第百十六話 『九死に一生を得る』
果たして、アンジェリナの運命は?
新元4年10月23日、日曜日深夜。長沙のある病院、ICU病室の外。
カイと林宇は、何かをやっている。林宇はいろんなケーブルとセンサーを病室の外に設置し、カイはケーブルの握って、意識を集中し、青い電気をケーブルに放つ。
「センサーなどは全部終わったぞ」
「よし、じゃあ、試してみよう」
「いてててててててててて」
一瞬、強い電流が林宇の体に襲う。
「俺を実験台にするな!」
「病院内は静かに!」
「「す、すみません!」」
怖い看護婦に注意され、二人は一旦隅っこに後退した。アンジェリナと諸葛夢と合流したら、カイは彼女が変な輩に狙われていることを知った。
病室では安全じゃないと思って、カイは林宇を頼んで、ちょっとした防犯アラームを作った。
「電気ビリビリはねえぞ。電気ビリビリ。ナースさんが認証チップを忘れて入ったら、大変なことになるぞ」
「し、しかしな」
防犯センサーにカイの電気を注入し、専門チップを持っていない人間を感知したら、カイに知らせると同時に、電気打撃を与えるという、アンジェリナを守るための装置だ。しかし、確かに林宇の言った通り、チップを持たずにうっかり入る看護婦はひどい目に合う。
「でも、あの、イオ何とか教がさ、本当にやばいぜ」
「イオガンルブン教だ。確かに、地下避難の時から急に大人気になった宗教だったな。あれ以前、聞いたこともない」
ケーブルをいじっているカイを見て、林宇はちょっと考えて、
「あのさ、あんた、あの銀髪のやつ、諸葛夢っていう名前でしたっけ、ちょっと当たりすぎたんじゃない?」
「な、なによ!?」
「司馬のお嬢様はさ、元々トラブルに巻き込まれやすい体質、もとい、トラブルメーカーなんだよ。地下避難の時も、ちょっと一緒に行動してさ、さんざん振り回されたんだ。
それに、あの諸葛とやら、あいつのために、わざわざ自分の師匠を呼んで来て、重要なもの調達してくれてるんだろう?」
電気の強度を調整し終わり、カイはケーブルを地面に捨て、やっぱりちょっと納得できない様子。
「しかしな。あのお爺さん、結局嬢様を救えなかったんじゃない?」
「これは聞き捨てにならんのう」
突然、徳川聡佑の声が聞こえ、これで、本人はゆっくりと廊下で歩いてくることに気付くカイ、
「あ、す、すみません。そういう意味じゃ……」
「ふぉふぉ、冗談じゃ。現に、わしは娘さんを救えなかったのは事実じゃ、面目ないのう」
「でも、爺ちゃんよ。変わった能力で金属扱えるのだろう。司馬のお嬢様体内の重金属も取り除けないのか」
徳川聡佑は、ひげを撫でながら、頭を振る。
「実際娘さん体内の重金属は未知じゃからのう。いくら覚醒者で金属を操れるとはいえ、よほど金属性の達人でもなれば、未知なものを遠隔操作は不可能じゃ。金属だけに、ふぉふぉ」
「「……」」
ギャグは滑ったのか、徳川聡佑は、ちょっと咳して、
「ケッホン! 特に、すでに人体に入り、血液に入った場合は、ほぼ無理じゃ」
「じゃあ、もしかして、魔族と、何か関係があるんですか?」
カイの質問に対して、徳川聡佑はまた頭を振る。
「魔界は大きい、わしの知らぬ物質もいっぱい存在するじゃ。が、魔族が運んできたものなら、特例もあるが、普通微かにマナを感じれるはずじゃ。カイ君、毒霧付近、マナを感じなかったじゃろう」
軍に入った時、魔族などの話は少し触れたから、林宇はこの話題に別に驚いたりはしない。しかし、徳川聡佑の話を聞いて、思わず口を挿む。
「地球上に存在しない、魔界からのものでもない、じゃあ、異星人が持ってきたのか?」
しかし、これを聞いて、徳川聡佑は沈黙する。
三人がまだ雑談しているその時、ICU病室は騒ぎ始める。しばらくすると、医者と看護婦が出てきて、カイに向かい、
「状況はかなり悪いです。患者は、もう危篤状態です」
…………
……
…
ガタ
天刺鳥の宝玉が入っている袋が、地面に落ちる。
「また、俺のせいで……」
ベッドの上に、布団に敷かれている、人の型がある。顔も見れないし、全く生気も感じない。これは、最悪のシチュエーションだと、諸葛夢は思う。
しばらくすると、やっぱり勇気を出して、深呼吸し、布団を引く。せめて、最後に一度、顔を見たいと思っている。
クッションだ
すると、病室の電気が付けられ、アンジェリナの声が聞こえてくる。
「ムウびっくり作戦、大成功!!」
生きていることを知って、めちゃうれしいが、それと同時に、ちょっと怒る。そんな悪ふざけされ、諸葛夢は手を上げ、ゲンコツでも一発入れようとするが、
「殴っちゃいかんぞ!」
徳川聡佑の声だ。彼だけではなく、カイ、林宇も一緒にいる。
「娘さんは危険状態から回復したが、重金属はまだ体内に残っておる。強い衝撃じゃ、血管とかが傷つかれる危険性があるぞ」
といいながら、徳川聡佑は、地面に落ちた天刺鳥の宝玉を拾う。
「先生、天刺鳥の宝玉は、一体何に使うんですか?」
「麻酔だよ」
徳川聡佑の代わりに、アンジェリナが答える。
「麻酔?」
「あんまり知られてないけど、災後、麻酔は使えなくなったの。徳川先生は、アンジェリナ体内の重金属を小さい破片に再構築していただいたの。本当は、アイアン○ンみたいに、胸元にペースメーカーを付けて心臓を守りたいけど、作る時間がないのよね。だから、ムウがこの宝玉を持ってきたら、これを使ってアンジェリナを麻酔して、手術で取り除くの。ね、先生」
徳川聡佑は、ヒゲを撫でながら、頷く。
(そうか。これなら、小娘はもう大丈夫だな。任務完了だ)
諸葛夢は病室から出ようとするが、アンジェリナは彼を引っ張る。
「あのね、ムウ。先のいたずら、ごめんなさい! あのゲンコツは、アンジェリナの手術が終わったら、受けてもいいよ」
へいへい、っと適当に返事し、諸葛夢は去ろうとすると、アンジェリナはさらに力強く、また彼を引っ張る。
「あのね、アンジェリナはね、まだムウと一緒に冒険したいの。だから、消えちゃいやだよ。もし、手術後、アンジェリナが目覚めて、ムウがいなくなったら……」
アンジェリナは頭を下げ、ちょっと考えたら、
「ムウはどこへ行こうと、アンジェリナは必ず追いかけてやる!」
これを聞いて、カイもすぐ口を挿む。
「なあ、夢、この前の話だけど、どうやら俺の誤解だよな。あのスーツが壊れたのは、あんたのせいじゃないし、全部あんたに八つ当たりしちゃって、悪かった。あの時、殴ったな。よし、いま俺を殴れ!」
これを聞いて、諸葛夢は振り返る。
「まあ、マナが封印されたんだ。殴られてもたいしt、って、あれ、嬢様? なんで夢と握手するの? 今の光、封印解除の光だよね!
あ、ちょっ、ちょっまっ」
カイは、危うくまた戦線離脱になるところだった。
翌日、徳川聡佑の手助けもあり、手術は大成功。本来は一か月入院必要があるが、回復魔法の力で、数日の休養だけで済む。
どうせ休むのなら、仲間たちを連れ、新しい長沙市内で、観光でもしようとアンジェリナは考える。この仲間とは、諸葛夢、カイ、林宇三人はもちろん、さらに、ちょっと肌色が特別な男女二人が増えた。
すでに危篤状態のアンジェリナは救われた。しかし、一体どうやって救われたのか。なぞは深まりばかりだ。
次回を待て!
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