なろうのタイトル作成をベストセラー本の内容から考える
皆さんはビジネス書でベストセラーになっている本をご存じでしょうか?
「伝え方が9割」佐々木圭一著(ダイヤモンド社)
この本は一度エッセイで取り上げさせて頂いていますが、改めて紹介します。
この方はコピーライターで、もともと伝えることが得意でなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属されて苦労をされた方で、ある法則を見出してトップコピーライターになっている凄い人なのです。
ビジネスの世界ではお願いをする事が多いのですが、それを上手く伝えるテクニックを書いた本となっています。本来はビジネス書なのですが、これを「なろうのタイトル」に展開できないかを考えました。
コピーライターという仕事は、キャッチコピーをつくります。なろうの世界ではランキングやレビューに載らないと、中々読んで頂ける機会はありません。そうすると新着で目を引くということが重要になってきます。なので、なろうではタイトルが長くなる傾向があります。それであれば、キャッチコピーを書いている著者の理論は非常に使えるものではないかと考えられるのです。
この本に書かれている内容に沿ってエッセイを書いていきます。この本の本質は、たった3ステップを加えるだけで、いままでだったら「ノー」と言われてしまっていたお願いを「イエス」に変えることができるというものです。これを「なろう」に当て嵌めると、あるタイトルの作品を読むかどうかの判断に対して、「イエス」を引き出すという方向で考える事ができるかと思います。
では、まず3ステップの紹介です。
・自分の頭の中をそのままコトバにしない
・相手の頭の中を想像する
・相手のメリットと一致させる
まず、「自分の頭の中をそのままコトバにしない」を考えてみましょう。自分が思ったタイトルは本当に正しいでしょうか? まずは、自分で考えたタイトルを引っ込めてみましょう。
次に「相手の頭の中を想像する」ですが重要ですよね。ジャンルを設定しておけば、それで読んでもらえますでしょうか? 私は読み専でもありましたから、読む時を想像してみます。読む時というのはその時の気分で読みたいものを読んでいます。ここには時間帯の話もありますので、実はタイトルは時間帯にも関係するのではと私は思っています。ターゲットにしている読み手の年齢も重要だと思います。ビジネスマンを対象にするなら8時/12時/18時ぐらいに投稿し、タイトルはビジネスマン向けに「〇○○~XXX~」という感じにするのが良いかと思います。サブタイトルを作るのは、啓蒙本がその形式で書かれている場合が多いからです。コアなラノベユーザーを対象にするなら、少し長めタイトルで「○○の件」というのが良いかもしれません。(時間帯はわかりませんが……)
最後は「相手のメリットと一致させる」になりますが、これは重要な事だと考えます。このエッセイで書かせて頂いておりますが、小説を読むということは時間が掛かりますので、時間と言う対価を払う事になります。情報が溢れたこの時代において時間を割くということは貴重な事であることを認識しなければなりません。人には好みという事がありますので、常に自分の読みたいものが手に入るわけではありませんから、どうしてもランキングをみてしまいます。そんな状況で新着が読まれるようにするためには、読みたいと思うタイトルを出すことが大切になるのではと考えます。
例えば皆さんは本屋でどのように本を読まれますでしょうか? 通常はお勧めやランキング〇位とか書かれているものを手に取ると思いますが、ふとタイトルをみて手に取るということがあると思います。その時のタイトルは自分が今欲しいと思うものであるかを考えるのではないでしょうか? そういう意味でタイトルの設定を「相手のメリットと一致させる」というのは理に適っています。
そんなことを言ってもどうすればいいのか? という話になりますが、この本の著者は相手に伝えるという事において、「相手を動かす7つの切り口」と「強い言葉をつくる5つの技術」というものを紹介しています。これは先に羅列しますが、すべてがタイトルに使えるという話ではありません。
【相手を動かす7つの切り口】
・相手の好きなこと
・嫌いなこと回避
・選択の自由
・認められたい欲
・あなた限定
・チームワーク化
・感謝
【強い言葉をつくる5つの技術】
・サプライズ法
・ギャップ法
・赤裸々法
・リピート法
・クライマックス法
ここまで書いておいて例えが難しいなと感じつつもやってみます。
「相手の好きなこと」とは相手の興味を誘導するものになりますので、例えば物語の世界背景をタイトルで伝えるという話だと思います。大森藤ノ先生の「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」を見た時に、「ダンジョン」というキーワードでファンタジーであることが分かりますし、「出会い」という言葉で恋愛かなという感じを受けます。内容は成長系の物語なので、そのギャップも一度手に取ってしまったら食い入ってしまいます。
「嫌いなこと回避」は使えないと思うかもしれませんが使うことができます。例えば、平坂読先生の「僕は友達が少ない」ですが、友達が少ない事に悩んでいる人がこれを目にした時に、思わずあらすじを読んでしまうのではないでしょうか? 友達が少ないところからの挽回を期待して読むのではないかと思います。
「選択の自由」は、人が「YES」/「NO」を決めるのは悩むが「どちらが好きか」のような選択になると気軽に応える事ができるというものです。この手法を使ったタイトルとしては、岩井俊二監督のテレビドラマ作品「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」のようなものです。なろうではあまり使われていない手法なので、今後はやるかもしれません。
「認められたい欲」「あなた限定」「チームワーク化」「感謝」は難しいですね。啓蒙本やダイエット関連なら思いつくのですが……
気を取り直して「強い言葉をつくる5つの技術」に行きましょう! これは強い言葉作りということなので、タイトル作りに活かせていくことができると思います。
サプライズ法で有名なのはJR東海のキャッチコピー「そうだ! 京都へ行こう!」です。感嘆符をつけるだけでもサプライズ感がでます。意外とタイトルに感嘆符を付けられているものは多いです。例えば、暁なつめ先生の「この素晴らしい世界に祝福を!」も感嘆符をつけて強い言葉にしています。
ギャップ法は「伝えたい言葉と真逆の言葉を使って強い言葉を作りだす方法」で、オバマ大統領の演説である「これは私の勝利ではない、あなたの勝利だ」という例が有名です。星月子猫先生の「L999の村人」、棚花尋平先生の「用務員さんは勇者じゃありませんので」は、明らかにギャップがあるタイトルで興味を引くことができていると思います。
赤裸々法は、「自分の体に起きていることを実況中継するように伝えることで、強い共感を生み出す言葉をつくる方法」となります。夕蜜柑先生の「痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。」は、痛いという言葉が自分の体の体験となるため、興味が惹かれるタイトルだと言えます。
リピート法は「シンプルに言葉を繰り返すことで言葉を強める方法」なのですが、アニメのセリフや歌詞などで使われています。くまなの先生の「くま クマ 熊 ベアー」が該当すると思います。アロハ座長先生の「Only Sense Online ―オンリーセンス・オンライン―」、安里アサト先生の「 86―エイティシックス―」などの英語や数字で書いて、発音を書くというのもリピート法に含まれると思います。
クライマックス法は、「ここだけの話ですが……」「だれにも言わないでくださいね……」と言ったような、話の途中で重要なポイントを切り出す方法なのですが、これはタイトルには使えないですね。ただ、これに対してアンチクライマックス法と言うものがあります。これは、最初に結論をいう方法であり、これも手法として確立されています。伏瀬先生の「転生したらスライムだった件」やFUNA先生の「私、能力は平均値でって言ったよね!」は、先に結論をいっていますがインパクトがあると思います。
このような形で、伝え方や強い言葉を使うだけでも印象が変わるので、上手く使うとよいかと考えます。これらの手法は小説の中でも使えると思います。それでは最後に私のエッセイのタイトルを見てみましょう。
※2020年10月10日までのタイトル
『ライターX 「私、失敗ばかりですので」』
ちょっと駄目ですね。色々な手法を入れてみましょう。
『ライター✕(エックス)「私、失敗ばかりですので!」 ― ビジネス視点を使って小説論を考えているのエッセイもあるよ ―』
あまり長いタイトルは好きでないので却下ですが、エックスをだぶらせるのと感嘆符を付けるのは良いかもしれませんので一時的にタイトルを変えてみようと思います。
『ライター✕(エックス)「私、失敗ばかりですので!」』
いかがでしたでしょうか? 「なろう」の世界をビジネスとして捉え、「まだまだやれることがある!」と思われた方がいらっしゃれば、書いた甲斐があったかなぁと感じております。