第百五話 『諸葛夢討伐共同戦線』
アンジェリナは安否は? 諸葛夢とカイの運命は?
目が覚めたら、前に巨大な人影がいる。緑色の人影だ。目の焦点を調整し、今度こそよく見えた。オーガだ、たぶん。がんばって回想し、これで、アンジェリナはようやく状況を理解できた。
話をちょっと遡り、アンジェリナはキースと左騎の陰謀を見破り、ミニレールガンで二人を気絶させたが、覚醒者の力を甘く見てしまった。普通の縄だけで縛って、あっという間に解かれた。これで形勢逆転になると思えば、キースが妖しい術を使う前に、巨大な影が別荘に入ってくる。そして強い衝撃を受け、アンジェリナは気を失った。
「ほう、目が覚めたのか、大したもんだ。こっちだって悠長に待つつもりはないんでね」
しゃべっているその時、もう一匹のオーガが壁の大穴から入ってくる。両手に二体の死体を持っている。頭はすでになくなったが、服装から見ると、キースと左騎だった。
「な?! なぜ殺した? まだ聞きたいことがあるだろう!」
「いや、だから、こいつら抵抗しやがったんだよ兄貴。それに、オラ、お腹空いたよ」
そのオーガは、むしゃむしゃと、左騎の体を食べ始める。これを見て、アンジェリナはすぐ吐く。
「まあ、人間の小娘にとっては、ちった刺激が強すぎたかな。だが、ああならないように、変な真似をするんじゃねえぞ」
しばらくしたら、やっと吐き気が収まり、アンジェリナはオーガに聞く。
「い、一体何する気?」
「簡単だことだ。銀髪猟魔人野郎の在りかを教えろ。」
銀髪猟魔人? 少なくとも、アンジェリナの知っているのは諸葛夢だけだ。
「ど、どいうことなの?」
「とぼけるな! この辺りに出現した情報が入ったんだ。銀色の髪に赤い目、間違いねえ! あいつは俺の大親友の息子を喰った! これは我々オーガ族によって、最も不名誉な死に方だ。俺は必ず、あいつを殺して、こわっぱの仇をとる!」
あれは、確かに地下墓地の時、諸葛元が剣魔百吼を挑発するためにやったこと。
「さあ、早く吐け! さもなくば、痛い目にあうぞ!」
「か」
「「か?」」
「かっこいいいいいい!」
アンジェリナはすぐリーダーオーガの手を握り、
「ついに、ついに来たのね! あのゲス野郎をやっつけていただける方が現れたのね! あっし、感謝感激だよ。ぜひとも、あのゲス野郎の討伐に、参加させてくだせい、旦那!!」
「お、おおう。か、顔ちかい」
リーダーオーガはちょっとアンジェリナを押して、
「で? お前もあの銀髪野郎の被害者かなんかか?」
「そうだよ! あの銀髪ゲス野郎、名前は、しょ、猪鋼裂!」
「肛裂※①? なんか痛そう」
まだ左騎の死体を食べているオーガが、お尻をボリボリ掻きながら口を挿む。
「あっし、昔、ネオシャンハイで、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に、幸せな生活を送っていた。しかし、ある日、あの猪鋼裂は急に現れ、あっしの家を占有した。おじいちゃんは抵抗してみたが、あいつに殺され、おばあちゃんは通報しようとしたら、あいつに犯された。およよ」
「お、おばあちゃん? あいつ、物好きだな」
「そして、ネオシャンハイはもう満足できなくて、無理やりあっしを一緒に連れてきて、外に出た。あっしは、そんなことや、あんなことや、いっぱいされた。ほよよ」
「え?そんなこと、あんなこととは?」
アンジェリナはちょっと指で招いて、三つの大きな頭が揃っていく。
(はわ、もう一人いるの? 全然気づかなかった……ま、いっか)
ちょっと小さい声で三人のオーガに説明したら、三人とも顔が真っ赤になって、そしてリーダのオーガはまた憤慨する。
「猪鋼裂! この人でなし! 小娘になんってことを!」
そしてアンジェリナの両肩を掴み、
「どうやら、こわっぱの仇だけでなく、お前さんの純潔の仇も一緒に取るべきだな」
「では、同盟結成と考えていいな」
アンジェリナとリーダーオーガは強く握手する。
「俺の名は強大、今まだ人を喰っているやつは強力、口数の少ないやつは強化。我ら三人こそ、オーガ三! 強! DIEだ!」
三人のオーガはそろってポーズを取る。これを見て、アンジェリナはちょっと沈黙して、
「あ、あっしの名は、アンシガンドゥ※②、ヨロシク!」
無理やり三人の中に入り、一緒にポーズをとるアンジェリナ。
「よし、なら、猪鋼裂の居場所を教え、一緒にやつを殺しに行こうではないか?」
「ちょっと待った! 本当にこのまま行く気? しょ、猪鋼裂は、かなり手ごわいぞ」
これを聞いて、強大は大笑いして、片手で柱を掴み、ちょっと握ったら、大理石が粉々になった。そして再度筋肉ムキムキポーズを取る。しかし、これを見て、アンジェリナは頭を振って、
「強大の旦那は確かに強い、しかし、あの猪鋼裂はたぶんあんさん以上だよ。彼は何と、剣魔を倒したことがある」
「剣魔ってなに?」
「え? お前、剣魔も知らないの? ちょっと勉強しろよ」
強大は強力にツッコムが、ちょっと考えて、どう説明するのかは、わからない。
「剣魔とは、いにしえの中高位魔族だ。戦闘能力だけなら、魔界では、魔竜族に次ぐ、二位とされる。魔界のみならず、人間界の多くの武術も、剣魔が開発して伝授したらしい。かの一族は一生修行して、最後は魂を剣などの武器に移るから、剣魔と呼ばれた。
かつて剣魔たちも王国を築き上げたが、武道にしか興味ない種族のため、ちゃんとした国家の機能ができなかったうえ、国王と王子王女は全部失踪し、国自体は崩壊した。
今となって、かなり珍しい種族なため、強力兄貴が知らないのも無理はない」
三人は、ポカーンと、今まで全然喋らない強化を見る。しばらくすると、
「ケッホン! で、でしょう。猪鋼裂は剣魔をも倒したのよ。これでも勝てる自信があるの?」
これを聞いて、強大はちょっと躊躇う。
「どうする兄貴? 菖蒲姉貴は全員集合って言ったし、復讐はあきらめよう」
「な、何言ってるんだ?」
強大はまずきょろきょろと周りを確認して、
「あの女狐はゴブリンたちにしか興味ない。俺たちは完全にパシリ、雑務係だ。誰が行くもんか」
そして、強大はアンジェリナに向かって、
「じゃあ、アンシガンドゥ、先は意気揚々同盟組んだが、お前は何か策があるのか?」
「ふ、ふふ、ふわははははは、よおく聞いてくれた! あっしは、あの猪鋼裂の弱点を知ってるのよ」
「ほ、本当か?」
強大は態度が一変、まるで女神を見てるのような目でアンジェリナを見つめる。
「まあ、まずは聞くが、あんたたち、飛べる?」
強大強力は頭を振って、
「ご先祖様なら少々」
「じゃあ、マナは扱える?」
「何がマナだよ、女々しい。魔力だ。俺たちオーガを甘く見たな。魔力ぐらいなら、いくらでも使えるぜ」
すると、アンジェリナはポケットから、ボロボロのアメシストを取り出し、
「これに、マナ、もとい、魔力注入できる?」
「わっはっは。なんだ。安い御用よ」
強大はアメシストを取って、ちょっと考えたら、また強化に渡す。
「強化、お前がやれ」
強化はアメシストを取り、目を瞑って、力を溜め始める。たくさんの光点が、アメシストに集中して、そして眩しい光は放つ。
「できた」
アンジェリナはすぐアメシストを取ろうとするが、どういうわけか、どう引っ張っても、空中に停まっていて、びくともしない。そしてまたしばらくすると、アメシストから光点が消え、これでやっと地面に落ちる。
「ど、どういうこと?」
「これはこっちのセリフだよ。アンシガンドゥ! このおもちゃに魔力注入と、猪鋼裂打倒にどういう関係がある? 説明しろよ」
「それはね、猪鋼裂を倒すには、飛ぶ必要があるのよ」
アンジェリナはアメシストを振りながら、三人に説明する。
「あの猪鋼裂はね、最大の必殺技は、スペシャルデラックスゴールデンデリシャスハイパワーボロっ、大旋風だよ。あの竜巻の威力は半端なく、半径数十キロのあらゆるものを木っ端みじんに破壊しちゃうのよ。しかし、あの必殺技にある弱点がある。それは……」
アンジェリナは指を上に指すと、強大強力は同時に別荘の天井を見る。
「「天井に何もないよ」」
「上だよ上! 竜巻の上は弱点なのよ。だから、もし飛ぶ手段があれば……」
「あいつに脳天直撃できるのかぁ。しかし、このボロおもちゃはダメだ。これは確かに、ええっと、あの……」
強大は何かを言おうとするが、ちょっとド忘れか、なかなか言えない。これを見て、強化は説明する。
「空中鎖定魔法。お前たち人間も理解できる言葉で説明すると、空中の特定の座標に固定する魔法だ」
「じゃあ、ほかに何か飛べる魔法ってあるの?」
強化はちょっと考えて、
「空に飛ぶ魔法ならたくさんあるが、わたしの知っているものなら、浮遊魔法……かな?」
「使える?」
強化は頷いて、また目を瞑って力を溜める。しばらくすると、
「できた。ちょっとわたしを持ち上げてみて」
試しに、アンジェリナは強化を持ち上げる。なんと、三メートルにも及ぶ巨体が、風船のように、軽々く持ち上げる。
「これって、もしかして?」
アンジェリナの両目がキラキラになって、すぐ強化を連れて、地下室に走る。状況を全く理解できない強大強力も仕方がなく、あとを追う。
地下室には、アンジェリナが修理した研究用設備が数台あり、どうやら、これらの設備は、空間観測測定設備だった。すぐコンピューターを起動して、いろんなセンサーを強化に向かう。
「やっぱり、地球重力によっての空間歪みから、乖離している。浮遊魔法の真相は、反重力魔法なのね」
アンジェリナは頭を上げ、強大強力に向かって、親指を上げる。
あれから、アンジェリナは強化と相談したながら、ある設計図を書く。そして強大強力を指揮して、設計図通りにあるものを作り始めた。途中何度も寝てしまったが、丸一日かかって、巨大な檻が出来上がる。
三メートルにも及ぶ巨大な丸い檻だ。周りは柵ではなく、鋭い鉄片になる。真ん中は巨大な円盤があり、円盤の上にたくさんのケーブルがある。ケーブルは一本の太い鉄棒に繋がり、棒の上に強化が彫った魔術の印がある。
「「なんじゃこりゃ」」
「へへへん。今まではSF小説にしか存在しない。反重力飛行装置、名付けて、試作型ペガサスPGX0ハイフン1!」
「「お、おお」」
強大強力は全く理解してないが、一応相槌はする。
「本来ならロケットエンジンとが、ジェットエンジンを積みたいけど、時間も材料もないもんね。真ん中の円盤は反重力装置で、周りに鉄片は回転翼で動力を提供する。そこで、あなたたち三人は、中に入って、魔力を提供してもらうよ」
「え? なんで俺たちが?」
「エネルギーだよエネルギー。エネルギーないと飛べないよ。それに、あなたたちは飛んで、猪鋼裂を倒すでしょ」
強大強力は、拳を掌に叩いて、納得する。
「よし、では、まずは一回テストしよう。さあ、入った入った」
アンジェリナは三人のオーガを檻の中に入らせ、そうしてやり方を教える。三人は真ん中の鉄棒を握って、意志集中して、魔力を棒に注入すると、下の円盤は青く光り、檻の外側が回転し始める。しばらくすると、檻が浮かび始める。
「アンシガンドゥ! う、浮いたぞ! でも本当にこれでいいのか? め、目が回るぅぅ」
檻が回ると同時に、中の三人も一緒に回転し始め、そしてスピードがどんどん速くなる。
「あ、しもった。設計ミスで、中のモルモッ、じゃなくて、パイロットも一緒に回転しちゃう。あ、手を離さないで! 遠心力で外側に飛ばされたら、ミンチになるよ」
「ええええええ? じゃ、じゃあ、早く止めて!」
「やべええ、あっし、ブレーキなども一切入れてないわ。それに、方向も変更できないの。だから、こうするのよ」
アンジェリナは地面に置いてあった一本の鉄板の上に跳んだら、鉄板のもう一方が上げ、試作型ペガサスを諸葛夢の行った方向に弾き飛ばす。
「まあまあ、魔力が尽きたら、自然に止まるよ。ねえ、聞いてる?」
アンジェリナは走って、試作型ペガサスを追うが、なぜか、檻の中から、罵声しか聞こえない。
「は、謀ったな! アンシガンドゥ!」
「坊やだからさ」
飛行装置は一度地面に墜落したが、まだまだ魔力が余っているのか、すぐ再度上昇する。そしてやがて、星となって夜空の中に消えてゆく。
「バイバイ、試作ペガサスPGX0ハイフン1、バイバイ、三強DIE、強く生きるのよ、しくしく」
廃墟から、諸葛夢とカイを救出し、三人は別荘に戻って、ちょっと休養を取る。
翌日、ほぼ回復した三人は、引き続き西に向かう。カイが運転して、アンジェリナは諸葛夢とちょっと雑談する。アンジェリナは、ある質問する。二重人格で、人格が変わったら、やったことはまだ記憶にあるのか。
諸葛夢はちょっと考えて、頭を振る。そこで、アンジェリナは、地下墓地で、諸葛元が子供オーガを食べたことを彼に告げる。
あれからしばらくの間、諸葛夢もアンジェリナと一緒に肉を食べなくなったとさ。
めでたしめでたし
※①痔の一種
※②俺はバカの意味
三人そろって、さらに西に向かう。次待っているのは、どんな冒険なのか?
次回を待て!
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