第百二十七話 『頼りになる増援』
エタだけは絶対しないからね!!
新元4年11月1日、かつて許昌と呼ばれた場所。第三次世界大戦の時期ですぐ近くで核爆を受け、一時的に無人の町になったが、今は旅行者や探検者がよく経由するためか、数百人規模の小さな村として再建された。
昔の建築物の多くはまだ使用できるので、住み心地は災後にしては、決して悪くない。
そんな村の一角に、小さな廃棄されたホテルがある。無料で、ルームサービスがないが、休憩するぐらいなら問題ない。
カイは、まるで熱い鍋の上の蟻のように、部屋内で往復歩いて、全く落ち着かない。彼は陳宝云を待っている。
この村はイオガンルブン教本拠地ではない。アンジェリナを大教主に献上すると聞いたが、なぜか、四人組はここに来た。もし、休憩するだけならむしろ奪還のチャンスだが、彼女に被害を加えない保証はどこにもない。
万が一のため、体型の小さい陳宝云は、まず四人組の動向を監視に出た。
コンコン
「入るわよ」
陳宝云はまだ戻ってきてないが、ソニアたちは先に合流してきた。やってきたのは、ソニア、ランケン、林宇の三人と、迷彩服の男四人だ。
「ソ、ソニアさん、軍の助っ人って、四人だけ? それに、ほかの二人は?」
これからの激しい戦闘になる可能性があるから、ペへスタとキョロロル二人は軍の駐屯地で待機してもらった。そして、軍のほうは、今の四人が限界だ。
ここはネオシャンハイではない。いくら協力関係になったとはいえ、たかがDSの猟魔人チーム一つの要請で、多人数の支援は出せない。それに、どうやら軍のほうも最近結構忙しくて、人手不足らしい。
ソニアはそう説明しようとするが、ランケンは先に愚痴る。
「今は非常時期だから仕方ねぇよ。まあ、精々頑張れよ。俺たちの足手ま……」
「ランケン! 口を慎みなさい!」
ランケンはソニアにとって、チームの重要戦力でありながら問題児でもあり、彼女の悩みの種だ。センスがよく、マナ扱いが得意で、非常にポテンシャルの高い若者だが、精神面はまだ未熟さがある。
災前、銃火器が対魔族の主流だった時期、覚醒者の猟魔人は本当に存在感が薄く、むしろ変人や怪物扱いされ、いじめられたり、実験道具されたり、待遇はひどかった。
銃火器の無力化や魔族活動が活性化によって、災後覚醒者は再び表の舞台に立てるようになった。ベテランの猟魔人なら、災前のことはそこまで根を持っていなかったが、若い連中の多くは、そうはいかなかった。
ランケンも、その中の一人だ。特にネオシャンハイから帰ってきてから、一種の焦りを感じ、一般人に対しての態度がさらに悪化した。
チームメンバーのメンタルケアもリーダの責任なので、一件落着したら、一度詳しく相談したいつもりだった。普段なら、ランケンの言動は大目に見てた。しかし、今回ばかりはそういかなかった。
なぜなら、いまDSとネオシャンハイ軍は同盟関係のことはもちろんのこと、今回の派遣された四人の若い兵士は、決して足手まといなどではない。
確かに、彼らの戦闘能力は覚醒者に比較できない。しかし、持ってきた道具はかなり特別だ。直接ダメージを与える銃火器ではないが、いずれもサポート能力に長ける。災前、対魔族や魔獣の時によく使われた、優れものだ。
特にその中の数個は、今回の作戦のキーとなる。
しばらくしたら、陳宝云は戻ってきた。どうやら、アンジェリナの宝石は一応無事だったらしい。
「一応って、どういうこと?」
「だから、慌てんなって」
まずはカイを落ち着かせ、陳宝云は状況を説明する。
「四人、いや、黑い男二人はもう寝たよ。伝説の猟魔人は、どうかな、なんかの休憩モードに入ったみたいだね。でも警戒は解除されてないと思うよ。そして、寝る前に、黑い男の二人はちょっと言い争いした。どうやら、向こうは一枚岩ではないらしいな」
「そりゃあ、人間だもの。岩じゃないのに決まってるじゃん?」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
カイにツッコもうとする林宇を止め、ちょうど雰囲気をやわらげたと思い、ソニアは先に話し出す。
「まあまあ、とにかく、どんな言い争いなの?」
「どうやらあのマイケルってやつは、小娘を研究したいらしい。詳しいことは知らんが、採血やレントゲン写真みたいなやわなもんじゃないな。あのクロっていう男はもちろん断ったが」
「相手が熟睡しているうちにこっそりやるかもってこと」
まだソニアは状況整理しているその時、
「じゃ、じゃあ、今すぐ司馬のお嬢様を助けようぜ」
林宇がカイより先に申し出るのはちょっと意外だったが、彼の意見は御尤もだ。アンジェリナを得体の知れない実験の材料にされるのは阻止したい。それに、彼女を奪還するなら、深夜は一番いい。幸い、陳宝云が帰還する前に、発電機にちょっと細工した。例えマイケルは本当に実行するとしても、まだ少し時間がかかるはずだ。
しかし、例え人数が数名増えたところで、伝説の猟魔人二人、紫金紅葫蘆を持つ覚醒者、そして、実力を隠しているかもしれない科学者、まともに相手するなら、勝てるはずもない。
なら、何かの作戦で、アンジェリナの宝石を盗み出すのが、一番いいだろう。猟魔人のプライドに傷つくが、今は仕方ない。
では、まずは伝説の猟魔人の対策だ。
「それなら、これを使ったらどうです?」
メガネをかけている、一見軍人っぽくない若者は、大きなカバンを探るながら、ある提案をする。彼が取り出したのは、一台のラジコンカーらしきものだ。
「本当は高性能AI搭載の自律型ロボットですが、新しいプログラムはまだ修正途中なので、一部は外部コントロールが必要です。あとは手足もタイヤに変更して、パーッと見ると車ですね。でもこいつは……」
「囮ロボット……」
「おお、さすがソニアさん、よくご存じですね。このロボットには、魔獣から精製した結晶を収納して、特殊手法で、一種の擬似マナを発生できます。これは災前、魔獣や知能の低い魔族を捕獲や、注意を惹くために、よく使われたものです。つまり、まずは伝説の猟魔人を遠ざける作戦です。
ソニアさんの情報によると、あの二人は現在操られている状態です。深夜になると、本能で動く可能性が極めて高く、このロボットを使ったら、時間稼ぎは可能です。いかがですか? ソニアさん、ソニアさん?」
メガネ君の声で、ソニアの意識は再び現実に戻る。そのロボットを見て、彼女はどうしても考えてしまう。
災前、銃火器やハイテク設備の活躍で多くの覚醒者猟魔人は立場を失った。それでも、極一部はまだ活躍していた。ロバート・ウィリアムズと新島ゆう子はその中に一番善戦し、現代兵器にまったく後れを取らない戦果を挙げた。だから、伝説の猟魔人と呼ばれた。
しかし、今となって、その現代兵器の力が二人の対策になってしまうとは、なんという皮肉なのか。
「え、ええ、そうしよう。次は、あの紫金紅葫蘆ね。あのクロという男が寝ている間でアンジェリナさんを盗み出せたらいいけど、念のため、対策をちゃんと考えないと」
ある意味、伝説の猟魔人より厄介な相手だ。かの孫悟空でさえ真向勝負できずに、結局盗むという手段を選んだ。しかし今こちらのメンバーでは、変化や透明化などの能力を持っていない。持っていたら、直接アンジェリナの宝石を盗んだほうが早いだろう。
「一つ、気になってたんだけど、西遊記の紫金紅葫蘆って、相手の名前を読んで、答えたら吸収されるんじゃなかったっけ?」
全員無言で考えているその時、林宇は急に何かを思い出す。
「ひっひ、よく気付いたな。まあ、あれは紫金紅葫蘆の正しい使い方ともいえる。ちょっと現代風って言えば、声音認識や声紋追跡ってところかな? 実は、名前などどうでもいい、相手が答えたら、声の主をロックし、相手を縮ませ、ある特殊強酸の充満した異空間にワープさせ、そして溶けて殺す。
前も言っただろう。あのクロっていうやつは、単に紅葫蘆の縮小機能を利用しただけだ」
「声音認識か」
林宇ちょっと考えたら、すぐ若い兵士たちが持ってきたカバンを漁り始める。しばらくしたら。
「あの紫金紅葫蘆、もしかして何とかできるかもしれないぜ」
いよいよ、アンジェリナ救出作戦だ。果たして、彼女は無事救出できるのか。そして、諸葛夢は?
次回を待て!
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