㉕
坊主の男は判断した。
「おい! 門を開けてくれ! 早く!」
少しして内側から門が開く。内側にいる門番が顔を出した。
「どうした? ジノ」
「すまん。腹が痛くて」
「そこで済ませろよ」
「そんなことしたら、女子連中に何言われるか」
舌打ちがあった。
「早く行ってこい」
どうやら外番を代わってくれるようだ。
「すまん」
「あれ? おい、ガウはどうした?」
ざんばら髪の男のことだろうか。
「ガウはすぐ戻ってくる」
「どこに行ったんだ?」
坊主は小指を立てて振った。
「女? 本当か?」
「帰ってきたら叱ってくれ。それより漏れそうだ。俺は行くぞ」
「わ、分かった。早く済ませよ」
「ああ」
門をしめる。内側からきちんと施錠した。
アジトの中は狭かった。あのグラウンドよりも面積が無い。小さな家が五軒、大きな家が一軒あるだけだ。人の気配が全く無かった。出払っているのだろうか? 耳に両手を当てる。かすかに男女が会話をする声が聞こえる。あの家だ。
一番大きな家。その玄関にたどり着き、坊主は声を張った。
「報告します!」
中の会話がやむ。
「ラスティネイル来襲。ラスティネイル来襲。その数、二百!」
慌てて男が出てきた。パンツ一丁の姿のケイだった。
「え、嘘だよね? ジノ、嘘だよね」
「本当です!」
「いま皆出払ってるし。くそ、どうしようかな。あー、ちっ、丁重にお帰り願うか」
「それが良いと思います」
「いま行く。ジノ、先に行って食い止めててくれないか」
「了解です」
「頼んだ」
ケイはまた部屋に戻る。坊主は玄関から上がりケイの背中を追いかけた。部屋の扉を開ける。
惨憺たる光景だった。
下着姿のルルアとアノンが崩れるように座っている。部屋の中は甘ったるい酒のにおいがした。二人がこちらを見つめた。心にどす黒いものがうずまく。
ケイが焦っように言った。
「おいジノ! 何してんの。早く行ってくれ」
「いやー、それが。私も酒盛りに混ぜて欲しくて。今まで一体何したんすか?」
「何って。決まってるでしょ。そんなの。お前は混ぜない」
「やったんすか?」
「これからやるんだ」
「まだやってないんですか?」
「すぐやって飽きたらどうするの。僕がどれだけ苦労してこの二人を手に入れたと思ってんの」
「なるほど。それは良かった」
「は? 良かった? 意味が分からないことを言ってないで」
坊主は右肘でケイのみぞおちを打った。
「ごほっ!!」
ケイが腹を押さえてその場に崩れる。
「変身、解」
俺の体は光り、光の鱗ははがれて舞い散った。右手には変身ワンド。この武器は倒したモンスターに変身する力がある。そして倒した人間にも同じことができる。
ルルアとアノンが全身に喜びをたたえた。
「リントくん!」
「リントちゃん!」
二人は下着姿のまま立ち上がる。
「おい、服を着ろ」
俺はケイに向き直った。
「ごほ、ごほ、お、お前ええ、ジャガイモだなあ」
「ああ、ジャガリューだ」
「死んで無かったのか?」
「あんなへにょへにょ大根に刺された程度で死ぬかよ」
「くそう、で、出合え!」
ケイは叫ぶが誰も来ない。
「出払ってるんだってな?」
「く、くそう。肋骨が折れたぞ」
服を着たルルアがそばに寄る。その後ろでこれも服を着たアノンがはらはらとした様子で見守っていた。
「リントくん、待って。殺したら、ルジーさんとヘレナさんが」
「もういいんだ」
俺はケイの右腕を持ち上げ水平にしてを思い切り踏みつけた。
骨が折れる嫌な音が鳴る。
「ああああああああああああああ!」
ケイが痛みに絶叫した。
「リントくん!」
「リントちゃん、駄目!」
俺はケイのもう片方の腕も同じようにした。
「ぐあああああああああっ!」
「次は足にしようか?」
「り、リントくん……」
ルルアが萎縮する。怖がっている。
「続きはまた後にしような」
俺はケイの頭をなでた。返事は無い。
そしてルルアとアノンに向き直る。
「二人とも、ついてこい」
背中を向けて歩き出す。
玄関から外に出て門に行った。開錠して門を開く。交代の門番は眠りについていた。
すぐそばの藪からナージュがひょこっと顔を出す。眠らせたのは彼女の仕業か。親指を立てていた。俺は右手を上げて返事をする。ナージュが近づいてきた。
ちなみにジノとガウは少し遠い藪の中で永眠している。
「上手く行ったようですわね」
「ナージュ!」
「ナージュちゃん」
「ルルアさん、さっきはありがとうございましたわ」
三人は数時間前に別れたばかりとはいえ再会を喜んでいた。
「じゃあな。お前ら。気をつけて帰れよ」
俺はルルアとアノンを外に押し出した。門を閉めてしっかりと施錠をする。外で俺を呼ぶ声が聞こえた。聞かなかったふりをして歩き出す。ケイの元に戻った
さあ断罪の時間だ。




