第百九話 『毒の霧』
新しい町に到着と思いきや
「うわ……近づいてみると、また絶景ね」
アンジェリナはちょっと感慨する。三人の前は、目の前いっぱい蔓延する、緑色の霧だ。他の冒険者から、猛毒があると聞いて、濡れたタオルで鼻を覆っているが、近づくだけで目が痛くなるので、ちょっと見たら、すぐ後退する。
「ケホケホ、嬢様、ダメだ。やっぱりルート変更しないと」
「ルート変更、ねえ……」
南を見ると、これはまた廃墟の山だ。確かのボルダリングカーは険しい崖を登れるが、ボロボロの廃墟なら話は別。うまく操縦すればいけないことはないが、人間歩くスピードよりはるか遅くなり、次のちゃんとした道がいつ現れるのかはわからない。かといって、車を捨てるわけもいかない。
「あれは?」
廃墟を見ている諸葛夢は、ちょっと何かを気づく。テントだ。しかも火がついている。どうやら人が住んでいるのようで、三人はすぐそちらに向かって、もしかして何か情報を手に入れるかもしれない。
テントの辺りに着くと、住んでいる人数にびっくりする。十数人っていうレベルではなく、十数個のテント以外に、廃墟の隙間にも、まだたくさんの人がいる。ざっと見ると、千人は超えている。
三人の到来を見て、すぐたくさんの人が三人を囲んで、乞食する。が、一人の中年の男がやってきて、これでやっと止める。
「見苦しいところを見せてしまい、本当にすまなかったな。私の名はアンドレ、この先の町の長だ。我々はここで避難している。恥ずかしいところ、子供たちは、ここ二三日、何も食べてない。もし余った食糧があれば、ぜひ分けていただきたいんだが」
これを聞いて、三人はすぐボルダリングカーに戻り、トランクに積んでいる食料をみんな見配る。進みながら何等かのバイトやお手伝いをやっていたので、報酬として、それなりの食料は所有している。
さすが千人分はないが、子供たちは一応胃袋に何等かの食糧を入れ、少し元気が出た。これを見て、アンジェリナは毒霧の情報を聞く。
「我々は、そちらの町で住んでいたものだ。数日前の深夜、突然爆発が起こし、そしてあの霧が蔓延してきた。まだ数百人が逃げ遅れた。あの人たちはもう……いや、まだわからない。霧の中にまだ生存者がいるかもしれない」
「爆発って、爆発の理由はわかりますか? 例えば、化学工場とか?」
男はちょっと考えて、そして頭を振って、
「可能性はゼロじゃないが、低いと思うよ。街には確かに化学工場はあったが、あれは災前ですでに廃棄されたよ。果たして、爆発して、あんなにたくさんの霧を発生できるのだろうか」
「うう~ん。でも、可能性は否定できないでしょう。それに、まだ生存者がいるって、どういうこと?」
「ああ、町には、昔地下シェルターのテスト場があってな。いまだに避難シェルターとして一部の機能は生きている。つまり……」
「あ!」
これを聞いて、アンジェリナはすぐ理解した。諸葛夢、特にカイにも理解できるように、アンジェリナはちょっと追加で説明する。
災前、世界各国共同設計、製造した地下避難シェルター。人類はあんまりの愚かさで核戦争の泥沼に入っても、まだ生き延びれるために作った最高の避難場所。実際に建設する前、一部の都市でそのテストバージョンを製造した。
このテストシェルターにも、核汚染を防ぐ機能があり、もし空気浄化フィルターがまだ機能していれば、あちらに避難した人はまだ生きているかもしれない。
「しかし、問題は水と食料だよ。災後、あちらで貯蔵した非常食などは、ほとんど搬出されて、使われたんだ。もし入った人数が多い場合、どこまで持つのか……」
つまり、やっぱり毒霧を無視して迂回ルートを取ることはできないことだ。アンジェリナはちょっと諸葛夢とカイを見て、二人とも頷く。これで全員一致し、この毒霧を何とかすることを決定した。問題は、どうすればいいのか。
ちょっと悩んだら、アンジェリナはテントに目を付く。すぐテントを詳しく調べたら、
「ねえ、アンドレさん、ここのテントって、シェルターから持ち出されたの?」
「ああ、非常食を搬出された時、一緒に持ち出された。これは、どうかした?」
「しってる? このテントの材料って、気密性がめちゃくちゃ高いのよ」
すると、アンジェリナはすぐノートを取り出し、何かを書きはじめ、そして探し物と手伝いの依頼をする。
男たちは自動車かオートバイを探し、そしてノートの説明通りにエンジンなどを分解して、一部の金属部品、ファン、ターボチャージャーなどを取り出す。あとは、乗車用ヘルメット。
女性陣は、ちょっとした裁縫の仕事をやる。しばらくしたら、一着の宇宙服が出来上がる。しかし、本物の宇宙服と比べると、かなり薄くて、どっちかというと、ライダースーツか、アニメのパイロットスーツのほうに似てる。
これができたら、アンジェリナは車の部品を服とヘルメットに取り付ける。諸葛夢とカイは、いろんな液体と風船数個をもって、毒霧に近づいて、霧のサンプルを取る。
半日もかからないうち、結構SF的なスーツが出来上がった。テントで着替えして、再度出てきたアンジェリナを見て、その場の全員は思わず、おお、と称賛する。
体にフィットするスーツに、背後はランドセルみたいな機械を背負っている。機械には小さな酸素ボンベ二個と、エアフィルターがあり、普段はエアフィルターで毒霧を除去するが、緊急時は酸素ボンベが作動する。
そして機械から一本の大きなパイプが改造したヘルメットに繋がり、これで、毒霧に入っても、体に影響はないはず。諸葛夢とカイが採取したサンプルで実験済みだ。成分はまだ不明だが、水溶性だと判明したため、アンジェリナが作った浄化フィルターは機能するはず。
しかし、何より、この可愛らしい姿が、目を惹く。ほぼ全部ボロい材料で作ったが、デザインがいいのか、女性陣の腕がいいのか、かなり綺麗にまとまって、アンジェリナの華奢なボディラインを強調する。
ずっと無表情の諸葛夢も思わずちょっと赤面するが、アンジェリナがドヤ顔で自分を見ていることを気づき、咳をして目を逸らす。
「へえ、すっげえかっこいいな。でも、嬢様はなぜこれを着るの?」
「「「……」」」
「ケッホン! で、でも、女の子一人にそんな危険な行動をやらせるわけには……」
アンジェリナはヘルメットを取って、
「大丈夫、大丈夫、ちょっとシェルターに生存者がいるかどうかと、あとは霧を発生源を確認するだけ」
「ええ、嬢様が行くの? だめだよ。危ない、俺は反対だ」
「こいつが決めたことだ。止めても無駄だろう」
諸葛夢は、スーツ改造の材料から、一本長い縄を取り出す。アンジェリナが服を作っている間、諸葛夢が作ったものだ。太くないが、テントの布で改造したから、かなり丈夫そうだ。そして縄の一端をアンジェリナに渡す。
「腕に縛れ、そして30秒ごとにSOS以外のモールス信号を縄で送ってくれ。俺は微かの振動でも感知できるんだ。もしSOS信号を発信したり、あるいは途切れた場合、俺は全力でお前を引っ張る」
「ええ? でも、俺はやっぱり心配だよ」
「もう、カイやん心配性だから」
アンジェリナは縄を腕に縛りながら、
「あの毒霧だから、変な生き物はないはずだよ。それに、本当に確認したらすぐ帰るから」
これで、カイも反対できなくなって、アンドレはまた数人の住民を連れて、一行は毒霧の近くに行く。目が異物感を感じるぐらいギリギリ外の位置で待機して、アンジェリナは霧の中に入る。
「本当に大丈夫なのか? 猛毒だぜ」
「まあ、小娘の頭脳を信じるしかないだろう。それに、なにか危険があったらきっと戻れる、たぶん」
「たぶんって、あ、本当だ。もう戻ってきた。え?」
二人がちょっと雑談したら、アンジェリナが猛ダッシュして帰ってくる。そして後ろに巨大な影が、アンジェリナを追いかけている。
アンジェリナを追いかけている影とは?
次回を待て!
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