第百二十八話 『アンジェリナ救出大作戦』
頑張って更新するぞ!!
(見つかったか?)
(いやいや、30秒前聞いたばっかりじゃん。まだだよ)
(はやく嬢様見つけてづら被ろうぜ)
(ずらかろうだよ! ずら!)
新元04年11月2日、零時過ぎたところ、カイ、林宇、ソニアチーム、若い戦士四人、ついにアンジェリナ救出作戦を実行する。
メンバー構成は簡単だ。ソニアチームは伝説の猟魔人対策、カイと林宇はアンジェリナ救出、戦士四人組は遠距離支援。その構成だと、チームワークは一番安定する。
軍人の四人は無線で設備を操縦したり、全員状況連絡などする。遠距離と言っても、今の電波信号は、携帯式の設備なら、精々百五十メートルぐらいしか届かない。
マナロボットは長時間で伝説の猟魔人二人を足止めることは難しい、だから、結局ソニアチームは再度対峙することになる。もちろん、真向勝負ではなく、なるべくカイと林宇のために時間稼げばいい。
深夜0時30分、作戦開始。場所はある人気のない、郊外廃工場付近の住宅地。昔は工場で働く人たちの寮として使われたが、いまはターゲットの四人以外は誰もいない。これも好機、戦闘になっても、民間人を巻き込まずに済む。
さらに、ターゲットの一人、マイケルは陳宝云の読み通り、こっそり行動しはじめた。しかし、すぐ発電機が壊れたと気付き、外へ部品を調達に出かけた。このご時世だ。まだオープンしている電気屋があるはずがない。彼はたぶん工場当たりで代用品を探すことになるだろう。
今はまさしく好機。マナロボットを起動し、内部貯蔵している魔獣の結晶がピカピカと、光り始める。すると、マイケルの寝室の外で待機している伝説の猟魔人二人は、突然電源入れたロボットのように、目を開け、周りを探り始める。
順調だ。その場から逃げるだけならマナロボット自体のAIで可能だ。外の操縦者は指令を発信するだけでいい。こっそり、ゆっくりと、マナロボットは工場の逆方向に向かって、走り出す。むろん、伝説の猟魔人二人も、そのあとを追う。
今までの内容は全部計画通りだ。あとはカイと林宇がクロの寝室に侵入し、アンジェリナの宝石を盗みだけで成功する。伝説の猟魔人とは結局戦うことになると予想し、マナロボットと合わせて、稼ぐ時間は三十分と見込む。よほどのことがなければ、三十分ジャストで、カイと林宇は撤退する。見つからなかったり、盗み失敗したら、諦めて次のチャンスを待つしかない。
もちろん、カイはそう思っていなかった。どんなことがあってもアンジェリナを救出する。彼はそう決めた。
だから、結構焦って、頻繁に林宇を催促する。
(なぁ、カイ、来る前の約束、覚えてんだろうな)
(約束? なんでしたっけ?)
(オマエな!!!!)
全力で自分の声を殺し、林宇はカイの持っている袋に指を差す。
(うぇ? ああ、ポウウンさんの道具を嬢様に使わないってことね)
カイのベルトに一つの袋を縛り付けている。中には、陳宝云が渡した道具数個、入っている。陳宝云も、クロと同じく、闇土属性が得意で、前は確かに不意打ちを喰らったが、本当なら、クロの技に対処できる。
カイに渡した道具の中に、アンジェリナを元に戻す魔法のクスリもある。薬液をぶっかけるだけで、元の姿に戻れる。
なぜこれが渡されたのか。でかい宝石なら持ち帰ればいい。万が一戦闘になったら、男の林宇だってパワードスーツでフルアーマーな状態で来ている。生身の女の子を晒すのがむしろ危険だ。では……
林宇は深く考えたくない。どの道その場で使われることはないが、念のため、再三カイに注意する。
(んがぁあ、もう、わかったよ、うっせいな)
カイは再度袋の中身を確認する。魔法のクスリを入れた小瓶以外に、玉も数個ある。あれは対クロ用の道具だ。
「にしても、なんで? ポウウンさん嫌いか? アハハ」
「バカ! 大声出すんじゃねぇよ!」
「「あ」」
不意で声を出してしまったカイ。そしてさらに大声で怒鳴る林宇。次の瞬間、隅っこのベッドで寝ているクロが起きてしまう。
「どいつだ? 人が気持ちよく寝てるのに! ああああ! お前たち!!」
クロはタンクトップとトランクス姿でベッドから起きる。前に会ったとき、ごっついケープを被っているからわからないが、本人は結構痩せている。皮を被っているスケルトンと言っても過言ではない。
クロは二人を見て、すぐ枕の下を確認する。幸い、でかい宝石はまだ無事。カイと林宇が見たら、同時に指パッチンする。確かに、あっちのほうが一番可能性が高いところだった。
「ま、まあ、ここで会ったらよかったね!」
「百年目だよ。何喜んでんだよ」
「嬢様を渡してもらおうか。あと、嬢様や、ソニアさんたちにひどい目を会わせやがって、そのケツ、払ってもらおう!」
「ツケや! ケツじゃねぇよ!」
クロは二人の中学生レベル漫才に付き合う気がなく、すぐ魔法を詠唱し始めた。
「できならやってみよう! ファイヤーボール!」
数個火の玉が、クロの手から飛び出し、奇妙な軌道を描きながら、二人を襲う。しかし、魔術師入門レベルの魔法だ。カイとパワードスーツ着用の林宇に効くはずもなく。カイは暗雷剣で火の玉を切り落とし、林宇は直撃受けたが、びくともしない。
もちろん、クロの狙いは二人を倒すのではなく、すぐさまベッドからケープを取り出し、着用した。下着姿で戦いたくないのか。しかし、タンクトップにトランクス、その上ケープを被る姿は、さらに滑稽になり、カイと林宇は思わず笑ってしまう。
「笑えるのも今のうちですよ! アイストルネード!!」
今回は氷の魔法だ。確かにファイヤーボールより数段強いが、それでも二人はちょっと身動きが取れなくなるだけで、ダメージはほとんど受けなかった。
これも、クロの計算の内。彼はすぐ次の魔法を用意し始め、両手の内から、怪しい光が放つ。これこそ、クロ、そしてカイと林宇が狙っているものだ。
「アース・メイズ・ディメンション!!」
次の瞬間、無数の線で組み立てたキューブが、カイと林宇に飛ぶ。これを見て、カイはすぐ袋から、数個の玉を取り出し、キューブに向かって、投げた。
玉がキューブの中に入り、粉々になって、キューブも一緒に消えた。そしてキューブが消えた瞬間、クロもダメージを受けたように、数歩よろめいて口から血が出る。
「ば、バカな!! 定空珠? いや、手作りの模倣品、しかも魔法カウンター付ですか?」
そう、これは陳宝云が用意した、対クロ用の道具だ。アース・メイズ・ディメンションの空間転送効果を打ち消し、そして魔法を放つ張本人にダメージを与える。用途はかなり限定的だが、対クロならもってこいの代物だ。
「お、おのれぇ、ならば、どれぐらい持ってるのです? 試してみましょう!」
あの特製の玉は多数用意していないと読んでいる。クロは再度魔法を使おうとするその時、カイは林宇に合図を送る。
「今だ! 林宇!」
「ああ! させるかってんの!!」
林宇は、パワードスーツの両腕から、数個のグレネードを発射する。災後、グレネードなどの爆発も、威力が激減し、大した役に立てない。だから、林宇が発射したのは、閃光手榴弾だ。
カイはすぐ目をさえぎ、林宇もヘルメットのゴーグル部分に遮光フィルタをオンにした。
大きい音とともに、激しい閃光。
クロはもちろん反応できず、もろに食らった。その脳天直撃の痛みに耐えず、左手で目を抑えて、苦悶する。
「や、やりますね。わ、私はクレッツァフ、小僧どもよ、名乗りなさい!」
名乗ろうとするカイの口を押え、林宇はクロ、もといクレッツァフの手元を指す。彼はこっそり、右手で紫金紅葫蘆を持っている。
今までの作戦はうまくいった。林宇はすぐ発信機で外の戦士たちに信号を出す。外では、一名の戦士が、先からずっとクレッツァフの声音を録音しながら、声紋を分析している。林宇の信号を受け取ったら、すぐ解析ファイルを転送した。
ピッピッピ
受信完了の音だ。林宇はちょっとニヤリして、ヘルメットのマイクに口を開け、
「俺の名は林宇だ。覚えときな!」
あれ? クレッツァフは一瞬違和感を覚える。あの小僧の声はどこかで聞いたことがある。あれは、もしかして、自分の声?
まだ状況を把握してないその時、紫金紅葫蘆から金色の光を放ち、クレッツァフを中に吸収した。林宇はすぐ紅葫蘆の口を閉め、これで、作戦は成功した。
色んな魔法を扱えるクレッツァフに真向勝負するなら、長期戦は免れない。それに、最悪の場合、相手はアンジェリナを人質、もとい石質として使う可能性もある。短期決戦する必要はある。
作戦として、陳宝云からいろんな道具や、戦士から閃光手榴弾を借りて、まず彼の魔法攻撃を封じる。特にアース・メイズ・ディメンションは目視で相手を捕捉する必要があるから、閃光手榴弾の効果は抜群だ。
これで、クレッツァフは高い確率で紫金紅葫蘆を使う。もし紫金紅葫蘆は声の持ち主を吸収する特性があるなら、まずクレッツァフの声を分析し、そして変声機を使えば、間違って彼を吸収する。という、結構大胆かつ危険の作戦だが、どうやらうまくいったようだ。
カイは慌ててアンジェリナの宝石をとり、これで戦士たちを介して、ソニアたちに撤収合図を送れば、救出作戦は終了だ。
林宇がまだ通信機をいじっているその時、突然部屋の空間から、割れたガラスのような裂け目が現れ、そして中から満身創痍のクレッツァフが出てきた。
果たして、アンジェリナを無事救出できるのか?
次回を待て!




