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3/3

王国は滅び勇者達は幸せを掴んだ。

バンサロン王国より停戦の申し出を受けたハンブルグ聖国。

和議の使者に元妻であるアントネットが遣わされると連絡を受け一時休戦を決めた。


作戦本部建物の一室でロワンドとカリーナの2人が使者の到着を待ち構えていた。


マリアは『会いたくない』

そう言って立ち会いを拒んだ。


「遅いな」


ロワンドが呟く。

約束の時間が過ぎても一向に表れないアントネット達。

カリーナは複雑な表情を浮かべロワンドの顔を見た。


ロワンドをあれほど傷つけたアントネットが今更どの面を下げて、そう思うと感情の昂りを抑えるのが精一杯のカリーナだった。





「報告します」


ロワンド達の隣室で控えるハリスとケリーに1人の兵がドアをノックした。


「入れ」


ハリスが答える。


「失礼します。我が軍に偽装しました敵兵を発見し、捕らえました。

この様な物を隠し持っておりました」


数通の手紙と金貨を差し出した。


「ご苦労」


ハリスは手紙を受け取る。

敗色濃厚な王国軍は『糧食を確保する為』と称し自国の農民や商家に押し入り略奪を繰り返していた。


今や王国軍の兵は殆どが王族が雇った犯罪者等ならず者の集まり。

軍規も無い彼等は欲望のままに王国内を暴れまわり治安は悪化の一途を辿っていた。


「また誰か襲われたのか」


ハリスは手紙を検めた。


「こ、これは?」


ハリスの目が大きく開いた。


「どうしました?」


ハリスの豹変にケリーが驚く。


「姉さんこれを...」


ハリスは震える手で手紙を渡した。


「なんと言う事を...」


ケリーが途中まで読み目を伏せた。

それはアントネットの遺言とハンブルグ聖国に宛てた王国の内情を記した手紙だった。


「敵兵がこれを持っていたと言うことは...」


「アントネット殿は生きてはいまい...」


ケリーとハリスの2人は苦しそうに隣室でアントネット達を待つロワンドを思った。


手紙を持っていた敵兵の尋問は速やかに行われた。

最初は惚けていた敵兵だがカリーナの尋問(拷問)に全てを自白した。


[聖国兵に化け畑に火を放ちながら街道を進んでいた所、1人の男が駆け寄って来た。

男は王国の使いで和議の使者を乗せていたが使者が自殺してしまったと涙ながらに話し...]


「連中は聖国兵の振りをして馬車まで案内させ金目の物を奪った...か」


「馭者も哀れよ、自国の兵に殺されるとは」


「こんな奴等は王国兵では無い、王族が集めたならず者達だ」


報告を聞きケリーとハリス、カリーナの3人は大きな溜め息を吐く。


ロワンドとマリアは別室に閉じ籠ってしまった。


アントネット達の遺体が見つかったのは夕方に近づく頃、自白した場所は焼け落ちた馬車と真新しく土を埋めた跡があった。


掘り起こした遺体はロワンド達の居る作戦本部の遺安室に並べられた。


「この人誰だよ...」


女性の遺体を見たロワンドが呟く。

記憶にあるアントネットと余りに違う。

体型、顔つき、全てが美しかったアントネットと似ても似つかない遺体。

ただ遺体は安らかな笑みを浮かべていた。


「間違いありません」


「嘘だ!」


ケリーの言葉にロワンドは叫んだ。


「加護を失い本来の姿に戻ったのです」


「本来の姿?」


「はい、アントネット様は自らの境遇に絶望し精神のバランスを失っていたのです。

体を苛め不摂生を繰返しこの様な姿に...」


「そんな...」


カリーナも悲しげにアントネットの遺体を見詰める。

知らなかった、ただ自らの欲望でロワンドを傷つけていたのだと思っていた。


「これを」


ケリーはカリーナとロワンド、マリアに手紙を渡した。

それは皆に宛てた遺書。


今までの不義の理由とお詫び。

最後に

[カリーナ、マリア、ケリー様、ハリス様、どうかロワンドと幸せに。私もロワンドと人生を歩みたかった]

そう締め括られていた。


「お母様!!」


マリアが遺体にすがり付く。

涙がアントネットの遺体を濡らした。


「俺は何て愚かだったんだアントネットの苦悩に気づかず」


ロワンドは泣き崩れるマリアの背中をそっと抱き締めた。


「気づかなかったのは私も同罪だ、従姉妹だったのに...」


カリーナは冷たくなったアントネットの手を握りしめた。


「滅ぼしましょう」


ハリスが呟く。


「当たり前だ」


カリーナが愛剣を掴み。


「勿論です」


力強くマリアも頷いた。


「それでは作戦を練りますので」


ハリス達3人は部屋を後にし、ロワンドとケリーが残された。

勇者であるロワンドと教皇のケリーは戦争に参加していない。


ロワンドの力は強力過ぎ、ケリーは聖教会の教皇と言う立場故に。


「ロワンド様...」


「何だ?」


「アントネットに最後の別れを致しますか?」


「ケリー何を?」


ケリーの言葉をロワンドは理解出来ない。


「まだアントネットの魂はこの世にあります」


「まさか?」


「間違いありません、浄化を行って無い魂は現世を彷徨い、悪霊になる事もあります」


聖教会の教皇、ケリーの言葉に嘘は無いとロワンドは感じた。


「どうしたら会える?」


「アントネットの魂を私に憑依させます」


「憑依?」


「はい私の体に」


「出来るのか?」


「ええ、アントネットの魂を満足させ、自ら浄化させる事が出来るのは貴方だけです」


「分かった、頼む」


「はい」


ケリーは静かに立ち上がると祈りの姿勢を取り、聞き取れない言葉を呟き始めた。


「来たれ!彷徨えし魂よ!」


叫びと共に床に崩れ落ち苦しそうに息をするケリー。

次の瞬間ケリーの身体全体が光に包まれた。


「ロワンド...」


輝く身体で立ち上がり呟く。

その声はアントネット。

姿も醜さは無い、ロワンドが最後に会った時の美しいアントネットだった。


「アントネット、すまなかった」


ロワンドはアントネットに頭を下げた。


「どうして謝るの?」


「君の苦しみに気づかないで何もしてやれず...」


「そんな事無い!ロワンド様は悪く無いよ!」


「え?」


突然アントネットからケリーに声と姿が戻った。


「ごめんなさい」


ケリーが慌てて頭を下げると再びアントネットの姿に戻った。


「ケリー様の意識も有るの」


「そうなのか?」


「ええ」


他人の魂を憑依させても自分の意識は失わない。

聖女ケリーだから出来る事。


「あなたには本当に感謝してる」


「感謝?」


「王族を、貴族を懲らしめてくれて」


「俺の力じゃない、カリーナやケリー達のお蔭さ」


「そんな事無いわ、貴方が皆を動かしたの」


「そうかな?」


「そうよ」


楽しげに話す2人。

初めてゆっくり過ごす時間に幸せを感じていた。


「マリアの事だけど...」


「ずっと前からマリアは気づいてたそうだよ」


「やっぱり」


「俺はこの前初めて聞いた、ショックを受けたがカリーナに助けて貰ったんだ」


「カリーナに?」


「ああ。

マリアと3人しっかり話をしたよ『俺はマリアがもっと好きになったよ』と言ったら『ありがとう』って喜んでな」


「...でしょうね、マリア良かった」


アントネットは満面の笑顔、ロワンドも嬉しそうだ。


「そろそろ時間が...」


アントネットが寂しそうに呟いた。


「時間って?」


「ケリー様に憑依出来る時間、いつまでも居られないの」



「そんな....」


ロワンドはアントネットの手を握る。


「ロワンド様落ち着いて」


再びケリーの姿に戻る。


「最後の望みをアントネットに聞いて来るから待ってて」


ケリーはそう言うと俯いたまま固まった。



(アントネット)


ケリーは直接アントネットの意識に語り掛けた。


(はいケリー様)


(その願い叶えてあげる)


(え?)


(頭の中を見れるんだから隠しても無駄よ)


(でもそれは...)


(私の願いでもあるから)


(....ありがとうございます)


話し合いが終わりケリーが再びアントネットに変わった。


「ロワンド最後のお願いを良いかしら....」


アントネットの言葉にロワンドは頷いた。



そして更に1ヶ月がすぎた。


停戦交渉が失敗に終わり、バンサロン王国の領土は首都を残すのみとなっていた。


「城門突破されました。

最早王宮を守る兵は御座いません」


城門に無理矢理鎖で繋がれていた人の壁(バンサロン王国の一般人)を全て解除され、雪崩れこんで来た聖国兵と反乱を起こした民兵に王宮内はパニック状態となった。


「近衛兵は何をしているのです!」


王妃は血走った目で叫ぶ。

彼女達は知らなかったが近衛兵は既に聖国軍に投降していた。

それを知った王妃の取り巻き貴族達は昨日までに首都を脱出し、民兵達に捕まりリンチを受けていた。


「鎮まれ...」


王の間に響く声、幽閉を解かれ連れて来られた国王、バンサロン8世。

毒物を飲まされ既に死んでいると思われていたが国王は奇跡的に生きていたのだ。


「しかし陛下...」


「そうですよこのままでは全員殺されてしまいます!命長らえてこそ再起の路が...」


「鎮まれと言っておる!」


国王を無視し騒ぎ立てる王妃と王子達。

王太子は冷めた目で見つめていた。


「愚か者の最期だな」


吐き捨てる様に王太子は呟いた。

王妃達は兵に医薬品や食糧の供給すら怠り街で強制徴収を行った。

事実上の略奪だ。

民心は離れ反乱が起きた。

貴族達が雇い入れたならず者達も益々の混乱を生んでいた。


「全面降伏だ。罪無き民の畑を焼き、金品を奪った我々に交渉材料などあるものか」


それを命じたのは宰相や王妃と取り巻きの貴族達、国王は幽閉されていて預り知らぬ事であったが実権を奪われるまで放置した怠慢は充分な罪と認識していた。


「しかし民は国の犠牲になるのは当然で...」


王妃の息子達がまだ何かを言おうとした。


「黙れ!」


王太子が一喝する。

その迫力に縮み上がった。


「ロワンドとカリーナを夫婦にさせるべきだった」


国王は項垂れながら呟く。


「陛下何を...」


「お前達の言を入れず、カリーナと結婚させておれば」


それでも婚姻を認め、ヌークに騎士団の団長を任命したのは国王自身。

所詮は無能な国王だった。


「しかし全面降伏となりますと、どんな条件を出してくるやら」


宰相は国王に尋ねた。

この期に及んでもまだ自身の立場が理解できてない、無能もここまで行けば哀れであった。


「私の首を差し出そう」


「それしか無いでしょう、私の首も」


国王と王太子が頷いた。


「そうですか、私が降伏の使者に」


宰相のルークが沈痛な表情を浮かべ頭を下げる。


「ルーク何を勘違いしておる」


国王が心底呆れた顔で宰相を見た。


「は?」


「お前もだ」


「何ですって!?」


「マリアンヌ、お前と息子達も全てだ」


「な、何故私達も?」


「お前達はロワンドの報償金やアントネットを貴族や商人に抱かせ甘い汁を吸っていたで有ろう?

私まで宰相の息子を王子と騙しおって。

不義、托卵はタリスカー家の伝統か?」


「な、何故それを....」


全ての悪事を暴露され宰相と王妃は言葉を失う。

王妃の息子達もまさか国王が知っていたと思わず呆然としていた。


「ハンブルグ聖国からの密書だ」


「密書?」


「私達が生き長らえる事が出来たのも聖国のお陰、貴様等の悪事は最早国民全ての知る所だ!」


王太子が再び叫んだ。


「畜生!」


「待って!!」


「私達も!」


宰相達は我先に王の間を逃げ出す。

周りに兵は居らず捕まる事無く部屋を出ていった。


「愚か者め...」


国王と王太子は逃げ去る宰相達に呟いた。


「転移の魔方陣を使い国外に逃げるつもりだろう。

しかし密書には王宮は全て結界で封印されていると書いてあった。

無理に行えば」


「行えば?」


「結界に全身を切り刻まれてしまうだろう」


「その事を宰相達に言わなかったのはそれを望んでいたからですか?」


「さあな、さて行くか」


「はい父上」


国王と王太子はゆっくり立ち上がり、降伏の旗を立て王宮を後にした。

こうして戦いはバンサロン王国の完全な敗北で幕を閉じたのだ。


宰相達の遺体は見つからなかったが、王宮の周りにおびただしい肉片が空から降り注いだ。


バンサロン王国はハンブルグ聖国に併合され、死を免れた国王は旧王国の全ての領土を改めて与えられた。


聖国の傀儡、亡国の元国王、死より過酷な運命だ。


「死より苦しい屈辱に耐えよ」


そうハンブルグ聖国から命じられた。



そして1年が過ぎた。



ハンブルグ聖国の中央教会で1人の女の子に幼児洗礼が行われていた。


「ケリー、可愛いわね」


洗礼を終えた赤ちゃんの頬っぺをカリーナが突っつく。


「ありがとう、私とロワンドの子供ですもの当然よ」


「まあ可愛さならロワンドが一番ですが」


妖艶な笑みをロワンドに向けながらハリスが言った。


「おいハリス」


ケリーと赤ちゃんをあやしていたロワンドが軽く睨む。


「私もそう思う」


「カリーナ?」


「私もですわ」


「マ、マリア...」


「ふふ私もよ」


「おいケリー、お前は母親だろ?」


「ロワンドが一番可愛いいのは譲れません。

この子は世界で一番愛しい私達の娘ですから。ね、アントネット」


ケリーが優しくアントネットと名付けた赤ちゃんの髪を撫で上げる。


あの時アントネットが願ったのは『もう一度ロワンドと過ごしたい。

生まれ変わり本当の家族になりたい』だった。


そうしてロワンドとケリーと結ばれ、産まれたのがこのアントネット。

魂は間違いなくアントネットの物。

しかし記憶は失われている、それもアントネットの希望だった。


「ロワンド、アントネットったら笑ってるよ」


「カリーナお前も妊婦だろ跳び跳ねるな」


「大丈夫だ安定期に入った」


「いやでも身体を大事にだな」


妊婦らしからぬカリーナに呆れるロワンド。


「大丈夫だって、あ動いた!」


カリーナはロワンドを胸に抱きよせ、頬をお腹に当てた。



「本当だ、でもこの格好恥ずかしいな」


「何だまた泣いてるのか?」


「うるさい!」


ロワンドは後ろを向いて涙を拭う。


「次は私ですからね」


ハリスもそっとカリーナのお腹を撫でながら呟いた。


「良いよ」


「おいカリーナ勝手に決めるなよ」


慌ててロワンドが止めた。


「嫌なのですか?」


「そうじゃないけどこの前まで男だと思っていたし」


「それはロワンド様が鈍かっただけです」


「そうよお父様諦めなさい」


「マリアはそれで良いのか?」


「ええ」


「でもマリアもいつか結婚するだろ?父親に3人も奥さんが居るなんて」


「私も入りますよ」


「でも俺をお父様って呼んでるからそんな気は...」


「口馴染みが良いからお父様と言ってるだけです。

成人を迎えましたら是非私も」


「成人って15歳じゃないか」


「そうです2年後です、お祖父様の男爵領の教会でアントネット(お母様)と一緒に」


「マリア...」


ロワンドの目から再び涙が溢れる。


「ほう楽しみだ、私の子供の幼児洗礼もお願いしようかな」


「止めろカリーナ!」


「ふむ、私とマリア殿の合同結婚式も悪くありませんね」


「おいハリス!」


教会に賑やかな声が響くのだった。


おしまい。



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― 新着の感想 ―
[一言] ゴミ
[良い点] アントネットが来世とは言え救われて良かった [気になる点] 王妃の名前がマリアンヌで、ソイツの暗躍(陰謀)で生まれた妹の子供がマリア……。 ほぼ確実に、名前つけたの王妃(一割実家関係者) …
[一言] 普通に勇者とアントネットを結婚生活送らせて尚且つ報奨金を9割国に1割勇者にってだけでぜいたくな暮らしできたのに王妃派の連中が無能すぎる。この勇者なら1割でも満足して強敵の討伐も行ってただろう…
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