夏祭り
僕の好きな人の好きな人は、僕にとっての大親友と呼べる人間だった。
僕だって、彼女が欲しかった!彼女の一番になりたかった!
でも僕は、僕の好きな人を応援すると決めたんだ。 その途中で自分がどれだけ傷付こうとも、絶対に。
僕には、二人の幼馴染がいた。男女1人ずつの。
男の子の方はとても活発な方で、内向的な僕とはとても対照的だった。
でも、不思議と気があっていつも一緒に居たから「凸凹コンビだ!」なんて小さい頃はよく笑われてた。
女の子の方は、少し変わった女の子だった。色んなことに挑戦しては、失敗することもあったけど、多くを自分のものにしていく強い女の子だった。
そんな強いところに、僕は惹かれたのかもしれない。
中学三年生の高校受験も終わりみんなの進路が決まった頃、僕は彼女、夏希に呼ばれた。
「ねえ。大輔の好きな人ってだれか知ってる?」
「どうしたの?突然。」
何となく予想はついた。次の一言は、僕の聞きたくない一言であることが。
「実は私、大輔のことが好きなの。」
僕は、動揺を隠しながら冷静に言った。
「へぇ。そっか。」
ひとつひとつ、さっきの夏希の言葉の意味を自分の中でゆっくりと消化しながら僕はこう言った。
「大輔の好きな人は知らないけど、夏希の恋路なら応援するよ。好きな人も今度会うときまでに聞いとく。」
「本当に!?ありがと!私頑張るね!」
そう言って向けられた笑顔は、僕には眩しすぎて直視出来なかった。
僕らはその後、頻繁に会うようになった。情報交換の為だ。
「どうだった?好きな人は?」
「いないって。大チャンスじゃん。さっさとデートでもして告っちゃえば?」
「それもいいけど、やっぱり私に振り向いてもらってからがいいな。」
「ふーん。そんなもんか。」
そんなこんなで、大輔と夏希はさらに仲良くなっていった。
そして、僕らが住む街の夏祭りの前日、夏希から
「私。明日大輔に告ってくる。」
と言われた。
僕は
「へー。そう。応援してるよ。」
と返した。それ以外の言葉は出せなかった。
夏祭り当日、僕は二人とは別行動をして1人で屋台を回っていた。
適当な理由をつけて1人で回るのは少し面倒だったが、それ以上に二人で仲良く屋台を回ってる様子を見たくなかった。
祭りも終わりに近づいた頃、僕は近くの公園のベンチで休んでいた。
いつも夏希と会っていた場所だ。
ここで、夏希の結果を聞くことになっていた。
しばらくして、夏希が公園にやってきた。
「や。」
「どうだった?上手く行った?」
「そのことなんだけどね。振られちゃった。」
「え?どうして?」
その言葉は、僕にとって以外だった。
「もっと周りを見ろ。夏希には俺より相応しいやつがいるって。」
「はぁ!?そんなやつ、どこに…」
「君だよ。」
「え?」
「その言葉を聞いて気付いたんだ。私、ずっと何かがある度に君を頼りにしてきたし、君に支えられてきた。だから、大輔を好きになったんだって。」
夏希は少し間を置いて、続けた。
「多分私は、君に頼り過ぎてることに無意識では気付いてたんだと思う。だから自立したかったんだ。その為に大輔を好きになった。好きになろうとしたんだと思う。バカみたいだよね。大輔に言われてそれに気付くなんて。」
夏希は少し躊躇ってから、さらに言葉を紡いだ。
「もうひとつ、言われて気付いたことがあるんだ。なんでそんなことを言うんだって怒ってくれて構わないけど、言わせて。私、自分が思ってる以上に君が好きみたい。」
「え?」
「大輔が好きって言ってたときもそうだったけど、その話を出汁にして君と話すことばっかり考えてた。ずっと君のことを考えてたんだ。今までの流れもあるから、返事をくれとは言わない。けど、少しだけでも今日言ったことについて考えてくれると嬉しいな。」
そう言い終わったあとの彼女は、少し寂しそうだった。
少しの沈黙の後、僕は口を開いた。
「僕は、ずっと前から夏希のことが好きだったしこれからもずっとそうだよ?」
僕は少し笑ってこう言った。
「君さえよければ、僕と付き合って下さい。」
夏希も笑顔でこう答えた。
「はい。」
この時の夏希の笑顔を、僕は一生忘れないだろう。