13.ウィウィウィ訓練
毎日投稿最終日でございます。
「で、俺が一番聞きたいのはこの【身体情報】のところなんだけど……」
俺は、下に画面をスライドした。
これよこれ。たぶんウィウィが亀肉を平気な顔して食べられてるのってこれのせいだろ! “生肉消化”ってなんだYO!
さっき詳細を鑑定したら、あの亀の肉って調理するからこそ美味くなるって言ってた。だから多分、いくら食用でも火を通さないととても食べられるような味じゃないはずなんだ。実際俺はそうだった。
たぶんこの身体情報のとこにあるこれが関係していると思うんだが……どうしてこんなものがウィウィにあるんだ……?
【身体情報の中にあるものは身体スキルと呼ばれます。毒を受け続ければ毒耐性を得るなど、ある事象を一定時間受け続ける等でそれに関した身体スキルを得ることができます】
ほー、丁寧な説明どうも。てか、スマホなんか口調丁寧になったな。
身体スキルってそういう増え方してくのか。そういえばウィウィの狼村は盛大に焼かれてしまったとか言ってたか……だからウィウィには火傷耐性がついていたりしたわけ……あれ?
「ウィウィ、生の肉食いまくったってことか!?」
「……? “ナマノニク”ってなに?」
ここできたか知能3ッ!!
詳しく聞き出してみると、ウィウィの住んでいた狼の村はあまり技術だとか文明が発達していなかったようだ。……というか、元々あった技術も、知能が足りなくてだんだんと退化していったみたいだ。
火は扱えていたようだが、あくまで暖を取る道具という認識しかなく、調理に使うというのはほぼない。そもそも肉というものは皮を剥いだらそのまま食べるものという常識だったようだ。
最初にウィウィが体に纏っていた布は動物から剥いだ毛皮で織物ですらなかったし、パンツ履いてなかったし……だてに最弱種やってないな、オオカミ。
まあ、だからこそこうして生肉消化とか病気耐性の身体スキルを獲得してたわけか。
……可愛いのに悲しい奴め!
「いつかダンジョンでたらうまいもん食わせてやるから! 待ってろウィウィ!」
「ん? うん?」
まあいまだに火を使えてないから俺もしばらくはこの生臭い生肉を食い続けなきゃいかんわけだが。
そうして俺がこの先に迫ってくるある意味食糧危機に頭を悩ませていると、ウィウィが俺の袖を引っ張ってきた。
またきたなのこの可愛い悪魔! その上目遣い攻撃への対策はできている!
俺は細目でウィウィを直視しないようにそちらへ視線を向けた。
「どうし、た……?」
ああッ、だめだァ! 細目じゃウィウィの可愛さはたやすく貫通してくるッ!!
ウィウィは荒れ狂う俺の気心も知らずに、俺にさらに近寄ってきてスマホをツンツンと指で突いた。
「ソラはレベルどのくらい?」
「お前の可愛さレベルはカンスト」
「え?」
「いや……そういや、自分のは最近見てなかったな。いくつだろ」
俺はウィウィのステータスを表示していた画面を戻して、俺のステータスを呼び出した。
先ほどクマにカメとダンジョン下層の魔物を二体も格下である倒したのだからめちゃくちゃ上がっていてもおかしくはないだろう。
―――――――――――――――――――――
本田 昊 Lv.12→13
種族:人間・ウェアウルフ
攻撃:29→30
魔力:26
防御:7→8
俊敏:68→70
知能:21
幸運:25→24
【技能】
ポーカーフェイスLv.1・反射ァッ!Lv.1
【身体情報】
殴打耐性Lv.7・衝撃耐性Lv.3・精神的苦痛耐性Lv.9・溺没耐性Lv.4・腐食物消化Lv.3
【称号】
ユーリアシュの使者
フィフティマの被害者
――――――――――――――――――――――
経験値の燃費悪ッ!!
ステータスのあまりの変化のなさに、あと少しでスマホをぶん投げるところだった。
親切に前回見た時からの数値の変動を表示してくれているから余計に悲しい。てっきり、ラスボス手前で卵から孵化したポケ○ンを手持ちに入れてたらレベルアップの連鎖が止まらない現象みたいなことが起こると思っていたのに。
てか、なんで幸運の数値下がってんだよ! レベル上がったのに能力下がるとかあるかフツー!? 一切上がっていないのもあるし!
しかし、悲しむ俺を慰めるかのようにウィウィが顔を輝かせて俺に身を寄せてきた。スマホの画面を指さしながら、なぜか感動に打ち震えている。
「まりょく! まりょくがある……こんなに!!」
「こんなにって……スマホによるとそうでもないっぽいんだよなー」
「ウィウィは! 1ッ!!」
「ア……そうでした」
最初は引っ込み思案っぽかったウィウィがものすごく興奮している。やはり狼族は魔法が使えない劣等感とか憧れとかあるんだろうか。
しかし、魔力があったところで……俺、魔法の使い方知らねーし。使いたくても使えないんだよ……今回のレベルアップでも魔力の数値に変動は皆無…………
ア……ちょっとネガティブ。
【狼族は一つレベルアップするにも膨大な経験値を使用する。そのために成長するまで恐ろしく時間がかかります。そのうえ、能力の数値は戦闘の中で使用したものが特に上がりやすくなるが、狼族は種族特性としてステータスの上昇が抑制されています】
フォローをするかのようにベストタイミングでスマホのフォローが、スピーカー最大音量で来た。ウィウィが突然の大音量に驚いて尻尾を逆立てている。
え……じゃあなに? 俺のステータスが上昇しないのは俺のせいじゃないってこと?
「じゃあいいか」
システムならしかたない。俺は理不尽な弱体化調整をした運営側に文句を言わず縛りプレイとしてクソゲーを楽しむタイプだ。
難しいことを考えてもしょうがない。俺はウィウィと共にカメを食す作業に戻った。まずいが腹に入れねば力が出ない。
ウィウィも目を少し輝かせて俺と一緒にカメにかぶりつく。
「んぐ……まずっ。これから、どうするかなー」
「もぐっ……ダンジョンのそとに出る?」
「でも、俺もちょっと自分の弱さが気になるんだよな。できるならもっとレベル上げをしたい。むぐっ、まずい......ような。美味しくなってきたかも」
「ごくん……つよくなるっ!」
耳元で可愛いビックボイスが響いた。見るとカメの皮の一部を握りしめたウィウィが興奮した様子で立っている。決心の炎がその瞳に宿っている。加えて尻尾がブンブンと揺れている。
ああ、そうだった。ウィウィは強くなるために俺についてきてくれたんだった。
「ウィウィにつよくなるほうほうおしえて……! あの、まほうをぽんってするやつ……!」
あれは俺のスキルだから教えられるようなものじゃないんだけどな。
でも、やっぱりウィウィのいう通りだろう。いつでも俺が守れるわけじゃないし、ウィウィ自身も戦う術を持っていれば安心だ。
そうなれば選択肢は訓練一つのみ。そして、訓練には実践あるのみだ。
「じゃ、俺がこのダンジョンで生き延びる術というものを教えてやろう!」
「おおぉ……!」
数十分後。
俺は気がついた。俺は平和ボケした日本人。そういえば戦う術など知らなかった。せいぜい知ってて柔道の寝技と絞め技だけ。しかも腕前は白帯。
そんなものが魔物に効くだろうか。そんなもの否、断じて否。
「あ゛あ゛あ゛ああああッ!!」
「がくがくがくがくがくッ!?」
――ブオオォォオォォォンッ!!
ダンジョンの中に三個の大声が響き渡る。
ウィウィの訓練に手頃な魔物にと、寝ていたサイの魔物をろくに鑑定もせず蹴飛ばして起こした身の程知らずが俺。
ビビリなのに、突然吠えられたものだから心臓が飛び出るほどに驚いて俺に飛びついてきたのが我が相棒ウィウィ。
あのサイが魔法を一切使わない突進攻撃と防御特化のアーマーライノという、俺と相性最悪の魔物だという親切な解説をしてくれたのが俺のスマホ。
なので、ウィウィを背中に背負って脇目もふらず全力で走っていた。
追ってくるアーマーライノは長く鋭いツノを持っており、それに刺されたらあいつの頭の上で朽ちるまで串刺し確定だ。
マップ、ナビ! 今まで俺が探索したところを参考になるべく行き止まりに行かないように案内して! できるなら上層へ!
【ナビゲーションを開始します。最短ルートで上層への階段まで推定一分です】
一か八かのお願いだったが、この万能なスマホは本当に有能なサポート役らしい。
ていうか一分!?
驚いている間に、スマホは脳内に順路を次々と伝えてきた。俺はそれ通りに後ろを見ることもできず、右へ左へひた走る。後ろに背負ったウィウィはガックンガックン揺さぶられて目を回していた
しかし、かなり近い距離にサイの鼻息と地鳴りのような足音の足跡を感じる。追いつかれていないのが奇跡だ。俊敏のパラメーターがやけに高くて助かったか。
なかなか追いつけないことに苛立ったか、アーマーライノが一層鼻息を荒くしたように感じた。
――と、思った時にはアーマーライノの気配が消えた。とっさにウィウィの手を思いきり引っ張り、俺の前へとその体を持ってきて、きつく抱いた。
キィンッ!
――ブオオオォぉぉぉぉぉッ!
少しだけ衝撃を感じたと思ったら、後ろからサイの悲鳴が。振り返ってみれば、アイツの(おそらく)自慢だったであろう長く鋭いツノが根元からボッキリと折れてしまっていた。
え? 今何があった?
【アーマーライノのスキル“刺突撃”を受けました】
受けましたって……俺なんの攻撃も受けてな――反射したのか!
あのサイは魔法を使えなかったから今の攻撃は物理だったはずだ。俺のスキルの反射は日に二回だけ致命傷をなんでも反射する。
俺って今致命傷に届く攻撃受けたのか! ウィウィを前に持ってきていなかったら危なかった。
しかも、今日はすでにデカ狼に一回使っている。それで今ので今日の分使い切ったかもなんだよな~~~! もう一回攻撃受けたら死ぬぞ、俺!
俺の思いとは裏腹に、サイは激昂した様子でさらに鼻息を荒くしている。
【まもなく目的地に到着します】
複雑な大迷宮の案内を続けていたスマホから嬉しい知らせが来ると、俺の視界にもその言葉通りの光景が見えてくる。そして長く薄暗い通路の先に、ルームの中に流れる川特有の青白い光が見えてきた。その中に待望の上の階へ続く石階段が見えてきた。
ルームに飛び込んだ俺は階段を駆け上がる途中でつまづいた。体の前に押さえつけて一緒に走らせていたウィウィ共々、上階のルームの上に投げ出される。
――ブオオオアアア!
死ぬシヌしぬ!
今俺たちがいる階層のルームには魔物はいなかったが、階段の淵から下の階を覗き込むとアーマーライノがすぐそこまで来ていた。
急いで逃げなくてはと立ち上がりかけたところで……様子がおかしいことに気がついた。アーマーライノは俺たちの姿を認識しているにもかかわらず、一向に階段を登ってくる様子がない。
これはもしかして……スマホよ!
【ダンジョンの魔物の特徴として、自分が元いた階層から移動したがらないというものがある】
つまり、あっちはこっちを襲いたくとも、この階層には来れないってことね。ひと安心……このご都合システムがなければ俺は死んでいた。
久しぶりに流した汗を拭いながら俺はもう一度深く息をついた。
そういえば倒れ込んだ時に解放したままウィウィを見てないと思い、そちらを見ると……
「はあ゛っ……はあ゛っ……はあ゛あ゛あ゛ぁぁ……………」
「……あの、大丈夫か?」
ウィウィは地面に四つん這いになってものすごく苦しそうに息切れしていた。大きく肩を上下させるウィウィは一心不乱に地面を見つめている。
「ぎゅって……ぎゅうってずっと……むねに、ソラに……」
「ウィウィサーン?」
そういえばサイの攻撃からウィウィを庇うためとはいえ、ここまで思いっきり体の前で羽交い絞めにして強引に走らせてたんだった。急に背中から下ろして全力疾走させたし、怒っただろうか。
しかし、息の整ったウィウィは俺に怒るわけでもなく、ただ深呼吸をしていた。とりあえず無傷だし大丈夫のようだ。
俺はもう一度下の階を覗き込む。まだあのサイがこちらを睨みつけて地面に足を何度も擦り付けている。
よく見ると、サイだけでなく見たことのない魔物も傍に湧き出て階段の周辺に群がっている。俺とウィウィの喧しい叫び声に呼び寄せられたのかもしれない。階段用の小さなルームは床が見えないほどに集まってきていた。
魔物がゴミのよう。これほどに集まっておいて、こちらまで来ようとしないのがとても不思議な感覚だ。
「こない……」
「来ないね~~~」
すっかり立ち直ったウィウィも俺の真似をして下の階を覗き込んでいる。
少し閃いた俺は、近くに転がっていた石を手に取って、下階の際に向かって投げつける。そしてそれはルームの中心にいたサイの目にヒットした。その途端に爆発したように憤ってサイが前足を蹴り上げる。そして階段を登ろうとするが……やはり直前になって登るのを躊躇う。
こんなに挑発をしても上の階へ来ないのか……
俺は満面の笑みを浮かべて隣のウィウィの方を向いた。
「ウィウィ、攻撃の訓練だ!」
「つよくなる! 訓練!」
「そう! その訓練とは、ひたすらに石を……」
俺は近くに転がっている小石をかき集め、ウィウィの前にドンっと置いた。そして、それと一緒に胸ポケットに入れていたスマホを取り出して、その側面に二つあるボタンのうち一つをカチカチカチカチと限界まで何度も押した。
「投げろ。そして、殺せーーーッ!!」
「やあああぁぁーーー!」
【本田 昊】
バイオレンス高校生。
【ウィウィ・ウルフィア】
強くなりたい狼少女。生肉イーター。
2020.12.28:修正




