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カースト最底辺の狼  作者: 睡眠戦闘員
一章:狼の心得
27/94

27.パーティ団欒

 



 懐がぽかぽかしてる。慣用句的な意味で。


 集落の騒動は、コハクトが青い煙を出す謎の球体を俺の手から弾き飛ばし、それが地面に落下して壊れたことで完全に収束した。青い煙は吹き出さなくなり、その直後から正気を失っていた住民は次々と我に帰った。そして自分たちがやった意味不明の所業を思い出して叫んだり、悶絶したりしていた。


 なんとか逃げ出した住民が呼んだらしい騎士団と合流した。この世界の警察みたいなものらしい。コハクト達と共に騒動の収集に貢献したことをささやかながら称賛されながら、俺たちは彼らにその場をまかせて集落を後にした。


 ちなみに俺のズボンは炎に放り込まれる直前に吹いた突風によって、あの女の子の手から離れたらしく、帰る際に横切った高い木に引っかかっていたので無事に回収できた。ラッキーボーイすぎて困っちゃうなあ。フェルムの方は服を完全に燃やされたらしく、泣く泣く四次元バックから代わりの服を引っ張り出していた。代わりがあるだけ良いと思う。


 離れていたのはほんの数時間だったはずなのに、戻ってきたサプリングデイの街並みがめちゃくちゃ懐かしく見え、ギルドに戻った時俺はまた膝から崩れ落ちて感動するところだった。コハクトに蹴飛ばされそうになったからやらなかったけど。


 ――で、だ。


 大騒動で忘れそうになっていたが、俺たちがあの集落の近くに行った当初の目的はなんだったか。


 そう、依頼よ、依頼!!あの決死の大乱闘の末、俺とウィウィはあの毒蛇を倒したんですよ。追い剥ぎ騒動で薄れたけど!


 蛇の毒を入れた瓶もきちんと回収していた有能な俺とウィウィ。ギルドに着いてすぐに依頼達成報告をした。その報酬プラス、俺がコツコツとバッグの底に集めていたサルギナダンジョンで倒した魔物の部位を換金した分。合計で金貨五枚と銀貨八枚。


 ギルドの売店に売ってる品物の値段の感じから見ると、だいたい銀貨は千円、金貨が一万円くらいの感覚だと思う。つまり、今の俺たちの所持金五万八千円。


 いやあ、懐が重くてしあわせですね。


「よかったな、難関サルギナダンジョンの魔物だろ? 今フェルムも換金しに行っているところ――」

「ワーワー! うるさい、なんも言うな! お前らの四次元バッグに入る量と俺のバッグに入る量が同じだと思うな!!」

「おもうなー!」


 コハクトが雑談くらいの軽さでマウントを取ろうとしてきたので全力で遮る。


 あああぁぁぁ、ほら!! 遠くの換金受付でフェルムが金貨がパンッパンに詰まった革袋をジャラジャラ言わせながら受け取ってるじゃねーか!!


 そりゃそうだ。だってこいつらダンジョン内の魔物一掃しながら最下層まで来たんだもの。それに例の四次元バックもある。食事の時だけに必死になって魔物倒してこそこそしてた俺らとは当然手に入る素材の量が違う。


 ぐずぐずと貧乏冒険者としての身分を噛み締めて、膝の上に座るウィウィをよしよしと撫でていると、フェルムが戻ってきた。


「すまんな、フェルム」

「あ、いえ。これがボクなんかでもできる仕事ですから……えー、換金額ですけど、金貨が百ごじゅ」

「ぐおあああああああ!!」

「うるさいよお」


 換金が終わるのを待つのに飽きて近くの掲示板を見ていたパンプに睨まれ、俺はウィウィと揃ってヒュッと喉の奥を引きつらせて黙った。


 俺が勝手に使ったローブはコハクトに押し付けて間接的にパンプに返してもらったが、いつバレるかわからずずっとビクビクしてる。多分バレたら殺されます。


「でも良いじゃないですか! 依頼の報酬で貰ったその薬の方がすごく高価ですぞ」


 吐き気からようやく解放されたらしいアノネちゃんがピンッと人差し指を立て、唇の先を尖らせた。可愛い。


 アノネちゃんが言っているのは、毒蛇討伐依頼を達成した報酬のことだ。金のことではない。依頼状にはこう書かれていた。


『報酬:銀貨八枚、その他(・・・)』と。


 この『その他』の部分は俺は特に気にしていなかったのだが、貰ってみると“やべー”ものだった。俺は掌の中にあるそれを見た。理科の実験で見るような丸底フラスコだ。中にはさらさらと透明度の高い水色の液体で満たされている。ほんのり発光しているようにも見える不思議な液体だった。


 自称博識のアノネちゃん曰く、これは回復薬。しかし、ただの薬ではない。国内最上級の……あーと、名前は忘れたけど。すごいポーションらしい。飲むのも傷に浴びせるものよし。即効性で瞬間的に再生とも呼べるような速度で傷を回復させるため、処置さえ間に合えば即死級の傷でも治ると言う。


 どうしてこんな代物が依頼の報酬だったのかは知らないが、これも幸運の余波だと思ってありがたく受け取っておこう。


 俺はこいつの価値を思い出して、ちょっとテンションが上がった。


「じゃあこれはウィウィのだな~~~」

「ウィウィの? どうして?」


 周りのコハクトたちがギョッとして驚いているが、俺は上機嫌でウィウィの両手にポーションをねじ込んだ。


「だってこれ、元々ウィウィ選んだウィウィの依頼だったし、ウィウィ蛇倒すの頑張ってたもんな~~~!」

「……!! うん、がんばった! ありがとうソラ!」

「はいどうも。なくすなよォ~~~」


 よしよしよしよしよしと頭を撫でて褒めてやると、ウィウィも上機嫌になってポーションを大事に抱きしめた。ああああ、かわいー。


 ウィウィに回復薬持たせておけば安心さな。俺は魔法を反射できるけど万が一防御の手段がないウィウィが危険な目に遭ったら一撃ゲームオーバーだ。


 あとで、お小遣い銀貨三枚あげよ。残りの金は生活費とウィウィの未来貯金にする。


 そんな俺たちを見て呆れたようにコハクトが笑った。そろそろ出るぞ、と言って掛けていた椅子から立ち上がる。


「あ、そうだ。コハクトー」

「ん?」


 俺はコハクトを呼び止め、バッグの中に手を突っ込んで目当てのものを引っ張り出した。


 それはパッカリと二つに割れた球体。あの青い煙を出していた球体だ。教会跡地から出た際に、地面に落ちているのを見つけて持ってきたのだ。


「これ拾った。換金できなかったから、一応お前に渡しとく~」

「換金しようとしたんですか!?」

「魔物の部位だとか素材が希少でもないから拒否されたんよ」

「お前……こういうのは真っ先に証拠として騎士団に提出をするもので……」


 コハクトは呆れたように真面目な意見を吐き出しかけたが、すぐに諦めたように笑った。俺が差し出したそれを受け取った。


「わかった。オレが後でギルドに提出しておくよ」

「サンキュ~~~!」


 その後、俺たちはぞろぞろとギルド出た。既に日は暮れかけ、空がオレンジ色に染まっている。ダンジョンの中にいる間は時間感覚なんてなかったから、懐かしいような不思議な感覚だ。


 コハクトたちはダンジョンに潜る前から利用していた宿に戻るらしいが、俺たちは同じ宿には泊まれないことが判明したので、早速今日の報酬を使って別の宿をとった。


 だって、コハクトたちの宿、一泊金貨一枚なんだもの! 俺らの今日もらった報酬が一週間持たない高額料金。さすが勇者だけあって宿も豪華ですか!! 良いなあお金持ち!!


「オレが宿代出してやってもよかったんだがな」

「は~~~~~? ダチに金出させるとか情けなすぎて死ぬわ! 俺に奢りたいんだったらな、俺が世界で一番強くなってからにしな!」

「その場合奢るのはそっちでは」

「結局食事だけは奢られてるくせによく言いますね」

「良いから早く料理選んでよお」


 宿代は流石に拒否したが、せめて晩飯くらいは奢らせろと言われたので俺たちはいまコハクトたちの宿内にあるレストランにいる。


 横長のテーブルに俺たち六人がついている。もちろん俺たちの他にも店内には客がいる。高級ホテルだけあって、身なりは綺麗な客が多い。勇者のコハクトがいるからか、俺たちのテーブルにチラチラと視線を送ってきていた。


「ソラ!」

「なに?」

「良いにおいする! これなんのにおい?」

「今から心の広いコハクトさんが奢ってくれる、とびっきり美味しくて高い料理が作られている匂いだ」

「間違ってないが、言い方」


 料理。料理だ。


 異世界召喚(?)から約七日間。俺はまともな“料理”を口にしていない。臭みのある生肉。まずい生肉。硬い生肉。味気のない生肉。よく腹を壊さずに生肉だけで生存してきたと自分で感心する。ウィウィに至ってはおそらくまともな調味料もない村で生活してきたんだろうから、高級宿で出る料理レベルのものなど食べた経験はないだろう。


 つまり、俺は七日ぶりのまともな食事、ウィウィは初めての高級料理というわけだ。


 俺は翻訳アプリを開いたスマホを構えながら俺はうまそうな料理を探してメニューに食いつく。値段が書いていないのは気にしない。


 やがて俺を含めた各々の料理が決まると、コハクトがまとめて店員に注文を済ませる。慣れているようだ。


「はあぁ、なんだか今日は一段と疲れましたぞ」


 魔女帽子をとったアノネちゃんは椅子の背もたれに寄りかかって背伸びした。


「たしかにい、思い返すと狼くんたちと出会ってからまだ一日も経ってないんだよねえ」

「サルギナダンジョンでソラたちを拾い、朝にダンジョンを出て街に戻ってきて、依頼を受けに行って、集落の騒動があって……濃すぎる一日だな」

「だ、ダンジョン探索もかなり大変だったし……。ようやくゆっくりできる」

「レベルもだいぶ上がったんじゃないですか?」

「あ、レベル!!」


 コハクトたちがモゾモゾと自分のネームタグを取り出しているのを見て、ふと思い出した。そういえばしばらく自分のステータス見ていない。この経験値燃費の悪い狼の体でも、流石にレベルアップくらいはしてるだろう……と願いつつ俺は恐る恐るスマホを操作してステータスを開く。



 ―――――――――――――――――――――


 本田(ホンダ) (ソラ) Lv.14→16


 種族:人間・ウェアウルフ


 攻撃:34→39

 魔力:26

 防御:20→36

 俊敏:85→95

 知能:26→32

 幸運:95


技能(スキル)

 ポーカーフェイスLv.1・反射ァッ!Lv.1


【身体情報】

 殴打耐性Lv.7・衝撃耐性Lv.3・精神的苦痛(ストレス)耐性Lv.9・溺没耐性Lv.4・腐食物消化Lv.3・[NEW!]火傷耐性Lv.1


【称号】

 ユーリアシュの使者

 フィフティマの被害者


 ――――――――――――――――――――――



 あっは~! ぜぇんぜん上がってない~~~!


 俺はようやく自分の年齢を越したレベルを見て目頭を抑えた。最大上がり幅が16という代わり映えしない数値の中で、唯一目に見えて新たに増えた火傷耐性という身体スキル。丈夫なローブと幸運を羽織っていたとはいえ、炎に飛び込めばこれくらい増えるだろう。


 あんなデカい蛇まで倒したのに! なんで2しかレベル上がってないんだ!!


 確かにレベルアップはしたが、解せない。


 ついでにウィウィのも見よう。俺はコハクトや俺に倣って、自分のネームタグを覗き込んでいるウィウィに身を寄せた。


「ソラ。これ、ウィウィ強くなってる?」

「ん~~~~~」



 ―――――――――――――――――――――


 ウィウィ・ウルフィア Lv.4→5


 種族:レッサーウェアウルフ


 攻撃:20→35

 魔力:1

 防御:5→7

 俊敏:16→19

 知能:3→4

 幸運:45→98


技能(スキル)

 チェルジLv.3


【身体情報】

 生肉消化Lv.5・病気耐性Lv.2・火傷耐性Lv.1・命中Lv.2→3


【称号】

 サルギナ大迷宮の守護者


 ――――――――――――――――――――――



 知能1しか上がってね~~~……けど、ちょっと待て。


「ウィウィ、お前……本当に強くなってるぞ!?」

「おー! やったー!!」


 ウィウィがぱあっと顔を輝かせるのが可愛いが、それどころじゃない。


 攻撃力どうした。レベル16の俺に後少しで届いちまうぞ。


 そうか、そういえばこのレベルアップの際に上がる数値って、レベルアップまでによく使った能力が上がりやすくなるんだった。


 俺は反射でとどめの一撃分しか刺さないから攻撃は少ししか上がらないが、ウィウィは囮のために石を投げるという攻撃をする頻度が高いから攻撃がガンガン上がるのか。確かに、ダメージを受けたことのないウィウィは防御の数値の上がりが良くない。


「ねー、フェルムはレベル16だよね? ソラと一緒?」


 ニコニコしていたウィウィが突然フェルムに話しかけて驚いた。問いかけられたフェルムはビクッと肩を震わせて「なんで知ってるの」と驚いている。


 地味に仲良いなフェルムとウィウィ。


「え゛、あ、ああ、そういえばウィウィあの時の話聞いてたんだっけ……うん、あんまり上がらなくて。まだ16レベルだよ」

「え、タメじゃん」

「タメではないだろ」


 コハクトのツッコミはスルーして、俺は席を立ってフェルムのネームタグを覗き込んだ。


「フェルムの見せてー」

「え、う、ま、まあ。いいよ……いや、ほんとクズみたいなステータスだから、期待とかはしないで……」


 フェルムが口の中でモゴモゴ言ってるが、俺はフェルムのステータスを見て――後悔した。



 ―――――――――――――――――――――


 フェルム・アナプルナ Lv.16


 種族:人間


 攻撃:68

 魔力:89

 防御:75

 俊敏:121

 知能:43

 幸運:13


 ―――――――――――――――――――――



「幸運しか勝ってねェッ!!」

「え」

「チートだチートだ! フェルムの裏切り者!」


 俺は思わず数値のところだけ見て、フェルムのネームタグから目を逸らした。フェルムが目を丸くしている。


「い、いやいやいや、そんなはずは。だってレベル15を超えたら普通の人間は上四つのステータスは三つ以上100を超えるのが平均で」

「うわー!! 聴きたくない聴きたくない!!」

「どれどれえ……うわあ、獣人でこのステータスはちょっとひどいなあwww」


 パンプに横から俺のステータスを映すスマホを抜き取られる。さらにステータスを見られて盛大に笑われた。


 またこのパターン!! もういいよ、わかってるよ俺が最弱種の狼だってことは!! それが誇りですから!!


「ほら見てみなよお、勇者くん」

「え……見て良いのか、ソラ?」

「もう好きにしろよ! しかと見よ、俺のザコぐあいを!!」

「なんでそんなに自信満々なんだ……」

「勇者殿! ワタシも! ワタシも見たいですぞ!」


 机に突っ伏してウィウィによしよしされながら俺は叫んだ。


 パンプがコハクトにスマホを手渡す気配を感じる。おそらく今、俺のステータスを見たんだろう。


「こッ……」


 コハクトの息を飲む音が聞こえた。続けてアノネちゃんの声で「うわ、これはさすが最弱種」というおそらく悪意のない呟きが聞こえた。


「これは……本当に、どうやってあのダンジョンの最下層から生き残ったんだ?」

「頑張ったんだよ! な、ウィウィ!?」

「がんばったよ!」

「ワタシ、まだ本当に狼族なのか疑っていましたけど、今なら信じます」

「ひで~~~」


 見なくてもわかるほど俺自身の狼耳が垂れている。しゅんっとしながら俺はコハクトからスマホを返してもらった。


「……ん? コハクト、寒いのか?」

「え? 別にそんなことないぞ?」

「あ、そう……うおぁ!! 飯きた!!」

「ごはん? ソラ、ごはん!?」

「ご飯だッ!!」


 一斉に俺とウィウィの耳と尻尾の角度がビョッと上がる。俺は受け取ったスマホを即効で胸ポケットに突っ込んで膝の上に手を当てる。


 厨房の入り口からこちらに向かってくる店員が、料理を載せたカートを押してこちらに向かってくる。店員は俺たちに一礼した後、素晴らしい手際でテーブルの上に色とりどりの料理を置いていく。


 ウィウィはお子様カレー、俺はミートソースのパスタ。ステーキでもよかったが、連日の生肉の悪夢がぶり返す気がしたので、肉料理は今度に回した。ウィウィはおそらく初めて見るだろう料理に首を傾げ、鼻をすんすんと鳴らして観察している。


 異世界にもカレーがあったのは驚いた。まあ、うまければなんでも良い。


「いただきマース!」


 フォークをガチガチと言わせてパスタをすくい上げ、クルクル巻き取る時間も惜しんで口の中に詰め込んだ。ミートソースを口につけながらずるずると啜る。コハクトが「麺を啜るなよ」とオカン節を発揮して注意してきたのも無視して、俺はひたすら麺を咀嚼する。


 うまい、旨味がある。ミートソースが甘いししょっぱい。塩分が舌に染みる。久しぶりの“味”だ。


「うまァい!」

「それはよかったが、声がデカい」

「ソラ、これ何ー?」

「カレーだ! うまいぞ、早く食え食え! コハクトの奢りだからな!」


 ウィウィはまだスプーンを握りしめてカレーと睨めっこをしている。いい匂いは感じ取っているのか、尻尾がパタパタ動いているので時期に自分で食べるだろう。


 ああ、うまい。腹が減っていた効果でさらにうまい。ネタを挟む余裕もない。今この時だけはどんな邪魔が入っても幸せな感情のままでいられる――


「そういえば気になってたんだけどお」


 嘘です。こいつのねっとりした声だけは俺の夢を悪夢にできる。


 俺が自重した特大のステーキをナイフで切り分け、鋭い犬歯で噛みちぎり、たっぷり時間をかけて咀嚼したそれを飲み下し、パンプは糸目の視線をこちらに向けてきた。


「そのお、さっきステータスを映してた板あ? ギルドで配られるネームタグじゃないよねえ? それに、ずうっとその板から声みたいなのが聞こえてるしい。なんなのそれえ?」

「あ、それ! ワタシもずっと聞こうと思ってタイミングを逃してたのです! よくやりましたパンプ!」


 肉を切るナイフで俺の胸ポケットを指すパンプの仕草で、ようやくなんのことを質問されているのかわかった。


 しかし、怖ぇ。下手なこと言ったら投げナイフで眉間に投擲されそう。


「あ~……? これね。魔導具……テキナモノかな。わかんだろ? 俺がお前らに伝わらない言葉で話してんの。この板――スマホが翻訳してくれて、俺たちの会話が成立するようにしてくれてんの。俺、英語の成績は良くても実践はできない派の人間だったからさ~」

「人間じゃあないのですぞ」


 アノネちゃんはそうツッコミながらも、スマホから流れ出る俺の声ではなく、俺の地声の方に耳を済ませて、何か納得したようにうなずいた。ついでに、パンをちぎって小さく頬張る。


「もぐ……ま、確かに、このペンタリンガルのワタシでも聞いたことのない言語を話しているようですから、嘘じゃないのはわかりますけどね」

「ペンタリンガルって何カ国語だっけ」

「四カ国語ですぞ」

「五カ国語だろ」

「ね、ネームタグも鑑定道具もなしでステータスを見れる上に、話せない言語に翻訳してくれるなんて、ものすごく高価な魔導具なんじゃ……? もし失くしたら大損どころか、生活も危やうくなりそうだね」


 フェルムが、自分で頼んだこのレストランで一番安いコーンスープを啜りながら、フェルムらしい不穏なことを言う。フラグになったらやだからそれ以上言うな。


「まーまー、これのおかげでお前らのこと説得できたわけだし、ちょー大切にするわあ、感謝感激――」

「からぁあいッ!!」


 カラーンッと勢いよくスプーンが地面に落ちる音とともにウィウィの悲鳴が聞こえ、俺は慌ててウィウィの方を見る。


「か、からいからい! カレーからいぃっ!!」

「うそぉ!? お子様カレー甘口なのに!?」


 涙目のウィウィが、大慌てでひーひーと口を開けて手で口内を扇いでいる。今カレー食べたの!?


 そういやなんかの小説でカレー食べたことない安徳天皇が現代にタイムスリップしてカレー食べたら辛くて悶えたやつあったな。カレー未経験者(子供)には甘口でもスパイシーだったか!


「店員! 水……いや、水だと辛さが残るか。ミルクを持ってきてくれ!」


 コハクトのナイスアシストですっ飛んできた店員からミルクを受け取る。タプタプにミルクが注がれたジョッキを悶えるウィウィに渡すと、ウィウィは空気を求めるようにしてジョッキに口をつけ、一気に煽った。その途端、ビクッと肩を震わせ、一時停止する。


「うぼあ」


 そして、ダバッと吐いた。


「どうしたーーーッ!?」

「なに、なにこれ!? へんなあじ!」

「おい貴様らウィウィに何を飲ませたァッ!」

「落ち着け、ただの牛乳だ!」


 のちに落ち着いてから判明したが、ウィウィの村に牧場はなかった。





【本田 ソラ

家庭的男子高校生。

ウィウィ貯金(ウィウィの将来のために使う貯金)を始めた。


【ウィウィ・ウルフィア】

初体験多し狼少女。

カレーと牛乳初体験。


【コハクト・グリフィン】

脳筋系オカン勇者。

食事処ほど世話焼き(オカン)気質が出る。



可愛い子ほどやらかして欲しく、イケメンほど酷い目に合わせたいものです。


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