第百六話 『虚像のアイドル』
劉凡菲と竹内唯の話
「ねえねえ、キミ」
白衣の研究員が、きょろきょろと周りを見て、小さい声で竹内唯に声をかける。
「まさかと思うが、凡菲姉貴は引退するつもりじゃないだろうな」
「え?」
竹内唯は研究員をちょっと見て、そして視線をパソコンに戻し、引き続き作業しながら、
「何言ってるのですか。そんなことないですよ。」
「でもさ……」
研究員は椅子に座り込み、天井を見る。
「なんでいきなりこのヴァーチャルアイドルプロジェクトに参加するんだろう。自分のヴァーチャルバージョンまで作ってさ」
ヴァーチャルアイドルプロジェクトとは、銭氏テクが行っている芸能人複製再生プロジェクトのことだ。災前のボーカロイドやVTuberではなく、AIで実在の芸能人を真似すること。すでにいなくなった芸能人を“復活”させたり、忙しいアイドルの代わりに働いたりすることが可能になる。
だから、研究員の心配も無理はない。現に劉凡菲はもうそろそろ三十なので、急に結婚発表して引退する可能性が十分ありうる。しかし、彼女の影響力はあんまり大きすぎたので、引退しても、ヴァーチャルアイドルが彼女の代わりに活躍してもらいたく、プロジェクトに参加したという線も、考えなくもない。
「考えすぎですよ。凡菲さんはただこれから忙しくなるよ。ヴァーチャル凡菲がいると助かるから、このプロジェクトに参加したんです」
「へえ、そうかぁ。よかった! 本当は首吊りの縄まで用意したんだよ」
研究員はほっとして、そして色紙を取り出し、竹内唯に渡す。
「じゃあ、ちょっとサインを頼んでいいかな?」
こっちが本題かな? 竹内唯はすでに色紙がいっぱい詰まっているカバンを見て、苦笑いして、色紙を受け取る。
「にしても、凡菲姉貴はまだ戻らないのかね?」
劉凡菲は、確かに竹内唯の言った通り、忙しくなる。ただし、アイドル活動ではなく、猟魔人としての話だ。彼女はもう野良猟魔人ではなく、正式監視の眼に参入し、今は古天仁の部下になった。
そして、竹内唯は劉凡菲の鼠尻尾だ。本来なら、鼠尻尾っていうのは、猟魔人の仕事を記録し、報告して報酬をもらう役割だが、今回はちょっと違う。本当は共に行動することで、劉凡菲が竹内唯を守ってもらうための処置だ。
ドックビル事件で、竹内唯は吸血鬼ノスフェラトゥの娘であることを発覚し、そして、どうやら現在吸血鬼は狙われていることはわかった。彼女が血に飢える怪物にならないため、そして謎の組織から守るため、二人は一緒に行動することになった。
さらに、劉凡菲が銭氏テクに来てヴァーチャルアイドルプロジェクトに参加するのも、もう一つの目的がある。古天仁が彼女に依頼して、探し物しに来た。
探すものとは、アンジェリナの盗まれた基盤だ。古天仁の話では、あれは銭氏テクにある可能性が高い。ネオシャンハイトップレベル影響力のある会社なので、警察が直接調査するのが難しい。だから、プロジェクトの間で、こっそりと調べてもらうと思って、劉凡菲をプロジェクトに参加させた。
今の情報では、怪しいのは、18階、13階、そしてB2だ。18階は今回プロジェクト実験室の階層で、すでに調査済み。では、トイレに行くと言って、こっそりと13階に見てみると、劉凡菲は思う。
さすがハイテクの大手企業だけあって、すでに夜遅くなのに、13階に警備員がいっぱいいる。しかし、劉凡菲の前では、すべてに無意味だった。人に幻覚を見せる能力を使わなくても、彼女の腕では、警備員たちの目を盗んだあっちこち調査するのは楽なものだ。が、彼女にとって、今回の仕事は楽じゃない。なぜなら、彼女はかなりの機械音痴で、詳しい特徴やパーツの番号などはいろいろと教えられたが、彼女から見ると、こういった電子部品は、全部同じに見えてしまう。
いまは、まさしくその困っている状況だ。劉凡菲は13階であるでかい実験室を見つけたが、中にいろんなパソコンや機械がいっぱいあって、探すのに結構大変だ。入る時点で目が回り始める。
実験室の中に、たくさんの机があるが、机は回の字で、真ん中を囲んでいる。真ん中には、でかい金属の椅子がある。歯医者ところ、患者が座る椅子と結構似ている。
あちこちを見てみたら、それらしきものはなく、精神的に疲れたのか、劉凡菲は真ん中の椅子に座って、ちょっと休憩しようとする。そしたら、急に後頭部から痛みを感じ、そして次の瞬間、目の前が真っ暗になって、気を失う。
再度目を開けたら、奇妙な空間にいる。上も下も、白い水があり、体は宙に浮いていて、まるで見えない床があるのように、自由に歩ける。歩いたところで、上下の水面に波紋が起きる。しばらくしたら、機械的な女性の声がする。
「VRゲーム世界、テストバージョン0.1.5へようこそ。」
…………
……
…
話はちょっと変わり、18階の収録現場に戻る。劉凡菲は全然戻ってこないから、スタッフたちは一旦休憩に入り、インスタントラーメンを食べ始める。竹内唯はその隙で、ちょっと実験室から出て、劉凡菲を探す。18階のトイレにいない。ではもしかしてビルから出て、外の空気を吸いに行ったのではないかと推測し、竹内唯はエレベーターで下に向かう。
一階に到着し、エレベーターのドアが開けたら、そこで一人のアジア系少女が待っている。巨大な豚のぬいぐるみを抱いて、竹内唯が出るのを見たら、エレベーターに入る。二人がすれ違った瞬間、竹内唯は何か違和感を感じる。まるで静電気いっぱいのものとすれ違ったのように、全身の毛が立つ。
振り返ると、少女はすでにB2に行った。好奇心か、竹内唯もすぐエレベーターに戻って、B2に向かう。ドアが開けたら、倒れた警備員が二人いる。特に外傷はなく、息もしている。気絶しただけみたい。
B2の半分は地下駐車場で、半分は倉庫だ。なら、少女はたぶん倉庫に行ったと思って、竹内唯もすぐ倉庫に向かう。
こっそりと倉庫に入ると、たくさんのデカイ金庫がある。何か重要なものが入っているみたいだが、少女の姿がない。
そして突然、後ろから巨大な何かの力を感じ、そして空中に浮かぶ。すると、前の少女が現れる。
「あなたも、やつらの仲間?」
「ちょっと、意味が分からない」
少女はちょっと竹内唯を見て、
「ま、いいわ。心配しないで、命は奪わないわ。でもここでおとなしくして」
すると、手を挙げたら、後ろの金庫のドアが一斎開ける。そして、少女は金庫の中身を探し始める。目当てものもは、どうやらCDなどの資料らしい。
ちょっと数枚溜まったら、少女はすぐ倉庫においてあったパソコンで中身を確認する。パソコンにそれなり熟練の高校生である竹内唯が全然比べられないぐらいのスピードで、キーボードを捌いて、内容を確認する。
命は奪わないといったが、ずっと空中に縛られるのは気持ちいいものではない。竹内唯はちょっと足掻いたら、なぜか微かに透明のチューブらしきものが体に纏まっていることが見える。そして手に力を入れて引っ張ったら、チューブは灰になって、そして地面に落ちって尻餅をくらう。
少女のことはやはり気になるが、怪しい特殊能力あるし、別に悪い人でもないので、やっぱり関わらないほうが身のためだと思って、竹内唯は帰ろうとする。が、急になにかが少女に向かっていることを感じて、
「危ない!」
すぐ跳んで、少女を押し倒す。すると、三枚の鋼の針が、十数センチにも及ぶ、分厚い金庫のドアを打ちぬく。
頭を上げると、また十数本の針が飛んでくる。少女はすぐ手を上げ、すると、針が空中に止める。しかし、すぐ灰色の巨大な怪物が突進してきて、二人を吹き飛ばす。
「まさか、先客がいるとはな」
上半身が人間、下半身が巨大な魚か、蟲みたいな形になって、下に一行の足がある。しかし、足は着地せず、体が空中に浮いている。両腕には巨大な鎌がついて、背後にたくさんの針がある。そして全身はツルツルの灰色の皮膚が覆われている。
「例のものだけではなく、見た人間を消すと、こういう依頼を受けたんだ。悪く思うなよ。」
すると、怪物の両鎌から、またたくさんの針が生え、背後のものと一緒に、部屋中に発射する。しかし、まだ少ししか飛んでないのに、すべての針が止る。そして方向が変わって、怪物に刺す。怪物はちょっと悲鳴して、そして地面に落ちる。
やったのは、例の少女だ。しかし、力が使いすぎたのか。少女もすぐ倒れる。竹内唯はすぐ少女に駆けつけて、肩を貸す。
「ねえ、大丈夫? あたし、竹内唯、あなたは? 何しに来た?」
少女は耳に付けている翻訳機をちょっといじって、不思議そうに竹内唯を見て、そしてやっと口を開け、
「あたし、北条玲。ちょっと探し物があるの。」
すると、北条玲は、引き続き、金庫の中身を漁る。
「い、一体何を探しているの?」
「わかんない」
「え?」
ちょっと耳を疑っているが、北条玲の顔を見て、どうやら冗談じゃなさそうだ。
「とにかく、地下避難時期の出版物、全部。確認したいものがあるの」
竹内唯は地面の怪物死体を見て、ちょっと考える。そしたら、一緒に金庫を漁る。
「あたしも手伝うわ。でも、悪用しないことを約束して」
竹内唯を見て、北条玲はちょっと微笑んで、そして頷く。しばらく共同作業したら、ついに一枚のCDRを見つけた。中身は地下時期新聞紙のハードコピーだ。北条玲はすぐぬいぐるみの鼻から一枚のディスクを取り出し、中身をコピーし始める。
すると、突然、灰色の鋏が現れ、二人の首を挟んで、そして持ち上げる。
「先はちょっと甘く見たが、今度はそうはいかんぞ。まずはお前たちの首を折って、そしてじっくりとここのものを壊す」
そして、ボキボキと、骨が折れた音がする。
復活する怪物、果たして二人の運命は?
次回を待て!
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