第十一話 『第七と第八の被害者』
鬼路のなか、諸葛夢は続けて現場を調査している。隣は電柱みたいに突っ立っているカイだ。
被害者死体の遠くないところに、女性用のカバンが発見され、中には携帯式トーチバーナーが入っている。
ちょっとチェックしたら、すぐ警察に渡して、発見物や周囲の写真を撮ってから、外に運び出した。
死体辺りはもう調査済みだと思って、諸葛夢はあちこち見まわり始める。
「あれ?足跡も手掛かりあるかもっていったじゃん?」
「足跡などなら、最初から採取したよ。夢ならよく知っているはずだ。」
古天仁も、懐中電灯をもって、鬼路に入った。
「くそ、夢、だましやがったな!」
カイは固くなった体を動かし、わざと地面を何回も踏んで、古天仁に聞く。
「古さん、嬢様と話し終わったんっすか?」
「途中までしゃべったが、あの嬢ちゃんは急に眠っちゃった。」
「ああ、嬢様の持病みたいだもんっすよ。とりあえず、俺は外に出て、嬢様のそばに戻ります。どうせここで役に立たないからな!」
諸葛夢を一回睨みつけ、カイは走って外に出た。
カイが出た後、鬼路に残されたのは古天仁と諸葛夢だけになった。もうほかの人がいないと確認したら、古天仁は諸葛夢の肩を組んで聞く。
「これ、魔族仕業か?」
「知るか。」
「勘でいいよ」
「男の勘は中てにならないよ」
「男の勘じゃなくて、ベテラン猟魔人の勘なら信用できるぜ」
諸葛夢は頭を振る。
「そっか。じゃあ、穴のほうは?」
「そう簡単に見つかれたら苦労しないだろう。ただ……」
「ただ?」
「この辺りにある可能性が高い。この前魔獣と遭遇した。」
「魔獣?」
「ああ、傷つけてマナの跡を追撃したら穴を発見できるかもと思ったが、どういうわけか、魔獣は魔界に帰ろうとしない。結局俺たちが仕留めた。」
「俺たち?」
「あの青い頭のやつだ。雷属性の技を使ってくる。間違いなく、覚醒者だ。」
「カイ君ね……今朝会ったときうすうす感じたが、やっぱりか。じゃ、早く誘わなきゃ!」
「やった。同意した。」
「おお、お前成長したな!昔なら絶対しないのによ。あ、そういえば、魔獣の死体は?俺ちょっと見てみたい。」
「知らないの?」
諸葛夢は若干不思議そうな表情で聞く。
「あれ、確かに、李ちゃんとパトリックは?」
ちょっと悪い予感をする古天仁、すぐさま諸葛夢に案内させ、魔獣死体のところに向かう。
あんまり時間が経ってないからか、森は前の戦闘時と比べて全然変わっていない。戦闘の痕跡もちゃんと残っている。
しかし、魔獣の死体は消えた。代わりに二人の人間が倒れている。制服から見ると警察のようで、背後に大きな傷口が開け、青い制服は血で黒ぽく染まれている。
「李ちゃん、パトリック!」
古天仁はすぐ確認するが、すでに息がない。
「くそ!何ってことだ!」
怒りで吶喊する古天仁。
まだまだ若くて、将来いろいろ期待できる新部下なのに、いまは冷たい屍となってしまった。
今朝一番はまだ魔族についていろいろ尋ねてきて、いずれ自分も魔族とやりあえる猟魔人になると意気揚々と話し合った。あれが二人と最後の会話だとは判らなかった。
怒りは二人を殺した犯人に向いているより、若者に危険な仕事を任した自分に向いていた。
一方、諸葛夢は相変わらず冷静に死体を確認している。
「凶器は短剣、ナイフ類の刃物、同一人物が一瞬で急所に一撃、かなりのやり手だ。」
「ネオシャンハイの仕事は楽じゃないと予想はしたが、まさかここまでとはな……」
「これからどうする?」
「とりあえずこれらの事件は俺に任せろ。魔族にかかわりがなけりゃ、お前は手出し無用だ。お前は引き続き、穴を探せ、あれを何とかしなければやばいことになる。」
「ああ」
「あと、あの司馬っていう嬢ちゃんに気をつけろよ」
「なんだ?あの小娘は容疑者か?」
「いや、そういうわけじゃないがな。とにかく、あの子とはあんまりかかわらないほうがいい。お前の身のためだ。これは、人生先輩の勘だ。」
「もとよりそのつもりだ」
「大変よろしい。まあ、そんな顔すんな。俺は必ず約束を守るぜ。って、あれ?」
諸葛夢は古天仁を無視して、鬼路に引き返る。
「出口なら森からのほうが近いだろう?」
「鬼路に人の気配がある。」




