第百二話 『マスドライバー』
消えた魔剣
月明りが灯す夜空、二体の黒影が交差する。
交差するたびに、激しい金属音がする。数十ターンの交戦で、二体はやっと着地し、体勢を調整しながら、次の攻撃チャンスを窺う。
黒影の正体は、諸葛夢と熊の化け物だ。熊の化け物、本当の名称は、風熊、魔族。
時間をちょっとさかのぼり、アンジェリナはボルダリングカーのトランクを見たら、絶叫する。トランクに入れておいた魔剣は、なくなった。これを見て、いつも冷静の諸葛夢も、ちょっと動揺する。
「魔剣は? なぜ消えた?」
「わ、わっかないんわよ。も、もしかして誰かが盗んだのかな?」
「ちゃんとトランクリッド閉じた?」
これは本当にわからない。当時は魔剣を高野に見せ、結構調子乗ったから。キーピックの達人がトランクリッドをこじ開けて盗んだ可能性はあるが、うっかりちゃんと閉めずに帰った可能性も十分ある。
「お前、アホか!」
「何よ! アホって言った人のほうがアホなんだよ」
ちょっと喧嘩したら、誰かがやってくる。月の光を借りて、来る人物は高野だとわかる。
「おやおや、お二人とも、夜遅く寝ないで、ここで痴話喧嘩か?」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
喧嘩理由を高野に教えたら、高野はちょっと考えて、
「ジョーシティの住民では、キーピック出来る人間なんて聞いたことないな。これ、もしかして魔族の仕業かもしれん」
「この辺りに魔族がいるのか?」
「ああ、北のほうに、荒地があってな。荒地に二棟の廃棄ビルがあって、すぐ隣で小さなシェルターがあり、そこで風熊が住んでた。もしかして、あいつがやったかも」
諸葛夢はちょっと考えて、不思議と思い、
「風熊? あれはめちゃくちゃおとなしい魔族だぞ。猟魔人組織に指名手配されたこともほぼない。それに、あいつらの爪じゃ……」
全く無傷のトランクリッドを見て、諸葛夢は半信半疑だ。
「じゃあ、もしかして、昼の強盗達がやったのかな?」
「いや、ついさき、わたしは彼らのアジトに偵察してきた。あの状況じゃ、ここに来れる奴なんていないよ」
諸葛夢昼頃のあばれっぷりじゃ、確かに動ける強盗はもうほぼいないだろう。なら、仕方がなく、諸葛夢はとりあえず風熊のところに行って、イチかバチか探してみるしかない。
行こうとしたら、アンジェリナも後ろについてくる。これを見て、諸葛夢は彼女の頭を掴み、
「何する気?」
「い、一緒に探しに行く」
「足手まといだ。ここでポテトでもかじって待ってろ」
封印解除は24時間一回しかできない。先ほど消火作業の時にすでに使われたから、確かにアンジェリナがついていっても大した意味がない。諸葛夢が数回ジャンプで、暗闇の中に消える。
「あの……ムウ、北はあっちだよ」
十数秒後、諸葛夢は南から戻り、改めて、北に向かう。
「くそお、ムウめ、待ってろよ。後で仕返してやる」
「あ、行っちゃったのか。諸葛君一人だと、危険かもしれんな」
「え? どういうこと? 風熊って、めちゃつおいの?」
高野はアンジェリナに説明する。確かに強盗団は一匹風熊を倒したが、あれはあくまでも子分に過ぎない。あのシェルターには親分の風熊が住んでいて、諸葛夢といえど、そう簡単に勝てないはず。
「もっと早く言ってよ。じゃあどうするの? 高野さん、助太刀に行こう」
「そうだな。微力ながら、参ろう」
しかし、アンジェリナはちょっと躊躇う
「でも、高野さんの実力では、焼け石に水じゃない」
「言ってくれるね、キミは。ほかに方法はあるのかい?」
「この辺りに、ほかの猟魔人いないのかな?」
高野はちょっと考えて、頭を振って、
「西方面十数キロー先なら、確かに猟魔人のアジトがあったはずだが、今の状況じゃ、間に合わないだろうね」
「じゃあ、何かすごい武器を作って、ムウに支援しよう」
「すごい武器とは?」
アンジェリナはボルダリングカーを見て、ちょっと考えたら、
「例えば、巨大なパチンコとか?」
「ぱ、パチンコ?」
「あ、ゲーセンのあれじゃなくて、弾を発射装置のことよ」
びっくりしたのか、あきれたのか、高野を苦笑いして、
「わかったよ。作ってから参りましょう」
そして、アンジェリナを連れて、町の中心部に戻る。消火作業が終わったばかりで、オーナーを含め、またけっこうの住人がいる。高野が状況を説明したら、その場の全員を総動員して、アンジェリナの指揮で、巨大パチンコを作り始めた。
一時間ぐらいで、簡易なパチンコが出来上がった。木造のものだが、金属の板や電池などもついている。かなり大きめなサイズなので、ボルダリングカーの後ろに装着して、アンジェリナはすぐ車を運転し、例のシェルターに向かう。
まだかなりの距離が残っているのに、戦闘の音はすでに耳に入る。月光と空中の火花のおかげで、すぐ場所を確認できた。アンジェリナはアクセルペダルを踏んで、前に突進する。しかしちょっと走ったら、車は急に蛇行し始め、高野が運転席を見てみたら、アンジェリナは寝てしまった。彼が慌ててブレーキを踏んでいなかったら、壁にぶつかるところだった。
車を降りたら、どうやら勝敗はすでに決した。一つの黒影が、もう一つの上に立つ。よく見ると、立っているのは、諸葛夢だ。
「おお、さすが諸葛君、やるね。この巨大な風熊をも倒せるとは」
「残念ながら、魔剣はない。ほかのだれかがとったんだろう」
「そうか。でも、魔剣のことならもうご心配無用、ちゃんとこの辺りにある」
ちょっと口笛を拭いたら、廃ビルのところ、魔剣を持っているヒゲが出てきた。しかも、魔剣の亀裂は全部消えた。ヒゲはすぐ魔剣を高野に投げ、剣を受け取った高野は、力を溜め、腕からたくさんの枝が現れ、魔剣を包む。しばらくすると、枝の内からまぶしい光が放ち、枝は次々と枯れてしまい、そして、全く無傷の魔剣が現れた。
「光木の治療術と闇金の修復術合わせて魔剣を修復するとは」
「若いのにさすがによく知ってるね。でも、アルマの出現にまったくびっくりしないのか?」
「風熊の実力ならよく知っている。いくらこいつの子供といえど、あのひげ男にやられるはずがない。なら、だれかが彼を手伝ったのだろう。ジョーシティ辺りで、お前しかない。」
これを聞いて、高野は大笑いして、
「ご名答、再度褒めてやるよ。確かにあの時、わたしが不意打ちをして、あの風熊を倒した。強盗達がいなくなると、こっちだっていろいろと困るんでね」
「オマエ ハンニン!」
倒れている風熊は、突然叫びながら立ち上げる。
「だから、最初から俺じゃないって言ったろう」
諸葛夢は、後頭部を掻きながら愚痴る。
風熊がまだ死んでないことを見たら、ヒゲはちょっとビビる。
「どうする? 急に二対二になったぞ。勝算あるのか?」
高野はぼーっとして、ぜんぜん答えない。
「先の話がまだ終わってない。光木の治療術と闇金の修復術合わせて魔剣を修復するとは、愚かな。意識のない魔剣を手にするのはいかなる危険な行為か、わかってないようだ。お前も早くあの男から離れたほうがいい、命のためにな」
しかし、時すでに遅し、ヒゲはまだ諸葛夢の言葉を理解してないその時、高野は急に叫んで、彼に斬りかかる。そしてヒゲの胸から大きな切口が開け、たくさんの血が噴き出し、地面に倒れる。
当の高野は、表情はすでに歪んでいて、すぐ剣をもって、諸葛夢達に襲い掛かる。風熊は硬い爪で何とか防御して、諸葛夢は避けるしかできない。
その前の戦闘は、いくら諸葛夢はわざと体力を温存したとはいえ、八百長な戦いではない。疲労困憊な状態で戦うから、うっかりと隙を晒す。高野はすぐ諸葛夢に斬りかかるが、幸い風熊が代わりに防御して、これで致命傷は免れた。
諸葛夢は一旦後退して、風熊がメインで戦うが、結果的に大した改善されていない。いくら力を持っていても、爪が鋭くても、高野は完璧に風熊の攻撃を捌き、そしてすぐチャンスを見つけて反撃する。魔剣の一撃一撃が重く、風熊の巨体でも、防御するたびによろめく。そしてついに、高野の全力な一撃で、風熊の爪が折られ、次の一突きで、体が貫かれた。
幸い、致命傷はない。逆に、風熊はすぐ高野を抱く。諸葛夢はすぐ相手の意図を理解し、すぐ地面の切られた爪を拾い、高野の体に刺さる。
これで勝ったのか?と、一瞬諸葛夢は思うが、すぐまだ終わってないことに気付く。高野は力を溜め、激しい闘気を発動して、風熊の抱きを振りほどく。そして、腕から枝が生え、爪の傷にちょっと触ったら、すぐ治れた。
「どうやら、あの剣を持っている限り、なかなか勝ち目がないな」
「ご名答!」
高野はすぐ急突進して、一蹴りで諸葛夢を蹴り倒し、そして彼の体を踏む。
「だが、てめえは何ができるんだ? 相棒の熊はもう立ち上がらねえぜ!」
「バカ……俺が話しかけたのは、風熊じゃない」
「え?」
次の瞬間、金属の音、骨が折れた音、そして剣が地面に落ちた音。
高野は激痛を感じて、己の手を見たら、腕は金属の塊にぶつかれて、変な方向に曲げられている。ヒゲはまだ地面に倒れているから、やったのは彼じゃない。そして振り返ってみると、ボルダリングカーの上に、アンジェリナがパチンコの後ろに立っている。
「やっぱり、金が木に勝つのね。簡易マスドライバーを作った甲斐があるわ」
アンジェリナは車から飛び降り、高野に向かって歩く。
「お、おまえは、まだねてるじゃねえのか?」
「本当に寝たら、あの車のスピードじゃ、あのような蛇行はしない。あれは下手な演技だ」
「あ、ひどい、アンジェリナは全力で寝たふりをしたよ」
諸葛夢は立ち上げ、逆に高野を倒して、彼を踏む。
「全力といい演技は別の問題だ」
「な、なぜだ。なぜ寝たふりなんてする?」
「でなきゃ、ゆっくりとあなたを狙うチャンスがなくなるの。十数キローの猟魔人アジトなら、往復は一時間ぐらいかかる。間に合わないって言ったくせに、アンジェリナがパチンコを一時間かかって作ったのに、全然文句言わないのね。要するに、ムウとクマちゃんが相打ちして、そして人気のないところでアンジェリナを殺せばいいってこと。違うか……」
と話している途中、アンジェリナは目の前が真っ暗になって倒れる。そして今度こそ、本当に寝てしまった。
…………
……
…
再び目を開けると、アンジェリナは体に毛布が掛けられ、ボルダリングカーの副運転席に座っている。そして運転席の諸葛夢は、車を運転している。
「む、ムウ! あの後は……」
「心配するな。全部無事だ。ヒゲ男は運がい、最後の最後、服装を金属化して、致命傷はない。高野はジョーシティの自衛隊に渡され、牢屋にぶち込まれた」
「クマちゃんたちは?」
「子供風熊はどうやら死んでない。傷を治ったら魔界に戻る気だ。魔剣も取り戻した」
アンジェリナはすぐ後ろのトランク中身を確認する。またボロボロの姿に戻ったが、確かに魔剣は回収した。諸葛夢は無言でちょっと運転したら、やっと再度口を開け、
「この前……怒ってすま、なかった」
微かに、赤面になっている。これを見て、アンジェリナは大笑いして、
「やっぱりムウはツンデレ属性なのね」
そしてトランクから、金属の塊を取り出し、遊びながら、
「まあ、謝ったら許してあげる。本来なら、この二発目の砲弾はムウのために用意したもんね」
急ブレーキ
諸葛夢は金属の塊を見て、
「あの高野とやらはともかく、こんなガラクタが俺に効けるはずがない」
「試してみる?」
諸葛夢はすぐ車から降り、十メートルぐらいの先に歩いて振り返る。そして親指で己の胸を指す。
「や~だね。ムウって、本当に男の子。そういう時は強張りするもんね。なら、遠慮なく」
アンジェリナもすぐ車から降り、後ろのパチンコこと、マスドライバーに登って、諸葛夢に照準する。
「ターゲット確認、ツンデレ猟魔人にロックオン、マスドライバー最大出力、発射!!!!」
…………
……
…
カイと合流するまで、車がアンジェリナが運転することになった。
西に向かうたびはまだ続く、次はそろそろカイと合流するのか?
次回を待て!
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