第九十九話 『説明のお兄さん』
新元4年10月9日、ネオシャンハイ周辺、かつて崋山と呼ばれた場所、断崖絶壁の上に、中途半端な洞窟の入り口がある。そこで、アンジェリナと諸葛夢が立っている。
「俺は別に構わないが、このまま捨てても本当にいいんだな」
「大丈夫大丈夫。いろいろ実験したんだよ。パラシュートをつけば、死ぬことはまずないよ」
「パラシュート……か」
二人の足元に倒れているのは、ボロボロのミハイルだ。数本の縄で、大きな布に繋がっている。アンジェリナいわば、これは簡易パラシュートだそうだ。
「まあ、数年後再度登ってきて、ムウに復讐しちゃったりして」
「俺は平○か」
「いやいや、一〇かもしれないよ」
諸葛夢は別にパラシュートが役に立つかどうかはどうでもいい。片手でミハイルを持ち上げ、そして崖から遠く捨てる。ちょっと落ちったら、布が大きく展開し、ちょっと落下スピードを落としたら、壊れてしまい、最後は木のところに落ちた。
「よし! あとは衛兵が彼を発見して、病院送りだね」
「敵なのに、そこまでする?」
「ムウがやりすぎたよ」
「俺のせいか」
時間をちょっとさかのぼり、アンジェリナとドラが危機一髪の状態で、諸葛夢がやってきた。新しい敵が現れたと見て、ミハイルはすぐ諸葛夢に襲い掛かり、両手が巨大なアナコンダのように、不規則な動きで、攻撃を繰り出す。しかし、諸葛夢は余裕綽々でミハイルの攻撃を捌く。
まだ捌いているその時、アンジェリナはすぐ諸葛夢のところに駆けつける。彼女を見て、諸葛夢はさらに余裕な感覚で、片手でミハイルの攻撃を捌く。アンジェリナを拒否しようとするが、すでに手が握られ、そして一瞬眩しい光が放つ。
ミハイルはこれを見て、何かまずいと思ったのか、すぐ攻撃をやめ、後退しようとする。が、諸葛夢がすでに彼の手を掴み、そして引っ張る。
「この一撃は痛いぞ」
重いパンチの一撃がミハイルに飛ぶ。次の瞬間、黑い影が割れたガラスのように、粉々になって、ミハイルの体から剥がれていく。
「な、なに、じゅ、10トンのタンクローリーにでもぶつかったのか!」
と叫びながら、ミハイルが倒れて、そして動けなくなる。
「む、ムウ、まさか、殺したの?」
「いや、結構手加減したからな。でも、全身骨折、最低でも入院半年だ」
諸葛夢のマナ回路が剣魔百吼の金剛伏魔呪に封印されたが、ドックビルの一戦では、原理はわからないが、どうやらアンジェリナと接触したら一時的に解除できるそうだ。古天仁の考えでは、たぶん封印の時、アンジェリナがすぐ隣にいるので、一部の解除用の呪印が彼女についてしまったのかもしれない。
さすがに毎回抱きつくのが二人とも強く拒否したので、何回もテストの結果、握手という形で、一日一回だけ、30秒ぐらい解除可能。
ミハイルの生存を確認したら、アンジェリナはすぐドラのところに戻る。砕かれた剣を抱きながら、すでに命が風前の灯状態だった。
「ムウ、ドラちゃんを、救う方法があるの?」
「ないと思うよ。でも、こいつは魔剣の使い魔だ。魔剣が修復できれば、元に戻れる。っていうか、こいつ、元々魔剣の意識みたいなものだ」
「ど、どういうこと?」
諸葛夢の説明だと、魔剣がずっと洞窟に保管され、たぶん寂しいと思ったのか、自由に行動できる仮初の体を作り、使い魔として己の本体を守りながら、あちこちうろついていたはず。だから、剣が修復できれば、ドラこと、魔剣は復活する。説明している間、ドラの体が粉々になって、消えていく。
「そっか。やっぱり似た者同士なのね」
「は?」
「い、いや、何でもないよ。それにしても、ムウは今までどこに行ったのよ」
諸葛夢はちょっと沈黙し、魔剣に指す。
「俺はこの剣を探しに来たんだ。昔の相棒が、崋山の洞窟にもう一本の魔剣がいるって言ったから。まさかネオシャンハイのすぐ隣とは思わなかった」
「もう一本って」
諸葛夢はズボンのポケットから、金属のかけらを取り出し、
「あいつ自身が砕け散ったけどな」
「そっか。ムウもいろいろと大変だったのね。じゃあ、何か方法で、この剣を治れば、ドラちゃんも復活するし、ムウもすごい武器が手に入るのね」
諸葛夢は頷く
「よっしゃ!! 魔剣修復の旅、出るぞ!」
「人類救うじゃないのか?」
ちょっとてへぺろして、アンジェリナは剣を車のトランクに入れ、そして大きな布を取り出す。次はミハイルの処置だ。あの重傷の状態で洞窟にほったらかしたら、いずれ餓死する。簡単なパラシュートを作ったら、彼を洞窟の外に運ぶ。
ミハイルの落ちったところをしばらく眺めたら、二人はボルダリングカーに戻り、再度崖を登り始める。
「ねえ、ムウ、光の風って、なあに?」
「なんだ急に」
「先戦ってた時、あのミハイルがドラちゃんの攻撃が光風って言ってた。あれは何? RPGみたいな属性?」
これを聞いたら、諸葛夢は細かく説明する。世界には、全部12個の属性があり、金木水火土風氷雷のよく見かける属性と、時間、空間、物質、精神のレア属性四つある。さらに、それぞれの属性は、光と闇の二種類の性質があり、組み合わせたら、全部24種類がある。
「へえ、24種類? かなり多いな。属性の相克って、結構複雑じゃない?」
「いや、大した意味がない」
実力の差が大きいと、たとえ相手の弱点属性を狙っても結果的に優位になれない。さらに、いろんな属性の魔法や攻撃手段を練習して、相手に惑わしたり、臨機応変な技を繰り出す輩もいる。だから、ほぼ互角の実力で、しかも全く対策を練ってないときだけ、属性は意味ある。っと、諸葛夢は、長々と説明する。
「何よ、結局、レベルを上げて物理で殴るじゃないの」
「なんでまたクソゲーが……」
「で、ムウは結局何属性なの?」
「ぐ」
諸葛夢は一瞬止まる。どうやらあんまり言いたくないのようだが、アンジェリナは何度も駄々こねたら、仕方がなく、口を開け、
「闇の炎……」
「ぷっ!」
すると、彼の予測通り、アンジェリナが大笑いし始める。
「ははははっははははっは、ムウはやっぱり中二なのね! 邪眼を持ってたり、黒龍波を打ってたりはしないの? あ、あと、相手を倒したら、決め台詞は、闇の炎に抱かれて消えろ、だとか?」
正直に答えて後悔したのか、諸葛夢は無言で車を運転して、アンジェリナの笑いが止まるを待つしかない。しばらくしたら、やっと止んだアンジェリナが、次の質問が出す。
「ところで、猟魔人って、何か強さを表すステータスとかはない? 戦闘力とか、霊力妖力とか、経験値とか?」
「ないな」
「じゃあ、何かランクとかもないの?」
諸葛夢はちょっと考えて、
「うちの監視の眼にはないな」
「じゃあ、もう一つの組織があるでしょう? 確かに、ディバインセイバーって組織だよね。あっちはあるの?」
なぜか、またあんまり教えたくない話題に触ってしまった。しかし、どうやらアンジェリナに嘘つ居たり、とぼけたりは難しそうで、諸葛夢は仕方なく教える。
「DSなら確かにある。あっちに加入するには実力テストの大会を参加する必要がある」
「じゃあ、ムウは参加したことあるの? 結局どのランク?」
やっぱりそう来たかと思って、諸葛夢はまたちょっと黙る。そして覚悟を決め、
「Gランク」
「おおお、すごい、最低でも、イ○ンクック先生レベルだね!」
「モ○ハンじゃないぞ」
諸葛夢はちょっと深呼吸して、目を逸らし、
「大会の予選で落ちたんだ。だから、最低ランク、SABCDEFGのGだ」
「えええええええええ?」
アンジェリナの驚きは無理もない。地底の激戦、ドックビルの最後の一撃、そしてつい先ミハイルを瞬殺、どう考えても、諸葛夢は最弱ランクのはずがない。
そして、もうしばらく考えると、アンジェリナはある違和感を感ずる。
「ムウって、普段口数が少ないのに、説明すると、結構饒舌なのね」
「は?」
「よし! 決まった。これから、ムウのあだ名は、説明のお兄さん」
人類を救う旅はまだ始まったばかり、開始早々、諸葛夢は新しいあだ名を獲得したとさ。
西に向かうたびがまだまだ続く。
次回を待て!
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