朽ち果てていくのだろうと、ずっと思っていた。
幸い、どうやらこちらの人類はかなり贅沢な生活を送っているらしくて、このゴミ捨て場の物質で生き延びるだけなら、余裕でした。
でもまさか、また普通に働く日が来るとはな。数週間前、突然現れた化け物が、工房を作って、俺たちをそこで働かされたんだ。どんなものを作っているのかはわからないが、パーツから見ると、何かの小型の飛行機みたいなものだと思う。ちょっと大きなラジコンかな?
普段は黒い小さな化け物が俺たちを監視して、ボスの大きな奴はどっかで油を売っているみたいから、滅多に会えない。
あの化け物に脅かされたといったが、自由は奪われてないし、ただ働きでもない。作りたいものができた次第、ここから脱出方法を教えてくれると約束した。
他の人たちは結構やる気出たみたい。まあ、逃げてきた人たちも、借金取りだろうと殺し屋だろうとうるさい女房だろうと、あんなに時間経ったら、すでに死亡扱いされ諦めただろう。
反対者もそれなりにいるが、それでも二十人ぐらいの工房はできた。どうやらこの人数で満足のようで、怪物二名はこれ以上文句ないみたい。
俺も、どうせこの世界で死ぬんだったら、せめて一度、この世界の地球を見てみたい。
そう、今頭を上げるだけで、いやでも目に入ってくる、巨大な地球を、一度行ってみたい。
違う地球、閉ざされた空間、現れた怪物の正体は一体?
次回を待て!
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