第九十七話 『イヴプロジェクト』
とある集団は、ついに動き出す
新元4年10月9日、ネオシャンハイ某所、小さな教会堂。戦争のせいですでに長い時間廃棄されたようだが、幸い大したダメージがうけなかった。それに、ステンドグラスは新装したので、古い建物にもかかわらず、いまだに宗教の神秘と教会の威厳が感じる。
早朝から、すでに信者たちが集めはじめ、白いケープに着替え、聖水で手を洗い、教会堂に入る。しばらくすると、中には100人ぐらい集め、神父姿の中年が現れる。聖書をもって、信者に聖書の内容を語り始める。
世界の起源、造物主が人類を作る、悪魔が世界を滅ぼす、真神が災厄から人類を守る。そして、真神を信じるこそ、救済が得られる。
一通り説教が終わったら、すでに昼になった。信者全員が起立し、聖歌を歌う。そして、白い丸薬を呑んだら、胸元にZの字を描き、教会堂から去る。
全部帰ったわけではなく、まだ二人が残っている。薄く白いケープのしたに、華奢な少女がいる。まだ結構若いが、今日のためなのか、かなり化粧している。
ほかの信者がいなくなったことを確認して、少女たちは祭壇隣の部屋に向かう。しかし、入り口に黒い洋服黒いサングラスの大男が二人いて、少女たちを追い払った。
今日はちょっと特別な日だ。だから、神父は少女たちに、個別の特殊説教はできない。
かの部屋は、神父の書斎だ。今は真ん中に、黒い祭服を着用している若者が鎮座して、神父は隅っこで土下座をしている。先ほどの威厳のかけらもなく、ガタガタ震えている。
「ラ、ランス様、長旅、お疲れでしょうか。今すぐ宿泊の用意を!」
ランスという名の黒服の若者は、現在イオガンルブン教の大教主、教団内二番目の人物だ。教祖は滅多に現れないから、実質的なトップ。突然の到来、神父は緊張するわけだ。
「いいえ。僕はルールをちゃんと守る好青年でね。ちゃんと二週間の隔離監査を受けて、さんざん休憩したよ。ではすぐ本題に入ろうか。脳研の動向は、どうなってるのかね?」
「は! その、ネオシャンハイでは、脳研の所属研究所は一個しかなくて、しかも、先月、ちょっと事故が起こしてしまって、今は封鎖された状態でした」
これを聞いて、神父の本をよんでいたランスは、本を閉じる。
「そっか。まあ、脳研と我が教はあくまでも協力関係だ。たかが研究所一つ封鎖されたことで、僕はどうでもいいんだよ。で、わが信者の被害は?」
「え、ええっと。この研究所に確かに信者一人が働いております。しかし、彼、いや、彼女は……」
神父は、イーサンという名のイオガンルブン教の信者が、A&E研究所で人格と記憶を、一人の少女に転移し、今は北条玲という名で活動していること報告した。
「そうか。これは面白いことだな。あとで、あの研究の詳しいデータを、脳研からもらおうか。」
どうやらランスはかなりご機嫌のようで、汗いっぱいかいて、祭服が濡れた神父の緊張も幾分緩む。しかし、ランスはすぐ次の質問を出す。
「では、次の問題だ。ネオシャンハイの大富豪たちとの関係はどうなっているのかな? 資金源を確保した?」
これを聞いて、神父はまた震えはじめ、
「い、いや、ええ、ええっと。ネオシャンハイ一位の大富豪司馬焱は、その、無神論者でして、科学研究にしか興味がなさそうです。二位の富豪、ビームコンパニのボス、レジーナ・フランジはかなり神秘的な人物で、どうしてもコンタクトが取れなかったんです。しかし、三位の銭震龍は、わたくしとかなりいい親交があって……」
「しかし、僕の知っているところでは、かの銭震龍の銭氏テクと銭氏製薬は、独自でかなりうまくやっている。別に我が教への協力気はないらしい。結局、富豪たちから何の支援ももらえなかったじゃない?」
神父はすぐ再度土下座の姿勢に戻り、しかも体が先より小さくなって、震えながら、一生懸命謝る。
「肝心な仕事をさぼって、先ほどドアの外に、女の子が待ってたよね。女遊びは全然サボらないだ。それにして、もういい加減未成年少女に手を出すのをやめたら? 我が教の名声に泥を塗ったらどう責任取る?」
「いやいやいや。外の女はみんな成年でして、わたくしもただ、彼女たちに説教するだけです。決して下心などございません! ましてや、我が教の名誉を損害するような真似は、決して!」
神父が話している途中、ランスがある紙きれを彼の目の前に捨てる。かなりボロボロで、焼けた羊皮紙だが、上にはまだ魔方陣の模様が確認できる。これを見て、神父の手足はすぐ力が抜かれ、全身が地面に叩く。なぜこの羊皮紙が目の前にあるのかは、己の目を疑う。
「わがイオガンルブン教は、真神の代行者として、人類を悪魔、災厄から守る存在だ。なのに、悪魔を召喚? これはれっきしたの、名誉損害行為じゃないのかな?」
濡れた。祭服だけではなく、ズボンも濡れた。汗のせいではなく。脱力した神父は、地面に座り、なにもしゃべれなくなった。
「どうやら、もう弁解できないみたいだね。なら、我が教のルールを則り、死刑だ」
ランスは指パッチンしたら、外で待機している大男二人は、すぐ書斎に入り、神父を捕まる。
「フ、フフ、フフフフフフフフフ」
なぜか、捕まれた神父は、笑い始め、
「ランスよ。どうしてもというなら、わたしも徹底的に抵抗させてもらうぞ。いでよ、我が精鋭たち!」
神父の召喚で、急に二人の人間が書斎に入ってくる。そして一瞬で、大男二人を倒した。白いスーツ姿の男女だ。顔に包帯が巻かれ、目と口だけが露出している。虚ろな目から、生気が感じらない。
「わたしが大枚をはたいて入手した用心棒です。かつて強力な猟魔人だったんですよ。今は薬物で精神制御と肉体強化が施された優れた兵士です。千年妖狐も簡単に仕留めるぐらいの実力を持っていますぞ」
「へえ、私兵を持ってるんだ。ますます罪が重くなるよ」
二人を見て、ランスは全然怖気がなく、いつも通りに、微笑んでいる。これを見て、神父は逆に怒り出し、
「その顔が気に入りませんな。やれ!」
すると、男女の猟魔人はランスに襲い掛かる。しかし、間一髪のところで、ランス足元の影から、黒い人型が現れ、二人を捕まり、そして本棚に投げ飛ばす。
「出るのが早すぎるよ。ミハイル君」
「ランス様に指一本触れさせてはいけません」
白い猟魔人二人は、すぐ本棚の残骸から飛び出し、再度ランスに襲い掛かる。しかし、黒い人型は、簡単に二人の攻撃をすべて捌き、そして片手で男の右手、片手で女の左手を掴み、地面に重く叩き下ろした。大理石の地面は、すぐ亀裂が入り、そして大きなくぼみが出た。
黒い人型は両手を合わせ、一つの巨大な拳になって、地面の二人に叩く。次の瞬間、大量の血が飛び出し、部屋を真っ赤に染め上げた。
「ば、ばかな……猟魔人の中でも、かなりの強者のはずです。強化された今、悪魔すら瞬殺出来るのに!」
ランスは顔に付いた血を拭いて、
「ま、要するにこっちのほうが何枚も上手ってことだ。あ、僕お気に入りの服が汚れちゃったよ」
「も、もうしわけございません!!!」
先ほどやっと立ち上がった神父は、再び土下座体勢に戻り、
「さ、さきは取り乱してしまって、ど、どうかお許しを!! な、何でもしますから、い、命だけは!!! ふ、服は、すぐ新品を用意しますので!!!」
「そう? なら、まずは悪魔召喚の理由を教えなさい。すでに強力な用心棒がいたのだろう。なぜまだ悪魔を? まさか、たくさんの私兵を用意して、謀反する気?」
「と、とんでもございません!!!」
神父は、頭を地面にバンバン叩き、全力で否定する。しばらくすると、やっと口から一言を出す。
「い、イヴ、プロジェクト」
これを聞いて、ランスは再び椅子に戻り、座ってゆっくりと神父の話を聞こうとする。
「さ、最初はサキュバス類の悪魔を召喚して、もっと女を手に入れようとしたが、偶然で、イヴプロジェクトの情報を手に入り、何より、イヴプロジェクトで誕生した女は、みんな絶世の美女らしいです。それで、千年の盗賊妖狐を召喚して、イヴプロジェクトの完成品を探させました。
どうやらある学園にいるらしくて、学生データの入手は失敗しましたが、しかし、その完成品の一号を、うまく拉致できました。だが、なぜか、あの女狐がいきなり裏切りました。用心棒の猟魔人があの女狐を仕留めたが、イヴプロジェクトの完成品は変身して逃げたんです」
これを聞いて、ランスは大笑いした。
「バカだね、あんた。イヴプロジェクトってただの都市伝説じゃない?」
「お、お言葉ですが、イヴプロジェクトは決して噂や都市伝説ではございません。わたくしもかなり念入りで調査しました。絶対間違いがない自信があります。あの小娘は、美しい外見、成年男性にまけないぐらいの身体能力、そして人類最高の知能を持っています。意図的に作られた人間に違いはありません」
「人類最高の知能?」
どうやら、ランスも聞いたことがあったようだ。
「そうです。ランス様もご存じでしょうか。ネオシャンハイ大富豪司馬焱の孫娘、司馬アンジェリナです。司馬家は昔、間違いなく、イヴプロジェクトを参加した」
「彼女の話なら聞いたことがあるな。性格以外は、あんまりにも完璧すぎて、存在自体が嘘みたいなもんだ。性格以外は」
「そして、数日前の裁判で、彼女は今日、ネオシャンハイから追放されます。もし本当にネオシャンハイからでたら、追うのが難しくなります。しかし、つい先、情報が入ってきて、どうやら彼女たちはまだネオシャンハイから出たのではなく、北方面の洞窟に向かったそうです。今すぐ追えば……」
ランスは椅子から立ち上げ、ゆっくりと神父の前に歩き、そしてしゃがむ。
「そうか。いい情報だね。ご苦労。しかし」
ランスの人差し指を神父の頭に軽くたたいたら、神父は一瞬ミンチになった。
「この服は限定版だよ。もうどこにも売ってないよ」
「ランス様、いかがですか? すぐ新しい神父を用意しますか?」
「それはもちろん。しかし、あの司馬っていう女の子も興味あるね。イヴ一号か」
ランスは血で汚れた祭服を脱ぎ捨て、
「女には興味ないが、新人類の父か。これはいい響きだ。ちょっと女で我慢するしかないな。ミハイル、あの洞窟に行って、イヴ一号を捕まってきて」
「御意」
すると、ミハイルという黒い人型は、書斎から消えた。
へっきしゅ!!
洞窟の中、アンジェリナは何回かくしゃみをした。風邪かなと思った。ずっと諸葛夢を待っていたのに、全然帰ってくる様子はなかった。仕方がなく、再度車から降りて、トランクから懐中電灯と武器を取り出し、そして毛布一枚をかけて、洞窟の奥に向かう。
かなり奇妙な洞窟だ。空間がゆがめられたのように、一部の鍾乳石が変なところから生え、そして壁や天井に階段がある。
数歩あるいたら、前に微かの光があって、すぐ確認すると、元々横書きの石碑が、縦になって、上に、『神剣洞』って書いてある。
頭が横に傾いているアンジェリナだが、石碑を見ているその時、後ろから何かの気配を感じる。振り向くと、巨大な黒い影だ。
アンジェリナはまた黒影に拉致されるのか。果たして彼女の運命は?
次回を待て!
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