⑧
一年B組の教室はガラリとしていた。誰も戻ってきた様子は無い。俺たちは前の席を借りて座った。
「まず」
ルルアが人差し指を振る。
「何から決めましょうか」
「はい」
ノートを開いて書記を務めているアノンが挙手した。
「はい、アノン」
「まず、敵と戦う時の陣形を決めた方が良いと思います」
「それよりも住処だよ」
ケイスケが控えめに手を上げた。
「まず、今日泊まる場所を決めなきゃ。皆テントは持って来ているみたいだけれど、やっぱり安全な場所じゃないと眠れないでしょ」
「学校には泊まれないのかしら?」
ナージュが言った。
「無理みたいだね」
ケイスケが首を振る。
「どうして知っているの?」
ルルアが水を向けた。
「あ、それは、さっき先生に会って聞いたから」
「トイレ行くとき?」
「うん。そうそう」
「怪しい奴だな」
俺が低い声を出した。皆こちらを向いたがまた元の場所に視線を戻す。
「まあ、住処よね」
流されてしまった。
俺に発言力は無いのか?
俺は仲間ではないのか?
強さが全てだと言うのか?
「安全な場所は、先生に聞けば分かるかしら」
「それは無理だろうね」
ケイスケが首を振る。
「どうして分かるの?」
「この学校はサバイバルだから。皆に安全な場所を提供したら、意味がなくなっちゃうよ」
「ふーん」
ルルアが右手を顎につける。
「実際どうだかなんて、聞いて見なきゃ分からないよなあ」
俺は高らかに声を発した。
皆一瞬こちらを向いたがやはりまた元に戻る。
くうう。
切ない。
「今日のテントの設営ポイントを探しに行きましょう」
「それがいいね」
「待ったー」
俺はここぞとばかりに挙手した。
「何よさっきから」
ルルアが口をとがらせる。
「あんた弱いんだから。ここにいさせてもらえるだけありがたいと思いなさい」
「うるせー」
俺は声を張った。
「俺は今日の朝初めて会って、まだ正体も分からないようなどこぞの馬の骨どもと、同じテントで寝られるほど肝が大きくないぞ」
「じゃああんたはここに残れば?」
「わたくしはリントさんと一緒にいますわ」
ナージュが控えめに挙手する。
「どうして? 貴方たち、知り合い同士なの?」
「いや知らんけど」
俺は両手を開く。
「ひどいですわあ」
ナージュが頬を膨らませる。
「ルルアさん、そこの男は無視しよう」
ケイスケがにべもなく言った。
「うーん」
ルルアがおでこに右手を当てた。
「ケイスケさん、これから安全に眠りたいのなら、魔法書さんが必要では無いですか?」
ナージュが指摘する。
確かにその通りだ。魔法書のスキルにはエリアへの侵入者を探知するスキルがあるはずだ。夜、見張りを立てて交代して眠るという方法もあるが、疲れるだろう。
ケイスケは難しそうな表情になる。
アノンがはらはらとしながら皆の顔を見回して行く末を見守っていた。
俺が口を開いた。
「まあいったん落ち着こうぜ」
俺はまた両手を開いた。
「まず俺たちは俺たちを知り合うべきだ」
皆を眺め見る。
「時間なら余裕がある。まず、自己紹介から始めるべきだ」
ナージュのおかげで発言力が上がっていた。
そして俺は何も皆を引っかき回したくて言っている訳ではない。当然のことを言っているまでだった。




