第百二十一話 『反文明汚染爆弾』
残されたアンジェリナと林宇、二人は牢屋から脱出できるのか
「……ウ!」
最近、よく夢を見るんだ。親父、お袋、林娜、いろんな嫌な奴、そして、司馬のお嬢様。
「……ンウ!」
まさか、あいつと再び一緒に行動するとは、夢にも見なかった。しかし、おやじが遺してくれたあの大剣、どうしても取り戻したいんだ。例えプライドを捨てでも、あの女の力を借りても、俺は構わない。
「林宇!」
目を開けたら、アンジェリナがいる。林宇は起きようとするが、後頭部にまだ痛みが残っている。大事ないと確認したら、アンジェリナは大体の状況を林宇に説明する。
「はぁ? 宇宙船? バッカじゃねえの? 今飛べるのは、虫ぐらいだぜ?」
「えっへん! 聞いて轟け」
「驚け」
「アンジェリナはね! なんと、反重力装置製作、成功したの! って自慢している場合じゃないよ!」
千刃丸と諸葛夢の死闘を阻止したくて、アンジェリナは慌てて透明の牢屋から出る方法を探る。あっちこっち歩き廻って、そこに存在する見えない壁にコンコンと叩く。これを見て、林宇はちょっと考え込む。しばらくしたら、後頭部を揉みながら立ち上がり、
「なあ、司馬のお嬢様よ。俺は思うけど、お前の手下たち、そんなにバカじゃないよ。特にあの銀髪の、諸葛夢のやつ、意外なところ、かなりの頭脳派だと思うよ。明らか勝てそうにない相手、しかもお前に被害を加えないのなら、シッポ巻いて逃げるんじゃねえのかな?」
これを聞いて、アンジェリナはちょっと沈黙する。
しばらくすると、やっと口を開け、
「て、手下?」
「どこ気になってんだよ」
「めちゃくちゃいい響きじゃない?」
「おいおい」
ちょっとした戯言が終わって、アンジェリナは再び真剣な表情に戻り、
「でも、やっぱり怖いよ。万が一、本当に戦闘になったら、どちらが倒されても、いやだよ」
「じゃあ、最初から自力で阻止しろよ。実際起こってから愚痴言ってもな。あ、これ、一種の電磁バリアかも」
透明の壁を触ったら、林宇は急に閃く。
「知ってるの?」
「ああ、軍の武器実験で一度見たことある。もし本当に電磁バリアなら、破れるかも。お前、運がいいな、ちょっと来い」
林宇すぐアンジェリナを連れて、彼のボルダリングカーのところに行く。トランクを開けると、中にはいろんな設備が入っている。アンジェリナに緊急手当て時の医療設備ももちろん一緒だ。乱雑な設備の真ん中に大きな銀色のアタッシュケースがある。
パタパタ
林宇は素早くケースをアンロックし、中に入っているのは、青色と銀色のパーツだ。ピカピカ光っていて、綺麗に仕上がっている。そしてパーツのディテールをよく見ると、アンジェリナは何かを思い出し、
「あ! これは確かに!」
また地下墓地の激闘時の記憶がよみがえる。死闘の末、軍の人たちとSDの人が助けに来た。そして、筆頭の人、ランケンが鎧を装備し、リニアレールガンを使用した。今のパーツは色と細かいところが違うが、形はかなり似てる。
「ああ、これはあの時、ランケンのやつ使ったパワードスーツの、量産型の試作品だ。エネルギー源など、まだかなり課題が残ってるが、一応レールガンは発射できるぜ」
すると、林宇はスーツを装着し始める。その前に、設計図兼説明書をアンジェリナに渡し、彼女は読みながら手伝いをする。
「どう思う?」
「かっくいいよ!」
「見た目を聞いてんじゃねえよ! 設計のほうだよ! このパワードスーツの設計は!」
アンジェリナは部品を付けながら、設計書を見て、
「重装すぎて動きにくいじゃないかな? リニアレールガンを手持ちで運用するのなら、機動性が重要だと思う。でないと、砲台にしたほうがいいじゃない? そのままじゃ、敵にやられ放題だよ。ほうだいだけに!」
「笑えねえよ、次」
「このパワードスーツ、強化外骨格にもなるよね。でも、筋肉補助や関節補助など、最適化の余地はまだまだ残ってるわ。やりすぎた部分や、強化足りない部分、あと材料も改良余地があるから、全重量30%カットできるかも。あとは……」
全部装着したら、まずはリニアレールガンを試射する。林宇はトランクから大きなバッテリーを一個取り出し、後ろのランドセルに入れる。
ズー
数秒間の充電で、まずはバリアに向けて、一発発射する。一瞬、空中に電弧が走る。ドカン!バリアにちゃんと命中し、石が水面に落ちたのように、無数の波紋が着弾点を中心に、周りに拡散する。
しかし、バリアは健在だ。
「エネルギーが足りないみたい」
「ああ、あの時、ランケンのやつ、確かにマナとかを使って、これを強化したな。俺たち普通の人間じゃ、電池の力を借りるしかない。だから、このスーツは本当の力を発揮できないんだ」
マナを直接使えるエネルギーに変換する方法なら、アンジェリナは一応知っている。反重力装置を作った時、オーガ三兄弟の末っ子強化が教えてくれた。しかし、如何せん今マナ扱える人物がいない。
ガラクタいっぱいの廃墟では、動力源になりうるものなら……まだある。アンジェリナはペへスタたちの宇宙船に目を付く。詳しい構造はまだわからないが、星間移動できるものだ。きっとそれなりのエンジンを積んでいるはず。前の中毒事件でトラウマになったが、今は我慢して内部調査するしかない。
ごっついパワードスーツとでかいリニアレールガンを所持している林宇は中に入れないため、外で体を動いて、スーツを慣れながら、宇宙船を観察する。
(なんだその戦闘機は、でかすぎる。戦争時アメリカの新型か? それにしても、その気密設計、スラスト配置、大気圏内用の物じゃないな。もしかして、宇宙戦のために開発されたものなのか?)
第三次世界大戦、宇宙戦、これらのキーワードを脳内に浮かぶと、ちょっと眩暈をする。いったん思考を停止し、林宇はもうちょっと“戦闘機”の外側をチェックする。そこで、翼の下に、コーションマークらしき文字がある。林宇の読めない文字だが、翻訳機はちゃんと翻訳してくれた。“戦闘機”の銘文らしい。
(クルス・ペヘ○○ロル●号・ラン325521……、一部文字化けしてるのか。でもおかしいな、この325521はなぜアラビア数字や、ローマ数字を使わないのか? まあ、確かに、中国や日本も、よく漢字の数字を使うけど……)
「やばいやばいやばいやばい!!!!」
アンジェリナの叫び声が、林宇の思考を中断させた。
「な、なんだよ。また何かやらかしたのか?」
「あ、アンジェリナはね、このうっ、じゃなくて、戦闘機を起動してエンジンからエネルギーを摂ろうとしたら、コントロールパネルから、いきなり警告の文字が出て、じじじじじじじ、自爆装置起動しちゃったよ」
「うええええええええええええ?」
…………
……
…
「リモコン爆弾?」
「え、ええ、警備ロボットはそれをコントロールしています」
一方町では、ペへスタは、一行に状況を説明する。厳密にいうと、彼らの宇宙船に搭載しているのは、普通のリモコン爆弾ではなく、アンチカルチャーコンタミネーションボンバーという代物だ。
カルチャーコンタミネーション、いわば文明汚染とは、宇宙開拓の時、高度文明が未開の文明に出会って、相手に変な影響を与えてしまい、本来存在するはずのない、変な崇拝や宗教が生まれるということだ。
この影響を防ぐため、万が一高度文明のテクノロジーなどが故障などの原因で相手の惑星に墜落し、回収不可能と判断したとき、その存在痕跡を木っ端微塵に抹消するため、爆弾を用意した。その爆弾は反文明汚染爆弾、アンチカルチャーコンタミネーションボンバーと呼ばれ、爆発範囲はそこまで広くないものの、威力は半端ない。
毒の霧が蒸発されたあと、ペへスタは確かに緊急処理はした。が、警備ロボットがなくなった今、トラブル発生と認識し、爆発する可能性はやっぱりある。アンジェリナと林宇は宇宙船と一緒にいるのなら、かなり危険な状況だ。
そして、アンジェリナが事前二人にある忠告をした。なるべく異星人であることをばれないように。これについて、二人も納得する。宇宙開拓の時も、異星人に対して敵対意識が強い惑星で、トラブル起こした前例があるから。だから、爆弾についても、リモコン爆弾だと、簡単にぼかした。
「でも、逆にいえば、警備ロボットを見付けば、ロボットがう……戦闘機の場所を特定できるかもしれません」
キョロロルは続けて説明する。が、問題は、ロボット自身は消えてしまった。ロボットを探すのも、直接アンジェリナ達を探すのも、どちらも難しい現状だ。
一行は悩んでいるその時、一人の男が、アンドレの屋敷に入ってくる。
「あのロボットなら、僕のところにありますよ」
爆弾は爆発しそう、ではアンジェリナ達の安否は? ロボットを盗んだ人物が現れ、諸葛夢達の救援は間に合えるのか。
ぜひ、ブクマ、評価ください! よろしく願いします! 2022年内第一部完結予定です。




