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キールは頬をぴくぴくとさせた。余裕フェイスが崩れている。
「いけないねえ、漁夫の利だなんて。卑怯もののすることじゃないかな?」
「いや違う」
「違うな」
「今のは漁夫の利じゃない」
「戦術だ」
俺とローゼンは口々に否定した。
「嘘だねえ。僕に虎を引きつけさせて、その間に鐘をせしめたようにしか見えなかったが?」
「誤解だ」
「被害妄想だな。くだらん。俺は帰るぞ」
「待ちたまえ」
キールが右手を突き出す。
「ミストダガーのギルドマスターと、新入生がどうして組んでいる? そこのところも教えてもらおうか」
「めんどいな」
「面倒だ」
「そういえばさっきも君は、ミストダガーのアジトにいたようだが?」
キールが俺を指さす。
「人違いじゃないか?」
「人違いだ」
「くっ、じゃあこうしよう」
キールが服の裏ポケットから金色の鐘を取り出した。
「一騎打ちで勝負だ。勝った方が鐘を二つもらう。負けた方は無し。どうだい? 悪い話じゃないだろう?」
俺の脳が計算高く回転する。
二つ手に入れば二人地球へ行けるということだ。
「いいだろう」
「よし。約束だ」
キールは地面に鐘を置いた。
俺も同じようにする。
「一本勝負だ」
キールは突っ込んできた。
「おい待て!]
俺はまだ変身をしていなかった。
「甘い甘い、鉄は熱いうちに叩け、それが基本さ」
俺はワンドを剣のように使って防ぐ。
「卑怯者!」
「卑怯をしたのは君たちだろう?」
「よく分からんが、ちょっと離れろ!」
ワンドを振りながら隙を見て蹴りを放った。キールの胸に命中し彼は後ろに吹っ飛ぶ。ゴロゴロと転がりその遠心力を使って立ち上がった。
「おっと、やるね。君、武闘家の方が向いてるんじゃないかい?」
「何でも良いけど変身させろ」
「鉄は熱いうちに叩けってね」
その時だ。
横から先ほどの虎が跳んだ。キールに噛みついて地面に落ちる。そのまま斜面をきりもみして転がっていった。
「うわ、うわああああ!」
キールには似合わない不細工な悲鳴だった。
俺は二つの鐘を拾う。
「これ、もらっていいのか?」
両腕を組んで見守っていたローゼンが頷いた。
「鉄は熱いうちに叩けだ」
「そうだな。鉄は熱いうちに叩くことにしよう」
俺たちは笑みをこぼした。
「じゃあな」
俺は右手を上げる。
「ああ、また」
ローゼンは背中を向けた。
それぞれの帰路についた。




