第六話 〜一夜城の完成〜
「この調子で、一晩で終わりますか…?」
義元は、藤吉郎と半兵衛、そして川並衆の者達と一夜城築城に励んでいた。だが、いくら有能な半兵衛と川並衆の者達が協力してくれたからといって、一晩で築城というのは無理があったかもしれない、義元はそう思うようになった。
「「いいえ、終わります。」」
藤吉郎と半兵衛はやけに自信を持ったように言う。
「何か勝算でもあるんですか?」
「勝算もなにも、もうそろそろ終わりますよ。」
「え、だってまだ塀と小屋みたいなものがいくつかくらいしか出来てないですよ。これで天守閣までどうやって………」
「城といえば天守閣と誰が言いましたか。この掘立て小屋みたいなものでも、敵方に、何かができたぞ、と思わせられればこちらが勝ったようなものです。あとは、目立つように松明でも付けておきますか。」
そんな半兵衛の発言を聞いて、義元は思い出した。一夜城伝説の真実を。木下藤吉郎の出世の第一歩となった一夜城築城は、色々と脚色されており、要するに実話ではない、という説が濃厚なのだ。まず、一夜城は、そんなに成ったものではなく、そもそも一夜で築城したかも怪しいのだ。という重要なことを義元はすっかり忘れていた。
「ってことは、これで、完成ってことですか…?」
そう、義元が指差したのは、いくつかの、掘立て小屋の少し大きい版の建物、そしてその周りの、松明がくくりつけられた塀だった。
「はい。」
意気揚々として、半兵衛はそう言った。
そんなわけで、創作ではないか、との説が濃厚な一夜城伝説は実話であることが一応、証明された。
「それより………着替えてもいいですか?」
義元が小声で藤吉郎と半兵衛にだけ聞こえるように言った。先程まで川並衆と、川で木材のやり取りをしていた義元は、服が濡れてしまっていたのだ。
すると、藤吉郎は、義元に、
「今は何も持っていません……濡れてしまって身体が冷えるのならいっそ脱いで仕舞えば…?」
そう言った。だが、藤吉郎達には隠しているが、義元は女である。脱ぐことなど出来るはずがない。
「無礼者!女に脱げ、などと………」
だが、義元はすっかりそのことを忘れていた。
「あ……」
「女…だったのですか…。」
藤吉郎が驚く様な、喜ぶ様な、微妙な表情をする。しかも半兵衛まで横で顔をほんのり赤くしている。
「そうです。吾は女です。それがどうかしましたか?」
義元は堂々としたふうに言う。前世でも、今世でも、堂々としていて損をしたことはない。
「どうかした、というか…その…」
半兵衛まで顔を真っ赤にして目を泳がせ、義元を直視しようとしない。特に胸から目をそらしている。
それを見て義元は思った。
(か、かわいいぃぃぃ!)
だが、そんな義元の感動など差し置いて、
「と、いうことは、私はあの時、二回も女子に叩いて頂いていたのですね!」
と、藤吉郎が目を輝かせるが、義元は無視するしかなかった。
***
「さぁ、いざ井ノ口城へ出陣じゃ。」
金華山から美濃の街並みを見下ろす信長は言った。そんな信長の目は勝利を確信していたのだった。
約7年も続いた美濃攻略も、遂に終わりを告げようとしている。