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キールは槍を向けた。
「どうだ、お前たち。この鐘をかけて勝負をしないか?」
ほがらかな声だった。表情が生き生きとしている。
「勝負?」
ルルアが唇をすぼめる。
「ああ。もちろん僕はこの鐘を持ったまま飛んでトンズラすることも出来る。だけどそんなことしたら、僕のカワイイファンの子が、泣いちゃうからね」
ウインクをする。
「キモいな」
俺は表情を若干ゆがめた。
ギルドマスターが卑怯を行えば落胆するメンバーもいるだろう。正々堂々勝ち取った鐘だからこそギルドは誇り高くあり続ける。
「ちょっといい男かも」
アノンが頬を赤くしていた。
「私はリントさん一筋ですわ」
ナージュが俺の左手に抱きつく。
「勝負は、どんな方式で行うのですか?」
ルルアがまっすぐに見た。
「そうだね。ギルドマスター同士の一騎打ち。なんて言うのはどうだい?」
「乗ったわ」
ルルアが胸を張った。
「おい、いいのか?」
「いいのよ、私は最強よ」
俺は唇をぎょっとさせた。
「お前が出るのか!?」
俺が出るものと思った。
「君たちはなんていうギルドなんだい?」
キールが右手で前髪をはらった。
「私たちは、ルルアと愉快な仲間たち」
ルルアが即興で名付けていた。他の三人が眉を寄せる。
「それは違うな」
「違いますわね」
「わ、私も、ちょっと違うかなーなんて、えへへ」
口々に否定した。
ルルアが振り返った。
「じゃあ何が良いのよ」
「即興で決めるものか?」
「いま名乗らないと格好がつかないわ」
「全員の名前の頭文字を取ればいいんじゃないですか?」
ナージュが人差し指を立てた。
「それいいかも」
アノンがにっこりとする。
ルルアはまた前を向いた。
「アルリナよ」
アノンのア、ルルアのル、リントのリ、ナージュのナ、である。
「アルリナか。美しい名前だね。どんな意味か聞いても良いかい?」
「最強って意味よ」
「まあ間違ってはいない」
俺は両腕を組んだ。
「ルルアさんの言葉にしては、よくできましたですわ」
ナージュが口の端をつり上げる。
「さ、最強? 私、最強なのかな」
アノンが頭を傾けた。
「ふーん。最強か。じゃあ君たちを倒せば、僕は最強の上を行くことになるね」
キールが竜から降りて地面に立つ。
「さあ、ルルアくんでいいかな? かかってきたまえ」
「いいわ。先輩、胸をお借りします」
もう、どうにでもなれだ。
俺は借りていた剣をルルアに返した。
「存分に暴れてこい」
「うん!」
「ルルアさん、ファイですわ!」
「ルルアちゃん、ファイトッ!」
「行きます」
ルルアが駆けた。キールは両手で槍を持つ。シールドソードとランスの戦い。どちらも防御系の武器だ。長引きそうな予感がした。
「ていっ!」
「おらっ」
「せい!」
「ほらっ」
「このっ!」
「カウンター! ズッキューン! 決まったぜー☆ ハッハー!」
「へ?」
ルルアの剣筋がまるで手玉に取られた。彼女の手から剣は離れ、地面に投げだされる。彼女の体は回転し地面にたたきつけられた。首筋に槍の矛先が寸止めされた。
「ヴィクトリーイズマイン! 惚れてもいいぜ! 俺が手取り足取り鍛えてやっからあ!」
あまりにも綺麗に負けてしまった。
俺たちは言葉に詰まってしまった。
「それじゃあ、この鐘はもらっておくぜ」
キールが鐘を振った。竜にまたがる。
「ラスティネイルはいつでもメンバー募集してっからさあ! 強くなりたきゃカモンベイビー! 男も女も、メロメロにしてやるさあ!」
飛んで行ってしまった。
ぽかーんとする俺たち。
ルルアが立ち上がり首を傾けた。
「あれ? おかしいな」
俺は近づきその肩に手を置いた。
「まあ、今のは、仕方無いんじゃないか?」
俺は自分が出なくて良かったと思った。あれには勝てないかもしれない。
後ろからヘレナがぷんぷんと近づいてきた。
「ちょっと! 鐘を取られちゃったじゃない!」
ナージュが魔法書を開いた。
「メリースリープ」
ヘレナの頭上に羊が出現し鳴き声をあげる。ヘレナはがくっと膝から崩れて倒れそうになる。アノンが両手で受け止めた。
「ま、まあ、いったん帰ろうよ。皆、お腹空いたでしょ?」
ルジーは寛容な上に前向きだった。
「ラスティネイルかあ」
アノンが意味ありげにつぶやいていた。




