第百三十一話 『最後の英雄』
頑張って書いた一話なので、ぜひぜひ、ご感想をお願いします!!
ソニアチームは大きな誤算をした。諸葛夢も同じかもしれない。
徳川聡佑のもとで、ちょっとした特訓した。彼は今、瞬発力の要領で、少ないマナで重い一撃を繰りすことができる。
双白龍の行動パターンをよく知っている彼なら、隙をついて接近、一撃で二人を仕留めることは可能だ。
しかし、諸葛夢はある行動をした。現場に行く前、彼は一匹の天刺鳥を狩った。天刺鳥の発声器官と宝玉を剥ぎ取って、彼はある打算をした。
この前、彼は天刺鳥の精神攻撃を受けてしまった。悪夢の中に、彼の記憶は蘇る。忘れたい過去と、再会したい人。だから、これを利用すれば、もしかして、あの二人を救えるかもしれない。
最初は順調だった、徳川聡佑の読み通り、いまの諸葛夢でも双白龍の行動を見切れる。しかし、諸葛夢はどうしても二人にとどめを刺さなかった。チャンスを窺って、彼は天刺鳥の発声器官を使用した。
だが、これこそ彼の誤算だ。
悪夢の世界に潜り、彼は確かに新島ゆう子を見つけた。しかし、見つけた彼女はどうもおかしい。姿は見えるが、声をかけても反応はないし、触ろうとしても透けて通ってしまう。それに、ひと昔、覗き防止フィルターを張ったスマホーみたいに、ちょっと角度を変わったら、見えなくなる。
途方に暮れる諸葛夢だが、すぐ周りの異変に感ずる。巨大な、グロい触手が、次々と襲い掛かる。生物的な外見だが、あっちこっち機械が仕込まれている。現実世界なら、これぐらいの攻撃スピード、パワーなど、諸葛夢にとって造作もない。
(体が、重い?)
避けようとするが、体は思い通りに動けない。すぐ重い二発を喰らって、吹き飛ばされる。痛みを感じれば夢じゃないとよく言われるが、どうやら天刺鳥の精神世界では通用しないようだ。
この激痛、久しぶりだ。小娘を庇った時、あの化け物の一撃よりまし、か。と思っている諸葛夢だが、また何か違和感を感じる。隣の光から、新島ゆう子が一瞬見える。さっきまではずっと光点だった。
(まさか?)
やはり角度によって見えたり見えなかったりする。しかもその角度は、前のと違う。
(これって、もしかしてゆう子さんの精神の破片? じゃあ、一つにまとめれば……)
しかし、触れないのであれば、どうしようもない。また数本の触手が襲い掛かってきて、諸葛夢を地面に叩きつぶす。
血を吐いてやっと立ち上がるが、ちょっとした発見がある。新島ゆう子の破片が少し動いた。いや、動かせた。諸葛夢は触れないが、どうやら触手なら接触できる。触手だけに
これを見て、諸葛夢は閃いた。触手をうまく誘導できれば、新島ゆう子の精神を復元できるかもしれないと。
(とんでもないクソゲーになりそうだが、付き合うよ)
口に残った血をペッと吐き、諸葛夢は動き始める。身体能力やっぱり低いままだが、希望が見えたのか、切れが良くなる。
今確認できるのは全部12個。5個……6個。諸葛夢は数えながら、あっちこっち動き回る。
彼の読み通り、もしこれはゲームだったら、とてつもないストレスフルのゲームだ。触手の誘導は難しいうえ、例え破片にうまく当たっても、近寄せることもあれば、遠ざけることもある。全部一か所にまとめるのは至難の業。
ゲームなら、とっくにコントローラーを捨てたところだ。
しかし、諸葛夢全く諦める気はない。何度も吹き飛ばされても、何度も叩き落されても、立ち上がり、破片を寄せ集める。
9個……10個……11,あと最後の一個だ!!そう思ってると、また少し力が出た。最後の光点を見つけ、諸葛夢はあそこに向かう。
しかし変だ。触手は急に鎮まる。あきらめたのか、それとも? そう考える途端、何かの気配を感じる。新島ゆう子の破片や触手と違って、まるでそこに実在するのように、気配を感じる。
「ただの電源ケーブルを噛んだネズミと思ったら、魔獣の能力まで利用する虫けらか。でも、考えたねぇ。一応、褒めておこうか」
白と黒の男二人がいる。白はロバート・ウィリアムズだ。黒い男なら、前の作戦会議で少し聞いた。確かにマイケルっていう名の人だ。作戦会議の時、科学者って言ったが、ただの科学者が天刺鳥の精神世界に入り込めるはずがない。と、諸葛夢は思う。
「私も、二人の精神を復元するのに苦労したからね。やっぱり、この程度の復元じゃあ、まだフルパワーを出せないのか。いい実戦データを手に入った。キミには感謝するよ。
ところで、私に一つの疑問がある。伝説の猟魔人二人、なぜ精神崩壊になったのかな。私には何も知らないし、覚えてないよ。キミなら、知ってそうだ。教えてもらえるかい?」
諸葛夢は眉をひそめ、
「知らねえよ」
「そっか。ならキミはもう用済みだ。死んでもらうよ。この精神世界で死んだら、外の体は抜け殻になる。でも心配するな。キミの体はいらないよ。使い物にならないからねぇ」
マイケルは合図を出す。するとロバートは諸葛夢に攻撃し始める。新島ゆう子の空間魔法のサポートがなければ、ロバートはただものすごく強いボクサーに過ぎないが、諸葛夢はこれ以上に弱体化された。
いくらロバートの攻撃パターン知っているとはいえ、今のボロボロの体じゃあ、避けれるはずがない。防御に徹しても、人間の急所は複数あるから、どうしても防ぎきれない。例え防いでも、ロバートの攻撃力の前では意味がない。衝撃は諸葛夢の腕から、顔面、あばら骨、腎臓、肝臓、次々へと伝えていく。
この猛攻の前で、先の触手たちは可愛く見える。
満身創痍の諸葛夢だが、両手を上げることすらできなくなってしまった。そしてロバートからとどめの一撃が、彼の心臓に向かって突き放す。
ボン!! 大きい音とともに衝撃波は諸葛夢の体を通して、背中から突き抜ける。
「ゲームオーバーか。よくやった君たち。帰ったら再調整だ。精神復元によって、またポテンシャルを引き出せるのか。
そして、そこ若いの。下級猟魔人にしてよく頑張ったよ。体はいらないから、ちゃんと埋葬してやる。墓には……そうね、「実力を弁えろ」って掘ってやるよ」
「弁えるのは、貴様のほうだ!!!」
「なっ?!!!」
マイケルはまだ戸惑っているその時、諸葛夢は突然彼の前に現れ、重い一撃で彼の体を撃ち貫く。
「な、なぜだ?!!」
よく見ると、さっき諸葛夢のいたところの後ろから、光が広がっている。
「そ、そうか、貴様、やられるふりして、女猟魔人の精神破片を?!」
そう、マイケルの言った通り、諸葛夢はある賭けをした。同じく精神破壊されたロバートなら、触手同様、新島ゆう子の破片を動かせるかもしれない、という賭けだ。
防御しながら、殴られながら、諸葛夢はロバートを誘導した。彼の攻撃力なら、直接接触しなくても、拳圧で新島ゆう子の破片を動かせる。そして、とうとう、12個の光が、一つにまとめた。
元に戻った新島ゆう子は、諸葛夢に回復魔法をかけ、そして得意の空間魔法で、その場の四人を現実世界と精神世界の狭間に転送したのだ。これで、諸葛夢の実力は大幅回復した。
倒れたマイケルをちょっと見て、諸葛夢はすぐ振り返ってロバートを確認する。しかし、ロバートに変化はない、また諸葛夢に向かって歩き出し、そして襲い掛かってくる。
さらに、新島ゆう子から放った光は段々弱くっなって、周りの、ぼんやりの現実世界の風景も、また暗闇に呑み込まれていく。むろん、諸葛夢の体もどんどん重くなる。このままじゃあ、また精神世界に戻されてしまう。
ロバートの攻撃を捌きながら、諸葛夢の頭に直接、どことなく声が聞こえる。
「お願い、あの人を、あたしたちを解放して、夢君!」
懐かしい声だ。十年ぶりだが、諸葛夢は一瞬で分かる。新島ゆう子の声だ。
しかし、今日の努力は徒労に終わるのか。やっぱりあの二人は殺すしかないのか。悔しくあまりに、諸葛夢は絶叫した。
そして、諸葛夢とロバート・ウィリアムズは殴りあい始める。五分五分っというとこだ。いくら実力が大分回復したとはいえ、ロバートはつよい。しかし、例え相討ちになろうと、諸葛夢は新島ゆう子最後の願いをかなえてやりたい。
これ以上殴り合っても埒が明かないと、両方とも気づいた。一旦攻撃を止め、距離を空ける。二人は力を溜め始める。
徳川聡佑直伝、マナの一点突破、少ない水でも、十分の水圧があれば、殺傷力は依然に強い。諸葛夢は最後のマナを集め、拳の一点に集中する。そして向こうのロバートも、左腕から螺旋の気流が発生する。
「リングの上で、そのスパイラルストレートに倒されたボクサーは数えきれないらしいな」
ロバート・ウィリアムズ、単体で繰り出せる最大の技。それを知っていても、諸葛夢は真っ向勝負に挑む。
一瞬、二人は猛スピードで相手に向かう。その瞬間、諸葛夢は悟った。相手のパワーは自分より何倍も上だということ。しかし、それでも引かない、引きたくない、あの二人を楽にするまでは。
ボン、ボン!!二回の爆音の中に、やっぱり相討ちになった。しかし、諸葛夢は違和感を感じる。ロバートの一撃は思ったより軽い、だから生き延びれた。そして自分の一撃は、異常なほど、手ごたえを感じた。
前を見ると、新島ゆう子は、ロバートを抱きしめ、二人一緒に倒れていく。
(そうか、ゆう子さんがロバートさんの邪魔をしたんだ。だから俺は……)
三人とも倒れた瞬間、新島ゆう子から、また光が放つ。眩しくて、温かくて、そして優しくて……
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再び目を開けると、諸葛夢は青空の下で、緑の草原に座っている。新島ゆう子の隣に。
「ずいぶん大きくなったのね。夢君」
「う、うん、十年経ったもんな」
「なに、その髪の色は、おしゃれ?」
「い、いや、いろいろあってな」
優しくて、新島ゆう子は諸葛夢の頭を撫でる。まるで母親とその子のように。
「あ、そうだ! パルタ星人は?!まだ地球を侵略している?」
「あれならとっくに滅んだ。みんな……いや、俺の手によって」
「そう……やっぱり夢君は偉い。覚醒の途端、上級魔竜に重傷を負わせたもんね。夢君のあの一撃がなければ、あとに駆けつけてきたあたしたちもきっと苦戦したんでしょうね。将来、世界をも救う、立派な英雄になれるんだなって、あの時、あたしは思ったの。でも……」
新島ゆう子はちょっと空を見て、
「ねぇ、彼女、できた?」
「な、なによ急に」
諸葛夢はちょっと赤面して、そしてすぐ落ち込む
「いた。でももう死んだ」
「そう」
新島ゆう子は諸葛夢の頭を胸に抱き、
「辛かったのね。本当は、夢君を巻き込まれたくなかった。子供なら、子供らしく、いっぱい遊んで、勉強して成長すべきよね。本当は、もっと一緒に居たかった。夢君を甘えたり、叱ったり、本当の母さんみたいに」
ポタポタと、新島ゆう子の涙は零れ、諸葛夢の服や、地面に落ちる。
「ごめんね。あたし達大人は不甲斐ないから、すべては夢君に背負わせたのね。だから、もう休んで、普通の若者みたいに、青春を謳歌してよ。世界を救ったでしょう」
諸葛夢は頭を振って、立ち上がる。
「ううん、まだ終わってないよ。異星人も、魔族もまだまだ残っているし、そしてその後ろ、何か大きな力が動いてる気がする。それに、俺は決心したんだ」
あの時の少年は、すでにそんなに大きくなったな、っと思いながら、新島ゆう子も立ち上がり、ズボンの埃を叩いて、
「はいはい、その決心、あえて聞かないわ。バカな決心じゃなければよいのだが」
「バカな決心だったらあの世で謝るよ」
くすっと、新島ゆう子は笑って、そして周囲を見まわる。
「あ~あ、夢君の救った世界をもっと見てみたかったな。でも、もうあたし、時間がないみたい。迎えが来た」
迎え? そう疑問していると、後ろから大きな男が、腕で諸葛夢の首を絞める。
「こいつ! やったな! さっきの一撃、効いたぜぇ、さっすが俺たちの教え子だ!!」
ロバート・ウィリアムズだ。どうやら、彼も我に返った。ちょっと諸葛夢とじゃれ合ったら、ロバートはゆう子の手を繋ぎ、
「というわけだ。そろそろ、お前も現実世界に戻るんだ。世界を救う、英雄だろう?」
「できれば、その英雄は最後にしてほしいな。英雄のいらない世界がいい」
「お、いいこと言ってるねぇ、こりゃ一本取られたわぃ。じゃな、サイゴヒーロー。あの世で、応援するからな」
すると、新島ゆう子は手を上げ、諸葛夢は光に包まれていく。
「さよなら、ロバートさん、ゆう子さん」
「あ! またゆう子って呼ぶの? あたし、悲しくなっちゃうよ!」
「あ……」
諸葛夢はまた赤面して、指で頬っぺたを掻きながら、
「さよなら、父さん、母さん」
諸葛夢が消えることを見て、ロバートはまた呟く。
「あいつ、見ないうち、あんなに立派になりやがって、最後の英雄か。でも、英雄になるには、支え合う伴侶が必要なんだよな」
ギュッと、ロバートは隣のゆう子を抱く。
「わからないわよ。わが子だもん、すぐまた現れるよ、きっと。意外と身近にいるかもしれない。ほら、彼の迎えも来た」
新島ゆう子は空に指を差す。澄み切った青い空に、流れ星のように、一筋の歪みが発生する。
やっと決着をつけた諸葛夢だが、果たしてアンジェリナはどうなったのか。
次回を待て!!
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