第百十二話 『同盟解散』
まだ中毒状態のアンジェリナだが
深夜、病棟の外に、諸葛夢一人が、大きな樹の上に座っている。包帯で全身巻かれていて、完全にミイラ状態だ。しかし、彼は自分より、病棟のほうが気になる。唯一まだ電気がついている病室、中にはアンジェリナがいる。
長沙、中国湖南省の省都。災後名前は変更されていないが、面積と人口はかなり縮小され、ゾルド水晶保有のおかげで、ネオシャンハイほどではないが、それなり豊かな生活ができる町だ。ゾルド水晶調達チームはすでに到着したため、アンジェリナが運ばれた時、すぐ一番いい病院を手配した。
林宇の緊急処置がなければ、アンジェリナはとっくに死んでいた。しかし、いまだに意識は戻ってない。検査の結果、体内にまだたくさんの重金属が残っている。今までの重金属中毒の薬品を試みたが、効果は確認できず。
今のアンジェリナは、たくさんのチューブやケーブルに繋がられ、静かにICU病室で眠っている。窓から中の状態は確認できないが、それでも諸葛夢はぼーっと眺めている。
(なにがナイトだ。ばかばかしい)
およそ二週間前、新元学園屋上で、「誰でも、どこでも、安心で、幸せで、ぐーたらで生活できる世界を作りたい」っていうアンジェリナの言葉が諸葛夢の心に響いて、彼はひそかな決意をした。彼女の理想を支え、彼女を守るナイトになる。
しかし、今となって、恥ずかしい気分しか残ってない。中二すぎたためではなく、結果的に彼女を守れなかったからである。どういうわけか、自分を殴った後、カイの言葉は、いまだに耳に残る。
「おまえさ、嬢様の祟りか? 疫病神か? お前と出会ってから、誘拐されるわ、化け物と遭遇されるわ、あげく、今回は本当に死にかけだぞ。仲良くしてって言った俺も悪かったけどさ。
嬢様と何年も付き合ってきたけど、ずっと平穏だった。でもお前が現れてから、何もかもが変わった。
悪いが、猟魔人同盟のことはもうなしだ。嬢様は俺が守る。これからは別行動だ。二度と俺たちの前に現すな」
……
「祟りか。そうかもな」
今回の事件で、諸葛夢のトラウマが蘇る。これで別れるのも、アンジェリナのためだと思ってしまう。しかし、医者の話では、今は全く治療の手段はない。このまま去ってもいけない。
「最後に一働きか」
重金属中毒、通常の治療法が無効なら、また一つの手段はある。覚醒者の力なら、何とかなるかもしれない。しかし、いくら戦闘知識豊富、魔族に詳しいとはいえ、今回ばかりはお手上げた。なら、他人の力を借りる必要がある。心当たりなら、ある。
北に向かって疾走。どれぐらいの距離を走ったのか、具体的にどの町に辿ったのかは、わからない。たぶん、マラソン数倍の距離を走った。ただひたすら、一つのマナの渦巻きに向かって、走るだけ。たどり着いたのは、今までの廃墟はまるで嘘のような、美しい森だ。
緑の山、白い滝、朝日に照らされ、虹で両者が融合する。創作物なら、仙人が住みそうなところだ。小さな丘の上、木の小屋があり、諸葛夢はそちらに向かう。
「曲者!」
突然、後ろから何者かが襲い掛かってくる。諸葛夢はすぐ手で防御し、そして後退する。
「何やつじゃ?」
「俺です。先生、ご無沙汰しております」
今の自分はミイラ状態だと気づき、諸葛夢はすぐ顔の包帯を外す。まだ火傷の痕跡は残っているが、前より大分回復した。
「おお、夢か、通りでマナが感じ取れないわけじゃ。ひさしぶりじゃな。なに、ハロウィンパーティーでも誘いに来たのかのう? ふぉふぉ」
「いいえ、そんな悠長な話では……」
「何、古君と一緒にうまくやれなかったのか? 彼奴にパワーハラでもされたのかのう?」
諸葛夢の顔を見て、どうやら冗談をしている場合ではないのようで、老人はすぐ彼を小屋に招く。この老人の名前は徳川聡佑、かつて諸葛夢にいろいろ教え、そして監視の眼の管理権限を古天仁に譲渡した人物だ。諸葛夢にとって、先生か師匠的な存在だ。
すぐさま来る理由を教えたら、
「なるほど、あの娘を救う方法か。ないことはないが、かなり大変じゃぞ。しかも運にも絡む」
「どんな方法でも構いません。ぜひ、教えてください」
徳川聡佑は諸葛夢を見て、ちょっとヒゲを撫でる。
「ふぉふぉ、おぬしも変わったのう。かの子のトラウマは、もう克服した?」
「いいえ……」
急に意気消沈になった諸葛夢を見て、徳川はちょっと考えて、そして語り始める。
「まあ、とりあえず人命優先じゃ。娘を救うのはかなり難しいじゃぞ。わしはこれから長沙に行って、術などを準備する。おぬしはあるものを調達してくれ。」
「あるものとは?」
「天刺鳥の宝玉。どうじゃ、自信はあるのか?」
天刺鳥、一種の低位魔獣だが、その危険性は絶叫虫以上だ。精神攻撃に長けるこの魔獣は、諸葛夢にとって最も苦手な相手だ。これを聞いて、諸葛夢はほんの一瞬躊躇う。しかし、すぐ決心して、徳川聡佑に聞く。
「どこにいるのですか? この魔獣は?」
「な~に、遠くはない。天剣のかけらはまだ持っておるな」
すると、諸葛夢はいつもの金属かけらを取り出し、徳川聡佑に渡す。徳川はこれをちょっと握ったら、かけらは一瞬光る。
「よし、天刺鳥の在りかは天剣に教えた。GPS感覚で使うとよい。口で実際に場所を教えても、おぬしの方向音痴っぷりじゃ、一生たどり着けないじゃろう」
すると、徳川聡佑は、小屋を出て、外に置いてある石のテーブルの上に立つ。
「わしは先に長沙に向かう。準備するのも結構時間がかかるかもしれんな。おぬしも一刻も早く、天刺鳥の宝玉を手に入れ、そしてわしらのマナを感じて戻ってくるとよい」
徳川聡佑は、両手を地面に指し、そうしたら、大きな気流を噴射し、まるでロケットのように、テーブルの甲板に座ったまま、長沙方面に飛んでいく。
師匠を見送ってから、諸葛夢は天剣のかけらを取り出す。
「よし、俺を鳥のところに導いてくれ」
果たして、諸葛夢は無事天刺鳥の宝玉を入手して、アンジェリナを救えるのか
次回を待て!
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