㉚
結局この場で鐘をどうするかは決まらなかった。
俺とローゼンは向かい合っている。俺は立っておりルルアから借りた剣を持っている。ローゼンは右腕を水平に伸ばしている。
少し離れた場所で仲間たちが見守っている。
「行くぞ」
「ああ、来い」
俺は剣を下から振り上げた。彼の右腕が飛ぶ。
「ぐむっ!」
苦しい声があがった。血しぶきが噴出する。
すぐにアノンが駆けつける。ロッドを左手に持ち右手のひらをローゼンの患部に近づけた。
「ヒール」
ローゼンの右腕の付け根から出血が止まった。やがて黒っぽくなり、皮膚が硬くなる。
「断罪の礼を言う」
「いいのか?」
本当は死にたいんじゃないのか? そう聞きたかった。
「何だ? 左手もくれてやろうか?」
「いや、そうじゃなくて」
「リント、俺はな」
ローゼンが立ち上がった。
「もう一度ギルドを作ろうと思う」
「もう一度?」
「ああ。ならず者たちのギルドだ。名前はやはりミストダガー。悪だってするだろう。しかしな、一つだけ美学を持つ。それは」
「ああ」
「今回のような、人の善意につけ込むことはしない」
「そうか」
「ああ、それと」
ローゼンが背中を向けた。
「ん?」
「あの池にはもう行かない。人にも言わない。だから安心して使え。じゃあな」
彼は歩いて行った。
俺はその背中を感慨深い思いで見送った。
脳に誤作動を抱える人間。
失敗作。
生きることを誰にも喜ばれない。
だけどここは獣の荒野だ。
弱肉強食である。
世界の全てが敵だろうと強ければ生きることを許されるのではなかろうか。
そんなことを思った。
ポケットの中から鐘を取り出す。
残るの問題はこれだが……。
ルルアがこちらへ歩いてくる。
俺はルルアに鐘を渡した。
「これをどうするかはお前が決めてくれ」
「うーん。どうしよう」
その時だ。
そいつは雷のように空中から落下してきた。
「おっとあぶねえー」
小さな竜にまたがる騎士だった。金髪碧眼である。イケメンだ。見覚えがあった。この人はラスティネイルの軍を指揮し号令を発していた男である。右手には鐘を持っている。ルルアが早口で言った。
「取られた!」
「マジかっ」
最後の最後でどんでん返しは起こるものである。
「俺の名前は、キール・サンマリア」
イケメンが髪をかき上げた。
「ラスティネイルのギルドマスターだ!」




