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第五話 〜家臣との再会と美少女軍師〜


「私は竹中半兵衛です。」


 竹中半兵衛、もとは斎藤家の家臣だったものの、信長が美濃攻略をした際、斎藤家を離れ、後に秀吉の軍師として活躍した武将。

 つい先程まで敵方に仕えていた武将がいることに皆が驚いていた。だが、今川義元だけは、前世の記憶が正しかったことに安心していた。


「あなたは、あの大軍を有しながら桶狭間の戦いで負けた公家かぶれのお歯黒大名ですね。」


「ええ。吾が海道一の弓取り、とうたわれた大大名、今川治部大輔ですよ。」


 平然と悪口を言ってくる半兵衛にとても苛立ちを覚えた義元は、海道一の弓取り、などの部分を特に強調しながら答えた。


「で、お主は何故ここにおる?」


「私はすぐ前まで斎藤龍興様の家臣をしておりました。ですが、あの方はだめでした。女や酒に溺れてしまって。政に関心が無かった。そしてしまいには、有能な私たちを遠ざけるんですよ。だから、井ノ口城を乗っ取って、喝を入れてから龍興に返してあげたんですよ。それで、その後、私は短期間ではありますが、浅井長政様の所にいました。その私が織田方に行けばあなた方も喜ばれるでしょう、と。」


 半兵衛はそう言った。だが、斎藤龍興の事を話している時は、なんだか遠い昔を思い出すかの様に目を細めていた。


(何と、まぁ偉そうな少女でしょうか………)


「それで、私に仕えたい、ということか?」


「いえ、違います。この私がそう易々と誰かに仕えたいと言うとでもお思いですか?」


 という、新参者のくせにやけに上から目線の半兵衛に、義元のイライラは限界に達した。


「ちょっと、さっきから随分と偉そうね、お嬢さ…」


「……わ、私は男です!この私を不服にも女などと………」


 いきなり目を大きく見開いて動揺しながらそう言った、半兵衛の顔はトマトのように真っ赤で、申し訳ないが少し、いや、とても可愛いかった。

 すると、いつもは感情を表に出さない信長が、そんなことどうでもいいんだよ、とでも言いたげな表情をして、


「分かった分かった。では、半兵衛には…………藤吉郎達の墨俣一夜城築城を手伝ってもらうとするかな。」


「と、殿、新参者にそんな重役を任せてしまって良いのですか………?もしも竹中どのが敵方の間者であったら………」


 織田家家臣の一人が、ありえない、とでも言いたげな表情で言う。だが、


「新参者だから、だ。この戦いに織田が勝つことは義元が証明してくれた。だから、その中でどれだけ半兵衛が働いてくれるか、を、試すのだ。」


 信長は神妙な顔つきでそう言った。それを聞いて、義元ははっとした。


(そっか。新参者の吾は試されていたんだ。だから、先日、譜代家臣の朝比奈や庵原、大原が訪ねてきた時も、信長は後ろにいたんだ。…………ってことは……もしも今度、信長を裏切る様な素振りを見せたら、今度こそ吾の首はない、な………)


「分かりました。任務は必ず果たします。」


 そう言った半兵衛の笑みは、自信に満ちており、「天賦の才」のオーラで溢れていた。




***


「あのー、海道一の弓取りさーん。」


 義元は半兵衛の華奢な声で目を覚ます。「海道一の弓取り」はここのところ暇さえあれば寝ているのだ。


「あ、あぁごめんなさい。で、一体どうしたんですか?」


「どうしたんですか、って、一夜城作るんでしょ。」


「………ん?」


「だから、藤吉郎さんと、三人でやれって信長さんに言われたでしょ。」


「…吾も?」


「藤吉郎達を手伝えって言われたけど、その「達」には新参者のあなたも入っているはずですよ。」


 流石に苛ついてきた様子の半兵衛は声を大きくして早口で言った。


「そう言うことですね。え、吾もやるのかよ……

 っていうか、頭いいですねぇ、半兵衛どのは。」


 そう、義元が感心しながら言うと、少し照れた様子で、


「お、お世辞は聞きたくないですっ…………」


 と、そっぽを向いてしまった。


(か、かわいい………)




***


「一夜城の作り方ですが……この有能な私の意見としては、川並衆という野武士を使って、筏にした築城材料を川の上流から流し………」


 半兵衛は今回も変わらず上から目線で得意げに喋る。だが、義元も今回は負けていない。その作戦を前世の記憶によって知っているからだ。


「ごめんなさいね。天賦の才、竹中半兵衛さん。その作戦、吾達も知ってるのよ。」


 義元は、半兵衛に負けず劣らずの得意満面で話すのだった。


「は、はぁ……」


「で、その川並衆と、藤吉郎が知り合いなんだよ。

だから、もう藤吉郎に川並衆との交渉はしてもらってるんだ。協力してくれるそうだよ。」


「は、はぁ…なんとも行動が早い……」



**



今川治部大輔どの。今川の家臣という方がお待ちです。


 少し身分の低そうな織田家家臣が集まりに割り込んできて、義元に言った。


「は、はい。いま行きます。」


 義元は少し驚きながらも、そう言って立ち上がり、歩きながら思った。


(何とか川並衆とは協力出来そうだけど…私は…太原雪斎がいないと何の脳も無くて、幸いに前世の記憶があるって言ってもその前世が何の脳も無い女子高生じゃ。だめだ。こんな最弱武将が生き残ることなんて出来るのかな…)


 すると、


「「「義元様ぁぁぁ!」」」


 その声の主は、見慣れた今川家譜代家臣三人であった。


「朝比奈!大原!庵原!生きていたのか!」


「義元様こそ、お亡くなりになられたのかと思いきや、まさか織田の所にいるとは。」


「ち、ちょっと色々あってね。」


「義元様、帰りましょう。兵達は逃げ出していますが、我々と氏真様がおります。まだ再興の機はあります。」


「ありがとう。もちろ…………」


「それはだめだ。」


 私の後を着いて来ていたらしい信長が急に割り込んできた。その信長は、少し怒っている様だった。


「え………?」


「私が何のために、本来ならば問答無用で斬り捨てているはずの義元を助けたと思っている。それはな、義元が未来が見える言い始めたからだ。だからな、お前たちに返すことは出来ない。」


 それを聞いた義元は、今川家譜代家臣三人との再会に感動するとともに、少し後悔した。もし、重臣達が少しでも生きていることを知っていたら、信長になど着いていかず、体勢を立て直して、今川家を再興することも出来たかもしれない……、と。だが、それはもう叶わない。

 だが、信長の発言を聞いた今川譜代家臣三人は、息を揃えて、


「「「ならば、我々は腹を切ります。義元様がいなければ我々は生きていく意味がありません。」」」


 そう言った。だが、


「だめ!それはだめだよ!吾が許さない。」


 義元が叫んだ。


「「「しかし…………」」」


 「折角、生きていてくれたあなた達三人には死んで欲しくないんだよ。絶対に。しかも……氏真のこともあるから。あいつは、戦とか全くわからない弟だけど……だから、あなた達がいないと、あいつ、死んじゃうよ………だから、あいつと一緒にいてあげてよ。」


 義元はだんだん泣きそうになりながらしかし、笑顔で、喋っていた。そして、朝比奈、大原、庵原の三人もいつの間にか泣いており、


「ぎ…………御意。」


 そう言って清州の城を出て行った。

 そして、それを見ていた信長は、また、あのどこか寂しそうな目をしていた。だが、すぐに義元の方を向いて、淡々と、


「早く早く。一夜城を作るのだ。」


 そう言った。


「は、はい…………」

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