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カースト最底辺の狼  作者: 睡眠戦闘員
二章:狼的な幸運
46/94

44.六度の通り雨

2022.2.14:大幅加筆修正




 煌びやかな照明。派手なドレスに礼服を着た参加者。こじんまりと盛り付けられた料理。いるだけで心躍るパーティーの飾りつけは、庶民派の俺にとって未知の世界だった。


『皆様、今日はよくこの『ラブラブデコボコカップルたちの親睦を深める会』にお越しいただいた!』


 ざわついていたホール中が、眩いスポットライトに照らされた前方のステージに視線を集める。


『ワタシはこのパーティーの主催者、スキート・ランドリューだ』


 先月建てられたばかりだというこの豪邸には、マニアックすぎるパーティー名とは裏腹に多くの人間が――人外が大半だったが――集まって来ていた。その人数の視線をものともせずステージに立つ男は、さらに続ける。


『数々のテーマでパーティーを開いてきたワタシだが、今回考案したラブラブデコボコカップルたちの親睦を深める会を開けたことは今までで一番の達成感がある!』


 真っ赤なスーツを翻して動作うるさく、そして大仰しく喋る主催者スキート。口を開くたびに長く鋭そうな犬歯がちらついている。ステージからさほど近くない場所にいる俺にも見えるくらいだから、相当その純白の歯は目立っているに違いない。吸血鬼やチュパカブラとか、その辺りの種族なんだろう。


「すごい声通ってるな~」

「拡声用のマイク(魔道具)でも使っているんでしょう」


 俺が感心している間に主催者はペラペラと話を進めていた。いつの間にか、劇がかった動きで胸に手を当てている。


『ワタシは今までは寂しい独り身だった……だがしかし! そんなワタシの前にも運命の相手が訪れた! そうしてワタシの人生、運命、天命全てが変わったのだ! 紹介しよう、こちらがワタシの妻である!』


 スキートはそう言いながらステージ端のシーツを被った物体を、中央に持ってきた。疑問を持つよりも前に、彼は勢いよくシーツを取り払う。


『座り心地最高の妻、チェルシーだ!』


 チェルシーと紹介されたそれ(・・)は……椅子だった。


『どうだこの肘掛けの完璧な流線型! 背もたれの反り! ああ、お前こそ運命の人……!』

「人じゃないんですが」

「この場で言っちゃいかんよアノネちゃん」


 アノネちゃんと同様に、会場の大半が空気を固まらせていた。しかし、一部の特殊な層はスキートに向けてべらぼうに盛大な拍手を送っている。よく見ると、その中のカップルは、片方がギターやナイフなどの無機物だった。


 俺も会場入りした時はびっくりしたけれど、これもちょっと変わった愛の形ってことで。それでも他人の趣味趣向考え方に口を出すものではない。俺は受け入れよう。愛は素晴らしいと思います。


 スキートはしばらくの観客そっちのけで、椅子(チェルシー)の馴れ初めだとか嫁自慢だとかがタラタラと続けていたが、ハッと我に帰ってスーツの襟をただした。


『おそらく皆理解されている通り、互いに種族の違うカップルは風当たりも強い傾向にある。だからこそ! ワタシは今こそ同士で結束するべきだと思うのだ! さあ! お膳立てはワタシが済ませた!親睦を深めたまえ同士達よ! そのラブラブっぷりをワタシに見せつけてくれたまえ!』


 こうして主催者スキートによるパーティーの開始は高らかに宣言された。引いていた一同からも、最後の言葉には心を打たれたらしく拍手が上がる。例の一部の層からは、号泣する声と共にスタンディングオベーションレベルの強い賞賛の拍手が爆発している。


 面白いことになりそうな予感に胸が高鳴った俺も、ささやかながら拍手を送った。


「はあ……」


 そして俺の隣からは、どう聞いてもワクワクなんてしていない疲労混じりのため息が聞こえて来た。



 王都からの手紙が届いた数時間後、まさかのパーティーの開催日時がその日のうちだとは思わなかった俺たちは、慌てて準備を開始した。俺はこの血だらけの制服で出席するわけにもいかず、ヨルのポケットマネーからドレスコードに引っかからない衣装を俺とアノネちゃんの分用意して、馬車の中で着替えながらこのサウザリーフ郊外にやって来た。


 そんなハードスケジュールだったからか、アノネちゃんはホールに入場してからというもの、ずっと不機嫌にウェルカムドリンクのグラスを回している。


 改めてアノネちゃんのドレス姿を見た俺は、不機嫌な本人とは逆に感動のため息をついてしまう。


 いつもは機動性を重視したシンプルな服装だが、今日は違う。


 白ベースに朝日のように淡い橙色を塗り上げた布が、蛇腹を折って背中側下へ垂れている。前脚部は大きく開いていて、アノネちゃんの白い太ももが見えているのはとてもいいデザインだ。手にはドレスに合わせたシルクのブローブをつけている。


 普段は下ろして謎の天然石で横髪だけまとめている髪型だが、今日は後ろ髪はアップに。そして両横髪ともに、ゆるくカールしつつ彼女が動くたびに揺れている。


 異世界系ラノベのパーティーと言ったら美少女のドレス姿よ。これ、温泉は覗きイベントフラグくらい確実だから。


 ああ、この姿を見るためにヨルを説き伏せてよかった!!


「かわいいな~~~~~」

「うるさいです」


 目線も寄越さずに一蹴された。しかし俺は目の保養のために彼女からは目を離さない。


 聞いてくださいよ、俺、この可愛い子の彼氏ですよ。設定上は。偽りのカップル。一冊同人誌が書けそうなタイトルだ。


 そう、カップル。今回のパーティーの条件である凸凹カップル。俺が想像してたのは俺らくらいのデコボコ具合だったのだが、実際に来てみてその凄さを実感したよ。


 鳥人間と半魚人のカップルだとか、ハイエナの獣人と普通の猫のカップルとか。めずらしいな~~~って。一番すごいと思ったのは主催者夫婦である椅子とのカップル。自分で自分を愛に寛容だと思ってたけど、あれを見たらまだまだだなって思ったよ。


 そんなんだから、パーティーには招待状を所持している、かつ二人一組であれば特に厳しいチェックもなく簡単に入場が可能だった。その緩さが逆に怪しい。

 

 それにしたって、今ホールを一望するだけで参加者が意外に多いように感じた。デコボコカップルは異世界でもマイノリティのようだ。共感者がいないから、このパーティーにそれを求めて訪れたんだろうな。


 俺がキョロキョロしていると、心ここに在らずだったアノネちゃんが「よし」と呟いて、持っていたグラスの中身を飲み干した。

 

「ソラ!」

「はいはい?」


 アノネちゃんは指示棒のように空になったグラスを俺の喉元に突きつけた。威勢はあったが、冷静に声量を落として俺に語りかける。


「そろそろ本格的に調査を始めます。いいですか、このパーティーの間だけ、ワタシはアナタの恋人として振る舞います。アナタも全く自然にそう振る舞うように!」

「えへへぇ~! アノネちゃん彼女か~~~!」

「そのッ! 緩んだ口元をッ! 今すぐ塞ぎなさいッ!!」


 アノネちゃんは自分の実力を示すためと理由をつけ、ようやく決心できたようだ。


 じゃあ、と腕を差し出すと思い切り叩かれた。恋人らしく腕組みたかったのに……


「馬鹿なことしてないで、馬車の中で考えた設定はちゃんと覚えてますか?」

「覚えてる! 俺たちは付き合って三ヶ月。出会いはハイスクール。ちゅーはまだしてない!」

「わざわざ言わなくていいです。とにかく、人に尋ねられたらそう答えるように。余計なことはしないように」

「ほーい」


 俺はウン十万するジャケットの裾を正した。血のついてない服を着るのは病院服ぶりだ。


「さて、まずは……聞き込みですね。できるなら主催者に話を聞きたいところですが」

「お! いきなり大物行く!? いいよ~、さてさてどこにいるかな~っと」

「そんないかにも探してる風なジェスチャーしないでください」


 スキートは挨拶が終わった後、ステージを降りて参加者に挨拶に回っていたはずだ。目立つ風貌だし、すぐ見つかるだろ。


 意気込み、背伸びをして周囲をキョロキョロしていると――ドンっと背中を何かに押された。


「おわっ……」

「うわっ……と?」


 転倒するほどの強い衝撃ではなく、すぐに人がぶつかったのだとわかった。振り返ると、そこにはフードを目深に被った同じくらいの背の人がいた。鼻から下のみしか見えず、顔立ちからかろうじて男だとわかる。長いローブの下から、チラリと見える尻尾からして、獣人だろうか。


 ふらついて、たまたま俺にぶつかって来てしまったようだ。


「おー、だいじょぶ?」

「悪い」

「わ、わ! ごめんなさい!」


 男は簡潔に謝ったが、すぐに後に金髪の女の子が慌てて駆け寄って来た。こちらはローブを被っておらず、獣耳と尻尾がわかりやすく見えている。


 大きな耳だが、こちらは毛並みの色的に狐か? かわいい。


「ごめんなさい! この人ちょっと運が悪いところがあって……」

「簡単に謝んな」

「いーの! 悪いことしたら謝るの!」

「転んだだけだろ」

「こんな綺麗なホールの中でバナナの皮を踏んで?」


 しっかり者の彼女とちょっと無愛想な彼氏。このミニコントを繰り広げる二人も、パーティーに参加しているってことはカップルなんだろう。なんとなく老年夫婦のような貫禄を感じる。


 いいなあ、リア獣。


 俺が頬を緩めていると、袖を引かれていることに気がついた。見ると、アノネちゃんが俺の背中にピッタリと隠れていた。


 ……え? もしかして人見知り? あれだけ大口叩いてたのに?


「き、聞き込みです! なんでもいいので情報を集めてください!」


 かわいいかよ~。わかりましたわかりました、いいでしょう、この俺が聞き込みをしてやりますとも。


「あ! そちらがアナタの恋人さんですか! 獣人と人間のカップルなんですね!!」

「そうなの~~~可愛いでしょ俺のカノジョ」


 狐ちゃんがとても目敏い。


 褒めたら思いっきり腕をつねられている現在進行形。いいじゃん。本当のことなんだし。余計な雑談も聞き込みには必要だろ。


「そっちはどういうデコボコカップルなん?」

「両方獣人なんですけど、ワタシは狐人族で、シックスはお……犬人族なんです! お耳は似てても中身は結構違いますよ!」

「おい、名前教えんな」


 ハキハキと愛想がとてもいいカノジョとは対照的に、彼氏の方はフードからわずかに見える鋭い目で俺を睨みつけている。


 何故俺にそんなに敵意を……と思いきや、彼氏の方が彼女の腰に手を回し、自分の方へ引き寄せていた。


 彼女が他の男と話しているのを嫉妬しているだけか~い。


 その様子を知ってか知らずか、狐の彼女は微笑み続ける。


「あの、もしかしてお兄さんたちはサプリングデイから来ましたか?」

「おお、そうだよ」

「やっぱり! 行きの馬車からあなた方を見かけたんです! 最近テロがありましたけど……大変でしたね!」

「あ~はは。もう結構復興してるから大丈夫だよ」


 それ身内が起こしたやつ~~~~~。


 身内というか、あの街の損壊の九割はパンプのせいだけど。


 先月のテロは、見た目は派手だったが、煙弾が交えられていた上ちょっとばかり建物に引火しただけだったらしい。加えて、アノネちゃんたちのパンプを追跡しながらの救助活動で死人は一人も出なかった。


 ヨル自身だけでなく、アノネちゃんたちも勇者パーティーだと知られているようで、救助活動が勇者の力として讃えられているらしい。何も知らないのは仕方ないが、裏でいろいろあった分勇者(本人)は複雑な気分らしい。


 その何も知らない民の一人である狐の彼女は、どこか含みを持った笑みで腰を引き寄せる彼氏の頭にもたれかかった。


「皆不安なんですよね。だから、こうやってちょっぴり怪しいパーティーにもお友達を求めにくるんです」

「怪しい……ってのは?」

「最近も最近。もっぱらのウワサですよ! このパーティー“人攫い”が主催してるって」

「お~?」


 事の進みサクサクパンダだな。偶然出会ったカップルから急に当たりを引くとは。タイムリーどころか願ってもない話題があちら側から出て来た。


 このパーティーで人攫いが起きる理由についてはアノネちゃんとここに来るまで話し合った。


 珍しいカップル、イコール珍しい人種であるのが多数派だ。中にはその家柄で多種族との交際を反対され、実家に居場所のない者もいるだろう。貴族などの身分重視の立場となれば、尚更だ。


 実際、反対される交際をしていたカップルが攫われて失踪しても、傍から見ればただの駆け落ち。そこまで大事にはならない。


「ワタシ達、今品定めされてるんですかね~! 邪宗まで絡んでるらしいですし、怖くないですか!?」

「怖いね~~~! っていうか、そういう噂があるってことは、実際人が消えたとかの事件あったりしたの?」


 ひそひそと怪談を話すように語る狐の彼女の瞳の奥には、好奇心の光が宿っている。


 胡散臭い噂でも、今俺らは人攫いを調査している。実例でもあれば、それもまた情報になる。


 スキルのポーカーフェイスまで使って全力の疑問顔を作って問いかけると、狐の彼女はニパッと笑った。


「さあ? そういう具体的な話は聞かないですね!!」


 背中のアノネちゃんと共にガックリと肩を落とした。


「やだなぁ、最初に言ったじゃないですか! ウワサですよ、ただの面白いはなしぐさです。仕事柄そういう話が耳に入りやすくて、普通に好きなんです!」

「そうか~、好きか~!」

「……移動するぞ」


 空振りかと凹んでいると、犬の彼氏が狐の彼女の腰に回した手に、さらに力を入れて他の場所に行こうと促した。相変わらず俺のことを睨んでいる。


 俺彼女のこと狙ってないよ。確かに可愛いけど。


「え、もう? もっとお話……」

「しなくていい。行くぞ」

「あ、あぁ~~~、すみません、失礼します!」

「いえいえ~!」


 彼氏に引っ張られていく狐の彼女に軽く手を振る。しかし、彼女はこちらを振り返ってニコリと笑った。


「ウワサを信じても信じていなくても、そのお耳で家主さんに近づかない方がいいですよ! 狼さん!」


 狐の彼女の言葉を最後に、リア獣達はあっという間に他のデコボコカップルに紛れて見えなくなった。


「これはぁ、なんかあるよ~」

「……ですね。聞き込みを続けましょう」


 人見知りでも冷静に話を聞ける。やっぱりヨルの判断はただしい。アノネちゃんが潜入してよかった。


 (陽動)は聞き込み。考えるのはアノネちゃんの仕事だ。


「そうしまSHOT。アノネちゃんは俺の陰で考えてていーよ」


 ちょっとかましただけなのに、肘を脇腹に入れられた。




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