第九話 〜三好三人衆と歯車の狂い〜
「じゃあ、戻ろうか」
(………え、ど、どこへ?えっと…吾は…冤罪なのに、まさかの半兵衛に追放されて…それで………ってか、この人達は、一体誰?)
「ほらほら、ね。」
そう言われ、義元は全く意味もわからず、周りをキョロキョロとしながら着いていくのだった。
彼らは皆、義元より一回り、いや、二回りくらい大きな背だった。だが、頼もしい、というよりは怖いに近い印象を受けた。
そして、少し歩くと前に見えたのは…………おそらく遊女屋、だった。
(あ、これ、逃げた方がいいやつだ。)
義元はそう察したが、時すでに遅し。
彼らに中まで連れて行かれてしまった。
「えっと…吾は……」
「皐月ちゃん。本当に綺麗な顔してるねぇ。だけど…強いていうなら、もうちょっと、胸が、欲しいね……」
そう言って彼らは名も名乗らないまま、あろうことか義元のぺったんこな胸へ手を近づけてきた。そして、服の間から、もぎゅっ………と……
「い、いやぁぁぁぁ!」
義元は揉まれる程もない胸を揉まれながら、顔を真っ赤にして、精一杯、助けを求めて叫んだつもりだった。だが、彼らにはそれが、喜んでいる、と受け取られてしまったらしい。
「じゃあ…次は……こっちだね。」
そう言って、彼らの中の一人が、明確には言わないがもっと下の方に手を近づけてくる。
(だめだ……こんなの……恥ずかしいどころじゃない……吾の初めてが……奪われちゃう……それだけは嫌だ………そ、そうだ!)
「そ、その前に、いつもの武勇伝をお聞かせくださいな。」
義元は精一杯の媚びた口調で言った。
(彼らはきっと、戦とか喧嘩とかが大好きで、その武勇伝を自慢げに語ってくる、いわゆる面倒くさい奴らだ。だから、そんな奴らには媚びって語らせておけば……この場はしのげる。)
「お!いいのかい!いつもは、絶対嫌だ、って言うくせに!」
(あ、そういうことか、私は誰かと勘違いされているんだ。ってか、私と勘違いされてる人…確かに絶対嫌だよね…めっちゃわかるわ……でも、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ。)
「た、たまには、いいかなって。」
義元は、おそらく生まれて初めて「ぶりっこ」を演じた。上目遣い、高い声を特に気にしながら。
「皐月ちゃんがいいなら語らせてもらうよ。俺たちすごいんだよ。将軍の足利義輝と、その弟の義秋までを殺したんだよ。」
「す、すごいですね。」
義元は平静を装って笑顔で言った。だが、内心はとても混乱していた。
(ま、まさか、こ、こいつらは、将軍を殺した……三好三人衆かっ!で、驚くべきはこれからだ。その弟の義秋って、第15代将軍の足利義昭のことだよね……史実では彼は、兄が殺された時も助かって…その後、信長と上洛して……将軍になって……なのに、ここで殺されたってことは……
信じがたいし、信じたくないけど、今、私が生きている世界が、史実と違ってきたってこと…そして、それは、つ、つまり、私の知識が使えなくなる、ってことなのか……?)






