第百二十話 『“息子”との再会』
またもや拉致されたアンジェリナ、本当にありがちな姫様運命なのか、それとも?
やっとの思いでゴブリンを撃退したが、結局ゴブリンたち本当のターゲットは別のところにある。再び拉致されたアンジェリナだが、周りの環境を確認しようとしたら、目の前にいるのは、巨大な黒い怪物だった。
「お久しぶりです。母上」
「??母上って」
先に口を開けたのは怪物だ。アンジェリナは目を大きく開け、全力で怪物の姿を観察する。全身禍々しい棘がいっぱい増えたが、あの体型は確かに見覚えがある。
「羽丸とカザキリ?」
「ええ、僕です。母上は無事でなによりです」
「よかった!! 無事だったんだね!」
ぎゅっと、アンジェリナは怪物を抱く。しかし、次の瞬間、ぷすっと、棘に刺された。
「いでででででででで、へへ、ずっとやりたかったんだ、このくだり、ショルダーアーマーの棘がほっぺに刺さったり、サングラスのモダンが目に刺さったりとか」
「はあ……母上も変わらないですね。ちなみに、僕今の姿を、千刃丸と呼んでください」
「せ、せんじんまる? 召喚するとき、テレホンカードが必要なのね。1000-10-○っと」
「はあ……」
カザキリ、もとい千刃丸に全然意味が分からなかったようで、ポカーンとした。
「あ、いや、それより、千ちゃん」
「千ちゃん?」
「ちょっと手伝ってほしいの、今、町はゴブリンの群に襲われてるの!」
これを聞いて、千刃丸の表情は若干暗くなる。
「ゴブリンたちを指揮しているのは、この僕なんですよ」
「え?」
「でも、もう心配はいりません。ほしいものを手に入れ、ゴブリン隊はすでに撤退させた」
「欲しいものって、あ! もしかして、アンジェリナのこと? やだ、アンジェリナって、罪の女だね!」
「ええ、母上のことももちろんですが……」
意外な返事が来て、アンジェリナはちょっとびっくりする。急に赤面になり、
「や、やだ。そういう時は、ちゃんと突っ込んでよ。お前じゃないわ! とか、違います! とか」
「いいえ、僕は至って真剣です。母上、どうか、僕と一緒に、魔界に行きませんか?」
「カケオチ?」
「違います」
やっと突っ込んでくれて、アンジェリナはちょっと満足する。しかし、なぜそういう誘いが来るのかも、興味津々だ。もし町はもう無事だったら、ここで久しぶりの“息子”達とちょっと雑談しても大丈夫と、アンジェリナは考えている。
「僕は魔界に行って、本物の魔族になりたいんです」
「あれ? 千ちゃんは、魔族じゃないの?」
「僕は妖怪です。厳密にいうと、父上と同様、魔族と人間のハーフです」
「ま、魔族と人間のハーフ?」
アンジェリナは思わずに、千年樹妖が人間の女性とイチャイチャするシーンを想像してしまう。
「何想像してるんですか?」
「い、いや、なんでもないよ。それより、なんで、いきなり?」
千刃丸はしばらく考え込む。そしてやっと口を開け、
「この星は危険です。どうか、魔界に避難してください」
「危険って、どんな?」
「災厄です。父上がずっと守り続けてきた空間の穴、まだ覚えていますか」
「え? う、うん」
地下墓地の一晩、あんまりにもたくさんのことが起こしてしまい、そう簡単に忘れられるものではない。確かに、千年樹妖は、あの穴は元々人類が避難するために用意したものだと、アンジェリナは回想する。
「僕たち兄弟が生まれたばかりの時、父上がそうおっしゃいました。はるか昔の預言者は、魔の頂、空の上、母なる大地に降り注ぐ、あらゆるものは砕け散り、無に帰る、と予言しました。どうです? 母上が阻止しようとする災難とは違うでしょう」
「あ、もう知ってたんだ、てへっ」
黒霧の件は絶対的な秘密事項であり、すぐ習慣みたいに、アンジェリナはとぼけようとした。しかし、どうやら千刃丸はすでに知っていたのようだ。
「でも、あくまでも予言でしょう、本当に当たるのかな。それに、アンジェリナだって、今は頑張ってワープゾーンを研究して、みんな一緒に連れて避難しようとしてるんだ。」
「それは、うまくいきましたかね?」
「うっ」
実は、今のところ、大した進展はなかった。徳陽の先遣隊から、まだストーンヘンジから何かがわかった報告は入ってない。ゾルド水晶収集の交渉も結構難航した。
この間の入院先、張沙政府も、水晶を渡す気はないらしい。町全体のエネルギーを提供してくれる謎の水晶だ。ネオシャンハイ市長の推薦状があるとはいえ、そう簡単に渡せるものではない。他の町も、たぶん同じだろう。
「でも、逆に聞くが、魔界に行くんなら、どれぐらいの人が行けるの? 行ったら、安全に暮らせるの?」
「それは無理ですね。僕は頑張って母上を守りますが、ほかの人の安全は保証できません。最悪の場合、魔族や魔獣の餌食になるかもしれません」
「だめじゃん! 魔界行きの話はなしよ。アンジェリナはやっぱりみんなと一緒にいたいよ」
アンジェリナの答えで少し落胆したが、千刃丸は気を改めて、
「わかりました。魔界の件、母上はゆっくりと考えてください。では、もう一つ、母上に頼みたいことがあります」
「頼み事?」
「ええ、宇宙船を作っていただけますか?」
「う、宇宙船?」
どいうわけか、宇宙船と聞いたら、アンジェリナは急に頭痛と眩暈が襲い掛かってくる。よろめいた彼女を見て、千刃丸は慌てて手を添える。
「だ、大丈夫よ。でもなんで、話題が変わりすぎてわけ判んないよ~宇宙船でカケオチ? 千ちゃんロマンチック」
「だから違いますって!」
アンジェリナはどうやら無事のようだ。これを見て、千刃丸は手を離れ、ちょっとため息をする。
「詳しい事情はまだ語れません。まだ確信を持っていませんからね。母上は確かに、大地の重力の縛りから逃れる方法を発見しましたね」
「え? うん、反重力装置ね」
「材料なら僕が何とかします。異星人類の宇宙船もちゃんと持ってきました。あそこにいる緑髪の若者は助手でいいでしょう。工具なら、若者の車にあるでしょう。あれ? 一台多いな」
ゴブリンたちへの命令は、林宇のボルダリングカーを強奪だけだった。しかし、何かの間違いで、アンジェリナの車まで持ってきた。
「まあ、大丈夫でしょう。そして、雑用や肉体労働なら、ここにいるゴブリンたちに任せてください。数十人、いや、できれば百人ぐらいの者が載せるぐらいの宇宙船を作っていただきたい。」
宇宙船。先の頭痛といい、この言葉を聞くだけで気分が悪くなる。別に千刃丸を疑ってるわけではないが、宇宙船の製作にはどうしても抵抗がある。記憶の空白には、何かのトラウマでもあったのか。
まだ悩んでいるその時、外から騒がしい音が聞こえてくる。すると、一匹のゴブリンが、慌てて中に入ってくる。
「どうした? 騒がしいぞ!」
「千刃丸の兄貴、し、侵入者が!」
侵入者と聞いたら、自分と林宇を救出するため駆けつけてきた諸葛夢とカイではないかと、アンジェリナは考えるが、どうやら千刃丸も同じ考えのようだ。
「ほう、まさか、あの諸葛夢というやつか。ここにきて百年目、父上の仇は取らせてもらうぞ」
「だ、だめ、ム、ムウはアンジェリナの仲間だよ。それに……」
「父上を殺したのは、彼の体に住み着く、もう一つの魂、か」
「え?」
千刃丸はゆっくりと手を上げ、
「これぐらいなら知っています。しかし、どうしても許せないんです。だから、やつと決着を付けたい」
「許せないって、誰を?」
「やつと、無力だった自分自身かな? すまんが、母上はここですこし待っていただけますか」
すると、千刃丸の掌から、小さな光の玉が現れ、そして玉はやがて巨大な透明の壁になり、廃墟を牢屋のように、囲んでしまう。
「ま、待って、アンジェリナ、宇宙船作るから、ムウと戦わないで!!」
「善処します」
と一言残して、千刃丸は残りのゴブリンを連れて、暗闇の中へと消えていく。
数分歩いたら、廃墟から出て、もっと広い荒野になる。しかし、そこでゴブリンたちと戦っているのは、諸葛夢とカイではなく、猟魔人チームの四人組だった。
猟魔人4人チームは、敵か、味方か?




