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カースト最底辺の狼  作者: 睡眠戦闘員
一章:狼の心得
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10.迷宮の先

 



 俺はこの少女の可愛さに打ちひしがれる運命なのか。


 無意識のうちに噛んでツーっと血が出てきた唇をぬぐって正気にもどると、ウィウィが扉の正面まで歩いていっていた。


「多分扉にペンダントはめると開くんだろ! そうだろ!!」

「……そうだった、けど……」

「アッ」


 ウィウィのその口調で俺は何かを察する。


 扉中央のくぼみの前に立ったウィウィは、ペンダントの菱形のパーツから細い鎖を取り外した。推測通り、その菱形のパーツを小さなくぼみに嵌め込む。パーツはほとんど抵抗なく壁に沈み込んだ。


 すると、そのパーツを中心に、扉に描かれた曲線の紋様の溝に沿って夕焼けのオレンジ色の光が染み渡っていく。薄暗いルーム内が暖かい色に照らされた。


 綺麗なその光景に見惚れつつ、俺はウィウィのそばまで歩み寄った。しかし、壁の光に照らされる彼女の表情は浮かない様子だ。


 オレンジ色の光が扉の溝全てを満たしたそのとき、ルーム内に振動が響いた。扉の表面にこびり付いていた土埃の塊がパラパラと落ちたかと思うと、扉の真ん中の曲線ではない一本の縦線が横へ広がり始めた。扉がひとりでに開き始めているのだ。


 両開きの扉かと思っていたが、二枚の石の扉はそれぞれ左右へスライドして、壁の中へ滑り込んでいく。……が。


「こりゃあ……」

「もう、通れない(・・・・)、の」


 扉の開いた先にあったのは、魔物の住処でも財宝の山でもなく、ただただ土と岩が積み重なった壁だった。どうて見てもこの先にあったはずの通路が塞がれている。


「こっから来たってことだったよな? この先には何があるんだ?」

「ウィウィがすんでた、村が……あった」

「村ァ!? こんな地下に!?」

「え……ちか? ここ、どうくつじゃない、の……?」


 まさかの発言に驚いたが、ウィウィも同様驚いたようで、話の食い違いが起きた。


 しかし、ダンジョンの最下層という情報は鑑定からわかってるし、間違い無いだろうが、ウィウィが嘘をついているとは思えない。


 とりあえずこの不思議は異世界の不思議として置いておいて、話を進めよう。


「あ、なんでもないから……それで、どうしてこんなことになってるんだ? 土砂崩れでもあったのか?」

「おとうさんが、どうくつの入り口……ふさいだ……の」

「え、ウィウィの親父がか」


 俯いたウィウィはポツポツと話し始めた。


 この扉は確かにこのダンジョンのゴールであるが、この扉の先は通常のダンジョンのように最後の部屋につながっているのではなく、このダンジョンの()へ繋がっているのだという。


 その出口のすぐそばに、ウィウィが住んでいた村があったという。


 その村があるのは人里離れた森林の山奥で、まともな魔物すらいないような静かな場所だそうだ。外界からの来客も来ないという鎖国状態。


 決して広くはなく、人口も千に届かない。しかし、その全員がウィウィと同じ狼族だった。つまり、世界最弱の種族が肩を寄せ合って生活を営んでいたわけだ。


 狼族は恐ろしく弱いために魔物は狩れない。調達できる食料は常に、弱い野ウサギやネズミなどの小動物。モンスターすら生息していないのが幸運だった。そんな弱者は、村を囲っている森林から外へ出ることは死を意味する。そのためにこの数百年間、村人は外の世界を見たことがない。ウィウィも同様だ。


 しかし、そんな少数でギリギリの生活をしているからこそ、狼族の村人間の絆は深く、それなりに幸せな生活を送っていた……とのこと。


 まあ、こんな前振りが来るからには、そんな生活も途切れる日が来たのだ。


 ある時から、村周辺の森林に住みつく小動物が激減し、食糧危機に陥り始めた。生きるためになんとか狩りをしようと、森の深くへ潜った仲間が帰ってくることはなかった。


 それだけでなく、山菜をとるのに浅い森に出向いた村人すら蒸発し始め、村は次第にパニックとなり始めたその矢先、事は起こった。


 幼いウィウィには詳細がわからなかったようだが、突然人間(・・)の軍らしきものが村に攻めてきたという。


 ねぐらは焼かれ、男の村人は斬り殺され、女こどもは殴られ捕らえられた。


 ウィウィの家は村の最奥に建っていたために火と暴力の手が回ってくるのが遅かったが、ウィウィの父は村の村長だったため村人の避難のために走り回っていた。


 家に待たされていたウィウィが心配になって外に出た時、全身に火傷を追った父が帰ってきて、ウィウィを抱えて村の奥にあった、閉ざされた洞窟の入り口へ走った。この洞窟の入り口というのが、例のダンジョンの出口。


 この扉を開き、ウィウィをその中へ放り込んでこう言った。


『すまないウィウィ、無事なのはお前だけだったッ……酷だが逃げる方法はこれしかないんだ! この洞窟は隣の大陸につながっているらしい。なんとか生き延びて、そこで幸せになってくれ……!』


 この言葉とともに、彼はウィウィに菱形のペンダントを託したのを最後に、洞窟の入り口を閉じてその周辺の土壁を最後の力で外から壊し、通れないようにした。


 こうして、ウィウィは難関ダンジョンの最下層にたった一人で放り込まれたということだった。


 ウィウィの親父……それしか方法がなかったとはいえ、ヤベェことしやがる。


「もどろうとしたけど……このかべ、もうくずれない……村になにがあったのかわからない」


 ウィウィのその言葉は真実だと証明するように、扉の先を塞ぐ土の壁の表面には、何度も引っ掻いたり叩いたりしたような後が虚しく残っていた。パーツを埋める穴にも引っ掻き傷が残ってたし、通れないとわかっていても何度も試したんだろう。


 ウィウィは耳を垂らして壁の菱形のパーツを外した。扉は自動的に閉まり、その溝に光っていた夕焼け色の光が徐々に消えてしまった。


 ウィウィは大事そうに菱形のパーツにまた鎖を取り付け、首から下げた。


「そのぉ……一つ不思議なんだけども。なんでそのダンジョンのキーアイテム確定のパーツをお前の親父が持ってたんだ?」

「これは……おとうさんの家にだいだい伝わる、どうくつのカギって聞いてた」


 ウィウィが親父から聞かされた話によると、この洞窟(ダンジョン)は魔物が救う危険な場所で、大昔に狼族の先祖がこの場所に住むと決めた時に、危険がないようにとその扉が何かの間違いで内側から開かないようにパーツを取ってしまったのだという。


 ダンジョン側からだとパーツをはめ込んでいないと絶対に開かないので安心なのだとか。ちなみに、村側からだと簡単に手動で開くらしい。


 そのせいで何も知らぬ子供がふざけて開けようとして、大人たちから大目玉を食らったこともあったとか。でも、そんな今となっては笑い飛ばせる昔話も、災厄とも言える炎に焼き尽くされてしまった。


 話をしてその時のことを思い出してしまったのか、またウィウィの目に涙がたまる。


「泣くなよー」

「うぅー……!」


 泣くのは悪いことじゃないけど、俺の心がボッコボコにされるんだよなァ!


 なんとか励まそうかとよくよく考え……思いついた!


「お前! この洞窟に入ってからどれくらいなんだ?」

「え……たぶん三日(さんにち)、くらい? おひさまがないからわかんないけど――」

「すっげーッ!」


 俺が叫ぶと、ウィウィが飛び上がった


「この難関ダンジョンの最下層で最弱種と謳われた狼族のこんな可愛い女の子が! みっか! 三日もたった一人で生き残った!? すげーよウィウィ!!」

「す、すごい……? でも、ウィウィ、何にもしてない。……かくれて、にげてただけ」

「いやいやそれだけでスゲーから! だってこのダンジョンろくに隠れられるようなところないし! 体験者の俺ソースな!」


 あの狼とのカーチェイス(車なし)を制した俺は覚えている。


 このダンジョンの壁はでこぼこと凹凸が多いものの、人が一人隠れられるほどは付き出していないし、魔物が通れないような小さな穴もない。俺も必死に走りながら血眼になって探したがそんな親切な空間はなかった。


 ろくに考えずにこの話題を引っ張り出したものの、本当に不思議だ。ウィウィはどうやって魔物に見つからずに生き延びたのだろうか。


 その疑問に対して、ウィウィは少し驚いていたもののそのうちにポッとその白い頬を赤くした。


「すごい、かなぁ……?」

「まじですごい。俺には全くできないね!」

「ふふふ……すごい、すごーい……」


 上気した頬に手を当てたウィウィの尻尾がブンブン揺れている。それにずっと垂れていた耳もピンと立った。可愛い以外の何者でもないな。





本田(ホンダ) (ソラ)

テンション高い系男子。ロリコン疑惑がかけられている。


【ウィウィ・ウルフィア】

狼少女。強い子。大物になりそう。


再び文字数少なく滑り込み現象。一時間後にもう一話あげます。


2020.12.28:修正


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