第百三十話 『親子の再会』
やべぇことになっちまった。今回の任務は失敗に終わるのだろうな。
たかが一般人の小娘一人だけのため、危うくチームが全滅どころだったぜ。
ボロボロのランケンは目の前の障壁を観ながら、考えている。
パッと見るとたくさんのマットレスで組み立てたドームのような、ちょっとふざけた外見だが、あれは元々、対爆弾テロ用のもので、改良に重ね、災前は一種の対魔族魔獣用の装備として使われるものだ。
衝撃吸収、防音効果抜群なので、魔族や魔獣を中に閉じ込み、そして銃火器で仕留める。一時的、魔族魔獣討伐のテンプレ手法にもなった。これで被害も最小限に抑えるし、民間人に知られることもほぼなくなる。
しかし、今日、この中に閉じこまれたのは、魔族や魔獣でもなければ、アサルトライフルを持つ兵士でもない。猟魔人だ。かつては伝説だったが、今はただの操り人形の男女二人と、命知らずの若造一人。
ドームは完全に密閉なものではなく、少し隙間がある。ランケンは傷だらけの体を運び、ちょっと覗いてみたかった。若造の惨状を。
(ば、バカな! 互角だと?)
=======================
ソニアは誤算をしてしまった。防御に徹すれば、15分ぐらいは持つという大きな誤算。マナロボットは思った以上働いてくれた。精妙な動きで20分以上伝説の猟魔人を欺いた。見破られ、破壊されたのは、作戦開始25分の頃だった。これで、5分でもがんばれば、予定通り撤収できる。
数日前、千刃丸と戦ったときに披露したのはソニアチーム攻めの型なら、今回披露したのは、守りの型だ。ランケンのサポートを受け、ヒューイの盾は大型化だけでなく、十数枚に分身した。分身した盾は実体もってないマナで作られたものだが、防御力は本体と同等だ。
ソニアの剣も二振りになり、陳宝云のダブルミニチェンソーンと一緒に、攻めてくる伝説の猟魔人の攻撃を捌く。
だが、甘い。伝説の猟魔人二人の攻撃は、まるで命のある獰猛な龍のごとく、あらゆる隙間から入ってくる。そしてどう足掻いても、捌き切れない。
どうやらこの間の戦いで手加減したのようだ。千刃丸戦の消耗もなく、防御に徹底したのに、三分未満で全員倒された。
おまけに、法宝現身で強化したソニアの剣、陳宝云のチェンソーン、ヒューイの盾、そしてランケンの鎧も、全部粉々になってしまった。
ソニアチームは決して弱くない。メンバーひとりの戦闘力も、災前の最新鋭戦闘機やガンシップ一台に匹敵する。が、相手は、空母だ。しかも数隻の。これも、現代兵器が主な対魔手段となった災前で、あの二人はまだ第一線で活躍できる所為だった。
近くて待機している戦士たち命がけの救出がなければ、とっくに死んだかもしれない。が、男女二人は、そのまま見逃す気はないらしく、追撃してきた。一般人の4人と重傷猟魔人4人、逃げ切れるはずがない。
誰もがすべてが終わったと思ったその時、二人の動きが止まった。そして、もう一人がやってきた。
諸葛夢だ。
「お前たちは早くここから離れろ。あと、対ショッククッションも頼む」
「しょ、諸葛君、む、無理よ、あなたの対抗できる相手じゃないわ。早く逃げて!」
顔はすでに血まみれのソニアが、最後の力を振絞って諸葛夢を止めようとする。
「俺を心配する余裕があったら、まずは自分の部下を心配するんだな」
「なっ、て、てめぇえ!」
幸い、ランケンは今、喧嘩できるような状態じゃなかった。でなければ、ソニアは彼を止める力を持っていない。しかし、ソニアは喧嘩腰のランケンより、諸葛夢のことを気になっている。
(なに? この威圧感? この子の目つき、あれは若手猟魔人の物などではなく、歴戦の戦士のもの。彼は一体?)
「あ、あの、よかったら、これを使ってください。」
メガネの戦士が、諸葛夢に向かって、一つの小瓶を取り出す。
「まだテスト中ですが、魔獣から精錬した薬です。覚醒者の能力を一時的にパワーアップさせることができるはずです」
あれは、作戦開始前、ランケンにも勧めた薬だった。副作用もわからない得体の知らないものなど、ランケンは断った。諸葛夢は小瓶を手に、ちょっと考えたら、
「もらおう。かたじけない」
諸葛夢が小瓶を一つの袋に入れたことを見て、戦士たちは、数個のアタッシュケースを取り出し、ケースを開けると、すぐクッションらしきものが膨らみ始める。
しばらくしたら、一つ大きなドームが完成した。それまで、中にいる三人は、びくとも動かなかった。
「お久しぶり、二人とも。もう、10年もたったんだね。俺のこと、わかるか」
返事なし。一応予想内だが、やっぱりがっかりする諸葛夢。すると、彼は身を構える。
「一度手合わせをしたかったが、こんな形になるとはな。ハンデ付も悪くない……いくぞ」
向こうの二人も、諸葛夢に答えるのように、すぐ攻撃し始める。無数の白線、まるで空中に舞う蛇のごとく、次々と諸葛夢に襲い掛かる。
これこそ、双白龍という異名を持つ、伝説の猟魔人ロバート・ウィリアムズと新島ゆう子の必殺技、白龍双閃だ。
防御に徹する強力な猟魔人チームをたったの三分で撃沈した技、これに倒された魔族や魔獣は数えきれない。しかし、なぜか、諸葛夢に効果がない。
諸葛夢は、時に左右のステップ、時に宙返りして、ほとんどの攻撃をかわした。数発は命中されたが、まるですでに知ってるのように、命中の瞬間、ピンポイントで防御強化し、かすり傷で済んだ。
そう、諸葛夢は知っていた。短い間だったが、双白龍と一緒に生活し、彼たちの朝練などを盗み見したんだ。だから、彼らの行動パターンを把握していた。
「パターン、ですか?」
「そう、おぬしなら、ユウコたちの行動パターンを知ってるはずじゃ」
一緒にいた日々が、走馬燈のように記憶が蘇る。
「しかし、あれはいくらでも……あっ」
諸葛夢はちょっち考えて、何かを閃く。彼を見て、徳川聡佑は頷く。
「そうじゃ、もしおぬしの言った通り、彼女たちはすでに本能で行動している操り人形であれば、臨機応変にパターンを変更することはできないはずじゃ。すべては、マッスルメモリーのはずじゃがな」
先生との会話を、脳内で再生しながら、諸葛夢はすでに二人の攻撃を潜り抜け、懐に入った。着地の瞬間、諸葛夢は両手に力を溜め、二人に向かって、掌底を撃つ。直撃はできなかったが、衝撃波で双白龍を吹き飛ぶ。
この一撃で伝説の猟魔人を倒せるはずもなく、双白龍はすぐ距離を空け、再度諸葛夢に攻撃し始めた。
(頼む、何か変化を見せてくれ)
心の中で密かに期待しているが、二人の攻撃はそれを見事に裏切る。
(だめだ。これもよく見かけたパターンだ。左手でジャブ六回、ゆう子さんの空間魔法の補助で右手フックを8字を描いて三回、そしてとどめに両手のストレート連発、空中に向かったパンチはゆう子さん担当。彼女はプロのボクサーじゃないから、数発は置いているだけ、だから隙間は確か、あそこだ!)
また、すべて諸葛夢の読み通り、ほとんどの攻撃をかわし、命中された数発も防御した。再び、二人の懐に入る。
殺すか? パンチ担当のロバートを先にやるのか、それとも空間魔法でパンチを伸ばすゆう子を先なのか。
いや、まだ、まだあきらめたくない。まだ一つ、試したいことがある。
諸葛夢は再度掌底波で二人を吹き飛び、そしてすぐさま、腰にかけている袋から、内臓らしき、結構グロいものを取り出す。
使う前に、何か思い出したのように、メガネ戦士からもらった小瓶を開け、内臓らしきものに振りかける。そして精神集中し、今扱えるわずかなマナを注ぐ。
すると、内臓らしきものが膨らみ、そして振動し始める。これを見ると、諸葛夢はすぐ力を入れ、それを地面に投げた。
ぐちゃっ、妙に気持ち悪い音、次の瞬間、鋭い音波と閃光が発生する。眩しい光が、ドームの中の三人を飲み込む。
目を遮っている手を下ろし、諸葛夢は周りを確認する。いまは見知らぬ空間にいる。数日前見た悪夢と極めて似ているが、意識ははっきりしている。あちこちに微かに光っている。
歩ける
適当にぶらついたら、前に大きな光がある。光の中に、人がいる。
会いたい人なら山ほどいるが、今の状況だと、考えるのは……
諸葛夢は深呼吸し、人影に向かって歩む。
一人の女性、間違いなく、新島ゆう子だ。
諸葛夢は双白龍を救いたいが、果たして?
次回を待て!




