㉝
岩場まで歩きツルをつたって外に出る。夜の暗闇はしょっちゅうピカピカと光っていた。雷が落ちている。それを操るモンスターということだろうか? 人々の荒々しい声が響いている。俺は岩場の一番高いところに上って立った。
斜面の林の中、人々の中央にいるのは角の生えた白い虎だった。赤い竜と比べてずいぶんと小さい。しかし動きは俊敏なようで人々に近づいては遠のき、吠えては雷が落としている。その前にはあいつがいた。キールだ。
「皆、下がって下がって。こいつは僕がやるからね」
槍を振り上げては軽々と回す。
虎が吠えた。雷がキールに命中する。
「避雷針!」
彼は槍を地面に突き立てた。鎧が煙を上げている。ダメージは無いのだろうか?
「サブマスター! 皆をもっと下げて! こいつは大勢でかかっても不利だ」
「全員下がれ!」
「下がれー!」
ラスティネイルの集団が後退していく。
他のギルドも来ているようだ。しかし近づこうとはしない。それどころかあきらめて帰って行くギルドもある。あの虎は相当強いと判断されたようだ。雨がポツポツと降り出した。それは勢いを増して豪雨となる。風も吹いた。林が大きく揺れる。
「くそ、運が悪いねえ」
キールは言葉とは裏腹に笑顔を崩さないでいる。
俺の隣に人影が近づいてきた。
「よお。また会ったな」
ローゼンだった。
右腕の無くなった赤いジャケットの部分が風になびいている。
「お前、この岩場には近寄らないんじゃなかったのか?」
「阿呆。ボスの様子を見に来たんだ。おーおーやってるな」
「鐘を取るのか?」
「逆に聞きたいな。お前は取るのか?」
「まあな」
「そんなに地球が恋しいか」
「恋しい奴がいるんだ」
「女か? あのルルアとか言う。ナージュだったか?」
「ルルアだな」
「ふーん。気が知れないねえ。好きな女のために戦う男、ここに見参か」
「好きかどうかはよく分からないんだ」
「詳しく聞きたいが」
「絶対言わないが?」
ローゼンは虎に顔を向ける。
「リントと言ったな」
「なんだ?」
「過去、幼い頃、同じ名前を聞いた気がした」
「人違いだな」
「そうか」
彼は歯を出して笑った。続けて、
「ふん。行ってこい。加勢してやる」
「本当か? 後ろから撃つつもりだろう」
「阿呆。早く行け」
「ふーむ」
俺は変身ワンドを強く握る。腕を水平に伸ばす。
「来たれ。いばら花園に住みし眠りの姫。変身、その名も、サキュバス」
俺の体は光に包まれる。セクシーな人型モンスターになった。きわどいドレスが目に毒である。
「召喚、深い霧に隠れし暗殺の王子。ミストプリンス」
ローゼンはまた黒い人を召喚していた。
「リント、尻尾だぞ」
虎の尻尾の真ん中あたりに鐘がついている。
「分かってるさ」
俺の声は女性のように高くなまめかしさを帯びていた。
「ローゼン、虎の動きを止めれるか?」
「それは無理だ」
「いや、違う。雷を落とす時に吠えるんだ。その時にトラが止まる。その状態に持って行けるか?」
「ふん、やってみるか」
ミストプリンスが走り出す。やはり動きは速い。虎と比べても遜色は無い。
唐突の黒い人の乱入にキールは戸惑った様子だった。
「なんだあ?」
ダガーの連撃が虎に襲いかかる。虎は跳んでは避けてを繰り返す。やがて大きく後ろに跳んだ。口を開いている。吠えるつもりだ。今だ!
「ディメンジョンワープ」
俺は両手を上に突き上げて組んだ。空間が移動する。虎の真後ろにワープした。サキュバスのスキルである。
むしるように銀色の鐘を取る。
雷がキールに落ちた。また避雷針スキルを使っている。
俺は両手を上に上げて組んだ。
「ディメンジョンワープ」
空間が移動する。ローゼンの隣に戻ってきた。
「上手く行ったぞ!」
「良かったな、リント」
ローゼンが魔法書を閉じた。ミストプリンスが消失する。
「変身、解」
俺も変身を解いた。光が辺りに四散する。
手のひらの銀色の鐘を眺める。これを見ればルルアは喜ぶだろうか?
「それじゃあ俺は帰るけど」
「おう、またな」
互いに手を上げて挨拶しあう。
「ちょっと待ちたまえ、君たち」
目前に降り立つイケメン。キールが表情を歪めていた




