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カースト最底辺の狼  作者: 睡眠戦闘員
一章:狼の心得
16/94

16.ミミック式寝袋

 



 アブねーなあいつら! ウィウィが火傷して耐性ついちゃったらどうするんだ!!


 俺はウィウィを背負ってひた走りながら文句をこぼした。汗と共に額から垂れていた血を制服の袖で拭き取る。


 ゲームの裏技のようなレベリング方法を見つけた俺たちは、下階の魔物が死ぬまで石を投げまくる作業に勤しんでいた。小石でも、ダメージを積み重ねていけばいつかは死ぬらしく、だいたい一時間くらい投げまくったところで最初に俺たちを追ってきた魔物の群れはあらかた倒すことができた。


 ただ、せっかくのこの状況。もっと利用しないてはないだろ? でも、下の階に行ってわざわざ魔物を引き連れてくるのも怖いじゃん?


 そこで先ほど騒いだら魔物が集まってきたのを思い出した。試しにスマホに入っていたお気に入りのロックを大音量でガンガンかけてみると、興奮した魔物がわんさか集まる集まる。ウィウィはそこへひたすらに石を投げる投げる。ノリに乗ったようで休憩も挟まずひたすら魔物を倒すことに夢中になっていた。


 攻撃だけが突出しないよう、いろんな体勢から投げて体幹を鍛えるようにウィウィに指示すると、彼女は音楽に合わせながらポーズを決めて魔物を小石で蹂躙していった。


 まあ、ウィウィは攻撃力10なので一体の魔物を倒すのに小石を百個以上を魔物の目などの急所に当てないといけないのだが、本人が楽しそうだったので良い。


 子供の体力って馬鹿にできないよな。


 一方俺は、早々に肩をバキッと壊して休憩していた。その間、クマと戦ったときの肩の傷がさっぱり消えていることに気がついて、スマホに質問してみた。


 なんと、一回のレベルアップで切り傷や打撲ぐらいはすぐに治るそうだ。だから俺の方の傷が消えていた。


 それと知ったらもう遠慮ははいないっすよ。


 一番低かった防御のパラメーターを上げるため、ロックをBGMにヘドバンのように頭を壁にガンガン叩きつける。「防御上がれ、防御上がれ、防御上がれ」と唱えながら。レベルアップで怪我は治るし痛いのは今は我慢だ。


 そうして、ウィウィは攻撃。俺は防御と完璧なバランスで各々訓練していた平和な時間に……乱入してきました、ミスターカオスども。


 ルームの出口に気配がすることに気がついて、頭打ち付ける勢いをつけるついでにイナバウアーで確認したら四人くらい人間がいてびっくりしたよね。この世界の人間初めて見た。


 一人は勇者っぽかったから挨拶しようかなとか考えていたのに! 勇者の横にいた魔女が魔法撃ってきたんだ! 先手必勝とかいうレベルじゃねーよ、なんで攻撃してくるんだ!


 俺はこんなに愛想のいい顔してるのに! 俺が魔王なわけでもあるまいのに!!


 敵対されたからには逃げないわけにはいかないので、とりあえず魔法を反射。あっちが怯んだ隙に、荷物をまとめてウィウィを背負った。


 策もなしに突っ込んだらスッパリ斬られると踏んだ俺は、目眩しをすることにした。小石を集めるときに使った、俺のバッグの隅っこで固まっていた上履き入れる用のスーパーの袋に川の水を入れてウィウィに持たせる。そして勇者にかけてやるように頼んだ。


 さすが、ここ二時間くらい魔物に石を当て続けたウィウィ。命中率百パーのコントロールで勇者の頭から水をぶっかけてくれた。そして、不意を突かれた勇者の脇をすり抜けて走って逃げたわけだ。


 それから運良く上の階へ続く階段を何度もすぐに見つけて、しかも魔物に合わなかったために、多分三階層くらい上がれたと思う。


「ソラ?」

「はいソラでーす」

「まだ走るの?」

「止まろう」


 ひたすらに走っていた足にブレーキをかけた。


 相変わらずダンジョンは代わり映えせず薄暗い。後ろを確認。追手はいないようだ。魔物もいない。


「びっくりしたあ」

「びっくりしたよな~~~。あいつら突然魔法撃ってきたんだぜ?」

「にんげん初めて見た!」

「俺も~~~」

「犬人族もいた?」

「それはわかんね~~~」


 改めて思い出すとやっぱりあれは勇者パーティーだったんだろうか。


 考えてもみれば、ここは未踏破の難関ダンジョン。俺たちがもともといたのが最下層だったのを考えると、その階の手前まで来ていたあいつらは相当強いってことになる。


 ……まあ、踏破はできてもこのダンジョンから出るための鍵はウィウィが持ってるから外には出られず引き返すことになるんだろうな~~~あいつら。ちょっとザマぁ。


「ソラ」

「はーいソラです」

「……眠い」

「あっ」


 失念していた。人間の――今は人間じゃないが、大事な三大欲求の睡眠は避けられない道。先ほど食欲は満たしたが、睡眠もとらないと大事になる。


 しかし――俺はもう一度ダンジョンを見渡した。こんな安心できない環境で寝る場所なんてあるのだろうか。今だって魔物の鳴き声がダンジョンの何処かから聞こえてくるというのに……


「眠いよう……」

「でも寝る場所がなあ」

「……? ここで寝る?」

「死ぬわ」


 知能3の姫には少し黙っていてもらおう。ここでこそ知能20越えの俺が知恵を絞って頑張らなければ。


 様々な記憶を掘り起こして何かないかと考える。


「……ウィウィ。お前ってこのダンジョンで三日間も変身して隠れながら生活してたんだよな? お前が使える変身って寝てる間も効果が続くってことか?」


 背中のウィウィに問うと、寝ぼけ眼でうとうとしながら頷いた。


「ウィウィ、今度は俺を(・・)守ってくれるか?」

「ん……いいよ!」


 俺が言葉を聞いた途端、少し眠気がはれたように目を開いて再び頷いてくれた。


 それから俺は魔物に出会わないように注意しながら、なるべく広いルームを見つけた。そして、そのルームの壁際でウィウィに変身してもらう。


「“チェルジ”!」


 ウィウィの体がピンク色の煙に包まれ、そしてドシンという振動と共に現れたのは、大きな宝箱だ。ウィウィが言うにはミミックらしいが、中身を見ても牙だのなんだのがないのでただの宝箱にしか見えない。


 そのウィウィが変身した宝箱は前に見たものより二回りほど大きい。パカっと開いたその中の広さを確認して俺は満足げに頷いた。


「オーケーです! 入るぞ(・・・)!」

「い、いいよ……!」


 ゴクリとウィウィが唾を飲み込む音が聞こえた。この姿だとどこに喉あるんだろうか。気にするだけ無駄だ。慎重にウィウィの中に入る。いやらしい意味ではない。


 宝箱の中はまったく持って普通の箱の中。これがウィウィだとわかっていても信じ難くなるレベルだった。足は伸ばせないので相当丸く縮こまらないと入り切らないが、背に腹は変えられない。


 これが俺の考え付いた安全に睡眠をとる方法だ。ミミックに変身したウィウィの中に俺自身を収納する。


 ウィウィはこの姿に変身しているとき魔物に襲われたことがないと言っていたし、幼女に自分を守らせるのは気が引けるけど、今のところこれが一番安全だろう。


「うぁ……」

「どうした?」

「な、なんでもない。くすぐったい……だけ?」

「…………スミマセン」


 漂う犯罪臭。俺はロリコンじゃないし、何もしていない。一切何もしていない。ウィウィが変身した宝箱の質感が気になって指で突いたりもしていない。


 俺は宝箱の蓋を閉めてもらって「おやすみ」と声をかけた。睡魔に抗うのも限界が近づいていたようで、すぐに微かな寝息が聞こえてくる。


 ウィウィの中にいるだけあってほぼ耳元で聞こえてくるようでかなり……なんでもない。


 俺は気を紛らわすために身を捻って胸ポケットに入れていたスマホを取り出した。真っ暗な宝箱の中に近未来的なブルーライトが差す。


 さてさて、現代人の睡眠不足の種。寝る前のスマホいじりと行きますか。


 そういえば、この異世界に来てどれくらい経ってるんだろうか。


 すまほー。


【神ユーリアシュによりこのデバイスにサポート能力が授けられてから七時間ほど。貴方の脳内の記憶から時間を算出すると、この世界に来てから九時間ほどです】


 あれ、案外経ってない。もう俺の中では一週間ぐらい大冒険してるつもりだったんだけど。


 それくらい濃い一日だった。異世界に来て魔物に襲われて可愛い子に会ってまずい肉食って勇者に会ってミミックに食べられている。今ココか。


 体は確かに疲れている。少しステータスを確認したら俺もすぐに寝たほうがいいだろう。睡眠不足は美容に悪いそうだ。俺には関係ないが。


 ―――――――――――――――――――――


 本田(ホンダ) (ソラ) Lv.13→14


 種族:人間・ウェアウルフ


 攻撃:30→34

 魔力:26

 防御:8→31

 俊敏:70→85

 知能:21→26

 幸運:24→192


技能(スキル)

 ポーカーフェイスLv.1・反射ァッ!Lv.1


【身体情報】

 殴打耐性Lv.7・衝撃耐性Lv.3・精神的苦痛(ストレス)耐性Lv.9・溺没耐性Lv.4・腐食物消化Lv.3


【称号】

 ユーリアシュの使者

 フィフティマの被害者


 ――――――――――――――――――――――



 おー、レベルはしょっぱいけど今回は魔力以外全部上がってる。防御も狙い通り……幸運が200手前(・・・・・)じゃねーか!! いきなりどうした、前回見たときは下がってたくらいだったのに!


 なんだこのラッキーボーイは!


 もしかしたら俺が先ほど逃げている際に何度も運良く階段を見つけたり、ここに来るまで魔物に一切遭遇しなかったのはこの幸運の値が関係していそうだ。


 推測が合っているか知りたかったが、こう言うとききいつも勝手に解説してくれるスマホがなぜか反応しない。気まぐれなのかは知らないが、一体どんな基準で俺をサポートしてくれるんだろうか。


 そういえば、あんなに倒してもレベルが一つしか上がらないのに、どうして俺は元々レベルが10以上もあったんだろう?


【同種族を殺すと、幸運値によってはその者が今まで得た経験値をすべて獲得することができます。今回は幸運値が8の際に魔物を倒したので、最大経験値の10%を獲得しました】


 あらまここでスマホさん解説してくれる。


 同種族というのは最初に俺を襲ってきたあのデカ狼か。確かユーリアシュ曰くあの狼は最下層の魔物を全て狩り尽くした猛者だったはず。それを倒してレベルがやっと10になるくらいと。


 ……まじに燃費悪いんだな狼って。


 ではウィウィは今回どれくらい上がったんだろうか。俺よりも魔物を倒すのに没頭していたから期待できそうだ。



 ―――――――――――――――――――――


 ウィウィ・ウルフィア Lv.2→4


 種族:レッサーウェアウルフ


 攻撃:10→20

 魔力:1

 防御:4→5

 俊敏:11→16

 知能:3

 幸運:50→45


技能(スキル)

 チェルジLv.3


【身体情報】

 生肉消化Lv.5・病気耐性Lv.2・火傷耐性Lv.1・命中Lv.2


【称号】

 サルギナ大迷宮の守護者


 ――――――――――――――――――――――



 しょっぱい……けど。攻撃力は上がってる!


 まだレベル4なのに俺の三分の二くらいまで攻撃力が上がってる。これは将来有望要因。あとでいっぱい褒めよう。


 しかも身体スキルも増えている。“命中”というのは、魔物の急所に石を投げ続けたから身についたのか。一応辞書引きしてみる。


 命中:投石や狙撃などの命中率を補正するスキル。

 Lv.1:固形物の遠投の命中率を少し上げる。

 Lv.2:液体状のものの命中率を少し上げる。


 ……とのこと。スキルにもレベルがあるのが気になっていたが、こうして1レベルずつに効果があるようだ。


 こう言うの好き~~~


 また拳を突き上げて喜びを発散したかったが、このみじろぎするのも難しいこのウィウィの中でそんな大きな動きをしようものなら、防御4のウィウィの体を突き破ってしまう。


 喜びを心の中で抑える。呼吸が抑えられ、ウィウィの寝息の他にダンジョン内を流れる川の音が聞こえた。


 ……ASMRかな?


 心が落ち着いてきた。まぶたも落ちてきて目もしょぼしょぼしてきたことだし……寝よう。


 俺はスマホの画面を落として、もう一度体を縮こませた。おやすみウサギ。





本田 昊(ホンダ ソラ)

脳内テンション高い系男子高校生。

口調がウザいが悪い奴ではない。

……悪い奴ではないが、しかしロリコン疑惑。


【ウィウィ・ウルフィア】

狼の少女。ソラがスマホで流していたロックのリズムを完璧に刻みつつある。


好き勝手書いていたら逃げて寝るだけの回になってしまった。


2020.12.28:修正


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