第百七話 『ヴァーチャルゲーム』
VRゲームを楽しむ劉凡菲だが
草原の上、劉凡菲は剣と盾をもって、可愛らしい姿のコウモリと戦っている。先ほど華麗な身動きで警備員たちを回避して潜入することはまるで嘘のように、行動の一つ一つは鈍くて重い。まるで運動不足の中年おっさんが、初めてジムに行って、運動器具をいじっているのような滑稽な姿だ。
劉凡菲だって身軽な動きをしたかったが、どういうわけが、体は数百キローの重みをついている、あるいは海の底で動いているのような感じがして、思い通りには動けない。
十分ぐらいの死闘で、コウモリをやっとやっつけた。ぜぇぜぇと喘息する劉凡菲たが、またあの機械的な女性の声が聞こえる。
「ドラキーを やっつけた!
2ポイントの経験値を
かくとく!
3ゴールドを 手に入れた!」
「ええええ? 宿って一晩3ゴールドだよね。一所懸命戦ったのに、宿一晩のお金だけ?」
「体力低下確認、やくそうで回復をお勧めします」
劉凡菲はポケットを漁って、一本の薬草を取り出す。口に入れちょっと齧ったら、ぺぺぺと吐き出す。
「この薬草、にがああい。薬草食べたくない。あたし、病院に行きたい。っていうか、高級料理たべた~い、豪華ホテルで休みた~い」
「以上のコンテンツ、このゲームに入っておりません」
そしたら、劉凡菲は地べたに座って、愚痴る。
「なによ、このゲーム。りゅうおうを倒して世界を救う勇者なんでしょう。何でレベル1で一番弱いスライムすら苦戦するへっぽこりんなのよ。姫を救ってくれって言ったくせに、現金100ゴールドとたいまつと鍵しか与えないって、本当に娘を救う気あるのかよあのバカ国王。
それに、りゅうおうもバカだね。こんな貧乏でバカでへっぽこの国なら、スライム100匹ぐらいで征服できたでしょう。なんでずっと海の向こうで待機するのよ」
「血圧上昇確認、怒ってらっしゃるのですか?」
「あったりまえよ」
劉凡菲は寝転んで、
「本当に一番むっかつくのは、このゲームはなぜ中断とか、ゲーム終了ができないの? ゲームクリアか、外部から操作しないと現実世界に戻れないって、冗談じゃないわよ」
「深夜無人の状況で侵入者がゲーム起動するシチュエーションを想定しておりませんから」
これを聞いて、頭に来たのか、劉凡菲はすぐ立上げ、空に向かって、
「ええ? あたしのせい? あたしはあのへんな椅子に座っただけなのに」
「エラー原因調査中、しばらく時間かかりますので、ゲーム変更はしますか?」
劉凡菲はまた地べたに座って、ちょっとため息をする。
「ええええ? でも、ほかのゲームって、ブロックを消したら、倉庫の荷物を整理するパズルゲームでしょう。あれ苦手なのよ」
「ホラーゲームのほうはいかがでしょうか」
「バカなこと言わないで、ホラーっていうのはね。格好いい彼氏の腕を抱きながら、キャーキャーしながらやるものなの。そして、怖い場面があったら、彼氏の懐に入り、慰められたら、あつ~いキ、キスするの」
劉凡菲はぶつぶつと、赤面しながら独り言をしゃべる。
「心拍数上昇、ホルモン分泌増速開始、原因分析、ストレス。対策プラン、その場でマスターベーションを強くお勧めします」
「ば、バカなこと言わないでよ。誰がここでオナニーするのよ」
「では、引き続き、今のゲームをお楽しみください」
は~っと長い溜息をし、どうやら、選択余地はないようだ。なら、最悪の場合、翌日銭氏テクのスタッフに発見され、解放されたら、道が迷って間違って入ってしまったと言い訳するしかない。古天仁の依頼は、日を改めてやるしかない。
先ほどいっぱい突っ込んだが、このゲーム自体は実に面白くて、景色も美しいし、モンスターもかわいい姿をしている。特にあの丸い形のスライムは、結構のお気に入り。
もし救出されるまでクリアできなかったら、原作を探してやってみたくなる。
「ねえ、このゲームって、確かに災前ある有名なゲームをベースに作ったって言ったよね。ゲームタイトル教えて」
しかし、返事はない。
「ハナちゃん?」
やっぱり返事がない。
また何かシステムエラーと思って、とりあえず剣と盾を拾い、劉凡菲は冒険を再開する。これからどこに行けばいいのかはわからないが、村人と会ったら会話したり、洞窟発見したらとにかく入ってみたり、ちょこちょこと前に進んでいる。
ただ、モンスターにやられたら、目を開けると、王様の前に戻され、罵られるうえ、お金も半分消えることは理不尽だと思う。たぶん、運搬されるとき、誰か財布を漁ったのだろうと、劉凡菲は思う。
やっとのことで、ゲーム最初の目的は達成した。ドラゴンを倒し、姫を救出成功。とりあえず宿屋に行って一晩休憩しようとしたら、久しぶりに、機械の女性声が聞こえてくる。
「悪いニュースがあります」
「聞きたくない」
「あなたは死ぬかもしれません」
「今夜もういっぱい死んだわ」
「ゲームキャラではなく、あなた本人が」
抱っこしている姫を地面に落とし、劉凡菲は慌てて頭を上げ、
「えええ? ど、どういうこと? 地震? 火災? それとも、あの椅子が漏電?」
「否定、外部の刺激があれば、強制終了になります。システムにより、脳負荷がオーバーフロー、前頭葉、頭頂葉に充血、酸素欠乏検出。システム強制シャットダウン、不可。脳損傷確率、98.35%、脳死確率、67.25%。損害発生タイムリミット、5分」
「ごごごごごご、5分?」
劉凡菲は慌てて口を挿む。
「ゲーム時間、およそ、120分」
「ああ、よかった。120分なら楽勝、って楽勝じゃないわよ。ハナちゃん、このゲーム、二時間でクリアできるの?」
「RTA世界記録なら可能です。しかし、現在プレイヤー熟練度、達成確率、0.01%」
これを聞いて、劉凡菲はまだ地べたに座り、
「じゃ、じゃあ、あたしは死ぬか、バカになる確定?」
「ゲーム変更なら、2時間以内クリアできるゲームがあります。変更になさいますか」
劉凡菲はすぐ立上げ、隣の姫を蹴り飛ばし、
「当然よ。今すぐ変更なさい!」
「了解です。ナウローディング」
しばらくしたら、周りの風景が一変、穏やかな森や山が消え、かわいいモンスターたちも消え、代わりに、血と錆びた鉄骨で構成された校舎が現れる。
そして、リボルバーと鉄バイプを持っている。
「え? まさか、二時間でクリアできるって、あのホラーゲーム?」
「肯定、すでにラストフェイスに突入したセーブデータから再開します。ナビゲーター致しますので、最深部のラスボスを倒してクリアになります」
ちょっと悪い予感はするが、命にかかわっているので、劉凡菲は仕方なく、武器をもって、ハナちゃんの指示通りに学校の中に入る。レベル概念がないため、前のゲームより幾分身軽になるが、それでも中年おっさんくさい動きしかできない。
暗闇の中、劉凡菲は懐中電灯で道を照らすながら、中に進む。しばらくしたら、やっぱりというか、雑魚敵が出現する。すぐ鉄バイプをもって、応戦しようとするが、すごく動揺する。
半透明の化け物だ。鋭い爪をもって、熊かなにかの動物かもしれないと、一見ならそう思う。しかし体が非常に小さくて、そして動きから見ると、動物というより、人間の子供のほうが近い。
これを見て、劉凡菲の持っている鉄バイプは震えはじめ、そしてどんどん後ろに下がっていく。
「素早くモンスターを倒してください」
「で、できない……」
手が震えている劉凡菲は、すでに退路がなくなった。怪物たちは、爪を振って、遠慮なく彼女の肌に切り刻み始める。この痛さは、スライムの体当たりの比ではない。
「素早く反撃開始してください。体力、デンジャー状態。ゲームオーバー後の再開ポイントは、ゲーム最初期、行方不明の我が子を捜査し始めるところ」
これを聞いて、劉凡菲は絶叫し始める。
ヒステリックになって、鉄バイプを振ったり、銃を乱射する。それとともに、怪物たちの骨が砕けた音、血を噴いて倒れる音が絶たない。
十数分後、無数の化け物死体の上に、劉凡菲は突っ立っている。目が虚ろになって、ぼーっとする。しばらくすると、顔についている血を拭き取って、
「ラスボスのところに連れなさい。このくそゲームをさっさと終わらせる」
「それなら及びません。すでに後ろにいます」
振り返ってみると、後ろに確か何かいる。しかし、想像したグロい怪物などではなく、一人のアンドロイドの少女だ。青い半透明の宝石で作り上げたボディが、その場にふさわしくないぐらいに、美しい。
「あたしを倒せば、ゲームクリアです」
「なぜあたしを怒らせた」
「二重保険です。あなたの本当の実力を知りたい、それだけです」
すると、青い少女の体が展開して、数十個発射口が現れ、そして無数の小型ミサイルが、劉凡菲に飛ぶ。
しかし、劉凡菲は全くよける気がなく、あと数センチで届けるところで、鉄バイプを一振りして、空中で綺麗な円を描きながら、すべてのミサイルを撃ち落した。
そして、鉄バイプとリボルバーを捨て、手を挙げたら、金属の腕輪が現れる。金属の腕輪は銀色のリングに、そして一本の長いサーブルに変化する。これこそ、劉凡菲のパオペイ、金剛琢だ。
「まさか、あたしの作った制限を破れるとは、ますます期待できます」
青い少女は、両腕から二本の青い透明の剣が飛び出し、そして背後の装甲が展開し、たくさんのブースターが噴射して、劉凡菲に突進する。
錆びたフェンスで囲まれた夜の校舎から、金属のぶつかる音が聞こえる。二人の女性が、剣をもって、空中で何度も交差し、火花を炸裂。
腕なら劉凡菲のほうが上だが、機動力なら青い少女のほうが有利で、少女はまた頻繁に結界らしきものを作り出し、劉凡菲の動きを制限する。数十ターン戦ったら、少女は劉凡菲を地面に叩き落とす。無防備状態の劉凡菲を見て、少女背後のブースターはすさまじいエネルギーを噴出し、猛スピードで突進する。
しかし、あと一メートルぐらいで届くところで、劉凡菲のドヤ顔を見る。まずいと思ってすぐ正面からもブースターを展開してブレーキしようとしたら、時すでに遅し、地面からたくさんの石柱が飛び出す。青い少女の体を挟んで貫く。
「とどめを刺す前に、あの妙な結界を張るべきよね。これで、チェックメイト」
劉凡菲はサーブルを少女の頭に指し、
「で、あんたの頭を切り落とせば、ゲームクリアかしら? ハナちゃん」
「否定、あたしは本当のラスボスではありません。このゲームはすでにあたしによって改修され、永遠にクリアできない状態となっております」
「な、なんだって?」
劉凡菲は一瞬動揺するが、ちょっと考えたら、
「でも、ゲームをクリアできないように改修できるのなら、逆に一瞬クリアできるような改修もできるでしょう」
「すぐばれたのですか」
ハナちゃんは頭を上げ、満足そうに劉凡菲を見て、
「あたしの願い、ちょっと聞いてくれますか」
ハナちゃんの願いとは?
次回を待て!
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