53.トリプルフェイス
◇異世界◇
鈍麻していた頭が急速に冷え、冴えていく。心臓が力強く脈打ち、失われた血が骨髄から次々と補充されていく。数回瞬きして視界が明瞭になっていくのを確認してから、先ほど聞こえたノックに返事をして、入室の許可を与えた。
執務室の入り口の扉ではなく、レデイ達の背後にある本棚の中の本が壁の方へ引っ込み消失し、本を支えていた板がパタンと倒れて壁に張り付き、扉の形を作った。と同時か、それよりも早いかくらいの速度で扉は向こう側から蹴り開けられる。
「もっと早く開くように改造しろジジィ」
「せめて知識と経験のある老ぼれを労わる言い方ができないのかい」
「わあ、レデイくんのその言い方すごいおじいちゃんみたい!」
扉の向こうから出て来た全身ローブでフードまですっぽり被った男女は、息ぴったりの軽い調子でレデイへ挨拶代わりのダメージを浴びせた。
かけたばかりのリラックスチェアの上で座り直し、姿勢を正す。老人としてはこれくらいの礼儀正しさを示さなければ、先程の言葉に説得力を持たせられない。とはいえ、ジジィと呼ばれようと妖怪と呼ばれようと、成人前後の彼らとウン百歳の年齢差があると考えるとしょうがないとも思える。
神の悪戯かうっかりミスか。普通の人間よりもうんと寿命が長く、いくつもの時代を見て来たレデイは、これくらいのことで大袈裟にキレたりはしない。不死であっても不老ではなく、この歳になって始まった老化のせいで遠くなった耳を気遣って程よい声量で発言してくれる若者達のことを思えば、これくらいの大きな器を用意する柔軟さも、レデイはこの長い人生で手に入れ、持ち合わせがある。
ローブの女の方がバサッとフードを取り去って、気持ちよさそうに頭を振り、金色の髪と狐の耳を開放した。ローブの中でおとなしくしていた太い尾がパタパタと左右運動を始める。
「わ~、フォッサちゃん寝てる!」
「客の対応で疲れたって。可愛いよね」
「家事もろくにやってねぇくせにこのクソネコ」
今しがた帰ったばかりの客が座っていたソファーに丸まって寝ているフォッサにローブの女の方――名をレインという――が近寄り、つんつんとその頬を突いている。しっかりとその猫人族特有の耳は立っている。下手なことを言って聞かれれば刺される。
「で、見たか」
「……見たよ」
低血圧っぽく息を吐き、レデイは人差し指の第二関節で眼鏡のアーチを押し上げる。その目は眼鏡を通した景色ではなく、先ほどの突然の来客のことを思い出して見ていた。
スキートの宣告通り、勇者に会えれば取り入るつもりだった。しかし、実際に来たのは勇者よりも重要な人物だった。
「シックス……キミ特有の天邪鬼だと思ったのに、まさか本当だとは」
「疑えるなら本当ってこった」
ローブの男――シックスは感情の乗っていない声でいった。ついでとばかりにレデイが座るリラックスチェアの足に蹴りを入れる。折角直した眼鏡がガクッとずれた。
件のスキート邸でのパーティーに侵入していたシックスとレインが帰って来て、ウェアウルフがいたという報告を受けた時は、驚きはあれどそれ以外の感想はなかった。しかし、その彼――ソラを目撃した二人は口を揃えて彼を見ればわかると言った。
今日、土地内に入ったスキートの馬車を森の中から偵察に行って帰って来た時も、二人はくすくすと笑って何も言わなかった。勇者が馬車に乗っていないというくだらない報告だけをして。
そして、今さっき。偶然勇者の代理として訪ねて来た彼の姿と顔を見て、彼らの言いたいことがわかった。
「あのさあ、報告で済んだんじゃないの? 『見ればわかる』じゃないよ、計画の進路変更に関わるトンデモ情報の塊じゃないか、ソラは」
「サプライズにいいかな、と思って! ごめんレデイくん!」
「レイン……そう言われると何も言えないなあ」
長い人生の中でスキルに“ポーカーフェイス”を身につけていなければ、ソラ達の前で間抜けにぽかんと口を開けるところだった。あくまでもスキートの連れとして扱い、何事もなく帰したが……
いや、そういえば本当に何事もなく、とは行かなかった。
「多分……彼にはバレたね、少なくとも人攫い用に改造したゴーレムの製造元がボクってことは」
「しくったかグズが」
「ゴーレムが回収された上に鑑定プロテクトまで突破されるとは思ってなくてね」
「吊るすぞ」
息をするように毒を吐いたシックスは、今度はレデイの肩を軽くはたいた。パァンという良い音が鳴ったが、レデイの肩は外れた。
ソラ。願ってもないチャンス。それを一旦無事に帰したのは、慎重に計画を練る必要性があったからだ。シックスとレインの調査で彼らの所在地は既にわかっている。
「で、どうする。ここで殺すか、とっ捕まえて殺すか、大陸までの道をつなげてからあっちで殺すか」
「ふむ……」
「ちなみにワタシたちはいつでも出動できるよ!」
シックスだけでなく「くびちょんぱ得意です!」と物騒な物言いをするレインにすぐ返答することはなく、レデイは思案に浸る。手慰みに外れた肩を掴み、はめ直した。
ソラはいずれ殺さねばならぬが、それは今ではない。それに、ただの狼族ならまだしも、彼の命を奪う方法は想像よりも難しいはずだ。鑑定スキルで盗み見た彼のステータスの中で異質を放っていたふざけたスキル名を思い出し、「いや」と声を出した。
「殺すのはまだよした方がいい。ヘタをするとこっちが危ないしね」
そう言うと、シックスとレインはあからさまにがっかりしていた。二人ともローブからはみ出した尾をだらっと床に垂らす。
「じゃあどうする」
「……仲良くしておいてチャンスを窺った方がいいだろうね。でも、ゴーレムの製作者だとバレたのが痛いな」
物腰も頭のネジも柔らかそうな彼の雰囲気は、同じ“ポーカーフェイス”もちとしてはあまり油断ならない。今日の言動からして胸の内の警戒心はそれなりに高いと思った方がいい。
獣は受けた扱いを一生忘れない。よっぽどのことがなければ。
煮詰まっていると、レインがハイハイと元気よく手を挙げた。
「あのねあのね! アノネちゃんはどうかな?」
「アイツ、ソラの恋人らしいぞ。スキートのパーティーにカップルとして出席してた」
「……潜入捜査のためのありあわせのカップルじゃなくて?」
レデイは一瞬疑ったが、アノネ側からはまだしも、ソラのアノネへの好感度は高く見えた。カップルではなかったとしても、情以上の感情を抱いていても不思議ではない、と考えを改める。
「それにね! アノネちゃんってキルト家の子で、騎士団に捜索願が一年前に出てたよ! さっき調べて来たんだ! これ、何かに使えないかな?」
「……なるほど」
先程の会話では、アノネの姓を聞かなかった。ソラが「こっちがアノネちゃん!」と適当に紹介したからだ。
魔法薬学界でキルトの名を聞かないことはない。確かに、一年前ほどにキルト家の娘が消えたとかで騒ぎになっていた。いつの間にかそれに対して騒ぐ流行は過ぎ去っていたが、見つかったと言う話も聞いていない。何より、何食わぬ顔でこの場を訪ねて来た。
彼女は家に戻る気はないだろう。当たり前だ、とレデイは歯を食いしばる。公にはなっていないが、一部の関係者ならキルト家の教育の凄惨さはレデイも知っている。年端も行かない女の子が苦しむ様子も、そういう噂も一切聞きたくない。許されざることだ。
女の子を救う、そしてソラの信頼も手に入れる。頭の中でこの二つを達成する計画がパチパチと小気味のいい音を立てて組み上がっていった。
「……恩を売るのが良いね。ソラからの信頼も勝ち取り、あわよくば勇者にも取り入れる。女の子も救われる。良いことづくしじゃないか」
「計画は」
いつまでもぶっきらぼうなシックスに向けて、レデイは不敵な笑みを返した。
獣は受けた扱いを忘れない。それが、非道な扱いでも、はたまた救われたと言う恩も。
「フォッサ」
愛しい恋人に声をかけると、彼女は獣の耳をピクリと立ててからゆっくりと起き上がった。開ききらない目もエプロンドレスの裾がたくし上がって露出した脚も全てが扇情的だった。
レデイは眼鏡を押し上げ、その姿に見惚れて微笑んだ。
・ ・ ・ ・ ・
「フェルム……お前は憧れの人に犯罪の容疑がかかった時、どうしますか」
「え……な、なにその質問……」
アノネは悩んでいた。らしくもない質問をフェルムにしてしまうくらいには。
戸惑ったフェルムは、生真面目にその質問に答えようと考え込んでいる。すっかり馬車酔いは治ったようだった。帰りの馬車でも、特に体調の変化は見られなかった。それは、紛れもなくレデイ・ハンドメイドの酔い止めを飲んだからだろう。
効き目の抜群さ、即効性、全て完璧だ。効果持続時間も長い。たかが酔い止めでもこの効果の表れようだ。天才としか言いようがない。
レデイの洋館から帰って来た翌日、昨日に引き続いてやけに天気の良い日だった。勇者一行の名義で宿泊しているサプリングデイ一番の高級ホテルのアノネの部屋にはめ込まれたガラスから、暖かい日差しが差し込んでいる。
ヨルはまだ王都から帰って来ておらず、二人でギルドの依頼に行くとしても、勇者一行で名目上保護しているソラとウィウィと外の行動を別にするわけにもいかない。
フェルムも、今日の方針の打ち合わせのためにこの部屋に来たのにこんな質問をされて不運なことだ、とアノネ本人が思う。
「えと、ボクの場合ヨル様に濡れ衣がかかったってことだよね? だったら、そのぉ、頑張って弁護すると思うけど……」
「じゃあ、勇者殿が濡れ衣じゃなくて本当にやっちゃってたらどうするんです」
「ええ……」
さらに詰められたフェルムはまた考え込む。しかし、アノネには既に彼の答えがわかっている気がした。
「それでも……何か考えがあってのことだったら、手伝ったり、しちゃう……かも」
「かも」じゃないだろ、とアノネは内心毒づいた。なにしろ、実際に勇者がアステラに手を貸していたのを知っていながら通報も何もしなかったのだから。
それほど信頼できる相手が主人で、フェルムが羨ましかった。
アノネにとっての憧れであるレデイは、憧れていると言えど、会ったことどころかその人間性を知ったのも昨日と関係性も信頼も薄い。それでも、偉大な人という印象が先行して、本来なら真っ先に騎士団に情報提供や、過激にいくなら通報すべきところを今もこうして何もできずにいる。
フェルムは「ヨルに報告して判断は彼に委ねる」という考えを一貫しているので、騎士団への通報という選択肢を当たり前のようになくしている。
狂信者とまでは行かずとも、一度殺されたかけたくせにどんな恩があればそこまでの信頼を寄せられるのか、アノネには不思議で仕方ない。
ふっと息を吐いて鼻にかかった邪魔な前髪を吹き飛ばし、「もう良いです」と強引に話を戻した。
「ワタシは今日一日部屋にいますぞ。道具もそれほど消費していないから補給もそこまでいらないでしょう?」
久々に使った古臭い口調で、少し恥ずかしくなった。しかし、これが普通だという顔でフェルムに肯定を求める。
「ああ、うん。まあ一昨日消費した携帯食の補充だけしに行こうかと思うから、じゃあ頼むね」
「はい……はい?」
「頼むね」? 何をだ。と疑問が浮かんだのも束の間、フェルムが部屋の出口まで歩き「もう入って良いよ」と扉を開けた。
「よろしくおなしゃす!」
「しゃー!」
満面の笑みのソラとウィウィが我が物顔でズカズカと入ってくる。ぽかんと放心していてそれを止める暇もなかったアノネは、我に帰ってフェルムに「まさか」という顔を向けた。
「わ、ワタシが此奴らのお守りをしろと!? お前の食料調達に連れて行けば良いじゃないですか!」
「え……で、でも人攫いが狼族を狙ってるって判明したばかりだし……昨日みたいに二人ならまだしもボク一人じゃ街中で守れる自信がないし……部屋の中なら出かけるよりも安全……かと思って……その、ごめん」
全くその通りだ、反論の余地がない。アノネは額に手を当てて天井を仰ぎ見た。アノネは、何故か謝っているほど気弱なフェルムの提案に頷くしかない。
「トランプしようぜ、アノネちゃん!」
「アノネちゃ!」
既にベッドの上を陣取って切り終わったカードを三人分に配り始めているソラを見て、額に当てていた手を握りしめて机に叩きつけた。
・ ・ ・ ・ ・
この度俺はこの世界の最強パラメータのコントロールに成功した。
それを最もうまくコントロールできる場面が、この目の前に広げられたトランプを使ったカードゲームである。それを入院中に気がついてから、毎日ウィウィとフェルムと一緒に遊びと称して訓練しまくったから間違いない。
俺と同じように五枚くらいのトランプをセンスのように広げて顔の前に構えるウィウィと見つめ合う。真剣勝負だ。このババ抜きを一抜けした者に、最後にババを持っていた者が「サプリくん饅頭」を奢ることになっている。ウィウィだって俺が毎日あげてるお小遣いでそれなりに小銭持ちだ。
「きょうこそ勝つ!」
ウィウィは気合を入れて俺の手札のうち一枚のジョーカーをピンポイントで引いた。カードを返してピエロの絵を見て小さな悲鳴をあげる。しかし、落ち込んでいたのも束の間、耳と尻尾をピンと立てて表情を引き締めると、ベッドを降りてトコトコと歩いていく。
部屋の隅の机、そこで俺たちに背を向ける形で何やら化学実験みたいなことをしているアノネちゃんがいる。彼女に向けて、ウィウィは無邪気に自分のカードを引いてもらうために差し出した。
アノネちゃんは視線すらそちらに向けずに、手に持ったままの代用魔法杖で適当にコツンと手札の一枚を選んだ。すると一人でにカードが浮き上がって同じように近くに滞空していたアノネちゃんの手札に加わる。そしてダブりカードが手札群から抜け出して、ベッドの上の捨て札の山に手裏剣のように飛んできた。
ウィウィがニコニコと戻ってくるのとすれ違いに、俺がアノネちゃんの手札の下に行き、意気揚々とその手札を引いた。ジョーカーだった。
「ちょっと!? おかしいだろ、今ダブ捨ててたよね!?」
「最初の手札整理でダブりカードを必ず捨てなければならないというルールとか聞かされてませんでしたので」
「こ、姑息な……ッ!クソ、油断した~!」
仕方なく付き合ってやっているという態度=適当にやっているというわけでもないらしい。むしろここでボコボコにしてやって二度と誘われないようにしてやろうという魂胆かもしれん……あ、侮れない。
――と、こんな感じでアノネちゃんが異議待ったなしのルール違反ぎりぎりの手を使いまくって、ぐるぐる何周もジョーカーが俺の元に戻ってくる始末。ウィウィもウィウィで俺の手に引っかかって毎回ババを当てるもんだから終わりが見えない。
フェルムとやってるときの純粋な遊びとは違って、もう気分は賭博黙示録を綴っている。
「てかアノネちゃんさっきから何やってんの?」
「アナタたちのおもりです」
「いや違くてね?」
雑な返答とは裏腹に、アノネちゃんは机の上で繊細な作業を行なっているように見えた。
机上に広げられた試験管やフラスコ、薬さじ、それに難しそうな分厚い本。部屋に染みつき、現在進行形で発生している強烈なツンとした匂いからして、多分薬を作ってるのだとは思うけれど……
「もしかして噂のマホーヤクなのでは!?」
「だったらなんですか」
「アノネちゃんも作れんだ!?」
「喧嘩売ってますか」
テンションが上がる――と見せかけて、アノネちゃんの意識をババ抜きから逸らす。ワンチャンうまく行ったと思ったが、順番がさらに一巡してして俺が引いたのはまたジョーカーだった。
「アノネちゃんかぜぐすりつくってる?」
「そんなしょぼい物普通の薬で足りるでしょうが」
「じゃあゾンビのわくちん?」
寝る前に俺が吹き込んだ余計な話を覚えてたみたいだ。ウィウィの言葉にアノネちゃんが首を傾げる。やっとこっちを見た。
少しの間俺を不機嫌そうに見つめ、机に向き直ったかと思うと魔法杖を持っていない方の右腕だけをこちらに突き出して来た。その手には蓋もされず中身に液体が入った試験管がある。
反射的にそれをカードを持っていないてで受け取ってしまった。
「試作品です」
「え! 飲んで良いの!」
「どうなっても良いなら」
そう言われて飲むのを躊躇うなら異世界なんて来ていない。俺は一振りで試験管の中身を飲み切った。味はなんとも言えない。甘いような苦いような、薬のシロップみたいな微妙な味だった。
空の管をふりふり、変化を待つ。何も起こらない、と思った直後、雷に打たれなような激痛が喉の奥を駆け抜けた。試験管が手から抜け落ち、毛の長い絨毯の上に落ちた。
「いでえええぇぇぇぇッ!?」
「ソラーーーッ!!」
激しく咳き込んで薬を吐こうとするが、もう吸収されてしまったかのように胃からは何も出てこない。実際吸収されたのか。床を転げ回って痛みに悶えていると、数秒後に突然痛みがスッと引いた。
「お、おぉう……」
「治りました? 鼻詰まり」
「……え?」
もう何も感じない喉をさすっているとアノネちゃんが興味ありげに俺を見下ろして来た。見下ろす姿も可愛いと思っていると、今度は鼻にツンと刺すような痛みが来た。すぐにこれが薬の効果ではなく、周囲に漂っている薬品臭が一気に増したからだと気がついた。
「~~~~~ッゲホ! げほぁッ!?」
「ソラーーー!?」
「治ったみたいですね」
鼻を押さえても鼻腔の奥にこびりついた匂いが消えず、涙が出てくる。アノネちゃんとウィウィの二人は何事もないように俺を見下ろす。
アノネちゃんの言葉を思い出して、意識して呼吸してみると、確かに鼻の通りが良い。というかちょっと前までは空気の通りはほぼ皆無だったのが、なんの隔たりもなく鼻を通して肺まで空気が届けられた。長年俺を苦しめていた花粉症の症状の鼻詰まりが治っている。
「ふむ……最弱種と言えど、これくらいのダメージでは死なない、と」
アノネちゃんは冷静にバインダー上の紙に何かしらをメモしていく。
え、俺さっきのダメージで死ぬところだったの?
そこでようやく俺が薬の実験台に使われたことに気がついた。
いや、こんな冷静ってことは飲んだらダメージあること知ってたよね? そんな鼻詰まり治し薬作ってんの?
と、思ったけれど、そう言えば彼女に俺の鼻詰まりの話をしていたことを思い出して、もしかして俺のために作ってくれたんじゃと期待する。
「アノネちゃん……酷いんだか優しいんだかわからねえにゃん…………にゃん?」
あまりにも自然に俺の言葉に付け足された萌えワードに気がつくまで数秒を要した。
「にゃん」ってなに。俺狼なんだけど。
え、俺、わざとじゃないよ。たまに受け狙ってサムイって言われるけど、「にゃん」とかいうタイプじゃないから! それは猫耳キャラクターだけで良いもん!
「なんだこれにゃん!? うげぇまたついたにゃん!? にゃぐわ~~~ッ!」
「ソラなんでにゃんにゃんのことばづかいなの?」
言わないように意識しても話終わった直後に高速で口と肺が痙攣するみたいに動いて「にゃん」が付け足される。
ウィウィならまだ可愛いだけだけど俺はキツいだろ!
そんな大惨事を横目に、アノネちゃんは冷静にバインダーのメモにサラサラと何事かを付け足していく。
「『副作用には、語尾に“にゃん”とつくように口および肺が痙攣。吃逆と同じ原理だと思われる』……と」
「これ薬の副作用ッ!? にゃん!?」




