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カースト最底辺の狼  作者: 睡眠戦闘員
三章:狼の生態
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74.不味い肉




 朝からのシフトは、昼過ぎ頃から目まぐるしく客が来て忙しくなったためにあっという間に終わった。かなり日が傾いたことに気がつくと同じくらいに、別の店番の人間が来てシフトを交代する。その時にはもう、柵の中で溢れかえっていた狼は半数以上引き取られていたので、それを見たバイトが「仕事がなくて楽だ」と感謝してきた。


「誰にも食われてないといいな、狼」

「狼肉はこの世で一番不味いと周知されていますから、大丈夫ですよ」

「喜んでいいの~? それぇ」

「ウィウィ、まずいんだ……」


 キャラは創造神だけあって、下界のことなら大体知っているみたいだ。それでも、アノネちゃんのように胸を張って解説してくれるわけではなく、一聞いたら一の答えを返すのを徹底している。


 俺が超絶覚醒するのがいつとか教えてくれないだろうか、とか思いながら周囲を見回した。胸が高鳴る。腹が鳴る。


「不味い肉の話してないで、俺らも祭り飯食おう!」

「めしだあ!」


 バイト中は客が持ってきてくれた差し入れと、サプリくんまんじゅうのつまみ食いでしか食うものがなかったので、まともな昼飯にありつけていない。俺が拳を突き上げるとウィウィが後に続いて可愛い雄叫びを上げ、キャラは微笑ましそうに笑い、フェルムは相変わらずキャラの様子を伺っては目を逸らしていた。


 ウィウィと右手を繋ぎ、乗り気じゃないフェルムの手を左手で引っ張って人混みの中に飛び込んだ。いい匂いを発する飲食系の出店を中心に物色し、ウィウィが興味を示した食べ物を片っ端から購入しては腕に抱える。


 待ち合わせをしていたヨルとアノネちゃんがいる飲食用のテーブルがあるエリアに着く頃には、一人や二人の腹には到底収まらなさそうな量の飯の山ができあがっていた。


「誰がそんなに食べるんですか、買いすぎですぞ」

「アノネちゃんだってスイーツ爆買いしてるじゃん」

「天才の頭には糖分が必要不可欠なんです。ワタシの仕事量を顧みれば適量だと思いませんか!」

「騒いでないで座れ」


 白々しく言ったアノネちゃんの顔には、言うほど疲れは見えない。むしろサプリくんクッキーパフェをスプーンいっぱいに乗せて頬張る元気が有り余っている。隣にいるヨルも、珍しく高級飯ではなく細い串焼きをちまちまと食べていた。


 よし、食い物残ったらこいつに全部食わせよう。


 どっこいしょと掛け声をかけて、手に持っていた食べ物の山をテーブル上に置く。それを仕分けてウィウィがビュッフェ風に食べられるように、みんなが手に取れるように配置した。


 フェルムもキャラも席に着いたのを見て、早速手近にあったフランクフルトを頬張った。ケチャップとは一味違った甘じょっぱいソースの旨味が広がる。


 ウィウィはアノネちゃんとスイーツの分けっこをし始めていた。微笑ましい。フェルムも最初は居心地悪そうにしていたが、その内食い物と一緒に俺が買ってきたジュースをがぶ飲みしている姿を見て、安心した。


「んむ、んっ。キャラは、本当に何にも買わなくてよかったの? 俺のフランクフルトいる? 変な意味じゃなくて」

「ああ! ワタシは生き物を食べないのでお気になさらず」

「え、じゃあ何食って生きてるの!?」

「水と霞です!」

「仙人じゃん! 仙豆は、仙豆は!?」


 ヨルから、ごほんと喧騒の中でもよく通る咳払いが聞こえて、俺は口を閉じた。お話があるってことね。


 しょうがないので、フランクフルトの残りを口に突っ込み、勢いを間違えてえずく。ヨルの方から呆れたようなため息が聞こえてきた。その影で、なぜかこちらを見てフェルムが吹き出している。誤魔化すように咳き込んでいたが、口の端が若干上がっていた。俺でなきゃ見逃しちゃうね。


 改まった表情を作るヨルを尻目に、俺はニヤニヤしながらフェルムの正面の席に移動した。


「神殿の様子を見に行きましたが、神界での創……キャラ様の不在は気が付かれていないようです」

「ううん……安心して良いのか、悪いのかわかりませんが、現状維持ということですね」

「あなたに危険が限りは、オレは本来の勇者の仕事(・・・・・)をしなければならない。僭越ながら、今朝の言葉通り協力お願いします」



 俺が正面に来ると、フェルムは気まずそうに目を逸らした。小さな声で「俺のフランクフルト」と呟いてみると、「んぐッ」という呻めき声と共にフェルムの肩と青髪が激しく揺れた。


「い、いいでしょうっ。協力は惜しみませんから! 何が知りたいですか?」

「魔王が今どこにいるかわかりますか。邪神からの情報ですが、最後に目撃されたのはサルギナダンジョン。魔王の痕跡はそこで不自然に途切れているままなのです」

「それは……今は、瑠璃鏡――神器がないので、正確な位置はわかりません」


 ウィウィ用に買ってきたミルクのコップを持ってフェルムに差し出す。その時点で肩が震えていたが、「くるみぽんちお」と俺が言葉を発した瞬間、「ひぎっ」とフェルムの腹の筋肉が引き攣って変な声が出た。グラスを持つのとは逆の手で顔を押さえていたが、肝心の引き攣っている口元が隠れていない。


「最近の魔王の活動は特に活発に思えます。あれは一体何を目的としているのですか。虐殺そのものを楽しんでいるわけではないのでしょう?」

「魔王の目的はただ、願いを叶えることです」

「願い? 一体何を願ったというんですか?」

「残念ながら、それはワタシは知りません。ですが、存在自体、そのために生まれたようなものですから、間違いないと思います」

 

 よく見ると、フェルムが抱えているグラスの中身はジュースではなかった。俺が買ったうちの飲み物の中にアルコールが間違えて混入していたらしい。他の飲み物は大丈夫そうなので、運悪くフェルムがそれを引き当てたみたいだ。


 フェルムの顔は赤くなったりしてはいないが、態度がいつもと違っていて、明らかに酔っていた。


 俺は知っている。フェルムが酔うとゲラになること。そして、特に下ネタが大好きなこと。病院生活で同室だった間、フェルムが医者から隠れてちびちび酒を飲む相手になっていたから、わかる。本人は隠しているつもりだが、知っている。


「願いを叶えるために生まれたと? あなたは、魔王の正体を知っているのですか? 魔王とはなんなのですか」

「何、と言われると困りますが、下界に伝承されているのとほとんど変わりありません。ワタシが創造神として生まれた時、その力の余波を吸収して力を得た存在です」

「じゃあ、魔王は――」


「あーははははははッ!!」

「な? 面白いでしょ、ね、ね!? ぎゃははは!」

「なに? 何の話してたのそら!」

「あなたは聞かなくて良いですよウィウィ」


 フェルムの爆笑がその場に響き渡った。俺もバシバシ膝を叩いて笑い転げる。ひいひい言って腹を抱えるフェルムがごろっと椅子から転げ落ちた。ウィウィがなんだなんだと尻尾を振ってよく分からずに盛り上げる。


「さっきからうるさいぞお前らッ! 低俗な会話しやがって!」


 やばい、話聞いてないのバレた。


 途端にヨルが頭に青筋を浮かべて立ち上がった。俺の方に来ようとしたので、慌ててフェルムを起こしてヨルの方を向かせた。


「見ろフェルム、ヨルがわからせおじさんみたいな口調してる!」

「ひぃっ、やめ、ひぁ、あははははは!」

「フェルム! お前まで何やってる!」


 けらけら笑いかけたフェルムだったが、流石に主人に一喝されて酔いが冷めかけたらしい。ビクッと体を硬らせた。まずい、ここは俺の伝家の宝刀の出番だ。


「す、すいませ――」

「勇者ヨルは二刀流(意味深)!!」

「ひッ……! ひはははははははは!」


 笑ってはいけないという状況が笑いに拍車をかけたらしく、フェルムはまた爆発するように噴き出した。四つん這いになって地面でゲラゲラ笑っている。


 ここ数日キャラが来てからずっと縮こまっていたので、フェルムもこれでストレス発散できたんじゃなかろうか。さすが俺、人を見る達人。気遣える超人。いや、狼だった。


 と、俺は思ったのだけれど、ヨルは手に負えないというようにぐるっと目を回すと、スッと足を出した。ただ出しただけにしか見えなかったが、どうやら素早く蹴る動作だったらしく、途端にフェルムが悲鳴を上げて倒れた。両手で股間を押さえている。


「え……金的?」

「お前もこうなりたいか」

「女の子なるにはまだヤり残し……いや、やり残したことがあるので……」

「じゃあ、座れ」

「ハイ」


 さすが脳筋バイオレンスヨルサン。アルコールが入ってない俺ですら酔いを覚ましてそそくさと席に着き直した。少々股間が寒い。フェルムは倒れたままで放置されていた。可哀想。


「フェルムはなんでゆかでねちゃったの?」

「罰を受けたからですよ、ウィウィ。下賤でゲラな悪い子はああなります」

「やだあ」


 確かにちょっと教育に悪かったかもしれない。反省。ウィウィのほっぺについたケチャップをぬぐい、罪滅ぼしとした。


「で、なんの話ししてたんだっけ」

「お前らの爆笑猥談で全部トんだ」

「スンマセン。魔王についてだよね、一回容疑かけられた興味あるよ、俺も」

「容疑? あなたが?」


 キャラが不思議そうに首を傾げた。狼弱い一点張りの彼女のことだから、キャラは狼族の俺が魔王な訳ないと思ってくれたんだろう。


 勇者と出会った当初の一悶着を所々端折って話すと、キャラは表情を固まらせて「そんなことが」と漏らした。若干引き気味でヨルを見ている。


 うん、確かにあん時のヨルのマイナス方向の行動力はすごかった。


「なんであんなに疑われてたんだっけ」

「邪神の告があったからな。神が嘘をつくとは思えないんだが」

「また言ってる~~~。さてはまだ疑ってるな?」

「そもそもお前は魔王との共通点が多くて紛らわしいんだよ全く……あれ、どうしました?」


 見ると、キャラが頭を抱えていた。「そういえば似てるような」とか「フィフティマは余計なことばかり」とか何とか呟いている。


「……お気になさらず。ちなみに、共通点というのは? ヨルさんは魔王さんに会ったことがあるのですか?」

「え? ああ、いえ。伝承されてる魔王の特徴ですよ。黒髪で、どんな言語でも話せるとかそのような。そうだ、魔王がどんな魔法やスキルを使うかはわかりますか?」

「今は分かりませんが、確か昔は伝承の通りの万物と話せるスキル“オーバートーク”と、万物を消化できるスキル“マグマ・ヴォラシティ”を獲得していたはずです」

「胃もたれしなさそうなスキルですね」


 俺と違って”反射ァッ!”……みたいなふざけスキルないんだ。かっこいいスキル名だらけなのにで何が紛らわしいだ。ヨルを睨みつけながら、俺は胸ポケットからスマホを取り出した。


「まあ、万物と話せるなんちゃらかんちゃらで疑われたのは、これのせいだよな」

「それのせいだ。異世界の魔導具め」

「こいつにやつあたりしないで」


 キャラがあっとスマホを指さす。


「ワタシの力を感じるということは……それがあなたの一番思い入れ深いものだったのですね。サポートは役立っていますか?」

「そっか、これキャラの力でスーパーAIになったんだった。役立ってる役立ってる。もうこいつだけで良いんじゃないかな」


 創造神ユーリアシュと初対面の時、確かそういう話だったはずだ。


 神の力のアップデートが入って現在進行形で喧騒込みで翻訳が流れ出しているスマホ。知らないうちにずいぶんとAIが成長したらしく、当初あった微妙な翻訳の遅延は無いに等しくなった。何も言わなくても怪しいものは鑑定するし、毒を食べた時も設定してないのに警告音が鳴った。まあ、間に合わなかったけど。


 それに何よりいいのは自分のステータスがギルドでもらえたタグよりも詳細に見られること。


「そういえば、しばらく自分の成長見てなかったな」

「狼なんだから、そうそうレベルなんて上がらないだろ」

「そうかな? あんだけ死ぬ気で頑張ったんだから、十レベくらい上がってもらわないとね~~~」

「絶対ないですぞ」


 周りの否定をものともせず、俺は意気揚々とステータス閲覧アプリをタップした。



―――――――――――――――――――――


本田(ホンダ) (ソラ) Lv.16→19


種族:人間・ウェアウルフ


攻撃:39→54

魔力:26

防御:36→130

俊敏:95→105

知能:32→51

幸運:95→91


技能(スキル)

ポーカーフェイスLv.1・反射ァッ!Lv.2・[NEW!]危険察知Lv.1


【身体情報】      

殴打耐性Lv.7・衝撃耐性Lv.3→5・精神的苦痛(ストレス)耐性Lv.9・溺没耐性Lv.4・腐食物消化Lv.3→4・火傷耐性Lv.1・[NEW!]貫通耐性Lv.2・[NEW!]飲毒耐性Lv.1


【称号】

ユーリアシュの使者

フィフティマの被害者


――――――――――――――――――――――



「おい上がり幅ァッ!」

「何故レベル二十近いのに全てのステータスが二百を超えていないんだ」

「ううむ、何度見ても素晴らしいほど最弱種を地で行くステータスですね」


 非難轟々なのもわかる悲惨さだった。俺だってこの世界に来てから随分とステータスについて勉強した。こんな刻み過ぎなステータスの例は教科書に載ってなかった。


 ステータス値の変化といったら防御が素早さを追い抜いたくらい。それでも普通の人間基準で言えばクソほども強くない。レベルアップまでに使用した値が上がりやすいという特徴のせいか、防御ばかりが上がっていて、当然のように攻撃や魔力は伸び悩んでいる。勇者パーティーという超人揃いの中ではペラ紙に等しい。


 ウィウィもレベル九まで上がっていたものの、そもそも戦闘に参加する機会がないので、俺の数値の上がりとどっこいどっこいといったところだった。


「ぼ、防御系のスキルばかりなんですね……“貫通耐性”って、(ワタシ)でも初めて見ました」

「普通獲得する時に死にますからね。今回は蘇生されましたけど」

「というかほぼ全部獲得と同時に死ぬ可能性が高いものばかりだが」


 そもそも、俺のステータスは全体的に上がり方が不安定らしい。異世界人であるせいなのか、狼族であるせいなのかは分からないが、ステータス値はそれぞれ使ったら使った分上がる。使わなかったら上がらない。


「この“はんしゃあ”? ……っていう変なスキルはなんですか?」

「あんたが俺から引き出した最強の防御スキルだよ」

「あっ……そんな名前……いえ、ゆ、ユニークでいい名前ですね!」


 何故か、キャラに気遣われるように愛想笑いをされた。俺の素質なのか、このネーミングは。

 

「俺だってかっこいいスキルで無双したいのに!」

「駄々をこねるなよ」

「じゃあスキルじゃなくていいよ、戦う訓練してよヨルぅ~!!」

「いっ……いや、そんなに意味なんてないだろ、狼だし」


 無理だと言われるといっそう悔しくなる。なんだか急にやる気が出てきた。


「じゃあ、この後の依頼連れてってよ、勝手に戦うから!」


 そう言うと、ヨルはギョッとして目を開いた。


 今朝フェルムと今日の予定を話していたのを盗み聞きしていたので知っている。ヨルはこの後討伐系の依頼を受けているはずだ。簡単に終わると言ってたからそんなに危険じゃないはず。


「ど、どう考えてもお前らには危険だろ!」

「は!? ソラも行くならうぃうぃも行く! ふたりきりだめ! ぜったい!」

「だからダメだって……」

「こちとら魔物だらけのダンジョン逆踏破した猛者ぞ!」


 連れて行けとウィウィと共にしつこくコールしていると、やがてヨルはがっくりと頭を垂れて「わかった」と呟いた。思っていたよりも早く折れた。


「早く残りを食べきれ。日が沈む前に行くぞ」

「ええ……本当にいいんですか? ヨルさん」

「よしゃー! 食う食う」

「フェルムはそろそろ起きろ」


 同行決定に歓喜して、ウィウィと共に食い物を胃に詰め込む。


 ムクリと地面に倒れていたフェルムが起き上がり、キョロキョロと周囲を見回している。酔いはすっかり覚めたようだ。頬に誰かに間違えて踏みつけられたらしい足跡がついていた。

 

「にしたって、なんでこんなに狼弱いんだろ。キャラ、神様なら教えてよ~」

「あ、その理由は伝承されてないんですね」


 なんだ、とユーリアシュは少し拍子抜けした顔をした。


「魔王さんが狼の存在の尊厳を神の生贄にしたからですよ」




*よくわかる狼族の生態*

狼族のレベルアップまでに必要な経験値は、人間と比べて約十倍。

ステータスの上がり幅は、人間と比べて約十分の一。

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