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カースト最底辺の狼  作者: 睡眠戦闘員
一章:狼の心得
11/94

11.相棒結成

 



「み、見せて……あげようか?」

「ん? 何をだ?」

「これ!」


 上機嫌になったウィウィはそう言ったかと思うと、てててっと歩いて俺から少し距離をとった。


「……“チェルジ”!」


 可愛い声でそう叫んだ瞬間、ウィウィの体がボンっとピンク色の煙に包まれた。そして、その煙が腫れて中からガタッと硬い音を立てて地面に落ちたのは、とても見に覚えのある宝箱(・・)だった。


「あ! ミミック!」

「うん……!」


 俺に応えるように、ミミックの蓋がパカっと開いた。そうしてミミックは白い煙に包まれ、元の姿のウィウィが戻ってきた。


「ウィウィ、へんしんできる……これで、石とかミミックとかにへんしんして、かくれてた」


 これで色々な疑問がすっきりと解消された。この変身の力で自在に姿を変え、俺から逃げたわけだ。


「す、すっげえ! 魔法か!!」

「う、ううん。まほうじゃ、ない。スキル? なの」


 スキルか、残念。今のところ俺が見た本物(モノホン)の魔法はあのクマのやつだけか……


「おおかみは、まりょくもってない(・・・・・)から。まほう使えない」

「え?」

「でも、まほう使ってた? ソラ。まほうをポンッて……その、はな、はえ、はねかえしてた、から」

「い、いや。アレもスキルだけど……スキルって魔法じゃないのか!? というか狼が魔法使えないって何!?」


 スマホサーン!


 俺の呼びかけ対して、スマホは素早く反応した。


技能(スキル):魔法とは異なり、魔力を使用せずに発動できる個人の特技の延長線的な力】


 そういえばそうだった……というか、特技の延長? あのふざけた反射が?


 いや、それよりも魔法のことだ、この返答次第で俺のテンプレ異世界生活の今後の楽しみが減るかも知れないからな。


【狼族は魔力がゼロに等しいほどにない。特に下級種であるレッサーウェアウルフは魔力を一切持たない個体も多い。人間間では狼族は一切魔法を使えない種族だという情報が常識として広まっている地域も存在する。ちなみに、持ち主であるあなたの魔力は現在26です】


 うへぇ……そういうことか。まあ、追々これは調べていくとしよう……


 頭の中で考え事に集中していたせいで、少しウィウィを放置してしまった。我に帰ってそちらを見ると、ウィウィは俯いていた。


「やっぱり、まほう使えない……狼族よわい……」

「いや! 狼だって魔法は使える!」

「え……?」

「この相棒が教えてくれた、否定してないってことは可能性はゼロじゃないってこった」


 俺は胸ポケットのスマホをコツンとつついた。


「それに、お前は魔法を使わずに俺のこと助けてくれただろ?」

「たすけた……? あ……」


 言われてウィウィは思い出したらしい。


 俺たちが初めて会った時。俺を押し倒したあのデカ狼の頭に豪快にかぶりついたミミック。あの時はウィウィだとは知らなかったが、あのおかげで俺は生き延びたのだ。


「スキルに頼りっぱなしだった俺よりもめちゃくちゃ強いじゃん、お前」

「つよい……」

「そうだぞ! こんな危険フルコースのダンジョンで生き延びたのも納得だな!」

「そんなこと……ない。ウィウィ、あたまの中で神さまからたすけなさいって言われて……いかなきゃって」

「神様から!?」


 ユーリアシュはそこまで必死だったのか。まあ、そうだよな俺死んだら世界滅亡だし……たまたま居合わせていたウィウィに俺を逃がす助けをするようにお告げでもしたのか。


「それでも、神様から言われたからって、行動に移すのとは違うと思うぞ。結果的にお前がちょー勇敢だったってことだ。ありがとうな」


 こんなところでカッコつけたりするのは逆にカッコ悪い。俺は素直に、心からの感謝をウィウィに送った。


 ウィウィは一瞬呆気にとられたような顔をしたが、すぐにまた涙で目を潤わせる。そして、小さな声で「こちら、こそ、ありがとう……」といってジャージで目を擦った。


 あーーーーーーーー。かわい。


 もちろん俺はロリコンじゃないけど、こんな健気で良い子の姿を見て心を揺さぶられないんだったらそれこそ人間じゃないね。まあ俺、狼男だけど。一応言っておくけどショタコンでもない。ゲームキャラには選んだことはあるけど。


 一通りの話はできただろうか。俺はコミュニケーションの達人ではないので、話題が尽きるとうまい話ができない。ルーム内には静かに流れる川の音くらいしかしないし、死んだクマもそのままだし、逆に今までよくスラスラ話ができたものだ。


 そんな少々見てられない部屋の惨状を眺めていると、俺の腕がツンッとつつかれた。上の服を着ていないからダイレクトに来れられて驚いてそちらをみ――


「ソラ……これから、どうする……の?」


 はあああああああああッ!!


 上目遣い、涙目、萌え袖、濡れ髪の四コンボ。可愛い以外の何者でもない。可愛いが可愛いで可愛いをしている。


 俺はウィウィの手を一旦振り解き、立ち上がって壁に頭を何度か打ち付けた。額からツーっと流れ出した血を綺麗にピッと拭き取る。そして、頭の中から全ての記憶を追い出してから、必要な物だけを詰め込み直す。いらない邪念は粗大ゴミに出す。


 そして数回、消してクリーンではないルーム内の空気で深呼吸。手で尻尾の毛を十本まで数え、素数を十一まで確認してから、ウィウィの前へ帰る。


「ソラ……? 血がでて……」

「これは汗」

「あかいのに……!?」

「血が混じっとるからな」

「やっぱり血!!」

「汗だよ」


 残っていた額の血の跡をゴシゴシと揉み消した。そして、俺はしゃがんでウィウィの目線に合わせる。なるべく表情が柔らかくなるよう、そしてキモく引きつらないように気をつけて。


「これからどうするか……だったよな?」

「う、うん。ソラも、狼族だから、ここはあぶないから……」

「俺は地上に出るぞ」

「え……!? 外にでるって、こと?」


 だって、ここにいたらいつか死にそうだし。死んだらユーリアシュに怒られるし。


 それに、テンプレを信じるならば、ダンジョンっていうのは深くなるにつれて強くなる。ここが最下層なら、この先上層へ向かえば敵は弱くなっていくだけのはず。クマも倒して下層のモンスターの強さ水準もなんとなく分かった。自信もそれなりについた。あと、単純に俺が地上を見たい。


 異世界ライフをエンジョイしたいんだよ!!


 俺は弱くても勝てる術があるってさっき知ったばかりだ。なんとかなるだろう精神は自分でも止められない。しかし、自分達が弱い種族だと一番理解しているウィウィは、俺の自信を当然信頼できないらしく不安げな目を向けてくる。俺は、優しくそんな彼女に笑いかけた。


「ウィウィ……お前もついてくるんだろ?」

「あ……なんで、ワタシのかんがえて、ること……」


 いやあ、エスパーですから……なんてことは言わないけど。


 こんな状況になって最後に「じゃ、ここいらで!」なんて別れる方がおかしい。よく考えると小説の中の先人たちの行動はテンプレ云々よりも、小さい子を置き去りにすると言う倫理に反することをしないための順当な行動だ。


 どんなに最弱の種族だろうと、一緒にいればできることも増えるだろうし、何より俺が心強い。それもわかっててウィウィは俺のこの先のことを聞いてきたんだろう。


 それでもためらっている様子だったのは……


 予想している間に、ウィウィ自身からその答えは告げられた。


「あし、だ、て、で……あしでまとい、になるかもしれないから……」

「そォんなことあるわけあるかいな」

「でも……」


 可愛いはいるだけでパーティーを癒すと言うのにこの子は何を言っているんだろう。


「何倍も格上のクマスケを倒したこの俺だぞ? 足手まといとか考えんな普通に守ってやるから。もういるだけでキミ加湿器だから、俺の!!」

「か、カシツキ……?」

「それに、俺は死なない、というか死ぬわけにはいかない? ……から、俺についてくれば必然的に生き残れるってことだ」


 まあ、俺が死んだら世界道連れだから、どちらにしろのちの良い未来に行けた場合の結果論なんだけど。


「だから、お前の親父のお願いも叶えられるってことだ」

「おねがい……?」

「……幸せになるんだろ? 俺もそのつもりだ。俺の幸せに巻き込んでやる」


 その言葉を聞いて、ウィウィは急に黙り込んだ。


 ウィウィの親父も彼女を見放すつもりで洞窟に放り込んだわけではないはずだ。一つだけしか見つからなかった希望に頼んだだけ。しかしまあ、その希望がまさか世界を滅ぼす可能性がある俺になるとは! 巡り合わせってすごいなぁ!


 ……と、自惚れるのもこれくらいにして。ウィウィは本当のところどう思っているのだろうか。ウィウィは俺の言葉を聞いて心が動けばいいんだけど。逆に俺のこと不審者認定してまた走って逃げられると危ないし……


 そんな不安ごとを考えていると、黙っていたウィウィは俯いたまま口を開いた。


「……ここ、はなれたくない。おとうさんたちがこのさきに、いる、から」


 俺はやっぱりと、息を吐いた。


 こんなに小さい子だ。親や友達が恋しいのは普通のこと。彼らの絶望的な安否が気になるだろうし、帰るのは無理だと思っても単純に理性で考えられることじゃないだろう。


 でも、置いていくわけには……


「いるから……たすけなくちゃ。だから……つよくなりたい(・・・・・・・)


 彼女はもう一度口を開いて、付け足した。


「おとうさん、さいごにこうも言ってた。……『どうか、おとうさんのことをわすれないで』って」


 驚いた。顔を上げたウィウィの表情に決心のようなものが浮かんで見えたから。


「そ、ソラについていけば、たぶん、そう(・・)なれる。ウィウィがしあわせになるには、おとうさんたちがいないとだめ、だから……」

「だから……?」

「ついて、いく。ソラに」


 俺が気を使うほどでもなかった。ウィウィは自分も仲間も見捨てるつもりはない。


「つよくなれたら、またここにもどってきたい。おとうさんたちがどうなったのか、知りたい!」


 あと、今は(・・)無理なんだと考えられるくらいには心が強いようだ。


 この子……実は俺がいなくてもダンジョン踏破してそうだ。この精神力すごいな。


 とても心強い仲間ができたらしい。俺は素直に心から喜んだ。でもそれを表に出すと格好がつかないので、すまし顔をつくってウィウィに向き直る。


「じゃ、これで俺ら“相棒”ってことで。いっちょいったるかー!」

「うん……!」





本田(ホンダ) (ソラ)

テンション高い系男子。ロリコンかもしれない。


【ウィウィ・ウルフィア】

狼少女。強い子。大物になりそう。


2020.12.28:修正


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