51.フェミニスト襲来
2022.2.14:大幅加筆修正
ひとつ扉を潜ると、そこは結構な広さの書庫だった。と、アノネが一通り眺めた時はそう思ったが、正面奥の壁際に書類の積み上がった大きな机がひとつでんっと置かれているのに気がつき、ここが一風変わった執務室なのだと認識を改めた。
眼鏡の男は猫人族の女に何かを耳打ちし、どこかへ行かせるとまたこちらを振り向き、呆然と部屋の入り口で立ち尽くしていたアノネの手を優しく取った。真っ直ぐに目を見て微笑まれたアノネは反応することすらできず手を引かれ、大机の前に置かれた二つのソファのうちのひとつまでエスコートされた。そして、ストンと力が抜けてしまったかのように腰を下ろす。
ふと横を見ると、なぜかウィウィも同じようにエスコートされ、アノネの横に座らされている。慣れない以上の何かを感じたのか、男のことをチラチラと見上げてもじもじと顔を赤くしていた。ものすごく手慣れていて、かつ素晴らしい手際だった。
最後に眼鏡の男自身が大机の横にあるソファに腰掛けた。背もたれが精神カウンセラーの診療を受ける時に座らされる椅子のように倒れた椅子だった。
ふと入り口を見ると、エスコートされることもなく取り残されたソラとフェルムが「え? 自分たちは?」と言う顔をしている。その視線に気がついた眼鏡の男は、それまでの柔らかい目線をまるでつまらないものを見るような冷たいものに一変させた。
「野郎は立っていたほうが運動になると思うけど、座りたいなら勝手に座るといい。生地を汚したらきっちり弁償してもらうが」
その一言でこの男が重度のフェミニストだとわかった。
途端にスキートが弾けたように笑い出す。
「悪いな、ワタシの友人ながらアイツは男に対して性格が悪くてな! そこまで悪いやつじゃあないから気にせず座れ!」
「じゃあ遠慮なく! おじゃましまーす」
家主でもないスキートの言葉を受けて、ソラはフェルムの背中を押してアノネたちの座っているのとは向かいのソファーにさっさと着席した。
最後に、ソラをフェルムと挟むようにスキートが腰を下ろした。
「改めて……ボクはレデイ・マーチ。特に身分には位もないけれど、趣味で魔法薬や生活日常品なんかを作って生計を立てているよ」
眼鏡の男――レデイは腰の下の余った裾を皺ができないように払った。
「レディ? 男なのに!?」
「レデイだ。百番煎じなんだよそれ。もっと面白いことが言えないのか」
「うわぁ初対面で辛辣~~~」
相変わらず男相手には目覚めるほど当たりが強い。早速ソラが撃ち落とされたが、意外とダメージがないようだ。しかし、罵倒している間も所作に優雅さが消えない。
レデイ、レデイ。
アノネは彼の名を心の中で反芻した。ぽやんと効果音がつきそうなほど散漫になってた注意力が冷静になって戻ってくるほど、その名に聞き覚えがあった。いや、見覚えもある。
猫人族の女がカラカラと何か装置のようなものが乗ったカートを押して執務室に戻ってきた。そのカートの端に、薬包紙に包まれた粉薬を見て、記憶の引き出しが内側から勢いよく開いた。
「レデイ!? レデイ・ハンドメイド!?」
全てを思い出したアノネは、記憶が正しいことを確認するためにソラの顔を見た。しかし、突然叫んだアノネに驚くばかりで、ソラは何もピンときている様子はない。
「薬ですよ! アナタが廃教会で勇者殿に湯水のように使ってしまったあのパーフェクトポーション! それの製作者です! 彼は!」
しばらくポカンと口を開けていたソラだが、思い当たったのか「ああ」と軽く拳を掌に打ちつけ、その手でウィウィを指さした。
「ウィウィの依頼の報酬でもらったやつ? でっかい蛇の毒集めに行った?」
「ん? ウィウィがなあに?」
アノネは興奮気味にコクコクと何度も頷いた。
アノネとしたことが、もっと早く気がつくべきだった。
忘れもしない一ヶ月前、ウィウィが選んで受けた最悪の依頼から始まった様々な悪夢。しかし、その中にはいいこともあった。その依頼の報酬は、薬を必要としてる者以上に魔法薬学者が喉から手が出るほどにレシピを知りたがっているポーションの一つだった。
レデイ・ハンドメイド。このブランド名を掲げて薬や魔道具など様々な魔法的商品を創り出す製作者は、鬼才と崇められている。
神の恵とも比べられるほどの圧倒的な効果をもたらす魔法薬。アーティファクトだと疑うほどの技術が詰まった魔道具。そこらの天才では真似をすることすらできない。だから、皆その薬と道具を自分のものにして技術を解明しようとする。
しかし、このブランド名がついた薬はどこの店でも固定で仕入れることはできない。なぜなら製作者は素性を公にしておらず、商品も本当に稀で、そこらの適当な店で適当な安価で、そして適当な個数でゲリラ的に販売されるからだ。
それも貴族向けの店ではなく、決まって貧しい平民が利用するようなチェックするのも難しい個人店に卸される。学者が販売の噂を聞きつけて店に駆けつけても、その頃には平民に買われて売り切れているのがオチだ。
ソラからウィウィにポーションが渡った時、そのラベルにブランド名が刻印されているのを見つけた。その時のアノネは後でウィウィに譲ってくれと頭を下げようとする衝動を抑えるのに内心必死だった。
機会さえあれば二、三滴でいいからくすねてみようかと逡巡していたのに、あろうことかその機会はソラが瀕死の勇者に一滴残らずぶっかけたことで完全に消え去っていた。それを聞いてどれだけショックを受けたか。
様々な思い出を思い返していたアノネは、フェルムが猫人族から何か薬を貰い、口に流し込もうとしているのを見て飛び上がった。
「フェルム! よこしなさいその薬! レデイ・ハンドメイドの薬がどれだけ貴重なものだと思ってるんですか!?」
「えぇ……」
「ただの酔い止めなんだけど? 市販程度の効果しかないわよ」
横にいた猫人族の女が嫌味のように言って、ふんっと鼻を鳴らした。踵を返し、エプロンドレスがふわっと広がる。主人の横まで行くと、彼の長い白髪をわけて耳を出させ耳打ちした。
「ああ、君たちがボクの依頼を受けてくれたんだ?」
「“ボクの依頼”? あの依頼レデイが依頼主だったのか? それならウィウィにお礼してよ」
早速偉大な創造者を呼び捨てにしたソラの言葉を聞いて、また女が耳打ちした。レデイはふわっと野郎向けではない雲の間からさした日差しのような笑顔をウィウィに向けた。
「キミがボクの依頼を見つけてくれたんだ。とっても勇敢なんだね。キミのおかげでとても助かったよ」
「あ、う……」
「やばい、ウィウィがお年頃だ」
ウィウィはぽっと赤くした頬を両手で抑えた。精神年齢は低くとも、乙女なのはアノネと変わらない。そもそもあの美形の前で、しかも褒められてノーリアクションであるほうが難しい。
しかし、そんな恐れ多さもこんな何もない地で偉人に会えた嬉しさも抜きにして、同じく魔法薬学を学ぶものとして聞きたいことがアノネには有り余っている。口を開きかけたところで、パンっと手を叩く乾いた音が場の空気を変えてしまった。空気の読めないスキートを睨みつける。
「さて、挨拶も終わったところで、食料調達に移ってくれ!」
・ ・ ・ ・ ・
昨日ゴーレムを鑑定した結果と、レデイの名前が一致したことで、彼がスキートの言った通り椅子の製作者であることは間違いないことがわかった。アノネちゃんがぶつぶつとレデイがどれだけ天才か語っていた中で、魔道具も作っていたと言うのもわかった。多分その過程で生み出されたものだったんだろう。
問題はどれだけ悪意を持って作られたかってこと。
レデイを見ると、リラックスチェアの背もたれに背中を預けていた。その腕には、猫耳メイドさんの手伝いで点滴のような注射が刺されていた。でも、薬が入っていくのではなく血が抜かれているようで、管を登って少しずつカート上の装置に取り付けられた試験管の中に彼の血が溜まっていく。
その過程でこちらの自己紹介を終えても、たっぷりと沈黙の時間が取られた。
「これなにしてんの?」
「ワタシは吸血鬼だ!」
「知ってる」
「血を飲まなければ生きていけん!」
「ああ~~~。にゃるほどね」
そんなん吸血鬼と血っていう組み合わせで察せるわ。そんなこと聞いてないよスキートさん。
不思議そうに見てる俺たちの視線に気がついて、レデイは針が刺さった自分の手から顔を上げた。
「レデイの血はすこぶる美味い。友人のよしみで月に一度ほど彼の血をもらいに来るのだ!」
「これでしばらくまともに動けなくなるってのに、月に二回も来るなんて非常識にも程がある」
しかも、昨日の騒動で力を使うために血を飲み干してしまったし、とぶつぶつ文句を言うレデイから目を逸らした。
確かに、手当たり次第に一般人を噛みまくって問題を起こすか、一人と専属契約を結んで血を定期的にもらうかでは、世間体的にもことの面倒さ的にも後者を選ぶしかない。
スキートの妻は椅子だから文字通り血も通ってねーし。
野郎相手に辛辣と言っても、そういう友達付き合いができるレベルにはレデイと言う男はできているらしい。何も言わずともフェルムに酔い止めの薬をくれたし。
だけれど、優しい人ですね~とお話をするためにここに来たんじゃない。アノネちゃんも色々とレデイの美形に当てられたり、その正体がなんとかメイドだった……とかの衝撃で本題をすっかり忘れてるみたいだし。
パーティーの時みたいに人見知りなアノネちゃんのため! いっちょ俺がやったりますか~~~!
「レデイってスキートの椅子の生みの親なんだよね?」
俺の柄にもなく結構真剣に聞いたが、レデイはすぐに答えなかった。と言うか、聞こえていないようにウィウィとアノネちゃんの方を見て微笑んでいる。
「あの~?」
「…………」
「もしも~し!?」
「なんだい?」
ぶんぶんと手を振ると、今こちらに気がついたように眉を顰めてこっちを見た。いや、なんだいってそんなイケボで言われても。
見かねたスキートが吹き出しそうな顔で、自分の爪を見て暇を持て余している猫耳メイドへ手を振った。
「フォッサ、聞こえていないそうだぞ!」
「あ、やべ……仕事しなきゃ」
ハッと我に帰った猫耳メイドは、言葉ほど焦った様子もなく俺の方を向いた。
これは……
「もしかして:難聴?」
「気にしないでいいわよ、ただ歳なだけだから」
「とし?」
レデイの見た目が年齢の把握がしずらいくらいの完璧に整っているのはわかるが、どう見ても耳が遠くなるくらいの高齢には見えない。
気にするなと言う言葉通り、猫耳メイドは説明する気もないようで、俺らの疑問顔を無視して耳打ちした。 これで俺の質問がようやくレデイの耳に届いた。
大声で会話しないと、彼の耳に届かないらしい。そういえばスキートは声がでかいからか、彼との会話だけスムーズに成立していた。
レデイは薄いピンクの唇からふうと息を吐き出した。眼鏡のアーチを人差し指の第二関節あたりで上げ直し、面倒そうにスキートを見る。
「あの椅子ね。確かに先月……と言っても一週間前だけれど。確かにボクが作ったものを上げたよ。そこの蚊に」
蚊。酷い言われようだ。
友人というもの以外とスキートの一方的なものなんじゃないのか?
「それがどうしたのかな」
「いや、あれの作者ってことは、自動的にあんたアステラの人攫いの協力者ないし信者ってことになるけど……ッいて!!」
向かいから小さな何かが飛来して俺のこめかみに直撃した。見るとアノネちゃんが視線だけで俺を殺そうとしていた。地面にころんと転がった彼女のローブのボタン見つけた。これをぶつけられたんか。
なぜか激おこを通り越しているアノネちゃん。いつものような罵倒が飛んでくると思いきや、そうでもなく顔を真っ赤にしてただ口をパクパク開閉させていた。
「こ、この偉大な魔法薬学者がそんなこと……いやでも確かに……状況だけみれば……」
どうやら憧れの人が人攫いの首謀者だとは思いたくないということらしい。歯切れ悪く言葉が纏っていないままぶつぶつと抗議しようとしている。
「嬉しいアノネちゃんのいう通り……巷で噂の人攫いの首謀者はボクじゃないよ。第一、椅子で人が攫える?」
レデイが「アノネちゃん」って言った! パンプがいなくなっって俺だけの特権だったのに!
意外と女たらしだなこいつ! いや、以外でもないか。神々しさが勝ってるだけでイケメンには変わりない。
思っていたよりもなかなかに事態の状況を把握しているらしいレデイは、うまいこと何も知らないふりをしようとしている。しかし、こちらにはそれは通用しない。俺だけが持ってる情報があるからだ。
血を抜いている最中だとは思えないほど、レデイの表情は余裕で、しかし初めてこちらをまともに見た。戦いの中で構えをしたようにも見える。
そっちがその気ならこっちだってばっさり切り捨ててやらぁ!
「いやいや、ただの椅子じゃないでしょ。美少女ゴーレムに変形して飛びかかってこられたし。しかも一体じゃなかったかんな?」
「ボクの椅子のデザインセンスがたまたま人攫いのデザイン部門のやつと一致したんだね。すごい偶然だ。それはそれとして依然としてボクが人攫いに関わったという証拠はないね」
「椅子のデザインがたまたまあったとしても、変形したゴーレムがそこの猫耳メイドさんと瓜二つだったよ? 俺だけじゃなくてこの場の全員見たし」
「彼女は使用人。買い出しのためによく街に出るし、この可愛さだよ? 愚かにも一目惚れしたデザイナーが彼女をゴーレムとやらのモデルにしたんじゃないかな。他にもボクに濡れ衣を着せたかった一派の犯行とも考えられる。第一人の記憶力なんて案外当てにならないものだよ」
ああ言えばこう言う。“ゴーレムの製作者”ということを認めようという気が一切ねぇ。
まあ、そもそもレデイの言う通り、疑わしいというだけで決定的な証拠まだ出していない。側から見ればレデイという特殊な立場的に、どんな反論も不自然以上の疑惑を引き出せない。
ただ、俺をみくびってもらっては困る。一度は脳筋の勇者も凌いだ最弱種だ。今自然に会話ができてるのは誰のおかげか。
「ダ~~~ウト!」
俺はニコニコしながら横のフェルムが下げていたマジックバックの中を漁る。
「うわ!」
「ほいよっと」
ずるっと取り出したのは、脱力した女性の体……ではなく、件のゴーレム。昨日破壊されて動かなくなっていたものを、隙をついて放り込んだ。ヨルに渡して王都に報告する際の証拠品にでも、と思っていたけれど、結局会う暇もなかったから出すタイミングを失っていた。
「あ、あなたいつの間にそんなものを……」
それをの両脇に手を入れて持ち上げ、レデイに見せつける。腹部から下がヨルに一刀両断された個体なので、俺でも軽々持ち上がった。
「記憶があてにならんなら見比べてみな!」
レデイは特に大きな反応も見せなかったが、自分のメイドとよく似た顔と特徴を持つゴーレムを見て、顎の付け根あたりに指を添えた。これでも、認めあぐねているようなので、俺はスマホに命じて以前の鑑定結果を頭の中に呼び起こさせる。
「え~っと。【レデイ・ゴーレム三号機H型:ハンドメイドの最高級ゴーレム。普段は家具に擬態しており、このH型は椅子の擬態を得意としている】……だそうじゃん」
つまらなそうに半目だったレデイは、虹彩が全てまんまるに見えるくらいに瞼を持ち上げた。どこからその情報を仕入れたんだとその内心で思ってくれれば、それでいい。
「もう無理じゃね? 意地悪してないで潔く認めちゃってもいいんじゃないの」
黙るレデイの代わりに、ずっと耳打ちに徹していた猫耳メイドが主人に向けてだとは思えない口調で言った。レデイはその仏頂面を一変、とびきり愛おしいものを見るような顔で猫耳メイドと見つめあった。デレデレって感じ。
「……ふふ、鑑定拒否のプロテクトはかけたつもりだったんだけどね」
急に上機嫌になったレデイは空いている方の手で猫耳メイドの腰に手を回して軽く抱き寄せた。
その動作に対してか、遠回しにゴーレムの製作者ということを認めたことに対してか、アノネちゃんがショックを受けたように口を横長に開いた。でも何も言わない。
「本来はね、スキートが勇者様を連れてくるというから、訪問と血の提供を許したんだよ。その約束を破られたから少し意地悪をしたくなっちゃった。ごめんね」
「その節はすまんな! コハクトくんの足が速くて捕まらんかった!」
「お詫びと言ってはなんだけれど、野郎からの質問でも答えられる範囲で聞くよ」
そういえば、最初はヨルが騎士団の代わりにレデイに聴取をしに行く……みたいなつもりだったんだっけ、スキートは。
でもそうなると、ゴーレムの製作者のはずの彼が勇者の訪問を望んでいたように聞こえる。むしろ来てほしくない方じゃないのか?
「えと……認めるんだよな~?」
「うん。そのゴーレムはボクが作った」
潔すぎんだろ……。
さっきまでの殺意丸出し無理矢理反論はなんだったの。やっぱり人は見かけによらん。
「ゴーレムのモデルにしたこの仔――フォッサはね。ボクの恋人だよ」
「ちーっす。フォッサ・パルキャットでーす」
「こ、恋人!?」
「こいびと……!?」
「ああ、愛人だったのか。どうりで二人から特別な愛という名の絆を感じると思った!」
軽い調子で猫耳メイドのフォッサは顎の下にピースを掲げた。なぜかウィウィまでショックを受けている。まだ嫁には出さないぞ。
ここにもいたかリア獣。片方だけのハーフだけど。
「気がついていると思うけど、うちにはフォッサしか使用人がいなくてね。彼女の負担を減らすために家事用ゴーレムを少し前に大量生産したんだ。……彼女をモデルにして」
聞くだけだと結構狂ってんな。
「椅子に変形するのはなんで?」
「仕事がない時は、本物のフォッサと紛らわしくないように擬態させておくため。椅子だけじゃなくて他の家具にも変形するモデルはあるよ」
うん、やっぱり狂ってる。紛らわしいなら恋人モデルにすんな。
「じゃあ、それをスキートが嫁にもらったわけか」
「金も払わずね」
「彼女はプライスレスだ」
それは実際プライスがレスってるって意味じゃなくてね。
大体話が見えてきた。ゴーレムの製作は認めたがあくまでそれは家事用だったと供述している。
……胡散臭い。でもパンプみたいなアステラ所属のネトネトした悪意は感じられない。
「そのうちの椅子を娶られた二日後だったかな」
「メトラレタ?」
「置き場に困ったゴーレムをしまってた街中の倉庫に泥棒が入って、三十体くらい盗まれたんだ。恐らく、それがスキートの屋敷に送り込まれたんだろうね」
ああ、スキートが嫁が一人だとか言ってたのに最後に大量発生したのはそれが原因ってこと?
「レデイが勝手に結婚祝いに搬入させたのかと思って放置していたのが間違いだったな!」
放置すんなよ確認とれ。
つまりこういうことか。人攫いはスキートのパーティーでどさくさに紛れて人を攫うことが目的で、レデイのゴーレムを改造して送り込んだ。バレても椅子を嫁にしてる変人が捕まれば良いし、ゴーレムの製造元もレデイだから人攫いへ直接被害はいかないって?
これって……うん。まあいいけど。俺に直接被害ないしさ。これ以上は踏み込むと面倒臭いことになりそうだし。
このくらい情報出させておけばヨルも王都も満足すんだろ。そもそもこんなん勇者がやる仕事じゃないしね。
「さて、こんなもんでいいだろう」
レデイは会話をぶった斬るように腕から針を抜き取った。ピュッと血が飛び出たが、ほんの一瞬でおさまる。
「もう終わりか!? もう少しサービスしてくれても良いだろう!」
「黙れスキート。この後も予定はあるんだ貧血で倒れるわけにはいかない」
「じゃあその予定が終わった後に追加で採血してワタシへ送ってくれ!」
「図々しい」
言外にもう帰れと言われている。少しふらつきながら、立ち上がり、俺たちを素通りしてアノネちゃんとウィウィの前に跪いた。
「ごめんねえ、もっと時間があればキミたちとも、もっとお話しできたんだけれど……」
レデイってフォッサが恋人なんじゃないの? 公然と浮気?
良いのか? とメイドさんを見てみても、白けた顔で明後日の方向を見ている。これがこいつの普通なのか。
レデイのウィンク一発でノックアウトしたウィウィが沸騰した顔を抑えて俺の胸の中に飛び込んできた。折れた腕にとどめが刺さる。
ソファに一人残ったアノネちゃんは、また片手を取られていた。
「キミは特にボクと話したそうだったね」
「え、う……まあ。はい……」
「きっと機会はあるよ。また会おうね」
「……あ、あ……ありがとうございます……」
アノネちゃんは顔を赤くしながらも複雑な表情で頷く。
レデイは立ち上がり、アノネちゃんを外までエスコートしようとしてふと思い出したように振り返り、俺たち野郎に向かってしっしと手を払った。




